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2017年3月29日水曜日

NEJM Case Record 2017-9


思い出したようにNEJM Case Recordです.

Case 9-2017
A 27-Year-Old Woman with Nausea, Vomiting, Confusion, and Hyponatremia

27歳女性
1週間前に嘔気,嘔吐(非胆汁性,非血清)あり.数時間で軽快した.
2日前の夕方,嘔気と数回の嘔吐あり.その後,傾眠,歩行不能になったため近医を受診した.
バイタルサイン:体温36.1℃,血圧94/64mmHg,脈拍100bpm,呼吸数16/min,SpO2 100%ra
質問や指示に応じず,話は的を射ない.時折啼泣し,四肢を意味もなく動かしている.低血圧に対し生食投与を行った.
血液検査:Na 104,K 5.1,Cl 74,CO2 19,BS 114 ,AG 11
集中治療が可能な病院に移送した.移送中に患者は興奮し横にじっとできなくなった.

搬送先病院バイタルサイン:体温36.7℃,血圧102/57mmHg,脈拍92bpm,呼吸数12hi/min,SpO2 100%ra

尿所見:比重740,Na 158
瞳孔正常,粘膜湿潤,心音呼吸音正常,腹部所見なし.頭部CTと胸部レントゲンは正常.

さて,診断は?

最大のプロブレムは低ナトリウム血症
くわえて,間欠的嘔吐,昏迷・興奮,高比重・高ナトリウム尿,輸液に反応する低血圧,高K血症,AG正常性代謝性アシドーシス

低ナトリウム血症をみたら,まずは体液量評価をする.
このケースでは,最初は細胞外液量低下→輸液で正常体液になった.
くわえて,尿比重が高いということはADH高値であるということ

腎症や中枢性塩喪失症候群は否定的.
妊娠は低Na血症を来すがこんなに重症にはならない.
甲状腺機能低下症は原因となりうる→ホルモン測定で除外できた.
SIADHは除外診断

利尿薬使用による低ナトリウム血症はどうか.
最多の原因薬物はサイアザイド.ループ利尿薬より低ナトリウム血症を来しやすい.
特徴は,尿濃縮能力が保たれている・ADH反応性がある・体液量正常であることが多い点.
服用1-2週で発現する.

副腎不全,特に一次性はどうか.
低ナトリウム血症に至る経路は,コルチゾール不足によるADH上昇とアルドステロン不足(原発性のみ)の2つ.体液量は低~正常.
副腎不全は低血圧を来す.コルチゾール不足による血管拡張または嘔吐やアルドステロン不足による体液量低下.

MDMA乱用もADH上昇による低Na血症を来す.
高体温になるので飲水も促される.
その他の徴候は,高血圧,頻脈,横紋筋誘拐,セロトニン症候群など.

このケースでは利尿薬乱用か副腎不全が考えられる.
利尿薬乱用はふつう,低K血症かつ高アルドステロン症による代謝性アルカローシス
副腎不全なら低アルドステロンによる高K血症と代謝性アシドーシス

原発性副腎不全なら色素沈着がほぼ必発だが頻繁に見逃される.
そう思って調べると,屈曲部位に色素沈着が見られた.

追加の病歴をとると,じつは数か月前から倦怠感があり,運動機能が低下していた.

というわけで,最終診断は原発性副腎不全でした.
低Na血症の鑑別はシステマティックに行うようにしましょう.

2017年3月23日木曜日

ベンゾジアゼピン依存


たまには医学生物的記事も.
今週のNEJMのReviewを部分的に抜粋します.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1611832

ベンゾジアゼピン依存

離脱症状:短期間型なら2-3日以内,長期間型なら5-10日で発現
最も軽い→反跳性不眠
よくある身体症状→筋緊張,脱力,筋けいれん,疼痛,インフルエンザ様症状,ピリピリとしたしびれ
よくある精神症状→不安,パニック,そわそわ,興奮,気分変調,集中力低下,睡眠以上
他には→食欲低下,頻脈,眼のカスミ,口腔乾燥,耳鳴り,嗜眠,現実感の消失
知覚異常もよく起こる→聴覚過敏,羞明,異常感覚など
突然やめると痙攣が起こることも.
重症では幻覚,妄想,脱人格化,譫妄も

鑑別診断:他の精神疾患,アルコールや薬物中毒,てんかん,頭蓋内病変,心筋梗塞,甲状腺ホルモンなどの内分泌異常など

治療の肝はゆっくり減量すること
プロトコルは様々:各週ごとに50%ずつ減らす~2週ごとに10-25%ずつ減らす
ただし,あまり長々としないほうが良い

ジアゼパムなど長期間作用型に変更するのもよいかもしれない
オピオイド維持療法を受けている場合はオピオイドの量は変えない.
抗うつ薬など他材を用いる方法もあるが効果ははっきりせず.

CBT(認知行動療法)はしっかり効果あり
他の薬物やアルコールの乱用にも注意


2017年1月17日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 7 final)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

なんとか最後にこぎつけました.時間かかりました.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



私たちのシステムと私たち自身


 集中的な調整が必要であることは、身体的治療と精神科的治療とを結合するために設計された統合ケアモデルの魅力の説明になる。Levineの診療は、Massachusetts Mental Health Centerでの包括的な精神保健サービスにプライマリケアを埋め込むものであるが、このようなアプローチの試行版となっている。このようなモデルにより健康格差が縮まるかどうかは分からないが、私たちのシステムを通じて今後の見通しが簡単になるだけでも価値のある事だろう。しかし、変革的なケアモデルはケアの質を大きく改善することはできないもので、その原因の一端は、責任が微妙に変化することで振る舞いが変わることにあるという話もきこえてくる。「壊れたシステムを治す」ことに着目したからといって、私たち自身の中から生まれる解決策を探すのをやめるのだろうか。

 統合のような抽象的な概念は、助けを必要としている具体的な患者にとって何を意味するのだろうか。つまり、コントロール不良の糖尿病があり、薬物依存の治療中であり、グループホームで階段から突き落とされて片目を失明し、40分を費やして薬物療法を整理して緊急の眼科受診を予約したあとに自分は妊娠しているからそのことを今回の診察で相談したいというような精神疾患患者にとっての意味である。

 Levineがそのような患者に優しく思いやりを持って行く先を示しているのを見て、私は自分の血圧が上がっているのを感じながら、私たち全員が彼女のようにがむしゃらに頑張るべきだと結論するのは楽天的すぎると実感した。重度精神疾患患者は私たちにとって最もタフな患者であることが多い。私たちの現在のシステムの中で患者のニーズになんとか対処しようとすると圧倒されてしまうのは当然であり、だからこそシステムの変化は喫緊の課題なのである。しかし「システム」は私達のような人々が何百万も集まって構成されている。精神疾患患者のケアを有意義に改善するためには、マサチューセッツ総合病院の精神科医Oliver Freudenreichの言うとおり、「ケアの統合とは態度の問題である」ということを認識しなくてはいけない。

 ケアを損なう態度のうち容易に改善できるものがある事は疑いない。より効果的に治療拒否と交渉すること,より巧みに意思決定能力を評価すること,ケア全体を統合しようとする努力が不十分である時を認識することは実現可能であるだろう.一方,重度精神疾患患者が真に必要としているものは私たちが提供できるものではないという集団的信念に打ち克つのは困難を極める.

 この難題を実感することが数週間前にあった.夜遅く家路についたときのことだ.服の乱れた女性が苦悶の表情で「どうしたら家に帰れるの?」と泣き叫んでいた.どこかで見た顔であり,以前も路上で見かけたことがあるのだろうと考えていた.しかし,逆方向に歩を速めながら,数か月前までその女性は私の患者であったことに思い至った.彼女は心不全であり,そのとき私は彼女を治療する方法を確かに知っていたのだ.いま彼女は精神病状態であり,おそらくホームレス状態でもあった.私は何もできなかったのだ.私は歩みを止めなかった.私たちは医師と患者ではなく,夜遅く路上にいるただの二人である,どちらも家に帰りたがっている二人に過ぎないのだと自分に言い聞かせながら.
 

2017年1月10日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 6)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

次回でラストです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



村全員が総出で行う

 内科医であり the Boston Healthcare for the Homeless Programの共同設立者であるJim O’Connellが,頭皮に小さい基底細胞がんができた統合失調症の男性を診ていたときの話だ.16年間にわたって,O’Connellはがんの治療をうけるよう言い続けたが,患者は指導に従わずがんを自分でむしり取っては再発してを繰り返し,ついにはがんが後頭部に浸潤し脊椎に転移してしまった.患者は手術のため入院し,そこで医学的,精神的治療を受けて精神状態は安定化した.しかし治療は遅きに失していた.精神がしっかりしたことで,かえって後悔の念に苛まれることになった.患者が存命中に,O'Connellはこんな言葉を何回も聞いた.「どうして先生の言う通りにしなかったのか今となってはわからないよ.」

 「何かできるかもしれないのに,病気がいつ致死的になるのかわからないこの状況で完全に行き詰ってしまうんだ」とO'Connellは言う.慢性疾患を持ちながら長年生きる多くの重度精神疾患患者と同様に,この男性も差し迫った危険を感じていなかった.だが最後はその危険に命を奪われた.

