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2019年4月5日金曜日

社会的排除と社会的包摂


健康の社会的決定要因について学習を進めると

貧困に関する理論の変遷の歴史の中に突如「社会的排除」あるいは「社会的包摂」という概念が登場してきたことが分かります.

いままで字面だけ見て何となく理解した気になっていたので,
ちゃんと勉強しようと思いこの本を読みました.





戦後フランスにおける政治的主張に端を発し,EC/EUに持ち込まれた概念なのですね.
道理で突然登場するわけです.

社会的排除は貧困の一形態ととらえるべきか否かなど,これまでの国際的な議論を基に,筆者がわかりやすく自分の立ち位置を提示しており,いちいち納得しました.

社会学の概念を知ることで,日常診療に奥行きがでる,という体感は確かにあり,
目の前の患者で起こっていることを少しでも理解するためには,このような人文科学に立脚した知識,社会で起こっていることを直視したうえでそれをどのように乗り越えるかという議論は大事だと思うのです.

というわけで,しばらくこの分野については集中的に勉強しようと思います.
日本語の文献があるのはいいですね.さすがに英語では読む気が起こらないです.


2019年3月4日月曜日

プライマリケアにおける診断(part last)



Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


結論:患者中心は割に合う!

 患者中心が良質な家庭医療に不可欠な特徴であるとの主張は説得力があり,特にWcWhinney,Stewartとその同僚の言説がとりわけ有名である.(32,33)しかし,患者中心が人口に膾炙しているとは言えず,傾聴の欠如は医師の行動に対する批判の的として最もよくある部類のものだ.(34-36)効果的な関係性を構築することと診断を下すこととはお互い無関係のスキルだと思われがちであるが,この2つのタスクは相乗的なものであると強調したい.効果的な診断を患者との協働なしに達成するのは非常に困難である.診断的探究が行われるたびに,臨床上の問題空間内で新たな協働的適応が起こる.自らの利益となり,最終的に時間の節約にもなることが分かれば,プライマリケア医はみな問題探究の早期に患者を巻き込むようになるはずであり,このような診断戦略が私と同僚が帰納的渉猟と呼ぶものである.如何に医師が診断にたどり着くのかについての以上の説明は,プライマリケア診療に活気を与える以下のキーメッセージとして要約できる(表1).


表1:プライマリケアでの診断プロセスに関するキーメッセージ

・総合診療医のセッティングでは,存在しうる問題(診断)の問題空間はほぼ無限である.
・最近の研究が示唆する通り,すでに確立した描写やモデルは医師が診断にたどり着くために行っていることを十分に反映していない.
・帰納的渉猟と誘発されるルーチンによる問題空間の探索は,総合診療医のセッティングに適合可能な診断戦略として提唱されている.
・患者は上記の協働的プロセスにおいて中心的役割を担っている.

2019年2月25日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 6)



Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


患者の参加を必要とする適応戦略

 特定の徴候が仮に複数なかったとしても,関連疾患が十分除外できるわけではなく,そのためには問題空間を帰納的かつ協働的に徹底して探索するしかない(図2).そのためには,堂々といつもと違うことや心配していることを全て話すだけの十分な時間と動機が患者にあることが不可欠となる.威圧的な環境で業務を行っていたり,帰納的渉猟の段階で患者の話をあまりに早く遮ったりする医者には望みが薄い.導入で述べた薬剤誘発性頭痛の例が示す通り,そのような医師は,症状を説明できるあらゆる仮説の想起と関連情報の収集を全て独力で行わなくてならないため,重要な所見や仮説をどうしても見逃してしまう.以上より,診断プロセスの正確性は医師患者関係の質に大きく左右される.本稿でのべた最初の病歴聴取と診察のアプローチは,画像検査や侵襲的検査などにおけるshared decision makingにも活用できる可能性がある.(27)

 人間は自らの認知戦略を置かれている環境や手を付けている業務に適応させるものである.Elsteinらの独創性に富む研究(17)に参加した医師は,演者が演じた症例や紙上にかかれていた症例には明確な正解があるものと考えていたに違いない.医師が実際に直面する課題はそうではなく,その問題空間は潜在的には無限に広い(上記の通り)ものであり,患者の所見も多様かつ曖昧で医学的に説明がつかないことが多い.(16)問題空間が十分狭くなったものの関連情報がまだ見つかっていない段階になってはじめて,医師は戦略を仮説演繹法に切り替える.

 上述の現象学は,医学的診断に関連する他のプロセス(直感(25),経験則(29),パターン認識(30,31)など)を除外するものではない.パターン認識はたしかに一般的かつ適切なものであり,医師が適切な症状や徴候をすべて把握しているときに有効に働く.帰納的渉猟は不適当な結論に勇んでたどり着いてしまうことを防ぐことができる.(16)
患者と医師が協働して問題空間を探索するというのが,プライマリケアの診断プロセスの現象学を描写するのに最も適当である(図3に関連する戦略並びに陥りかねないピットフォールを示す).この協働的探索モデルは,すでに定式化された理論,特に閾値モデルと仮説演繹モデルに対しての批判に応えるものである.関連データの大半はプライマリケアから採られたものであるが,複数の疾患が関心の対象となる臨床セッティングであればいかなる場合でもこのモデルは適応可能であると信ずる.



