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2018年2月14日水曜日

認知症患者の抗精神病薬を減らす


家庭医療の気になる論文から

Deprescribing antipsychotics for behavioural and psychological symptoms of dementia and insomnia
Canadian Family Physician January 2018, 64 (1) 17-27

BPSDや不眠症のある高齢患者にルーチンの抗精神病薬はやめようぜ
という旗印のもと、減薬のフローチャートの有用性を評価した論文です。

フローチャートは以下のとおり。分かりやすい。
簡潔にいえば、BPSDに対する抗精神病薬は3ヶ月過ぎたらやめなさい、ということですね。




2017年3月23日木曜日

ベンゾジアゼピン依存


たまには医学生物的記事も.
今週のNEJMのReviewを部分的に抜粋します.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1611832

ベンゾジアゼピン依存

離脱症状:短期間型なら2-3日以内,長期間型なら5-10日で発現
最も軽い→反跳性不眠
よくある身体症状→筋緊張,脱力,筋けいれん,疼痛,インフルエンザ様症状,ピリピリとしたしびれ
よくある精神症状→不安,パニック,そわそわ,興奮,気分変調,集中力低下,睡眠以上
他には→食欲低下,頻脈,眼のカスミ,口腔乾燥,耳鳴り,嗜眠,現実感の消失
知覚異常もよく起こる→聴覚過敏,羞明,異常感覚など
突然やめると痙攣が起こることも.
重症では幻覚,妄想,脱人格化,譫妄も

鑑別診断:他の精神疾患,アルコールや薬物中毒,てんかん,頭蓋内病変,心筋梗塞,甲状腺ホルモンなどの内分泌異常など

治療の肝はゆっくり減量すること
プロトコルは様々:各週ごとに50%ずつ減らす~2週ごとに10-25%ずつ減らす
ただし,あまり長々としないほうが良い

ジアゼパムなど長期間作用型に変更するのもよいかもしれない
オピオイド維持療法を受けている場合はオピオイドの量は変えない.
抗うつ薬など他材を用いる方法もあるが効果ははっきりせず.

CBT(認知行動療法)はしっかり効果あり
他の薬物やアルコールの乱用にも注意


2017年1月17日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 7 final)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

なんとか最後にこぎつけました.時間かかりました.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



私たちのシステムと私たち自身


 集中的な調整が必要であることは、身体的治療と精神科的治療とを結合するために設計された統合ケアモデルの魅力の説明になる。Levineの診療は、Massachusetts Mental Health Centerでの包括的な精神保健サービスにプライマリケアを埋め込むものであるが、このようなアプローチの試行版となっている。このようなモデルにより健康格差が縮まるかどうかは分からないが、私たちのシステムを通じて今後の見通しが簡単になるだけでも価値のある事だろう。しかし、変革的なケアモデルはケアの質を大きく改善することはできないもので、その原因の一端は、責任が微妙に変化することで振る舞いが変わることにあるという話もきこえてくる。「壊れたシステムを治す」ことに着目したからといって、私たち自身の中から生まれる解決策を探すのをやめるのだろうか。

 統合のような抽象的な概念は、助けを必要としている具体的な患者にとって何を意味するのだろうか。つまり、コントロール不良の糖尿病があり、薬物依存の治療中であり、グループホームで階段から突き落とされて片目を失明し、40分を費やして薬物療法を整理して緊急の眼科受診を予約したあとに自分は妊娠しているからそのことを今回の診察で相談したいというような精神疾患患者にとっての意味である。

 Levineがそのような患者に優しく思いやりを持って行く先を示しているのを見て、私は自分の血圧が上がっているのを感じながら、私たち全員が彼女のようにがむしゃらに頑張るべきだと結論するのは楽天的すぎると実感した。重度精神疾患患者は私たちにとって最もタフな患者であることが多い。私たちの現在のシステムの中で患者のニーズになんとか対処しようとすると圧倒されてしまうのは当然であり、だからこそシステムの変化は喫緊の課題なのである。しかし「システム」は私達のような人々が何百万も集まって構成されている。精神疾患患者のケアを有意義に改善するためには、マサチューセッツ総合病院の精神科医Oliver Freudenreichの言うとおり、「ケアの統合とは態度の問題である」ということを認識しなくてはいけない。

 ケアを損なう態度のうち容易に改善できるものがある事は疑いない。より効果的に治療拒否と交渉すること,より巧みに意思決定能力を評価すること,ケア全体を統合しようとする努力が不十分である時を認識することは実現可能であるだろう.一方,重度精神疾患患者が真に必要としているものは私たちが提供できるものではないという集団的信念に打ち克つのは困難を極める.

 この難題を実感することが数週間前にあった.夜遅く家路についたときのことだ.服の乱れた女性が苦悶の表情で「どうしたら家に帰れるの?」と泣き叫んでいた.どこかで見た顔であり,以前も路上で見かけたことがあるのだろうと考えていた.しかし,逆方向に歩を速めながら,数か月前までその女性は私の患者であったことに思い至った.彼女は心不全であり,そのとき私は彼女を治療する方法を確かに知っていたのだ.いま彼女は精神病状態であり,おそらくホームレス状態でもあった.私は何もできなかったのだ.私は歩みを止めなかった.私たちは医師と患者ではなく,夜遅く路上にいるただの二人である,どちらも家に帰りたがっている二人に過ぎないのだと自分に言い聞かせながら.
 

2017年1月10日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 6)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

次回でラストです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



村全員が総出で行う

 内科医であり the Boston Healthcare for the Homeless Programの共同設立者であるJim O’Connellが,頭皮に小さい基底細胞がんができた統合失調症の男性を診ていたときの話だ.16年間にわたって,O’Connellはがんの治療をうけるよう言い続けたが,患者は指導に従わずがんを自分でむしり取っては再発してを繰り返し,ついにはがんが後頭部に浸潤し脊椎に転移してしまった.患者は手術のため入院し,そこで医学的,精神的治療を受けて精神状態は安定化した.しかし治療は遅きに失していた.精神がしっかりしたことで,かえって後悔の念に苛まれることになった.患者が存命中に,O'Connellはこんな言葉を何回も聞いた.「どうして先生の言う通りにしなかったのか今となってはわからないよ.」

 「何かできるかもしれないのに,病気がいつ致死的になるのかわからないこの状況で完全に行き詰ってしまうんだ」とO'Connellは言う.慢性疾患を持ちながら長年生きる多くの重度精神疾患患者と同様に,この男性も差し迫った危険を感じていなかった.だが最後はその危険に命を奪われた.

 死期が近い患者が高リスクの治療を拒否するのを承諾する傾向にあることが死亡率の格差に一因となっているかもしれないが.寿命を伸ばす機会の殆どはもっとずっと早期の段階に訪れるので,慢性疾患のマネージメントに対する介入に対しての態度の方が健康格差により影響を与えていることが考えられる.課題は,悪性のバイアスが招く受動性を適切に選択を尊重することから区別することである.意思決定能力は,それを有しているかいないかの二つに一つであるように思われるが,実際にはそこまで重要でない決定では能力の閾値は下がる傾向にある.例えば,スタチンの服用やマンモグラフィー検査を強制するのは一般に不適切なことであるし,これはゆっくり成長する基底細胞がんの切除にも当てはまることでもある.

 しかし,強制が正当化されることはめったにないにもかかわらず,「あなたができることはそこまでだ」という合理化は怠惰を敬意とあえて誤解釈する.強制をせずとも私たちにできることはたくさんあるのが普通だが,治療をしっかり提供するより,治療を「患者が拒否した」とカルテにかくことの方がずっと簡単である.