 死期が近い患者が高リスクの治療を拒否するのを承諾する傾向にあることが死亡率の格差に一因となっているかもしれないが.寿命を伸ばす機会の殆どはもっとずっと早期の段階に訪れるので,慢性疾患のマネージメントに対する介入に対しての態度の方が健康格差により影響を与えていることが考えられる.課題は,悪性のバイアスが招く受動性を適切に選択を尊重することから区別することである.意思決定能力は,それを有しているかいないかの二つに一つであるように思われるが,実際にはそこまで重要でない決定では能力の閾値は下がる傾向にある.例えば,スタチンの服用やマンモグラフィー検査を強制するのは一般に不適切なことであるし,これはゆっくり成長する基底細胞がんの切除にも当てはまることでもある.

 しかし,強制が正当化されることはめったにないにもかかわらず,「あなたができることはそこまでだ」という合理化は怠惰を敬意とあえて誤解釈する.強制をせずとも私たちにできることはたくさんあるのが普通だが,治療をしっかり提供するより,治療を「患者が拒否した」とカルテにかくことの方がずっと簡単である.

 重度精神疾患患者に下部消化管の定期検査を行う際に必要な労力について考えてみよう.
検査を行う意義を理解してもらうには何回か受診してもらう必要があることが多い.そして.それができる医師は大抵何年もかけて信用を構築してきている.患者が同意したら,前準備をどのように進めていこうか.国患者がホームレス状態であったらどうするだろうか.前日から入院させる,あるいはグループホームのスタッフと密に連携をとるという方法がある.しかし,ほんのちょっとしたこと,例えば早い時間の予約に間に合うよう起きるのが難しい,間違って朝食を食べてしまったなどで,すべて水泡に帰す可能性がある.内視鏡検査をもう一度試みることになった1人の男性患者が,最初は検査の前に家に送り届けられたことについて話してくれた.「僕はパジャマまで着ていたんだ」.患者の言うパジャマとは病院のガウンのことである.彼は家まで帰る交通手段がなかったので,看護師が送ることになった.Levineは私たちのシステムの中で重度精神障害患者を引き受けることの難しさを強調するストーリーをたくさん話してくれた.「"村全員が総出で行う"という慣用句ではとてもじゃないけど表現できない」とLevineは言った.




2017年1月4日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 5)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589




患者を理解する

 分かった.強制が忌避すべきことだとしよう.次の質問は明白だ.患者が納得して必要な医療を受けてもらうより良い方法はあるのだろうか.ひょっとするとこの質問は正確に言うと問題を孕んでいるのかもしれない.MacArthurテストを考案したコロンビア大学の精神科医であるPaul Appelbaumは30年以上前の研究で,治療拒否の理由は大抵のばあい複雑であり,コミュニケーション不足,信頼の欠如,抑うつや妄想といった心理的要因の存在が関連していることを示している.ところで彼の観察によれば,「医師は,患者と話すことで拒否の根底にある要因を明らかにすることにほとんど労力を割いていない.」

 この研究の今日的意義は,患者を理解しようとするちょっとした努力が救命につながりうると強調していることだ.たとえば,大きな肺がんのある患者が救命の唯一の手段である外科的手術を拒否しているとする.Appelbaumなら,がんは空気と触れると広がっていくと耳にしたのだと患者や妻から聞き出しただろう.多くの場合,手術チームが時間をとってこのような間違った信念を取り除いていけば,方向転換は容易である.

 ところで,間違った信念と妄想の境界線はどこだろうか.心臓発作から数か月後,Levineは診察室でD氏を診ていた.D氏は内服を止めていた.自分の心臓は「美しい」と他の医者が言っていたというのが彼の言い分だった.Levineは心電図を再度見ながら,この前の心筋梗塞がどの程度だったかを伝えた.以降,D氏はLevineに顔を見せることはなくなった.診療の場をうまくコントロールできなかったことをLevineは悔いている.「患者の妄想を直接否定するなんて絶対すべきではなかった.」でも,患者にまず心臓に病気があると理解してもらわないと,心臓の薬を飲んでもらうなんてできないよという私の声掛けに,Levineはこう答えた.「私はこう言うべきだった.あなたの美しい心臓をずっと美しくしておきたいの」



2016年12月28日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 4)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

前回記事「能力を評価する」の続きです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



 患者に何かを強制せざるを得ない事態は私たちの宿命であるが,これは法的なジレンマを想起させる.治療拒否の意思決定能力を有していない患者に必要な治療を提供しなかった過失責任で訴えられることもあるだろうし,同様に意思決定能力が欠如していると誤判断し患者の意向を無視したばかりに訴えられることだってありうる.Bagleyは,裁判所が後知恵で批判する後医としてふるまうことは「非常に考えにくい」と強調しているが,それでも「法的リスクが完全に排除できないことで医師は躊躇してしまうだろう」と述べている.

 さらに悪いことに,患者が意思決定能力を有しているかはっきりしないのはよくあることである.私はよく,患者に復唱させて万事足れりとしてしまう.例えばこんな感じだ.「カリウムがこんなに高い状態で帰宅したら死んでしまうかもしれないですよ,わかってますか.」もし患者が「死んでも構わない」と言ったら,その会話をカルテに書いて,こう自分を納得させる.「ほかに何ができるって?」だが実際は,できることはたくさんある.

 MacArthurテストは4つの基準を評価するものであり,意思決定能力を測定するツールとして最も広く使われている.以下の4つを達成すれば意思決定能力があると評価される.①選択肢を伝えることができる,②関連情報を理解できる,③自分の状況とその結果を実感していると示すことができる,④治療選択を論理的に考えることができる.「理解」が関連する医学的事実をつなぎ合わせる能力を反映するのとは違い,「実感」はそれらの事実が自分に関係しているという感覚を必要とする.自分の腎機能が衰えていなくても,腎不全が致死的な高カリウム血症を招きうると「理解」することは可能である.

 より良質な意思決定能力評価のトレーニングが必要なのは明らかだが,どんなにトレーニングをしても,法律と倫理の分断に橋をかけるのは不可能だとも思う.意思決定を担い患者の考えを大事にするよう倫理的に託されているのだという考えが優勢になるにつれ,法的基準に則り患者の望みを無視することを正当化することはまずます下火になっていく.法律的には,消化管出血の治療を受けたばかりのしっかりした女性が娘の結婚式に出るために下部消化管内視鏡を拒否することは,妄想症の女性が前処置に蛇が含まれていると信じ込んでいることとは区別されるだろう.しかし,私たち医師は,パターナリズムを発揮しようとすればするほど,尊重されるべき意思と無視すべき不合理な決断を区別できなくなっていくのではないだろうか.


2016年12月21日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 3)


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


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Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



能力を評価する

 D氏は胸痛発症後ERに運びこまれ,Levineはその知らせを朝早くにすぐ受け取った.Levineは循環器科医として診察をしたうえで冠動脈造影をすすめたがD氏は拒否した.そこでLevineは治療チームに,患者には処置の同意を行うことができる国選弁護人の後見人がいるし,もし後見人に連絡がつかない場合は倫理委員会のコンサルトが必要になると伝えた.「患者は拒否するだけの意思決定能力がない」とLevineは私に言った.

 Levineは治療チームに一日中何回も電話をかけては進捗を聞いたが,後見人には午後2時に連絡がついたもののすぐに途切れ,ついぞ晩まで折り返しもなかった.治療の遅れは,処置に見合う利益が担保できなくなるということであり,D氏の意向を無視することを正当化できなくなるということである.しかし,利益が明らかで,見返りが大きく,患者の決定能力が欠如していて,ルールがすっきりしている典型例の場合は,暗黙の了解のもとに医師は患者の意向を無視すべきである.ということは,目の前の患者に意思決定能力があるかどうかを決断する際に,バイアスになりうるものが入り込む余地があるということだ.

 ミシガン大学の保健衛生法教授であるNicholas Bagleyが説明するように,意思決定能力の有無は,規則(赤信号では止まりなさい)ではなく基準(安全じゃないと思ったら止まりなさい)により評価される.だから私たちはこの評価を上手にすることができないのである.ある研究によると,入院患者302人のうち,治療について同意する能力が欠如している割合は40%であるのに,治療チームは25%程度であると過少に認識していた.「自分の基準を明確にせずに,患者の意思決定能力の欠如を云々するなんてとんでもない」とBagleyは語っている.

 私たち医師が患者の意思決定能力を誤って評価してしまう理由の一つは時間だ.適切な評価を行うのに20分もかけていられないことはざらにあるし,患者の意向を無視する長々とした手続きを踏むより,患者には治療拒否の意思決定能力があるとみなす方がずっと時間を短縮できる.しかし,患者の意向を無視して処置を行うことは,時間以上のものを消費してしまう.私たち自身をすり減らすのである.血色の良い精神病患者を鎮静抑制し望まない治療を無理やり行うのは,いくら医学的必要があるからとはいえ残忍さが残ることは避けられない.


