2015年12月31日木曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part1



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part1です。血液検査の結果は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


患者:40歳 路上生活中の女性
主訴:頭痛、高血圧、精神病

 精神病の既往のある40歳女性が、頭痛と高血圧のため路上生活者のシェルターから当院に入院した。

 入院1週間前、患者はシェルターに入ることとなった。それまで4年間は、公共の建物の中で寝泊まりしていた。その間、シェルターのアウトリーチワーカーによる援助を繰り返し拒否していた。屋外にいて人々を見守るのが神から与えられた使命であると患者は話していた。シェルターでの評価では、恰好が乱れていて話が支離滅裂であり、霊的な事柄ばかりを考えていた。自分の障害を、12年以上前に遭った自動車事故で脳が損傷したためだと考えていた。自分が精神科疾患にかかっているとは考えておらず、精神科的治療を拒否したが、シェルターに駐在しているプライマリケア医の診察を受けることには同意した。限られた身体診察では、白癬が広がっており、足に静脈鬱滞性皮膚炎があることが分かった。

 入院当日の朝、患者は昨夜からの強い頭痛を訴えた。看護師が許可の上でバイタルサインを測定すると、血圧が180/110mmHgであった。緊急医療サービスが要請され、再度測定すると、収縮期血圧が212mmHgであった。患者は救急車で当院救急部門まで搬送された。


 患者は“おかしい”感じがあると言い、前頭部の頭痛を時々訴えた。視覚症状、胸痛、腹痛、嘔気、嘔吐は訴えなかった。高血圧に加え12年以上前からの精神病の既往があり、身体性妄想、偏執性妄想、誇大妄想、滅裂思考、貧困なセルフケアといった特徴があった。今回の入院の5年前に精神病院への入院歴があった。入院中はオランザピンの服用で症状が若干改善していた。退院後は精神科ケアのフォローアップを受けず、オランザピンの服用も中断していた。今回の入院の4年前にヒドロクロロチアジドを服用していたが、最近はどの薬剤も服用していなかった。ニフェジピンのアレルギーがあり、動悸がおきるとのことであった。患者はカリブ海の国の出身で、だいぶ昔にアメリカ北東部に移住してきた。喫煙は時々あり、違法薬物を使ったことはないが、過去によくわからない物質を大腿に注射したことがあると申告した。家族歴は不明だった。


 診察を行った。患者は肥満かつ低栄養で、恰好が乱れ、多数の服を重ね着していた。血圧は208/118mmHgで、再度測定すると240/130mmHgであった。脈拍95bpm、体温36.4℃、呼吸数16/min、SpO2 90%(室内気)。上部胸骨右縁に収縮期雑音(grade 1/6)を聴取したが、心膜摩擦音やギャロップはなかった。両下肢膝以遠に2+の圧痕性浮腫があり、慢性の鬱滞と硬化による皮膚の変化があった。態度は快活かつ協力的で、視線を合わせ、異常な動きはなかった。発語は小声かつ早口であった。自分の気分は「良好」であると話し、見ためも気分良好で感覚鈍麻あった。思考過程は滅裂で、過度に宗教的かつ誇大な妄想が含まれていた。神や悪魔の声といった幻聴があり、神からのメッセージだと信じている「幻視」もあった。自殺・他殺の念慮はなく、自分の状況をよくわかっておらず、判断力に欠けていた。他の一般診察所見は正常であった。

 白血球数と分画、腎機能、凝固、尿検査は正常であった。電解質、カルシウム、リン、マグネシウム、血糖、トロポニンT、NT-proBNP、ビタミンB12、葉酸も正常であった。トロポニンI、尿hCG試験は陰性だった。他の結果はTable 1に示す。心電図、胸部X線、単純頭部CTは全て正常だった。ラベタロール静注とカプトプリル経口投与が開始され、血圧は187/111mmHgに下がった。患者は入院となった。


 ラベタロールとカプトプリルを増量し、アセトアミノフェン、ダルテパリン、硫酸第一鉄、オメプラゾール、葉酸、チアミン、マルチビタミンも投与した。血圧は左上肢141/65mmHg、右上肢141/62mmHgまで低下し、頭痛は徐々におさまった。尿薬物スクリーニングは陰性だった。患者はインフルエンザワクチンを拒否した。患者は入院3日目にシェルターに退院し、シェルター内で血圧モニタリングを受けることとなった。退院時の薬剤は、リシノプリル、チアミン、マルチビタミン、葉酸、オメプラゾール、硫酸第一鉄であった。診療所の外来で1週間後にフォローアップを受けるよう患者に促した。

 方針の決定がなされた。