 重度精神疾患患者に下部消化管の定期検査を行う際に必要な労力について考えてみよう.
検査を行う意義を理解してもらうには何回か受診してもらう必要があることが多い.そして.それができる医師は大抵何年もかけて信用を構築してきている.患者が同意したら,前準備をどのように進めていこうか.国患者がホームレス状態であったらどうするだろうか.前日から入院させる,あるいはグループホームのスタッフと密に連携をとるという方法がある.しかし,ほんのちょっとしたこと,例えば早い時間の予約に間に合うよう起きるのが難しい,間違って朝食を食べてしまったなどで,すべて水泡に帰す可能性がある.内視鏡検査をもう一度試みることになった1人の男性患者が,最初は検査の前に家に送り届けられたことについて話してくれた.「僕はパジャマまで着ていたんだ」.患者の言うパジャマとは病院のガウンのことである.彼は家まで帰る交通手段がなかったので,看護師が送ることになった.Levineは私たちのシステムの中で重度精神障害患者を引き受けることの難しさを強調するストーリーをたくさん話してくれた.「"村全員が総出で行う"という慣用句ではとてもじゃないけど表現できない」とLevineは言った.




2017年1月4日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 5)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589




患者を理解する

 分かった.強制が忌避すべきことだとしよう.次の質問は明白だ.患者が納得して必要な医療を受けてもらうより良い方法はあるのだろうか.ひょっとするとこの質問は正確に言うと問題を孕んでいるのかもしれない.MacArthurテストを考案したコロンビア大学の精神科医であるPaul Appelbaumは30年以上前の研究で,治療拒否の理由は大抵のばあい複雑であり,コミュニケーション不足,信頼の欠如,抑うつや妄想といった心理的要因の存在が関連していることを示している.ところで彼の観察によれば,「医師は,患者と話すことで拒否の根底にある要因を明らかにすることにほとんど労力を割いていない.」

 この研究の今日的意義は,患者を理解しようとするちょっとした努力が救命につながりうると強調していることだ.たとえば,大きな肺がんのある患者が救命の唯一の手段である外科的手術を拒否しているとする.Appelbaumなら,がんは空気と触れると広がっていくと耳にしたのだと患者や妻から聞き出しただろう.多くの場合,手術チームが時間をとってこのような間違った信念を取り除いていけば,方向転換は容易である.

 ところで,間違った信念と妄想の境界線はどこだろうか.心臓発作から数か月後,Levineは診察室でD氏を診ていた.D氏は内服を止めていた.自分の心臓は「美しい」と他の医者が言っていたというのが彼の言い分だった.Levineは心電図を再度見ながら,この前の心筋梗塞がどの程度だったかを伝えた.以降,D氏はLevineに顔を見せることはなくなった.診療の場をうまくコントロールできなかったことをLevineは悔いている.「患者の妄想を直接否定するなんて絶対すべきではなかった.」でも,患者にまず心臓に病気があると理解してもらわないと,心臓の薬を飲んでもらうなんてできないよという私の声掛けに,Levineはこう答えた.「私はこう言うべきだった.あなたの美しい心臓をずっと美しくしておきたいの」



2016年12月28日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 4)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

前回記事「能力を評価する」の続きです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



 患者に何かを強制せざるを得ない事態は私たちの宿命であるが,これは法的なジレンマを想起させる.治療拒否の意思決定能力を有していない患者に必要な治療を提供しなかった過失責任で訴えられることもあるだろうし,同様に意思決定能力が欠如していると誤判断し患者の意向を無視したばかりに訴えられることだってありうる.Bagleyは,裁判所が後知恵で批判する後医としてふるまうことは「非常に考えにくい」と強調しているが,それでも「法的リスクが完全に排除できないことで医師は躊躇してしまうだろう」と述べている.

 さらに悪いことに,患者が意思決定能力を有しているかはっきりしないのはよくあることである.私はよく,患者に復唱させて万事足れりとしてしまう.例えばこんな感じだ.「カリウムがこんなに高い状態で帰宅したら死んでしまうかもしれないですよ,わかってますか.」もし患者が「死んでも構わない」と言ったら,その会話をカルテに書いて,こう自分を納得させる.「ほかに何ができるって?」だが実際は,できることはたくさんある.

 MacArthurテストは4つの基準を評価するものであり,意思決定能力を測定するツールとして最も広く使われている.以下の4つを達成すれば意思決定能力があると評価される.①選択肢を伝えることができる,②関連情報を理解できる,③自分の状況とその結果を実感していると示すことができる,④治療選択を論理的に考えることができる.「理解」が関連する医学的事実をつなぎ合わせる能力を反映するのとは違い,「実感」はそれらの事実が自分に関係しているという感覚を必要とする.自分の腎機能が衰えていなくても,腎不全が致死的な高カリウム血症を招きうると「理解」することは可能である.

 より良質な意思決定能力評価のトレーニングが必要なのは明らかだが,どんなにトレーニングをしても,法律と倫理の分断に橋をかけるのは不可能だとも思う.意思決定を担い患者の考えを大事にするよう倫理的に託されているのだという考えが優勢になるにつれ,法的基準に則り患者の望みを無視することを正当化することはまずます下火になっていく.法律的には,消化管出血の治療を受けたばかりのしっかりした女性が娘の結婚式に出るために下部消化管内視鏡を拒否することは,妄想症の女性が前処置に蛇が含まれていると信じ込んでいることとは区別されるだろう.しかし,私たち医師は,パターナリズムを発揮しようとすればするほど,尊重されるべき意思と無視すべき不合理な決断を区別できなくなっていくのではないだろうか.


2016年12月21日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 3)


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



能力を評価する

 D氏は胸痛発症後ERに運びこまれ,Levineはその知らせを朝早くにすぐ受け取った.Levineは循環器科医として診察をしたうえで冠動脈造影をすすめたがD氏は拒否した.そこでLevineは治療チームに,患者には処置の同意を行うことができる国選弁護人の後見人がいるし,もし後見人に連絡がつかない場合は倫理委員会のコンサルトが必要になると伝えた.「患者は拒否するだけの意思決定能力がない」とLevineは私に言った.

 Levineは治療チームに一日中何回も電話をかけては進捗を聞いたが,後見人には午後2時に連絡がついたもののすぐに途切れ,ついぞ晩まで折り返しもなかった.治療の遅れは,処置に見合う利益が担保できなくなるということであり,D氏の意向を無視することを正当化できなくなるということである.しかし,利益が明らかで,見返りが大きく,患者の決定能力が欠如していて,ルールがすっきりしている典型例の場合は,暗黙の了解のもとに医師は患者の意向を無視すべきである.ということは,目の前の患者に意思決定能力があるかどうかを決断する際に,バイアスになりうるものが入り込む余地があるということだ.

 ミシガン大学の保健衛生法教授であるNicholas Bagleyが説明するように,意思決定能力の有無は,規則(赤信号では止まりなさい)ではなく基準(安全じゃないと思ったら止まりなさい)により評価される.だから私たちはこの評価を上手にすることができないのである.ある研究によると,入院患者302人のうち,治療について同意する能力が欠如している割合は40%であるのに,治療チームは25%程度であると過少に認識していた.「自分の基準を明確にせずに,患者の意思決定能力の欠如を云々するなんてとんでもない」とBagleyは語っている.

 私たち医師が患者の意思決定能力を誤って評価してしまう理由の一つは時間だ.適切な評価を行うのに20分もかけていられないことはざらにあるし,患者の意向を無視する長々とした手続きを踏むより,患者には治療拒否の意思決定能力があるとみなす方がずっと時間を短縮できる.しかし,患者の意向を無視して処置を行うことは,時間以上のものを消費してしまう.私たち自身をすり減らすのである.血色の良い精神病患者を鎮静抑制し望まない治療を無理やり行うのは,いくら医学的必要があるからとはいえ残忍さが残ることは避けられない.