2016年12月7日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 2)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


医師のバイアス

 私たち医師の対応が精神疾患患者の健康に与える影響についてのデータは限られているが,その中でも比較的研究が進んでいる現象として,diagnostic overshadowingが挙げられる.精神疾患の診断名という影が患者の訴えを尽く影で覆ってしまい,様々な身体症状の原因を精神疾患に帰してしまうことを指す.例えば,急性の疼痛を訴える患者の既往にうつや身体症状がある医師が気付くと,重篤な病気をあまり疑わなくなり,追加検査をあまりしなくなることを示した研究がある.

 解釈バイアスと関連情報とは,はっきりと区別できるものだろう.例えば,胸痛患者が急性冠症候群かどうかを判断する時に,うつの既往があってもその可能性が低くなるとは考えないが,長期にわたる身体症状の既往があれば可能性を下げることができるだろう.良くも悪くも臨床判断はつまるところ審理である.

 バイアスについて研究する別のアプローチとしては,精神疾患のある患者とない患者でガイドライン推奨の治療を行っている割合が異なるかを調べるという方法がある.そしてそれはどうやら異なるようである.がんスクリーニングや待機手術,血圧管理など様々な治療において乖離があることを種々の研究が示唆している.患者の好みやフォローアップ中断がその一因ではあるだろうが,それだけがすべてではないだろう.

 それだけにとどまらない.急性心筋梗塞での冠動脈造影や血管再開通療法といった,緊急時の一回こっきりのイベントであっても,その割合には格差がある.ここまでいってもなお,バイアスが原因であるとは言い切れない.重度精神疾患,とくに妄想症の患者は,医療にかかろうとするのが遅くなり,結果として早期に再開通をしていたら良かったということが起こるかもしれない.さらに言えば,抗凝固薬併用療法を遵守できそうにない患者に積極的にステント留置をする医者はいないだろう.くわえて,D氏のように,治療をすすめても拒否されることもあるだろう.問われるべきことは,患者が必要な治療を拒否するのを医師が受け入れる,それだけでバイアスが説明できるかどうかということだ.


2016年11月23日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 1)



最近のブログはもっぱらUnderserved populationについて
海外のarticleを翻訳して発信する,という内容になっています.


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


 Gail LevineはBoston's Brigham and Women's Hospitalの内科医であり,重度精神疾患の患者を熱心に診る医者である.初めて彼女と話した時に言われたことは,今でも心にぐさりと来る.当時,彼女は50歳代中頃の妄想型統合失調症の男性患者を受け持っており,私もその患者の治療にあたっていた.D氏は広範囲の心筋梗塞を発症し,少し前に入院となったのだが,血管再開通療法を拒否していた.全身状態はしばらく落ち着いていたのだが,ある日,呼吸困難を呈した.初期のタンポナーゼによる血行動態の破綻が見られた.D氏はからだに針を立てててほしくないとこれまで繰り返し主張していたので,心嚢穿刺を拒否するのではと心配していたが,Levineから電話がかかってきたのでほっと胸をなでおろした.

 私がこれまで重度精神疾患患者と交渉してきたその実績はあまり芳しいものではない.ついこの前,有症状の重度僧房弁閉鎖不全症がある比較的若年の統合失調症患者を担当していた時の話だ.手術適応例として申し分なかったが,私はその患者に血液検査すらさせてもらえなかった.手術なんてとんでもない.患者はいつもベッドに腰かけ,少し体を揺らしながら髪をとかしていた.質問しても答えることはなく,本当に気が向いた時しか検査に応じなかった.私はすぐに説得をあきらめてしまった.彼女ならではの理由があるはずだが,それを理解しようともしなかった.その代わり,患者に意思決定能力が欠落していることは明白だったため,裁判所任命の後見人を数か月かけてたてる手続きを始めることにした.これまで十分に苦しみぬいてきた患者の精神をさらにずたずたにしてもなお,我々は患者の心臓を救うべきなのか.私に課された決断は非常に困難なものだった.

D氏に関しては,そのような難しい決定を誰かに押し付ける時間的余裕はなかった.もしタンポナーゼに陥ったら,それが最期となってしまう.私はそんな結末を迎えたくないと思ったが,Levineは少し判然としない様であった.「知ってるでしょ.重度精神疾患の平均寿命は53歳だってこと.」これが判断を困らせる大きな理由の一つだ.医師は,精神疾患がある患者のQOLは完全に損なわれていると考える.患者の拒否を簡単に承諾するわけにはいかない


死亡率の格差

 ニューヨークの疫学者Benjamin Malzbergは1932年に,精神疾患がある人はない人と比べ,他の因子を調整した群どうしで比べても.寿命が平均して14-18年短いという研究結果を発表した.この死亡率の格差はいまも残存しており,下手すればもっと悪いことになっている.2006年のアメリカの研究では,その差は13-30年と推測される.さらにいえば,この格差は全世界に広がっている.事故や自殺といった「非自然的な」原因よりも,がんや心血管疾患といった医学的原因がこの格差に寄与している.最近になるまでこの不平等は無視され続けてきた.しかし,このような事態がまだ続いているのは単に注目されていないだけの問題ではない.明白なリスク因子の中には,すぐに解決できないものがある.重度精神疾患の患者は,喫煙,薬物乱用,運動不足といった特定の行動をとる割合が多いが,このことは慢性疾患のリスクを高める.このような病気を治療するには,しっかり薬を飲み行動を変える必要があるが,重度精神疾患患者にとっては時に困難である.精神疾患の中には,患者が自分の状況を理解できなくなるものもあり,その場合はヘルスリテラシーが低い場合や貧困にある場合と同じように,治療にしっかり乗ることができない可能性がある.このことは精神疾患患者にとりわけ強く影響を与える.最後に,精神症状の安定のために不可欠でありよく処方される薬剤の多くは肥満や糖尿病を引き起こすため,心血管疾患のリスクを高めることになってしまう

 上記の現実を目にすると,近い将来に死亡率の格差をなくすことなんて思いもよらないことである.しかし,Levineをはじめとした重度精神疾患患者の治療にあたっている医師の姿を見て,ふと疑問に思った.精神疾患患者は余命が短いと医師が思っていることも,本当に患者の余命を短くしているのではないか.つまり,精神疾患患者を医師がどう見ているかがこの死亡率の格差の一因となっているのではないか.もしそうだとしたら,医師は変わることができるのか.



2016年9月4日日曜日

Goal-oriented Careについて



The World Book of Family Medicine

WONCA Europeが2015年にpublishした家庭医療の資料集のようなもので
家庭医療のトピックスが100個まとめられています

全部で300ページのpdfなので,目を通すだけで一苦労ですが,
3割がた読み進めて,日常研修でやっていたことが
「なるほど,そうだったのか」と思い至ることも多く
これはずべてに目を通さなくてはという気になります.


たとえば,
J.D.Maeseneer “Family Medicine Facing New Challenges on a Global Scale”
には,このような内容が書かれています.

現在,人類の健康は2つの重大な難問に直面している.
①多疾患併存(multi-morbidity)
②健康の社会的格差

どちらも,日常診療でとても注意していたことであったので
まさに我が意を得たりという感じでした.

②健康の社会的格差に関しては,
以前ブログに書いた通り,Sir Michael MarmotのThe Health Gapをはじめとした
種々の文献で多く議論されており.
また,特に救急患者でよく出会う問題であるという認識です.

①multi-morbidityにつては,高齢者では切っても切れない問題であり
高齢者外来診療の大半はこれとの戦いです.


先ほどの記事では,こう続きます.

個々人が可能な限り最高の健康を得るためには
目標志向型ケア(goal-oriented care)が必要である.

goal-oriented careという用語に聞きなじみがなかったので,調べてみました.

N Engl J Med 2012; 366:777-779
が簡潔にまとめっていて非常にわかりやすかったです.

具体的に言うなら
高血圧診療に対して.
疾患志向型(disease-oriented)だと
降圧目標(140/90とか)が目標となることが多いです.
つまり,死亡率,検査所見,疾患特異的な症状をどうマネージメントするかを重視しており
単一疾患に罹患している場合に有用な手段となります.

一方, 目標志向型(goal-oriented)では
例えば,「起立時のふらつきによる転倒の恐怖を感じない」といった
「患者にとって重要なことはなにか」「それをどのように実現可能なものにするか」
が大事となります.

当然,個人の目標はそれぞれであり
家族と本人の目標が食い違う場合
目標が非現実的である場合
などでは,患者中心の医療でいうところの共通基盤の形成が不可欠になってきます.


外来で自然としていたことでも,
名前を与えられてその枠組みをしっかり学ぶことは
次の学びにつながります.


2016年8月12日金曜日

ミルク・アルカリ症候群



今週のNEJM Case Recordが,ミルク・アルカリ症候群についてでした.
Case 24-2016 — A 66-Year-Old Man with Malaise, Weakness, and Hypercalcemia

このブログでも以前取り扱っています


過剰検査に対する注意などもかかれており,非常に勉強になるので,ぜひ本文も読んでください.
ミルク・アルカリ症候群について簡単にまとめます.