2016年12月7日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 2)



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そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


医師のバイアス

 私たち医師の対応が精神疾患患者の健康に与える影響についてのデータは限られているが,その中でも比較的研究が進んでいる現象として,diagnostic overshadowingが挙げられる.精神疾患の診断名という影が患者の訴えを尽く影で覆ってしまい,様々な身体症状の原因を精神疾患に帰してしまうことを指す.例えば,急性の疼痛を訴える患者の既往にうつや身体症状がある医師が気付くと,重篤な病気をあまり疑わなくなり,追加検査をあまりしなくなることを示した研究がある.

 解釈バイアスと関連情報とは,はっきりと区別できるものだろう.例えば,胸痛患者が急性冠症候群かどうかを判断する時に,うつの既往があってもその可能性が低くなるとは考えないが,長期にわたる身体症状の既往があれば可能性を下げることができるだろう.良くも悪くも臨床判断はつまるところ審理である.

 バイアスについて研究する別のアプローチとしては,精神疾患のある患者とない患者でガイドライン推奨の治療を行っている割合が異なるかを調べるという方法がある.そしてそれはどうやら異なるようである.がんスクリーニングや待機手術,血圧管理など様々な治療において乖離があることを種々の研究が示唆している.患者の好みやフォローアップ中断がその一因ではあるだろうが,それだけがすべてではないだろう.

 それだけにとどまらない.急性心筋梗塞での冠動脈造影や血管再開通療法といった,緊急時の一回こっきりのイベントであっても,その割合には格差がある.ここまでいってもなお,バイアスが原因であるとは言い切れない.重度精神疾患,とくに妄想症の患者は,医療にかかろうとするのが遅くなり,結果として早期に再開通をしていたら良かったということが起こるかもしれない.さらに言えば,抗凝固薬併用療法を遵守できそうにない患者に積極的にステント留置をする医者はいないだろう.くわえて,D氏のように,治療をすすめても拒否されることもあるだろう.問われるべきことは,患者が必要な治療を拒否するのを医師が受け入れる,それだけでバイアスが説明できるかどうかということだ.


2016年11月23日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 1)



最近のブログはもっぱらUnderserved populationについて
海外のarticleを翻訳して発信する,という内容になっています.


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


 Gail LevineはBoston's Brigham and Women's Hospitalの内科医であり,重度精神疾患の患者を熱心に診る医者である.初めて彼女と話した時に言われたことは,今でも心にぐさりと来る.当時,彼女は50歳代中頃の妄想型統合失調症の男性患者を受け持っており,私もその患者の治療にあたっていた.D氏は広範囲の心筋梗塞を発症し,少し前に入院となったのだが,血管再開通療法を拒否していた.全身状態はしばらく落ち着いていたのだが,ある日,呼吸困難を呈した.初期のタンポナーゼによる血行動態の破綻が見られた.D氏はからだに針を立てててほしくないとこれまで繰り返し主張していたので,心嚢穿刺を拒否するのではと心配していたが,Levineから電話がかかってきたのでほっと胸をなでおろした.

 私がこれまで重度精神疾患患者と交渉してきたその実績はあまり芳しいものではない.ついこの前,有症状の重度僧房弁閉鎖不全症がある比較的若年の統合失調症患者を担当していた時の話だ.手術適応例として申し分なかったが,私はその患者に血液検査すらさせてもらえなかった.手術なんてとんでもない.患者はいつもベッドに腰かけ,少し体を揺らしながら髪をとかしていた.質問しても答えることはなく,本当に気が向いた時しか検査に応じなかった.私はすぐに説得をあきらめてしまった.彼女ならではの理由があるはずだが,それを理解しようともしなかった.その代わり,患者に意思決定能力が欠落していることは明白だったため,裁判所任命の後見人を数か月かけてたてる手続きを始めることにした.これまで十分に苦しみぬいてきた患者の精神をさらにずたずたにしてもなお,我々は患者の心臓を救うべきなのか.私に課された決断は非常に困難なものだった.

D氏に関しては,そのような難しい決定を誰かに押し付ける時間的余裕はなかった.もしタンポナーゼに陥ったら,それが最期となってしまう.私はそんな結末を迎えたくないと思ったが,Levineは少し判然としない様であった.「知ってるでしょ.重度精神疾患の平均寿命は53歳だってこと.」これが判断を困らせる大きな理由の一つだ.医師は,精神疾患がある患者のQOLは完全に損なわれていると考える.患者の拒否を簡単に承諾するわけにはいかない


死亡率の格差

 ニューヨークの疫学者Benjamin Malzbergは1932年に,精神疾患がある人はない人と比べ,他の因子を調整した群どうしで比べても.寿命が平均して14-18年短いという研究結果を発表した.この死亡率の格差はいまも残存しており,下手すればもっと悪いことになっている.2006年のアメリカの研究では,その差は13-30年と推測される.さらにいえば,この格差は全世界に広がっている.事故や自殺といった「非自然的な」原因よりも,がんや心血管疾患といった医学的原因がこの格差に寄与している.最近になるまでこの不平等は無視され続けてきた.しかし,このような事態がまだ続いているのは単に注目されていないだけの問題ではない.明白なリスク因子の中には,すぐに解決できないものがある.重度精神疾患の患者は,喫煙,薬物乱用,運動不足といった特定の行動をとる割合が多いが,このことは慢性疾患のリスクを高める.このような病気を治療するには,しっかり薬を飲み行動を変える必要があるが,重度精神疾患患者にとっては時に困難である.精神疾患の中には,患者が自分の状況を理解できなくなるものもあり,その場合はヘルスリテラシーが低い場合や貧困にある場合と同じように,治療にしっかり乗ることができない可能性がある.このことは精神疾患患者にとりわけ強く影響を与える.最後に,精神症状の安定のために不可欠でありよく処方される薬剤の多くは肥満や糖尿病を引き起こすため,心血管疾患のリスクを高めることになってしまう

 上記の現実を目にすると,近い将来に死亡率の格差をなくすことなんて思いもよらないことである.しかし,Levineをはじめとした重度精神疾患患者の治療にあたっている医師の姿を見て,ふと疑問に思った.精神疾患患者は余命が短いと医師が思っていることも,本当に患者の余命を短くしているのではないか.つまり,精神疾患患者を医師がどう見ているかがこの死亡率の格差の一因となっているのではないか.もしそうだとしたら,医師は変わることができるのか.



2016年1月26日火曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part4



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part4です。最終パートです。
Table 4には非常に有用なことが書かれてありますが、本文のみ訳したので原文を参照ください。





路上生活状態と統合失調症

Dr. Derri L. Shtasel: 患者はなぜ路上生活に陥ったのか。患者は統合失調症による発達上の問題を多く抱えている。統合失調症の診断がつくのはたいていの場合青年期後半や成人期前半なので、教育上、職業上、人間関係上の発達を阻害してしまう。中核症状‐幻覚、妄想、偏執、関心と意欲の消失、実行機能障害‐があると、大人としての生活に要求される事柄を行うのが難しくなる。結果として、成人の統合失調症患者は、この患者がそうであったように、無職あるいはパート勤務であり、社会的に孤立していて、家族との縁が切れていることが多い。とどのつまりが路上生活である。

 この患者にとって、4年間路上にいたことを考えれば、シェルターに入ったことは大きな一歩である。60年前であれば、このような患者はずっと入院することになっていたであろう。その頃と比べると、長期入院から地域社会に基づく治療システムへとの変革がなされ、外来でこのような患者に出会うことが多くなった。この変化に伴い、精神科急性期病院への入院は、従来のように疾患の重症度ではなく、どれだけ危険が迫っているかで判断されるようになった。そして入院治療では、緊急事態をいかに安定化させるかが重視されるようになった。この患者は、5年前の精神科入院で症状が改善したが、外来診療も来なくなり薬もやめてしまったことで疾患が再燃してしまった。どうして抗精神病薬を注視してしまったのかはわからないが、このような事態はよく起こる。統合失調症の薬剤治療が開発された当初は、これで治癒可能な病気になると思われたが、その希望は実現しなかった。そのかわり分かったことは、抗精神病薬はいくつかの症状を和らげるにすぎず、必ずしも機能を改善させるわけではなく、副作用を頻繁に起こすことであった。それゆえ、内服中断率は高値である。


包括的地域生活支援
 
 地域基盤型の治療が重症精神疾患患者においても望ましいのは明らかだが、ほとんどの外来型メンタルヘルスサービスの対象者は、複雑なシステムに従うことができ、信頼できるサポート資源と通院手段を有しており、予約を守ることができる者である。このようなサービスでは、このケースのような患者の役に立つことはまずない。治療やサービスを患者のもとに届けることが必要なのである。包括的地域生活支援は、診察室の外に出て多職種協同のチームが行うアウトリーチ活動であり、確立されたアプローチ法でまさに「患者のもとに届ける」支援を行う。包括的地域生活支援をこの患者にすぐに適応することはできなかったが、構成要素はいくつか活用した。マサチューセッツ州精神保健部門がもっている60床のシェルターにこの患者は入居した。そこでは新たな協同が実践されてきた。つまり、ソーシャルワーカー、看護師、精神科医、内科医、リハビリが、政府、大学、地域セクターの同じ専門家と手を取り合い、オンサイトのメンタルヘルスケア、プライマリケア、リカバリー志向型サービスのネットワークを発展させて、今回のような患者の多面的なニーズにこたえられるようにしてきた。統合されたモデルでは、多様な健康サービスをどのように届けるのかが重要であると考えるのだが、今回のような患者の役に立つような専門家によるメディカルホームを構築する動きの中で俄然注目を浴びている。



住居と回復
 現在のエビデンスは以下のことも示唆している:安心してずっといることのできる住居を保証することがこの患者のケアにとってコアとなる要素である。とくに「ハウジングファースト」という概念は、重篤な精神疾患のある人々が長期的に家に住むことができるように取り組んでいく際に重要となるであろう。従来のリニアハウジングという枠組みでは、まず対象者が一通りサービスを受けて、臨床的に安定してから個々の住居に移るという流れになる。一方、ハウジングファーストでは、まず個々の住居に入り、そこで利用可能な臨床的、社会的サービスを受けるという流れになる。この患者は抗精神病薬を服用しようとせず、正式な精神科ケアを受けようともしなかったが、ほぼ2年にわたりシェルターにいて次の支援を待つことができた。ここには、ハウジングファーストアプローチの特徴が色濃く表れている。

 回復(recovery)こそ、この患者に対するケア目標の中心として重視すべきだ。2003年にNew Freedom Commission on Mental Healthは回復を「変化の過程であり、それを通じて個々人が健康を増進し、自立し、可能性を最大にするために努力できるようになる」と定義している。回復の目標は、人々がスティグマ、無力感、絶望に陥らないようにすることである。これらは重篤な精神疾患につきものである。そして生きる目的を再構築し、希望を取り戻し、家族、友人、地域社会と再びつながることである。回復の枠組みに乗っ取って、今回のケースでは患者自身(サービス提供者ではないことに注意)が優先順位と目標を決めた(Table 4)。

 どうしてこの患者はよくなったのか。患者が高血圧エピソードのため入院した後、多くの機関(Table 3)のメンバーが協同して患者の内科的、精神的、社会的、個人的ニーズを把握し、一時的にシェルターにいる患者に直接サービスを提供した。内科的、精神科的に不確実な状態にいるのを良しとして、急がなくてはという思いと患者のペースや優先度とのバランスをとった。プライマリケア提供者は患者との関係性を最優先し、頻回な診療により信頼獲得に努め、なるべく患者が治療決定に携わるようにした。メンタルヘルスケアについては精神科医と緊密に連携をとった。皮肉なことに、患者が法的地位を再獲得し社会保障を受けられるようになるまでに時間がかかったことで、時間をぜいたくに使うことができた。患者は身分証も持っておらず、収入もなく、安心してずっと家に住む手段もなかったため、どこにも行くことができなかった。そのため時間をとることができ、実際のヘルスホームを構築した。そこでは住居、内科的、精神科、社会的の各種サービスがコミュニティアウトリーチやリハビリのチームと結びついている。患者はいま、地域社会ベースのグループホームで生活している。母親や子とふたたびつながり、路上生活を脱出してもう2年以上になる。


Dr. Nancy Lee Harris: この患者は、シェルターの入居者の代表的な姿であるか。この患者のように回復をするのは一握りか、それとも多くの患者が良くなっていき一人で生活するようになるのか。

Dr. Shtasel: 適切な治療とサポートにより、路上生活をしていた統合失調症患者の多くは安定して地域で暮らせるようになる。まさにこの患者が現在しているように。


最終診断

統合失調症、統合失調症にともなう認知障害、高血圧、路上生活



2016年1月17日日曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part3



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part3です。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


マネージメントについての議論

Dr. Travus P. Baggett:私がこの患者に初めて会ったのは当院入院1週間前である。何年も公共の場で寝泊まりし社会サービスを拒否してきたが、ついにアウトリーチワーカーとともに、私がBoston Health Care for the Homelss Program(BHCHP)の医師として週一回開いているプライマリケアクリニックのあるシェルターを訪れた。下腿浮腫を診るよう私に依頼があった。

初診での第一の目標は、患者の信頼を得て、シェルター訪問を公式な医療受診にしないことであった。バイタルサインは測定せず、包括的な身体診察はしなかった。その代わり、足浴をして足の爪を切った。この方法は、重症な精神疾患を有しているがケアを受け入れたがらないであろう患者に、怖がらせずに身体的接触を行う足がかりとなる。患者のメンタルヘルスや社会環境を覗く窓を提供するという点においても、明らかに必要なことである。患者の足指の爪は伸びており、巻爪となっていた。これは、精神疾患が慢性に進行し、自分の状態をあまり把握していないことを示唆している。足はびしょびしょであり、悪臭があり、白癬感染と一致する変化が広範囲にあった。靴や靴下をあまり脱いでいないことが示唆された。比較的若い女性に見られる静脈鬱滞性皮膚炎による下腿浮腫は、椅子に座って眠ったり長い時間公共のベンチで眠ったりする人で良くみられる。

 数日後、患者はシェルターに入ることとなり、そのあとすぐ高血圧エピソードのために当院に入院した。しかし患者は退院後の処方薬を受け取ることができなかった。グリーンカートをはじめとする証明証がなかったため、マサチューセッツメディケイドプログラムの対象外となってしまったからである。シェルターの多職種協同チームが協力して、患者の戸籍証明とグリーンカードを手に入れた。患者は相変わらず自分の精神疾患のことを分かっておらず、精神科治療は受けたがらなかったが、内科的プライマリケアは喜んで受診した。

 患者はそれから2年間で私のシェルターでのプライマリケア診療所を60回以上受診した。気にするのはたいてい身体症状のほうで、身体の左側のみに集中していた。症状は頭痛、胸痛、腹痛、上肢痛にくわえて、頭部浮遊感、嘔気、倦怠感もあった。このような訴えは支離滅裂であり、妄想の内容と認知のゆがみの影響を受けていることがよく見て取れた。患者は症状の原因を12年前の交通事故で額の左側を打ったためだと考えることが多かった。事故の日に他院で撮った頭部CTでは、軟部組織の血腫があったが、頭蓋骨骨折や急性頭蓋内合併症はなかった。その病院で頭部CTを何回かフォローしたが問題はなかった。