現在ではカルシウム製剤やビタミンDが広く使われるようになったことで,発症が増えています.
2005年の研究では,高カルシウム血症の8.8%,重症の場合は25.7%を占めています.

サイアザイドはCa再吸収を促進するためリスク因子となります.
NSAIDsもリスクです.

高Ca血症に加え,急性腎障害,代謝性アルカローシスが起こります.
高Ca血症+急性腎障害なので,多発性骨髄腫との鑑別が問題となります.
そもそも高Ca自体が脱水→腎前性腎不全をきたすので,これだけでは決め手に欠ける印象ですね.




2016年4月6日水曜日

安定している狭心症


NEJMのレビューをまとめます。

Chronic Stable Angina
E. Magnus Ohman, M.B.
N Engl J Med 2016; 374:1167-1176


狭心症のポイントは「予後の評価」です。

・症状の重症度はCanadian Cardiovascular Society Grading Scale of Angina (CCSスケール)で評価する
Class 1:通常の身体活動では症状なし
Class 2:通常の身体活動がわずかに制限される
Class 3:通常の身体活動が著明に制限される
Class 4:僅かな身体活動でも症状が出現する

・リスクファクターを同定し介入することで予後を改善させることができる
喫煙、脂質異常症、高血圧、高血糖

・重大な冠動脈疾患のリスク因子は以下の通り
胸痛の正常、年齢、性別、喫煙状態、糖尿病・脂質異常症の存在・心電図変化

・first lineは負荷心電図

・診断したら、すぐにアスピリン投与開始
・血圧は120/85以下に
・スタチンも開始
・当然、生活指導も
・有症状時のニトロを渡しておく。3回飲んでも症状がおさまらなければ病院受診。

・脈拍60以下、血圧100/80以下は緊急処置が必要。
・安定時の治療はβブロッカー、Caチャネルブロッカー、長期間作動型硝酸薬となる。
・2剤以上組み合わせるのがよい。第一選択はβブロッカー
・ただし、RCTだとβブロッカー単剤より効果的に症状を減らす組み合わせはない
・副作用・禁忌は以下の通り

硝酸薬
頭痛、ほてり、低血圧、失神、起立性低血圧、反跳性頻脈、メトヘモグロビン血症
禁忌:閉塞性肥大型心筋症

βブロッカー
疲労、抑うつ、徐脈、房室ブロック、気管支攣縮、末梢血管収縮、起立性低血圧、勃起障害、低血糖症状がでにくい
禁忌:徐脈、心伝導障害、喘息、末梢血管障害 COPDには注意して処方

Caチャネルブロッカー
徐脈、房室ブロック、心機能低下、便秘、歯肉腫脹、頭痛、浮腫、紅潮、反跳性頻脈
禁忌:重度AS、閉塞性心筋症、徐脈、心機能低下


・カテで造影するかと、再開通するかは、別のものとして考える
・内服で十分に症状がコントロール的ないor副作用で続けられないなら、再開通を。
・患者全体の半数は再開通が適していることになる。


2016年1月26日火曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part4



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part4です。最終パートです。
Table 4には非常に有用なことが書かれてありますが、本文のみ訳したので原文を参照ください。





路上生活状態と統合失調症

Dr. Derri L. Shtasel: 患者はなぜ路上生活に陥ったのか。患者は統合失調症による発達上の問題を多く抱えている。統合失調症の診断がつくのはたいていの場合青年期後半や成人期前半なので、教育上、職業上、人間関係上の発達を阻害してしまう。中核症状‐幻覚、妄想、偏執、関心と意欲の消失、実行機能障害‐があると、大人としての生活に要求される事柄を行うのが難しくなる。結果として、成人の統合失調症患者は、この患者がそうであったように、無職あるいはパート勤務であり、社会的に孤立していて、家族との縁が切れていることが多い。とどのつまりが路上生活である。

 この患者にとって、4年間路上にいたことを考えれば、シェルターに入ったことは大きな一歩である。60年前であれば、このような患者はずっと入院することになっていたであろう。その頃と比べると、長期入院から地域社会に基づく治療システムへとの変革がなされ、外来でこのような患者に出会うことが多くなった。この変化に伴い、精神科急性期病院への入院は、従来のように疾患の重症度ではなく、どれだけ危険が迫っているかで判断されるようになった。そして入院治療では、緊急事態をいかに安定化させるかが重視されるようになった。この患者は、5年前の精神科入院で症状が改善したが、外来診療も来なくなり薬もやめてしまったことで疾患が再燃してしまった。どうして抗精神病薬を注視してしまったのかはわからないが、このような事態はよく起こる。統合失調症の薬剤治療が開発された当初は、これで治癒可能な病気になると思われたが、その希望は実現しなかった。そのかわり分かったことは、抗精神病薬はいくつかの症状を和らげるにすぎず、必ずしも機能を改善させるわけではなく、副作用を頻繁に起こすことであった。それゆえ、内服中断率は高値である。


包括的地域生活支援
 
 地域基盤型の治療が重症精神疾患患者においても望ましいのは明らかだが、ほとんどの外来型メンタルヘルスサービスの対象者は、複雑なシステムに従うことができ、信頼できるサポート資源と通院手段を有しており、予約を守ることができる者である。このようなサービスでは、このケースのような患者の役に立つことはまずない。治療やサービスを患者のもとに届けることが必要なのである。包括的地域生活支援は、診察室の外に出て多職種協同のチームが行うアウトリーチ活動であり、確立されたアプローチ法でまさに「患者のもとに届ける」支援を行う。包括的地域生活支援をこの患者にすぐに適応することはできなかったが、構成要素はいくつか活用した。マサチューセッツ州精神保健部門がもっている60床のシェルターにこの患者は入居した。そこでは新たな協同が実践されてきた。つまり、ソーシャルワーカー、看護師、精神科医、内科医、リハビリが、政府、大学、地域セクターの同じ専門家と手を取り合い、オンサイトのメンタルヘルスケア、プライマリケア、リカバリー志向型サービスのネットワークを発展させて、今回のような患者の多面的なニーズにこたえられるようにしてきた。統合されたモデルでは、多様な健康サービスをどのように届けるのかが重要であると考えるのだが、今回のような患者の役に立つような専門家によるメディカルホームを構築する動きの中で俄然注目を浴びている。



住居と回復
 現在のエビデンスは以下のことも示唆している:安心してずっといることのできる住居を保証することがこの患者のケアにとってコアとなる要素である。とくに「ハウジングファースト」という概念は、重篤な精神疾患のある人々が長期的に家に住むことができるように取り組んでいく際に重要となるであろう。従来のリニアハウジングという枠組みでは、まず対象者が一通りサービスを受けて、臨床的に安定してから個々の住居に移るという流れになる。一方、ハウジングファーストでは、まず個々の住居に入り、そこで利用可能な臨床的、社会的サービスを受けるという流れになる。この患者は抗精神病薬を服用しようとせず、正式な精神科ケアを受けようともしなかったが、ほぼ2年にわたりシェルターにいて次の支援を待つことができた。ここには、ハウジングファーストアプローチの特徴が色濃く表れている。

 回復(recovery)こそ、この患者に対するケア目標の中心として重視すべきだ。2003年にNew Freedom Commission on Mental Healthは回復を「変化の過程であり、それを通じて個々人が健康を増進し、自立し、可能性を最大にするために努力できるようになる」と定義している。回復の目標は、人々がスティグマ、無力感、絶望に陥らないようにすることである。これらは重篤な精神疾患につきものである。そして生きる目的を再構築し、希望を取り戻し、家族、友人、地域社会と再びつながることである。回復の枠組みに乗っ取って、今回のケースでは患者自身(サービス提供者ではないことに注意)が優先順位と目標を決めた(Table 4)。

 どうしてこの患者はよくなったのか。患者が高血圧エピソードのため入院した後、多くの機関(Table 3)のメンバーが協同して患者の内科的、精神的、社会的、個人的ニーズを把握し、一時的にシェルターにいる患者に直接サービスを提供した。内科的、精神科的に不確実な状態にいるのを良しとして、急がなくてはという思いと患者のペースや優先度とのバランスをとった。プライマリケア提供者は患者との関係性を最優先し、頻回な診療により信頼獲得に努め、なるべく患者が治療決定に携わるようにした。メンタルヘルスケアについては精神科医と緊密に連携をとった。皮肉なことに、患者が法的地位を再獲得し社会保障を受けられるようになるまでに時間がかかったことで、時間をぜいたくに使うことができた。患者は身分証も持っておらず、収入もなく、安心してずっと家に住む手段もなかったため、どこにも行くことができなかった。そのため時間をとることができ、実際のヘルスホームを構築した。そこでは住居、内科的、精神科、社会的の各種サービスがコミュニティアウトリーチやリハビリのチームと結びついている。患者はいま、地域社会ベースのグループホームで生活している。母親や子とふたたびつながり、路上生活を脱出してもう2年以上になる。