 外来で、患者の血圧をリシノプリルとヒドロクロロチアジドでコントロールすることにした。BHCHPとマサチューセッツ精神健康課の助成金で治療を行うことができた。頭痛が継続するため頭部MRIを撮像したが正常であった。神経内科にコンサルテーションを行い、片頭痛としてトピラメート内服を開始した。患者は神経精神科的検査を拒否した。HIV検査は陰性であった。TSHは正常であった。鉄とヘマトクリットは、月経過多に対する鉄剤補充療法により正常化した。セリアック病の血清学的検査は陰性であった。何とかパパにコロー検査を受けてもらい、結果は陰性であった。推奨されているワクチンは接種した。

 私は、診察のほとんどを患者の話を聞くことに費やし、ラポールを形成しナラティブを理解するよう気を配った。精神病の症状は強かったが、患者はそのことを問題だとあまり思っていなかった。読んでいるスピリチュアルの本の一節を私に見せながら、自分は統合失調症でないと訴えた。そこにはLily Tomlinからの引用があった:「神と話しているとそれは祈りなのに、神に話しかけられたら統合失調症だといわれる筋合いはない。」

 19回目の診察で、患者は初めて認知機能の症状で悩んでいると言った。記憶力低下と読字、計算、思考、集中の困難を症状として挙げた。このような症状をよくするために薬剤を使ってはどうかと提案したが、患者は断った。以降6か月にわたり、私ののんびりした外来を頻回に受診してもらいながら、内科的疾患について話し合うのと並行して、抗精神病薬を試してみないかと優しく繰り返し説明した。33回目の受診で、患者はオランザピンを少量から始めてみることに同意した。それから、患者のことをよく知っているBHCHPとこの病院の精神科医と協力して、彼女に薬剤を処方した、数か月かけて用量を徐々に増やしていくことで、幻覚や妄想といった陽性症状が徐々に改善していった。患者は徐々に施設外からきている精神科医の診察を受け入れるようになった。その精神科医は患者のことを前からよく知っていた。オランザピンによる体重増加と鎮静が見られたので、私はその精神科医とともに、治療薬をルナシドンに徐々に変更していった。患者は現在グループホームにおり、私の定期的なプライマリケアを今も受けている。


2016年1月6日水曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part2



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part2です。Table 2は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


鑑別診断

Dr. Oliver Freudenreich: 議論の参加者は全員このケースの診断を知っている。路上生活中のこの40歳女性は、未治療の精神病があり、重度の高血圧で救急部を受診した。この患者は精神疾患と内科疾患の双方を有しており、ワークアップと治療に優先順位をつけて最も可能性のある診断のリストを作成することが重要である。系統的かつ時系列での病歴が分からないので、ある程度診断が確定できなくても許容しなくてはいけない。


精神病

 この患者の精神病の原因となる鑑別診断を構築する際に、精神病が一次性か二次性かで区別すると良い(Table 2)。一次性精神病は精神疾患によるものである一方、二次性精神病は内科・外科疾患や物質使用によるものである。


二次性精神病

 二次性精神病で考慮すべき4つのメインカテゴリーは、譫妄、認知症、内科疾患(神経疾患を含む)、物質使用(アルコール、違法薬物、薬物によるトキシドローム)である。初期目標は、診断を早期閉鎖せずに患者の精神状態の原因となるものを同定することである。このタスクを管理可能なものにするために、臨床状況に応じて検査を提出し、致死的な精神病の原因(譫妄など)を除外し、治療可能な原因(甲状腺機能亢進症、ビタミンB12欠乏症など)と同定することに焦点を絞るべきである。検査は賢明に選択することが重要である。あまりに多い検査や誤った検査を提出すると、偽陽性、偽陰性が多くなるからである。救急の状況では検査をたくさん出す必要はないが、特に外来でのフォローアップが難しい場合では、急性期治療を行う際はあらゆる検査を考慮すべきである。

 全ての患者で以下の診察・検査を行う:バイタルサインの測定、身体診察、血糖値・血算・血球分画・電解質(カルシウム含む)、肝機能、腎機能を含む血液検査。腰椎穿刺、頭部画像検査、脳波検査はそれぞれ、脳炎、脳の構造的異常、てんかんを臨床的に疑う際に施行すべきである。治療的な状況はスクリーニングを考慮すべきであり、それには甲状腺疾患(TSH検査)、免疫・炎症疾患(赤沈、抗核抗体)、ビタミンB12欠乏症(ビタミンB12と葉酸)、感染症(HIV、神経梅毒など)などが含まれる。

 譫妄は精神病の約50%に伴っているが、このケースでは精神状況が急性でもなく変動も見られないため、譫妄の可能性は低い。患者の発症状況と病歴は神経変性疾患に合致しないが、患者にアパシーがあると考えると、以前の外傷性脳損傷は神経変性疾患と関連がある。重度の高血圧は精神病に伴う精神状況の変化の原因となりうるが、私は錯乱を伴う脳炎と他の末梢臓器障害があるのではと考える。高血圧に関連する別の懸念は脳梗塞であり、これも精神病の原因となりうるが、このケースでは頭部CTが正常で神経診察で巣症状がないため、この診断は可能性が低い。尿薬物スクリーニングは陰性だが、この検査が精神作用のある薬物乱用をすべては検出できない。ビタミンB12欠乏症は除外されたが、TSHの測定は依然として必要であり、神経梅毒とHIVの検査は強く考慮されるべきである。これらの状況は全て治療可能であり、精神病と関連しているからである。しかし、これらの検査結果が異常でなかったら、二次性精神病の可能性は低くなる。


一次性精神病

 精神疾患による精神病の診断を考える際は、統合失調症スペクトラム障害と精神病性気分障害に大別する。臨床的に重要な気分障害がないため、精神病性気分障害は否定的である。一方、患者は統合失調症に特徴的な症状を有している。患者の陽性症状としては妄想、幻聴、滅裂思考がある。患者は感覚鈍麻があり、これはコアとなる陰性症状である。他の陰性症状には、社会性の欠如と意欲低下が挙げられる。病勢が慢性であることも統合失調症に典型的であり、患者は社会的機能が乏しいように思われる。

 患者は自分の病状についての認識に欠けているが、それは統合失調症で良くみられることである、より高次の認知機能の問題を示唆することが多い。実際、統合失調症患者の85%で機能に関連する認知機能障害がみられており、特に運動記憶、言語記憶、実行機能に影響が見られる。このような状態は、統合失調症に関連する認知機能障害として知られているが、永続し、かつ抗精神病薬による治療に反応しない。

 統合失調症は除外診断だが、それにもかかわらず診断は観察可能な臨床的特徴と病歴に基づいている。この患者の受診時に手に入った情報に基づいて考えれば、可能性のある診断は統合失調症であり、おそらくそれが認知機能障害に関連した可能性が最も高く、もしかしたら以前の外傷性脳損傷により増悪したのかもしれない。もし患者の病勢がもっとエピソード的であり、気分障害の期間だけに精神病が見られたりした場合や、内科的疾患が症状をよりしっかり説明すると判明した場合は、付帯する情報とさらなる検査により、統合失調症の診断を見直すことになるかも知れない。