Dr. Nancy Lee Harris: この患者は、シェルターの入居者の代表的な姿であるか。この患者のように回復をするのは一握りか、それとも多くの患者が良くなっていき一人で生活するようになるのか。

Dr. Shtasel: 適切な治療とサポートにより、路上生活をしていた統合失調症患者の多くは安定して地域で暮らせるようになる。まさにこの患者が現在しているように。


最終診断

統合失調症、統合失調症にともなう認知障害、高血圧、路上生活



2016年1月17日日曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part3



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part3です。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


マネージメントについての議論

Dr. Travus P. Baggett:私がこの患者に初めて会ったのは当院入院1週間前である。何年も公共の場で寝泊まりし社会サービスを拒否してきたが、ついにアウトリーチワーカーとともに、私がBoston Health Care for the Homelss Program(BHCHP)の医師として週一回開いているプライマリケアクリニックのあるシェルターを訪れた。下腿浮腫を診るよう私に依頼があった。

初診での第一の目標は、患者の信頼を得て、シェルター訪問を公式な医療受診にしないことであった。バイタルサインは測定せず、包括的な身体診察はしなかった。その代わり、足浴をして足の爪を切った。この方法は、重症な精神疾患を有しているがケアを受け入れたがらないであろう患者に、怖がらせずに身体的接触を行う足がかりとなる。患者のメンタルヘルスや社会環境を覗く窓を提供するという点においても、明らかに必要なことである。患者の足指の爪は伸びており、巻爪となっていた。これは、精神疾患が慢性に進行し、自分の状態をあまり把握していないことを示唆している。足はびしょびしょであり、悪臭があり、白癬感染と一致する変化が広範囲にあった。靴や靴下をあまり脱いでいないことが示唆された。比較的若い女性に見られる静脈鬱滞性皮膚炎による下腿浮腫は、椅子に座って眠ったり長い時間公共のベンチで眠ったりする人で良くみられる。

 数日後、患者はシェルターに入ることとなり、そのあとすぐ高血圧エピソードのために当院に入院した。しかし患者は退院後の処方薬を受け取ることができなかった。グリーンカートをはじめとする証明証がなかったため、マサチューセッツメディケイドプログラムの対象外となってしまったからである。シェルターの多職種協同チームが協力して、患者の戸籍証明とグリーンカードを手に入れた。患者は相変わらず自分の精神疾患のことを分かっておらず、精神科治療は受けたがらなかったが、内科的プライマリケアは喜んで受診した。

 患者はそれから2年間で私のシェルターでのプライマリケア診療所を60回以上受診した。気にするのはたいてい身体症状のほうで、身体の左側のみに集中していた。症状は頭痛、胸痛、腹痛、上肢痛にくわえて、頭部浮遊感、嘔気、倦怠感もあった。このような訴えは支離滅裂であり、妄想の内容と認知のゆがみの影響を受けていることがよく見て取れた。患者は症状の原因を12年前の交通事故で額の左側を打ったためだと考えることが多かった。事故の日に他院で撮った頭部CTでは、軟部組織の血腫があったが、頭蓋骨骨折や急性頭蓋内合併症はなかった。その病院で頭部CTを何回かフォローしたが問題はなかった。

 外来で、患者の血圧をリシノプリルとヒドロクロロチアジドでコントロールすることにした。BHCHPとマサチューセッツ精神健康課の助成金で治療を行うことができた。頭痛が継続するため頭部MRIを撮像したが正常であった。神経内科にコンサルテーションを行い、片頭痛としてトピラメート内服を開始した。患者は神経精神科的検査を拒否した。HIV検査は陰性であった。TSHは正常であった。鉄とヘマトクリットは、月経過多に対する鉄剤補充療法により正常化した。セリアック病の血清学的検査は陰性であった。何とかパパにコロー検査を受けてもらい、結果は陰性であった。推奨されているワクチンは接種した。

 私は、診察のほとんどを患者の話を聞くことに費やし、ラポールを形成しナラティブを理解するよう気を配った。精神病の症状は強かったが、患者はそのことを問題だとあまり思っていなかった。読んでいるスピリチュアルの本の一節を私に見せながら、自分は統合失調症でないと訴えた。そこにはLily Tomlinからの引用があった:「神と話しているとそれは祈りなのに、神に話しかけられたら統合失調症だといわれる筋合いはない。」

 19回目の診察で、患者は初めて認知機能の症状で悩んでいると言った。記憶力低下と読字、計算、思考、集中の困難を症状として挙げた。このような症状をよくするために薬剤を使ってはどうかと提案したが、患者は断った。以降6か月にわたり、私ののんびりした外来を頻回に受診してもらいながら、内科的疾患について話し合うのと並行して、抗精神病薬を試してみないかと優しく繰り返し説明した。33回目の受診で、患者はオランザピンを少量から始めてみることに同意した。それから、患者のことをよく知っているBHCHPとこの病院の精神科医と協力して、彼女に薬剤を処方した、数か月かけて用量を徐々に増やしていくことで、幻覚や妄想といった陽性症状が徐々に改善していった。患者は徐々に施設外からきている精神科医の診察を受け入れるようになった。その精神科医は患者のことを前からよく知っていた。オランザピンによる体重増加と鎮静が見られたので、私はその精神科医とともに、治療薬をルナシドンに徐々に変更していった。患者は現在グループホームにおり、私の定期的なプライマリケアを今も受けている。


2016年1月6日水曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part2



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part2です。Table 2は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


鑑別診断

Dr. Oliver Freudenreich: 議論の参加者は全員このケースの診断を知っている。路上生活中のこの40歳女性は、未治療の精神病があり、重度の高血圧で救急部を受診した。この患者は精神疾患と内科疾患の双方を有しており、ワークアップと治療に優先順位をつけて最も可能性のある診断のリストを作成することが重要である。系統的かつ時系列での病歴が分からないので、ある程度診断が確定できなくても許容しなくてはいけない。


精神病

 この患者の精神病の原因となる鑑別診断を構築する際に、精神病が一次性か二次性かで区別すると良い(Table 2)。一次性精神病は精神疾患によるものである一方、二次性精神病は内科・外科疾患や物質使用によるものである。


二次性精神病

 二次性精神病で考慮すべき4つのメインカテゴリーは、譫妄、認知症、内科疾患(神経疾患を含む)、物質使用(アルコール、違法薬物、薬物によるトキシドローム)である。初期目標は、診断を早期閉鎖せずに患者の精神状態の原因となるものを同定することである。このタスクを管理可能なものにするために、臨床状況に応じて検査を提出し、致死的な精神病の原因(譫妄など)を除外し、治療可能な原因(甲状腺機能亢進症、ビタミンB12欠乏症など)と同定することに焦点を絞るべきである。検査は賢明に選択することが重要である。あまりに多い検査や誤った検査を提出すると、偽陽性、偽陰性が多くなるからである。救急の状況では検査をたくさん出す必要はないが、特に外来でのフォローアップが難しい場合では、急性期治療を行う際はあらゆる検査を考慮すべきである。

 全ての患者で以下の診察・検査を行う:バイタルサインの測定、身体診察、血糖値・血算・血球分画・電解質(カルシウム含む)、肝機能、腎機能を含む血液検査。腰椎穿刺、頭部画像検査、脳波検査はそれぞれ、脳炎、脳の構造的異常、てんかんを臨床的に疑う際に施行すべきである。治療的な状況はスクリーニングを考慮すべきであり、それには甲状腺疾患(TSH検査)、免疫・炎症疾患(赤沈、抗核抗体)、ビタミンB12欠乏症(ビタミンB12と葉酸)、感染症(HIV、神経梅毒など)などが含まれる。

 譫妄は精神病の約50%に伴っているが、このケースでは精神状況が急性でもなく変動も見られないため、譫妄の可能性は低い。患者の発症状況と病歴は神経変性疾患に合致しないが、患者にアパシーがあると考えると、以前の外傷性脳損傷は神経変性疾患と関連がある。重度の高血圧は精神病に伴う精神状況の変化の原因となりうるが、私は錯乱を伴う脳炎と他の末梢臓器障害があるのではと考える。高血圧に関連する別の懸念は脳梗塞であり、これも精神病の原因となりうるが、このケースでは頭部CTが正常で神経診察で巣症状がないため、この診断は可能性が低い。尿薬物スクリーニングは陰性だが、この検査が精神作用のある薬物乱用をすべては検出できない。ビタミンB12欠乏症は除外されたが、TSHの測定は依然として必要であり、神経梅毒とHIVの検査は強く考慮されるべきである。これらの状況は全て治療可能であり、精神病と関連しているからである。しかし、これらの検査結果が異常でなかったら、二次性精神病の可能性は低くなる。


一次性精神病

 精神疾患による精神病の診断を考える際は、統合失調症スペクトラム障害と精神病性気分障害に大別する。臨床的に重要な気分障害がないため、精神病性気分障害は否定的である。一方、患者は統合失調症に特徴的な症状を有している。患者の陽性症状としては妄想、幻聴、滅裂思考がある。患者は感覚鈍麻があり、これはコアとなる陰性症状である。他の陰性症状には、社会性の欠如と意欲低下が挙げられる。病勢が慢性であることも統合失調症に典型的であり、患者は社会的機能が乏しいように思われる。

 患者は自分の病状についての認識に欠けているが、それは統合失調症で良くみられることである、より高次の認知機能の問題を示唆することが多い。実際、統合失調症患者の85%で機能に関連する認知機能障害がみられており、特に運動記憶、言語記憶、実行機能に影響が見られる。このような状態は、統合失調症に関連する認知機能障害として知られているが、永続し、かつ抗精神病薬による治療に反応しない。

 統合失調症は除外診断だが、それにもかかわらず診断は観察可能な臨床的特徴と病歴に基づいている。この患者の受診時に手に入った情報に基づいて考えれば、可能性のある診断は統合失調症であり、おそらくそれが認知機能障害に関連した可能性が最も高く、もしかしたら以前の外傷性脳損傷により増悪したのかもしれない。もし患者の病勢がもっとエピソード的であり、気分障害の期間だけに精神病が見られたりした場合や、内科的疾患が症状をよりしっかり説明すると判明した場合は、付帯する情報とさらなる検査により、統合失調症の診断を見直すことになるかも知れない。

 患者は抗精神病薬と降圧薬の治療を受けるべきである。患者の木認知機能障害をより理解するためには、神経認知試験にくわえ、脳梗塞の既往や外傷性脳損傷による脳軟化症の所見を見つけるために頭部MRIを検査することを推奨する。統合失調症による認知機能低下が疑われるため、複雑な口頭指示は避けるべきである。この患者は理想的には、患者が信頼する人1人が継続的に外来でフォローして、これらの試験を受け治療反応をモニターするのを手助けすべきである。


Dr. Oliver Freudenreichの診断

統合失調症、統合失調症による認知機能低下の疑い、高血圧、路上生活状態



2015年12月31日木曜日

路上生活者の高血圧と精神病(NEJM Case40-2015) part1



2015年最後から2番目のNEJM Case Recordが
私の病院・活動のフィールドと非常に親和性が高いケースであったので
これはしっかり読み込まなくてはおもいます。
part1です。血液検査の結果は本文をご覧ください。

A 40-Year-Old Homeless Woman with Headache, Hypertension, and Psychosis


患者:40歳 路上生活中の女性
主訴:頭痛、高血圧、精神病

 精神病の既往のある40歳女性が、頭痛と高血圧のため路上生活者のシェルターから当院に入院した。

 入院1週間前、患者はシェルターに入ることとなった。それまで4年間は、公共の建物の中で寝泊まりしていた。その間、シェルターのアウトリーチワーカーによる援助を繰り返し拒否していた。屋外にいて人々を見守るのが神から与えられた使命であると患者は話していた。シェルターでの評価では、恰好が乱れていて話が支離滅裂であり、霊的な事柄ばかりを考えていた。自分の障害を、12年以上前に遭った自動車事故で脳が損傷したためだと考えていた。自分が精神科疾患にかかっているとは考えておらず、精神科的治療を拒否したが、シェルターに駐在しているプライマリケア医の診察を受けることには同意した。限られた身体診察では、白癬が広がっており、足に静脈鬱滞性皮膚炎があることが分かった。

 入院当日の朝、患者は昨夜からの強い頭痛を訴えた。看護師が許可の上でバイタルサインを測定すると、血圧が180/110mmHgであった。緊急医療サービスが要請され、再度測定すると、収縮期血圧が212mmHgであった。患者は救急車で当院救急部門まで搬送された。


 患者は“おかしい”感じがあると言い、前頭部の頭痛を時々訴えた。視覚症状、胸痛、腹痛、嘔気、嘔吐は訴えなかった。高血圧に加え12年以上前からの精神病の既往があり、身体性妄想、偏執性妄想、誇大妄想、滅裂思考、貧困なセルフケアといった特徴があった。今回の入院の5年前に精神病院への入院歴があった。入院中はオランザピンの服用で症状が若干改善していた。退院後は精神科ケアのフォローアップを受けず、オランザピンの服用も中断していた。今回の入院の4年前にヒドロクロロチアジドを服用していたが、最近はどの薬剤も服用していなかった。ニフェジピンのアレルギーがあり、動悸がおきるとのことであった。患者はカリブ海の国の出身で、だいぶ昔にアメリカ北東部に移住してきた。喫煙は時々あり、違法薬物を使ったことはないが、過去によくわからない物質を大腿に注射したことがあると申告した。家族歴は不明だった。


 診察を行った。患者は肥満かつ低栄養で、恰好が乱れ、多数の服を重ね着していた。血圧は208/118mmHgで、再度測定すると240/130mmHgであった。脈拍95bpm、体温36.4℃、呼吸数16/min、SpO2 90%(室内気)。上部胸骨右縁に収縮期雑音(grade 1/6)を聴取したが、心膜摩擦音やギャロップはなかった。両下肢膝以遠に2+の圧痕性浮腫があり、慢性の鬱滞と硬化による皮膚の変化があった。態度は快活かつ協力的で、視線を合わせ、異常な動きはなかった。発語は小声かつ早口であった。自分の気分は「良好」であると話し、見ためも気分良好で感覚鈍麻あった。思考過程は滅裂で、過度に宗教的かつ誇大な妄想が含まれていた。神や悪魔の声といった幻聴があり、神からのメッセージだと信じている「幻視」もあった。自殺・他殺の念慮はなく、自分の状況をよくわかっておらず、判断力に欠けていた。他の一般診察所見は正常であった。

 白血球数と分画、腎機能、凝固、尿検査は正常であった。電解質、カルシウム、リン、マグネシウム、血糖、トロポニンT、NT-proBNP、ビタミンB12、葉酸も正常であった。トロポニンI、尿hCG試験は陰性だった。他の結果はTable 1に示す。心電図、胸部X線、単純頭部CTは全て正常だった。ラベタロール静注とカプトプリル経口投与が開始され、血圧は187/111mmHgに下がった。患者は入院となった。


 ラベタロールとカプトプリルを増量し、アセトアミノフェン、ダルテパリン、硫酸第一鉄、オメプラゾール、葉酸、チアミン、マルチビタミンも投与した。血圧は左上肢141/65mmHg、右上肢141/62mmHgまで低下し、頭痛は徐々におさまった。尿薬物スクリーニングは陰性だった。患者はインフルエンザワクチンを拒否した。患者は入院3日目にシェルターに退院し、シェルター内で血圧モニタリングを受けることとなった。退院時の薬剤は、リシノプリル、チアミン、マルチビタミン、葉酸、オメプラゾール、硫酸第一鉄であった。診療所の外来で1週間後にフォローアップを受けるよう患者に促した。

 方針の決定がなされた。



2015年12月11日金曜日

甲状腺結節(NEJM Clinical Review)


今週のNEJM Clinical reviewが甲状腺結節についてでした。
偶発的に見つけることがままあるので、まとめてみます。

・触知可能な甲状腺結節は人口の4-7%にみられる。
・癌は結節の8-16%を占める。
・無症状の患者100人にエコーをすると、22人に単結節、45人に多結節がみられる。

・亜急性甲状腺炎や橋本病が腫瘤を形成することがある。
・ヘモクロマト―シスや癌転移などの浸潤性疾患や種々の良性腫瘍は甲状腺結節の稀な原因である。

・甲状腺がんのリスクファクターは以下の通り:家族歴、放射線曝露歴、既往歴、男性、原子力事故の近隣住民

・良性の場合は大きさが比較的変わらない。
・組織学的に良性と診断された甲状腺結節を5年間フォローすると、拡大傾向が15%、縮小傾向が19%。5例(0.3%)が悪性と判明した。

・まずは病歴。上記のリスクファクターを念頭に。
・急速進行は悪性を疑うが、良性結節・嚢胞の出血も。
・嗄声、嚥下困難、前頸部不快感はRED FLAG。
・甲状腺がん、乳がん、大腸がんの家族歴あり、皮膚や粘膜に過誤腫があれば、Cowden症候群かも。他にも家族性に甲状腺がんを来す症候群はある。
・触診では硬さ、位置、大きさを確認。リンパ節腫大も合わせて確認。

・TSHは全例測定しよう。TSH低値でhyperfunctioning noduleなら甲状腺機能亢進症として治療となる。
・カルシトニンを全例測定するのは推奨されていない。

・エコーも全例検査しよう。低エコー、辺縁不明瞭、高さ>幅、微小石灰化は悪性所見
・1cm以上でエコーで疑わしい場合、1.5cm以上でエコーで否定的でない場合、2cm以上の場合は細胞診を。
・細胞診の偽陰性は5-10%ある。3cm以上なら偽陽性率11.7%(3cm以下なら4.8%)。

・細胞診の結果と将来の発がんリスクは以下の通り。



・細胞診で良性所見かつ臨床的、エコー的に疑わしくない場合は1-2年ごとにエコーをフォロー。
・少しでも疑わしい所見があれば6-12か月ごとにエコーをフォロー。
・50%以上の体積増加あるいは2つの次元で2mm以上増大があれば再度針生検。