 患者は抗精神病薬と降圧薬の治療を受けるべきである。患者の木認知機能障害をより理解するためには、神経認知試験にくわえ、脳梗塞の既往や外傷性脳損傷による脳軟化症の所見を見つけるために頭部MRIを検査することを推奨する。統合失調症による認知機能低下が疑われるため、複雑な口頭指示は避けるべきである。この患者は理想的には、患者が信頼する人1人が継続的に外来でフォローして、これらの試験を受け治療反応をモニターするのを手助けすべきである。


Dr. Oliver Freudenreichの診断

統合失調症、統合失調症による認知機能低下の疑い、高血圧、路上生活状態



2015年12月31日木曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part1



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part1です。血液検査の結果は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


患者:40歳 路上生活中の女性
主訴:頭痛、高血圧、精神病

 精神病の既往のある40歳女性が、頭痛と高血圧のため路上生活者のシェルターから当院に入院した。

 入院1週間前、患者はシェルターに入ることとなった。それまで4年間は、公共の建物の中で寝泊まりしていた。その間、シェルターのアウトリーチワーカーによる援助を繰り返し拒否していた。屋外にいて人々を見守るのが神から与えられた使命であると患者は話していた。シェルターでの評価では、恰好が乱れていて話が支離滅裂であり、霊的な事柄ばかりを考えていた。自分の障害を、12年以上前に遭った自動車事故で脳が損傷したためだと考えていた。自分が精神科疾患にかかっているとは考えておらず、精神科的治療を拒否したが、シェルターに駐在しているプライマリケア医の診察を受けることには同意した。限られた身体診察では、白癬が広がっており、足に静脈鬱滞性皮膚炎があることが分かった。

 入院当日の朝、患者は昨夜からの強い頭痛を訴えた。看護師が許可の上でバイタルサインを測定すると、血圧が180/110mmHgであった。緊急医療サービスが要請され、再度測定すると、収縮期血圧が212mmHgであった。患者は救急車で当院救急部門まで搬送された。


 患者は“おかしい”感じがあると言い、前頭部の頭痛を時々訴えた。視覚症状、胸痛、腹痛、嘔気、嘔吐は訴えなかった。高血圧に加え12年以上前からの精神病の既往があり、身体性妄想、偏執性妄想、誇大妄想、滅裂思考、貧困なセルフケアといった特徴があった。今回の入院の5年前に精神病院への入院歴があった。入院中はオランザピンの服用で症状が若干改善していた。退院後は精神科ケアのフォローアップを受けず、オランザピンの服用も中断していた。今回の入院の4年前にヒドロクロロチアジドを服用していたが、最近はどの薬剤も服用していなかった。ニフェジピンのアレルギーがあり、動悸がおきるとのことであった。患者はカリブ海の国の出身で、だいぶ昔にアメリカ北東部に移住してきた。喫煙は時々あり、違法薬物を使ったことはないが、過去によくわからない物質を大腿に注射したことがあると申告した。家族歴は不明だった。


 診察を行った。患者は肥満かつ低栄養で、恰好が乱れ、多数の服を重ね着していた。血圧は208/118mmHgで、再度測定すると240/130mmHgであった。脈拍95bpm、体温36.4℃、呼吸数16/min、SpO2 90%(室内気)。上部胸骨右縁に収縮期雑音(grade 1/6)を聴取したが、心膜摩擦音やギャロップはなかった。両下肢膝以遠に2+の圧痕性浮腫があり、慢性の鬱滞と硬化による皮膚の変化があった。態度は快活かつ協力的で、視線を合わせ、異常な動きはなかった。発語は小声かつ早口であった。自分の気分は「良好」であると話し、見ためも気分良好で感覚鈍麻あった。思考過程は滅裂で、過度に宗教的かつ誇大な妄想が含まれていた。神や悪魔の声といった幻聴があり、神からのメッセージだと信じている「幻視」もあった。自殺・他殺の念慮はなく、自分の状況をよくわかっておらず、判断力に欠けていた。他の一般診察所見は正常であった。

 白血球数と分画、腎機能、凝固、尿検査は正常であった。電解質、カルシウム、リン、マグネシウム、血糖、トロポニンT、NT-proBNP、ビタミンB12、葉酸も正常であった。トロポニンI、尿hCG試験は陰性だった。他の結果はTable 1に示す。心電図、胸部X線、単純頭部CTは全て正常だった。ラベタロール静注とカプトプリル経口投与が開始され、血圧は187/111mmHgに下がった。患者は入院となった。


 ラベタロールとカプトプリルを増量し、アセトアミノフェン、ダルテパリン、硫酸第一鉄、オメプラゾール、葉酸、チアミン、マルチビタミンも投与した。血圧は左上肢141/65mmHg、右上肢141/62mmHgまで低下し、頭痛は徐々におさまった。尿薬物スクリーニングは陰性だった。患者はインフルエンザワクチンを拒否した。患者は入院3日目にシェルターに退院し、シェルター内で血圧モニタリングを受けることとなった。退院時の薬剤は、リシノプリル、チアミン、マルチビタミン、葉酸、オメプラゾール、硫酸第一鉄であった。診療所の外来で1週間後にフォローアップを受けるよう患者に促した。

 方針の決定がなされた。



2015年11月30日月曜日

ベンゾジアゼピンの依存



数年間エチゾラム(デパス)を服用していた方が別の原因で入院され、依存形成が疑われたケースを経験しました。

とくに高齢者へのベンゾジアゼピン投与はBeers criteriaでも注意となっています。


頻用されることの多いベンゾジアゼピン系は以下の通り
ハルシオン、サイレース、ロヒプノール、デパス、ソラナックス
マイスリー(ゾルピデム)は非ベンゾジアゼピンですが、準じた扱いが必要です。

ベンゾジアゼピン系は常用量でも長期投与で依存が形成されます。
耐性も生じやすく増量は要注意です。
経験例の場合では、常用量の長期投与で身体的依存も形成されていました。


また急激な服薬中止は、離脱をおこすこともあります。
最悪の場合、致命的になるので、要注意です。
離脱症状は、不安、抑うつ、知覚過敏、振戦、痙攣、頭痛などがありますが、
服薬前より不眠が悪化する反跳性不眠は、長期服用を促してしまい厄介です。


高齢者では副作用も問題になります。
認知症リスクは1.5倍程度高まります。
90日以上など長期に投与するほどこのリスクが高まります。
服薬後5年以上経過してからリスクが有意になります。

また、転倒および外傷のリスクも1.5倍程度たかくなります。
新規に服用開始して14-30日以内が最も危険です。


そもそも、高齢者に対する睡眠薬の効果は明らかではありません。
少なくとも長期的な有効性についてのエビデンスは存在しておらず、
短期間の有効性も限定的です。


今回のように、デパスなど短期間作動薬で依存が起こっている場合の治療は、
長期間作動薬(マイスリー、メイラックス)に変更し
数か月かけて徐々に減薬していくことになります。


ベンゾジアゼピンの代替薬としてはロゼレムがありますが、
徐々に効いてくる薬であることを説明する必要があります。



参考文献
・いまどきの依存とアディクション 2015年
日本プライマリ・ケア連合学会誌 38(3) 228-242
UpToDate- Benzodiazepine poisoning and withdrawal




2015年9月6日日曜日

悪性症候群とセロトニン症候群


救急外来で鑑別診断としてよく出てくるけどまだホンモノには出会っていないです。
起因薬剤を飲んでいる方にはよく出会うので、そのうち遭遇するかもしれません。


悪性症候群は、抗精神病薬を代表とするドパミン遮断薬を投与している患者でおこります。
初回投与でも起こりうるし、同一の薬剤を長年飲んでいても起こることがあります。
用量が少ないから起こらないというものでもありません。