2015年12月6日日曜日

高齢者虐待 part3



NEJMの高齢者虐待のレビューです。
今回はpart3です。これで終わりです。
なお、Figureの訳は載せていません。


介入
高齢者介入についての特異的かつ明確な介入について大規模かつ質の高いランダム化比較研究はなく、この分野における決定的な知識ギャップを引き起こしている。しかし、この分野での数十年にわたる臨床経験と記述された最良の診療が、被害者と救う際の臨床家の手助けとなる。成功例であっても、一回の介入で虐待の被害者を窮地から迅速かつ確実に救い出せることはまずない。そうではなく、高齢者虐待に対する介入の成功例は、多職種が関わり、継続して、地域ベースで、資源を集約しているのが典型的である。医者はこのような介入の医学的要素に重要な役割を果たしているが、たいていの場合は、高齢者虐待自体に対し介入を始め、維持し、成功するのは、医師だけでは困難である。それ故、医師にとって最も重要な仕事は、高齢者虐待を認識、同定し、地域社会で利用可能な介入資源をよく理解し、これらの資源に患者を紹介したりともに協同してケアを行っていくことである。
Table 2に、高齢者虐待の事例に介入する際によく関係するサービスや機関とその役割を載せている。Figure 1は、虐待被害者が同定されたとき、あるいは疑わしいときに行う、包括的かつ多職種による介入アプローチの概要を示している。APSは、虐待が疑わしいときに必須の報告を受け取る連邦政府プログラムであり、事例調査の中心的存在である。49の州(ニューヨークを除く)は、虐待のケースを、たとえ疑い例でもAPS、警察、調整機関に報告する義務を、指定報告者(医師を含む)に法律で課している。報告を受けるとAPS職員は通常、懸念を確証したり打ち消したりするために、家庭を訪問し調査を行う。もし虐待だとわかったら介入措置が取られるが、それは被害者の状況に合致したものであり、地域資源や家族の資源や動きに高度に依拠したものである。医師は、APS職員が調査を進めるときに非常に有用な資源となりうる。
虐待の状況により必要な介入は様々である。精神科疾患のある加害者には強制的に精神科的治療が必要となるかもしれない。介護負担が重いために高齢者虐待となっている場合はレスパイトサービスや被介護者に対する在宅サービスが必要かもしれない。物質乱用に関連した高齢者虐待では、全く異なる介入が有効である。このような状況全てにおいて医師は重要な役割を有しており、虐待の存在がはっきりと証明されていなくても、身体的治療や在宅サービスを導入し、慢性疾患治療を最適化し、ケアを調整し、生活機能を高く保持するために注意を払うなどの高齢医学的サービスを始めることで、虐待の起きた状況を改善することができる。
認知症による認知機能低下(高齢者での機能障害の最も多い原因)は有病率が高いため、高齢者虐待では全例、被害者が意思決定能力を有しているか、避難的介入を受け入れることができるかを考慮することが肝要である。このような意思決定能力の評価には、決定権のある州の法的機関だけでなく当人の障害の程度にもよるが、精神科医や高齢医学の臨床家が大抵は必要となる。それは、APSチームと一員としてのこともあるし、私的な依頼を受けてのこともある。患者が介入を拒否したり意思決定能力を欠いたりしている場合は、後見人などの法的介入が必要になることが多い。そのような場合、医師は身体診察と病歴から意思決定能力の有無を示す証拠を提出することが役割であり、時には、加害の被疑者が後見人にならないように手続きに参加することもある。
高齢者虐待は様相が複雑なため、最も幸先のある対応策は多職種協同チームの発展である。多職種連携チームとも呼ばれる多職種協同チームは、医師、ソーシャルワーカー、警察、代理人、他の地域社会の参加者が協同して動くものであり、被害者を救うための最も実践的なアプローチであるとのエビデンスがある。多職種協同チームは、地域社会での複雑なケースについて議論し、効果的な反応を呼び起こすために、コーディネーター(大抵はソーシャルワーカーや看護師が担う)が旗振り役となって定期的に会合を開く。行動プランが立ち、個々のメンバーが特定の仕事に割り振られ、フォローアップの時間枠が明確に定められる。(分野を超えたチームの会合の模擬映像はhttp://nyceac.com/clinical-services/mdtsで観ることができる。) データによると、分野を超えたチームはメンバー間で効率、協同、専門的サポートを高め合う。
多くの医師にとって、地域社会での高齢者虐待に対応する公的な多職種協同チームを抱えるのは無理がある。しかし、いくつかの必要な機関(APSを含む)と専門家がいることで、そのようなチームを作り上げることができる。医師はこれらの関係性を熟成させて、高齢者虐待の被害者を救い、地域社会での多職種協同チームを発展させることができる。まさしく、地域社会で多職種協同チームを構築するための触媒となることこそが、高齢者虐待に関して医師ができる最大の貢献である。多職種協同チームの構築に関する詳細なガイダンスは、高齢者虐待ナショナルセンターのサイトからダウンロードできる(http://ncea.aoa.gov/stop_Abuse/Teams/index.aspx#traditional)。

長期ケア施設における高齢者虐待
施設で高齢者虐待が起こっているという懸念が最初に世間に広まったのは1970年代であった。そのころは、施設はあまり管理されておらず、見逃しもあった。1987年の連邦予算削減一括法で、施設入居者の評価とケアを標準化する枠組みを連邦政府が策定したことで、施設での高齢者虐待の発見と報告が多くなった。このような状況で虐待が多くなるという科学的研究はないが、利用可能な観察研究、臨床研究のエビデンスによると、スタッフが利用者を不適切に扱うことは、医師が関心を抱くくらいには多い。利用者間での暴力は、身体的、言語的、性的のいずれでも非常に多いことが研究で指摘されている。利用者間の暴力によって生じる臨床的に重要な創傷を発見するために、利用者を診察、治療する際に、このような可能性に留意するべきである。
虐待の原因が何であろうと、医師は虐待を受けた利用者に出会うことがある。プライマリケア医として施設で出会うこともあるし、患者が救急受診した際に相談されることもあるだろう。施設での虐待の疑いを報告し調査するための報告機関が各州にはあり、それに従って医師は自らの懸念を報告しなければいけない。高齢者虐待のナショナルセンターでは、このような目的のために報告用の電話番号や各州のオンブズマン機関の住所をウエブサイトに掲載している(http://ncea.acl.gov/Stop_Abuse/Get_Help/State/index.aspx)

結論
高齢者虐待の被害者は孤立する傾向にあるので、途切れ途切れであったり回数が少なかったりしても医師が虐待被害者と関わることは、高齢者虐待を認識し、介入したり被害者を適切なケア提供者へ紹介したりする決定的に重要な機会となりうる。また、高齢者虐待の多様な表出と多職種協同チームのアプローチの重要性について理解を深めるにつれ、このような公衆衛生上の主要な問題を扱う際に医師が果たす重要な役割が何かが浮かび上がってくる。研究と臨床経験の両方が、医師一人だけでは高齢者虐待の治療を成功させることは、もしできたとしてもめったにないことを示唆している。なので、医療の専門家としては、理想的には多職種協同チームによるアプローチの文脈において、ソーシャルワーカー、警察、保護サービスなどの多分野の専門家と共同して対応をしなくてはならない。


2015年11月27日金曜日

高齢者虐待part 2


NEJMに高齢者虐待のレビューが載っていました。
社会的トピックはあまり勉強する機会がないのでしっかり読まなければ。
というわけで全訳してみます。part 2をどうぞ!


Elder Abuse
Mark S. Lachs, M.D., M.P.H., and Karl A. Pillemer, Ph.D.
N Engl J Med 2015; 373:1947-1956


臨床的評価
・同定とスクリーニング
 医師は、高齢者虐待の評価と治療に慣れておらず、不快にさえ感じるかもしれない。そこには難題が待ち構えているからだ。第1には、被害者は状況を隠したり、認知機能障害により状況をはっきりと伝えることができなかったりする。第2には、高齢者の慢性疾患は多くの症状を起こすため、評価の際に偽陰性所見(骨粗鬆症のためと間違われた骨折)と偽陽性所見(身体的虐待のためだと間違われた特発的な皮下出血)のどちらも起こってしまう。これ以外にも種々の理由により、高齢者虐待とネグレクトのスクリーニングはUSPSTFでは推奨されていない。第3には、文化的言語的障壁により虐待の事実が隠されてしまうことがある。第4には、虐待が起きていると確定できるまでに数週間ないし数カ月かかることがあり、医師は虐待と確定する前に介入することが時に求められる。このような戦略が医学的なマネジメントではあまり典型的ではない。これらの複雑な要因により、Table 1に挙げた所見のうちどれか一つでもあれば、患者を含む多職種による徹底した評価を行うべきである。