以下の4症状のうち2つ以上当てはまれば悪性症候群を強く疑います。
なお、ほぼ全患者で最低でも1つあてはまります。

・精神症状(82%)
興奮・錯乱状態が多いですが、緊張病・緘黙状態となることもあります。

・筋強直
鉛管様強直~歯車様強直となったり、震戦・筋緊張亢進・後弓反張・咬痙・舞踏運動などの不随意運動が出ます。ドパミン遮断状態ですから納得です。

・高体温
38℃以上が87%、40℃以上が40%を占めます。

・心機能異常
頻脈(88%)、血圧不安定もしくは高血圧(61-77%)、頻呼吸(73%)などです。
不整脈や発汗が出ることも。


悪性症候群との鑑別が問われるのがセロトニン症候群です。
原因となる薬剤が異なるのと、症状も微妙に違います。

Hunter criteriaによると、SSRIなどセロトニン系薬剤を服用していて、以下の1つでも当てはまると診断となります。

・自発的なクローヌス
・誘発クローヌスに加え興奮または発汗
・眼球クローヌスに加え興奮または発汗
・震戦と腱反射亢進
・筋緊張亢進
・38℃以上に加え眼球クローヌスまたは誘発クローヌス


筋がこわばるのが悪性症候群
筋が過敏になるのがセロトニン症候群
というイメージですかね。


参考:UpToDate Neuroleptic malignant syndrome, Serotonin syndrome


2015年6月8日月曜日

drug-induced hemophagocytic lymphohistiocytosis



drug-induced hemophagocytic lymphohistiocytosis(薬剤誘発性血球貪食性リンパ組織球症)を疑う機会があったのでまとめます。

hemophagocytic lymphohistiocytosis(HLH)について
hemophagocytosis/hemophagocytic syndrome(血球貪食症候群)ともいいます。

原発性(家族性)と二次性に大別できます。
二次性はEBVやその他ウイルス感染によるものが多いです。
UpToDateの記事によると、他には若年性特発性関節炎などの自己免疫疾患やリンパ腫などの悪性腫瘍に続発します。

UpToDateに診断基準も載っていました。
遺伝子的な異常が証明できるか、以下のうち5つ以上当てはまれば診断するそうです。
38.5℃以上の発熱
脾腫
末梢血にて2系統以上の血球減少(Hb<9, Plt<10万, Neu<1000)
空腹時TG>265mg/dlまたはFibrinogen<150mg/dl
骨髄、脾臓、リンパ節、肝臓のいずれかで血球貪食像あり
NK細胞活性が低い
フェリチン500以上(3000以上ならより疑わしい)
sIL-2Rαが2SD以上


やはり大事なのは、HLHを疑うことだと思います。
臨床所見は以下の表がわかりやすかったので載せます(このサイトより引用)
どうも、皮疹は癒合傾向を伴う麻疹様発疹が多い印象です。



Lancetで2014年にレビューが出ています。
こちらのブログにて日本語でまとまってあります。

「血球貪食像=HPSと過剰診断しないことが重要である。
例えば輸血、感染症、自己免疫性疾患、各種骨髄障害、赤血球破壊などの病態でも血球貪食像は生じる。」

「血球貪食像は重症患者の剖検で実に64%にも認められる。」

あたりが大事だとおもいます。


さて、抗生剤や抗てんかん薬によりHLHが起こることがあります。
日内会誌 99:2832~2834,2010が詳しくてわかりやすいです。
以下の表はこの論文からの引用です。
DIHS(Drug-induced hypersensitivity syndrome)に似ていたり、併存していたりすることもあるそうです。両者の区別は困難なのかもしれません。



抗てんかん薬は重篤な過敏症状を起こすことで有名です。
総称してanticonvulsant hypersensitivity syndromeといいます。

3徴は皮疹、発熱、全身の臓器障害です。
芳香族の抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、ラモトリギンなど)で起きやすく、
また一度おこると他の芳香族抗てんかん薬でも起きやすくなってしまいます。
非芳香族(バルブロ酸、ベンゾジアゼピンなど)は比較的安全です。



2015年3月28日土曜日

NEJM Case10-2015



先ほど旅行から帰ってまいりました。
遅くなりましたがNEJM Case Recordです。
本文はこちら


Case 10-2015
A 15-Year-Old Girl with Graves' Disease and Psychotic Symptoms

【患者】グレーブス病がある15歳女児
【主訴】精神病症状

3か月前、甲状腺機能亢進症状出現し、TSH低値とシンチによりグレーブス病と診断され、アテノロールとメチマゾールが開始となった。
5週前、身体の見た目についてイライラすることが増え、友達がいなくなった。
3週前、どこにいても声が追いかけてきて、悪魔に狙われていると妹に訴えた。自傷や自傷未遂を繰り返し腹部と手首に痕あり。毎朝3時には目が覚める。不安を訴え、食事をとらなくなった。

身長166cm、体重85.6kg、BMI 31.1
血圧137/81、心拍110整、呼吸数28、体温とSpO2は正常。見当識正常。
涙を流しさびしそうでそわそわしているが協力的。
血算、電解質、糖、腎機能正常。鉄、VitB12、フェリチン、甲状腺以外のホルモン正常。
毒物スクリーニング陰性。妊娠反応陰性。TSH<0.01。
メチマゾール増量。オランザピンとロラゼパム開始。6日目で精神病症状落ち着き、気分も明るくなった。

2週間前に退院。過度に信心深くなり、突然教会を変えたりした。
8日前、ネットで知り合った男性に会うために家を出て、翌日警察が保護、病院へ搬送。抑うつ気分とエネルギーのなさを感じているが、希死念慮と幻覚はなし。



3か月前から重症のグレーブス病に罹患している15歳女児に現れた精神病症状の原因は何でしょうか。
最初に答えを言ってしまうと、この症状はグレーブス病によって引き起こされたものであると考えられるそうです。

甲状腺機能亢進症は、イライラや心配などの精神症状は有名ですが、本症例のような躁症状や精神病症状は稀とのことです。どちらかというと甲状腺機能低下症で見られることが多いです(myxedema madness, myxedema psychosis)。

しかし、双極性障害や精神病の家族歴のある患者では特に、甲状腺機能亢進でも躁症状や精神病症状がみられることがあるそうです。治療開始後するに症状が出ることが多く、甲状腺の機能が亢進から正常に移行するときに起きやすいのではと考えられています。


私なら、このような患者さんに出会ったら、まず薬物と譫妄を除外したいと考えます。
いわゆるtreatable dementiaに内包する各種疾患やAIUEOTIPSが鑑別疾患に含まれるのではないでしょうか。


甲状腺機能亢進症の治療開始直後に発症した精神病症状の症例でした。


~Clinical Pearls~

甲状腺機能亢進症の治療開始直後に精神病症状が発症することがある


2015年3月4日水曜日

線維筋痛症患者はmultimorbidityかつpolypharmacyである



今日のBMJ Openより。
線維筋痛症患者はmultimorbidityかつpolypharmacyである、という記事です。

A cross-sectional assessment of the prevalence of multiple chronic conditions and medication use in a sample of community-dwelling adults with fibromyalgia in Olmsted County, Minnesota


1111人の患者さんのカルテをひっくり返して
併存疾患と処方薬剤について調べたものです。


併存疾患が7つ以上の患者は、なんと半数以上!

