・評価戦略
 高齢者虐待の被害者ないしは加害者であると疑われる者には、1人ずつ面接を行うべきである。理由は2つあり、家族や介護者が加害者である可能性があるというのと、他者がいると被害者が気恥ずかしさや罪の意識を感じて不適切な扱いを明らかにしようとしなくなりうるということである。加えて、別々に面接をすることで、身体所見に対する患者の説明と家族・介護者の説明(受傷機転など)が食い違うことがあきらかになり、虐待の疑いを強めることができる。被害者であると疑われる場合は、あまり怯えさせないように、最初のうちは直接的でない質問(家ではほっとしますか、家計を管理しているのはあなた以外の人ですか、など)を用いる。もし必要なら直接的な質問を行うが、その時は家庭内暴力の調査に準じて行い、以下のような質問をする。「家にいる誰かがあなたを傷つけますか。」「助けを必要とするときに助けを得られないことがありますか。」認知症は高齢者虐待のリスクを上昇させるのに加え、うつは高齢者では非常によくあることなので、虐待の評価の際は認知機能と気分についてしっかりと評価を行うことが不可欠である。これはプライマリケア医が行うこともあるし、精神科医、神経専門医、高齢医学の臨床家が行うこともある。
 加害者であると疑われる者の面接はこの分野に精通しているものが行うのが最良である。強く言い立てたり対立したりすると、虐待がエスカレートしたり被害者の可能性がある者が孤立したりしかねない。関連する事実が全て明らかになるまでは、医師は共感を示し価値判断を避けるアプローチをとるのがよい。患者のカルテを詳細に見返すことで、その時は見過ごされていたが後から振り返ればわかる高齢者虐待のサインを見つけることができるかもしれない。虐待が疑われる場合は、家庭訪問をするのが理想的である。医師が全例家庭訪問をするのは難しいかもしれないので、多職種が協力して被害者と介入方法の両方を評価するのが不可欠である。成人保護サービス(APS)に問い合わせると、多くは家庭訪問に繋がり、医師に事例についてさらに詳細な報告を届けることができる。
 評価戦略は、疑われる虐待の種類により異なりうる。虐待の5つのタイプの典型像と、それを疑ったときに有用な評価方法については、Table 1に示している。身体的虐待の場合は、高齢者虐待により生じたと明らかに診断できる外傷というのはなく、これは小児虐待でも同様である。法医学的研究では身体的虐待でおこるパターンがいくつか記述されており(例:高齢の虐待被害者は、虐待と関係ない高齢外傷患者と比べ、あざが顔、右腕の側面、背部・胸部・腰・臀部を含む体幹後面にできやすい)、これらの所見は臨床家が虐待の可能性をまず疑うのに有用だが、他の関連する臨床的所見や病歴をとらずにこれらの所見だけで虐待だと診断することは、医学的目的、法的目的のいずれにおいても、厳に慎むべきである。
 精神的・言語的虐待は、他の虐待の存在を意味することがあり、臨床家やスタッフが発見しうる唯一の状態となりうる。精神的・言語的虐待は、臨床像がうつや不安症をはじめとする精神的苦痛であるため、通常は投薬や精神療法の対象となるが、虐待の背景に気づきそこをどうにかしないことにはどうにもならない。
 高齢者に対するネグレクトと経済的搾取には多くの共通点があり、臨床家がその虐待を発見し評価する際のポイントとなる。身体的虐待の徴候と症状は直接観察できることが多いが、経済的搾取とネグレクトの所見は比較的わかりづらい(例:予約や処方を守れない、体重が減った、良好にコントロールされているはずの疾患で救急受診を頻回に行う)。介護者の経済状況が良い方向、悪い方向のどちらにせよ突然変わった場合(例:突然の失職、奢侈品の購入)、経済的搾取の危険があるか、既に搾取が始まっていると疑う必要があるのかもしれない。ネグレクトの場合は、ADLなどの基準に沿った機能評価を行う際に、介護者など責任のある者が患者に必要なケアを怠っていないか質問するべきである。最近の研究によると、経済的搾取は虐待の中で最も多く、気づいた時には資産がかなり減っていることが多いため、迅速な発見と介入が不可欠である。


2015年11月24日火曜日

高齢者虐待 part1



NEJMに高齢者虐待のレビューが載っていました。
社会的トピックはあまり勉強する機会がないのでしっかり読まなければ。
というわけで全訳してみます。まずはpart 1をどうぞ!


Elder Abuse
Mark S. Lachs, M.D., M.P.H., and Karl A. Pillemer, Ph.D.
N Engl J Med 2015; 373:1947-1956


 おそらくその前から起こっていたことではあるが、高齢者虐待が医学論文に最初に記載されたのは1970年代のことである。臨床的に幅の広いこの現象を分類し、効果的な介入方法を策定する試みがまずはなされたが、問題の逸話的性質を扱うのに難渋したり、疫学的に欠陥が多かったりした。しかし、ここ10年間で、高齢者虐待に関する研究の質が向上した。これは高齢者やその家族をケアする臨床科にとって福音である。高齢者に対する金銭的搾取は、初期にはほとんど追究されてこなかったが、最近では、よくみられる問題であり、注意深い医師なら見つけ出すことができるものとされている。
 長期ケアに関する研究では、高齢者に対する個人間の暴力や攻撃が高い割合で存在することが明らかになってきた。特に、長期ケア施設では、他の利用者からの虐待が職員からの虐待より頻度が多いことが分かっている。専攻や分野を超えたチームは、高齢者虐待の文脈では多職種チームと呼ばれることもあり、高齢者虐待の被害者が抱えている複雑かつ多次元のニーズや問題に対処するための介入戦略として脚光を浴びている。そのようなチームは医師にとって重要な資源である。このような新しい展開により、高齢者虐待の被害者を評価、治療し、さらなるケアにつなげることも医師の役割であると考えられるようになっている。
 本稿では、質の高い研究や最近のシステマチック研究を分析したり文献をレビューしたりすることで得られた、高齢者虐待の程度、評価、マネジメントに関する研究内容と臨床的エビデンスを要約する。

定義と有病率の推定
 高齢者虐待をどのように定義しどのような行動を定義に含めるかについての議論は、このトピックの研究の初期段階では進捗を阻害するものであった。最初の定義はあまりに広範にわたり、家庭内虐待の定義に典型的には合致しないタイプの行動(知人でない者による犯罪、年齢差別、セルフネグレクトなど)についても含めていた。しかし、この10年間で、高齢者虐待は5つに大別できるという共通認識が得られてきた。1. 身体的虐待:身体的に痛みや傷を与えようとして行われる行為、2. 精神的・言語的虐待:感情的に痛みや傷を与えようとして行われる行為、3. 性的虐待:同意のないあらゆる種類の性的接触、4. 金銭的搾取:高齢者のお金や資産を不適切に扱うことを含む、5. ネグレクト:ケアを行う責任のある者が高齢者に必要なことを行わない。(Table 1)
 以上の虐待のタイプを合算すると、どの疫学調査が報告した高齢者虐待の年間発生率も大体同じになる。これは地域に住む60歳以上の高齢者に関する質の高い疫学研究を3つ挙げることでもわかる。ニューヨークで4000人以上の高齢者を調査した研究では、高齢者虐待の割合は7.6%であった。Laumannらによる全国調査では、割合は9%であり、Aciernoらの全国電話調査では、10%である。これらの数字は過小評価の可能性がある。というのも、調査参加可能者からの自己申告による情報には、認知症患者が除外されており、認知症がある高齢者は不適切な扱いを受けるリスクが上昇するとの報告があるからである。入手可能なエビデンスを考慮に入れると、すべての高齢者虐待の割合は約10%であると推定すべきである。以上から明らかなように、高齢者をケアする多忙な医者は、気づくか否かに関わらずこのような虐待の被害者に頻繁に出会うのである。

リスクファクター
 殆どの研究が、男性より女性の方が高齢者虐待の被害を受けやすいと報告している。また、比較的若い高齢者で、より虐待(感情的、身体的、経済的虐待とネグレクト)のリスクが高くなる。考えられる理由としては、「若年高齢者」は配偶者や成人した子どもと同居していることが多く、この2群は虐待者となりやすいというのが挙げられる。生活環境を共有していることは高齢者虐待の主要なリスクファクターである。
 認知症は文献上も経済的搾取のリスクファクターであるが、これを除けば虐待のリスクを挙げる特定の疾患は同定されていない。しかし、一般的には機能障害と身体的健康問題は、原因の如何に関わらず高齢者虐待のリスクを上げることが首尾一貫して示されている。虐待の加害者となってしまう臨床的リスクファクターについてはほとんど知られていない。利用できるかぎられたエビデンスに基づくと、成人した子供や配偶者が最も加害者になりやすい。他には、男性、過去ないし現在の薬物乱用歴がある、精神的または身体的健康問題がある、警察沙汰になったことがある、社会的に孤立している、働いていないか経済的問題がある、大きいストレスに直面している場合もリスクである。

後遺症
 高齢者虐待は、明らかな外傷から被害者が感じるであろう痛みまで、多岐にわたる後遺症を招く。高齢者虐待の被害者は、罹患している慢性疾患について調整してもなお、死亡リスクが高くなることが示されている。高齢者虐待が起こる場所は施設や病院がとても多い。虐待の精神的影響にはうつや不安症などの悪いアウトカムがあるが、これらは文献上も明らかである。