薬剤に関しては以下の通り。
そして、40%以上の患者さんで、線維筋痛症の症状のためにのんでいる薬剤だけで3つ以上とのことです。10%以上の患者さんでは、そのような薬剤の数が5つ以上です。

















併存疾患で多いのは以下の通り。

慢性関節痛/変形性関節炎(88.7%)
偏頭痛/慢性頭痛(62.4%)
高脂血症(51.3%)
肥満(48.0%)
高血圧(46.2%)

線維筋痛症が肥満の人で多いというのは前から言われているみたいです。
意外なのは、いわゆる生活習慣病の割合が高いことです。糖尿病も17.9%でみられています。


薬剤では以下の通り。

睡眠薬(33.3%)
SSRI(28.7%)
オピオイド(22.4%)
SNRI(21.0%)


また、うつ(75.1%)不安症(56.5%)、気分変調(19.4%)も多く
不眠(50.6%)やむずむず脚症候群(20.3%)の割合も高いです。
(2010年の診断基準ではunfresfing sleepが項目に入っていたので当たり前といえば当たり前です)



線維筋痛症の患者さんを継続的に診ていくときは、併存疾患と服用中の薬剤をしっかりみましょう、と結論付けられています。
例えば、SNRIに高血圧と肥満を悪化させる(それゆえ変形性関節炎も悪化させる)働きがあったり、線維筋痛症に対する効果が明確にわかっていないオピオイドがたくさん使われていたりと、やはりpolypharmacyになると注意すべきことがたくさんですね。



~Clinical pearls~

線維筋痛症はmultimorbidity、polypharmacyになりやすい。


2015年3月1日日曜日

psychogenic nonepileptic seizures(PNES)について



ちょっと前に、とあるSNSでPNESという用語を目にしたので、調べてみました。
Psychogenic nonepileptic seizuresの略で、訳すなら「心因性非てんかん性痙攣」でしょうか。
てんかんの痙攣に似た発作が起こるが、器質的な異常はなく、精神的な影響により発作が起こるそうです。

そういえばそんな疾患聞いたことがあるなと思いましたが、詐病(malingering)の一種だろうと不十分かつ不適切かつ有害な理解をしていました。
調べてみて自分の不勉強をひどく恥じたので、UpToDateを参考に自分なりにまとめてみます。


PNESは、いわゆる「機能的疾患」に属します。

例えば、車が急に走らなくなって、その原因がタイヤのパンク、アクセルの回路の故障などであれば、これを器質的疾患といいます。
一方、エンスト、ギアがパーキングのまま、シートブレーキが入っているなどが原因で車が走らないとき、これを機能的疾患とよびます。

機能的疾患では、車の部品が壊れているわけではないですから、各種検査では異常が見つからないことが多いです。
ですが車は動きません。実際に動かないのです。ここが重要なポイントですね。

PNESは、以前はpseudoseizureといわれていたようですが、決して偽物ではありません。
患者さんが嘘をついているわけでも、演技をしているわけでもなく、本当に発作が起きている、ということをまず理解する必要があります。
そして、検査でどこにも異常がないという本来なら嬉しい情報で逆に悩んだり、本来不必要な抗痙攣薬を服用してさらに発作が出たりなどしてしまうわけです。

PNESをPNESだと診断することは大事ですが、それは患者さんが自分の状態に対して適切な理解を得て、不適切な治療をされることなく、生活を回復させていくために必要なのであって、医療者は決して「お前嘘ついてるだろ、俺には分かるんだ」という態度をとってはいけません。倫理云々の以前に、事実関係が間違っています。


PNESとてんかん発作の相違点をまとめます。
実際はこんなに明確に区分できるものではないことは留意してください。
PNESとてんかんが併発していたり、PNESなのに抗痙攣薬を服用させられていたりなどで、どっちにも分類しにくいことはままあります。


てんかん
PNES
持続期間
1-2分以内
2分以上
開眼が多い
閉眼が多い
開眼に抵抗したらさらに疑わしい
動き
決まった動きの繰り返し
全身の動きが同期している
一定または進行していく
色んな動きが混ざっている
骨盤を前に出す、左右に転がる、強直反張
波がある
(ただし、1/3の患者さんで典型的なてんかん発作がおきる)
発語
ないことが多い
横隔膜や声帯がけいれんして声が出ることはある
時々ある
遷延する発作時脱力
非常に稀
時々ある
失禁
けいれん発作ではよくある
それほどない
自律神経症状
大発作ではチアノーゼ、頻脈がよくみられる
あまりない
発作後
混乱、うとうと
半数で頭痛あり
すぐ覚醒、見当識も元通り
頭痛は稀
その他

声掛けに反応
前兆がある


発作が起きる状況も大事です。

PNESでは目撃者がいる場面で発作が起こることが多いです。
脳波検査のため電極をつけているときに起きたりするとますますPNESっぽくなります。

一方、寝ている間にはあまり起こらないです。
尤も、患者さん自身が夜に発作が起きたと主張することや、寝ているようにみえるけど脳波では覚醒状態ということもあるみたいです。

PNESの発作はストレス下で多くなり、月経周辺で少なくなるとのこと。
また、病院に来る患者さんの殆どで、1日1回以上発作が起こるそうです。
発作が1週間に1回以下ならPNESの可能性は低くなります。


診断は、発作時の脳波検査で異常がないことを確認します。
大抵はモニターを初めて数日以内に発作が起こります。

PNESの診断がつくまで、実に9-16年もかかるそうです。
できるだけ早期に診断したいですね。
30代の女性で発症が多いみたいなので、年齢と性別も重要なポイントです。


前頭葉てんかんは、臨床症状が非典型で発作時脳波も正常なので、PNESと間違えやすいそうです。鑑別時につねに考慮しましょう。


治療は行動認知療法などの精神療法が中心です。
患者さんの疑問に答えていくためにも神経学的フォローアップを行うのが良いとのことです。
薬物治療は併存する精神疾患によります。個別性の高いケアが必要だとありました。


~Clinical Pearls~

PNESは意外と多い。間違っても偽物扱いしないこと。

PNESの発作の特徴を理解する。2分以上、閉眼、横に転がったり骨盤を突き出したりする、発作後すぐ覚醒、声掛けに反応など。



2015年2月27日金曜日

精神疾患と貧困の関係



今週のBMJ Openにこのような論文が出ていました。

Trani J-F, Bakhshi P, Kuhlberg J, et al.
Mental illness, poverty and stigma in India: a case–control study. 
BMJ Open 2015;5: e006355. doi:10.1136/ bmjopen-2014-006355


インドで、統合失調症または感情障害の患者さんに対するスティグマが、貧困状態に関係しているかをmatching case-control studyで調べています。

貧困を測る指標が非常に示唆的です。
「貧困」と聞くと、単に金銭的欠乏のみを想起しがちですが、
この研究では様々な次元にわけて貧困の指標を抽出しています。



意訳してみると以下の通り
(赤字は患者群全体とコントロール群全体との間にp<0.05/16の有意差が出た項目)

【個人レベルの基本的能力】
・医療にかかれるか
・教育を受けたか
・仕事をしているか
・飲み水をどこから手に入れているか
・室内の大気は綺麗か
・トイレ設備はどうか
・照明設備はどうか
・収入はどうか

【住環境】
・家に何人住んでいるか
・持ち家か
・建材はkutchaかpuccaか。
(kutchaは泥や藁でできた建材、puccaはブロックやレンガなど)
・日用品をどれだけもっているか
・世帯収入はどうか
・世帯支出はどうか

【個人レベルの精神社会的状況】
・住環境は安全か
・選挙で投票したか


これらの指標のうち6つ以上でカットオフ以下であると測定された方の割合は
精神疾患患者で38.5%、コントロールで22.2%でした。

このような多次元にわたる貧困と関連の強かった因子として
スティグマ、カースト、精神疾患、女性
が挙がりました。


精神疾患の患者は貧困状態に陥りやすい、
特にカーストが低い女性患者で顕著である、という結論です。



金銭的な困窮ももちろん重要な問題ですが
人はパンのみにて生くるに非ず、ということで
貧困に内包する事象を広くとらえ
しっかり介入していく必要があると思います。