2019年2月18日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 5)



Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


診断の仮説演繹モデル

 仮説演繹モデルは,医学における診断推論理論として今なお優勢を保っている.(17)このモデルによると,患者と出会った初期の段階で,医師は可能性のある説明(仮説)をいくつか思いつく.これらの仮説に従い,確定または除外のための追加の情報収集が行われる.提唱された当時に革命をもたらしたこのモデルは,病院勤務医が標準的な模擬患者の評価の際に行った自らの推論を省察する様子(思考発話)を観察することで得られた.(17)しかしこのセッティングでは実際のプライマリケアで患者を診察するのとくらべて特定の仮説の想起が起こりやすくなる.というのもプライマリケアでは患者の症状を医学生物学的枠組みの範疇で十分説明できないことが多いのである.(18)


確証バイアスか,それとも合理的反証戦略か

 臨床推論の過ちに関する文献では,確証バイアスが診断エラーの発生源として言及されていることが多い.(19,20)医師がこのバイアスの影響を受けると,自分が抱いている仮説を確かなものとする情報のみを探し集め,矛盾する所見を無視してしまうことになる.しかし,広大な問題領域を探索しなければいけない場合には,疾患の存在を示す証拠に注目するという通常なら批判される行為こそが理に適った戦略になる.

 上述の通り,重篤な病態は除外可能であるという仮定からプライマリケアの診断は始まる.診療の間,この仮定をもとに,特定の疾患を示唆する所見を探す形でcritical testが行われ,もし所見があればさらに追及をしていく.言い換えれば,明らかに医師は反証戦略を用いて,問題空間を上述の通り探索する.この早期段階では,陰性所見の確認に労力を使うことはない.陰性所見がもたらす情報はあまりないからである.ゆえに,疾患の有病割合が低い間は,医師が疾患の存在を示唆する所見(陽性所見)を探求するのは至極尤もなことである.(21,22)特定の疾患の存在を指し示す所見が積み重なり,その疾患の可能性が高くなってからでなければ,陰性所見は意味をなさない.

 このプロセスにおいて,医師は病理的異常による所見(症状,徴候,検査異常など)や特定の疾患が起こる頻度は50%よりずっと少ないという事実を活用する.(23)疾患が存在しないという当初の仮説に反して,医師は特定の疾患を示唆する所見を求めて問題空間を探索する.特異度の高い診断基準がこの段階でとりわけ有用であることは明らかである.もしそのような診断基準が満たされていれば,その疾患が存在する可能性が高いということになる.このような基準が存在するからといって,他の特定の疾患にも特異的であるということにはならない.プライマリケア医は数多ある疾患を(例えば「厄介でよくわからないウイルス」というように)グループ化して扱いやすくしている.(24)所見があることでさらに探求を深める価値のある領域が分かるなら,その所見は有用である.気道感染症の患者が呼吸困難感の症状を訴えれば,良性で自然と改善する疾患という当初の想定を翻して,新たな探求が引き起こされる.こうして狭まった問題空間には,肺炎,閉塞性肺疾患,鬱血性心不全などが含まれるであろう.「レッドフラッグ」の概念は,特定の仮説を必ずしも念頭に置かずに問題空間を探索するというこれまで述べた考え方に近い.何かがあわない,何かがおかしいという奇妙な感覚も同様に助けとなることがある.(25,26)



2019年2月11日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 4)



Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


空間を探索する

 実際の医師の営為,特に患者診察の初期段階での営為を描写するには,新しいやり方が必要である.そこで私は,医師はこの広大な問題空間をまず探索し,患者はそこで中心的役割を果たしているという考えを提唱する.


帰納的渉猟,そして誘発されるルーチン

 282のプライマリケア診療と163の診断エピソードの分析により,帰納的渉猟(inductive foraging)と呼ばれるプロセスが明らかとなり,これは特異的な仮説の生成に先行することが示されている.(5,16)このプロセスは,最初に患者に自分の問題を語るよう促すというものである.多くの場合,この語りは次いで主訴として記録されるものとは大きく異なる.患者が同時に語るものは,付随症状や機能的関連,そして多くの場合自分なりの説明や懸念である.もし患者が邪魔を受けず語り続けることができれば,患者は症状や問題を自分が知覚した通りに医師に伝え,問題空間の探索を誘導することになる.

 いくつか例を挙げる.倦怠感と抑鬱のある63歳男性が,最近シャツのボタンがかけにくいと語ることで,早期のパーキンソン病のヒントを提供する.67歳の退職した配管工がここ最近よくせき込むと話す.呼吸機能検査を行うべきか考えているときに,患者が現在地域のブラスバンドでチューバを演奏していると以前話していたことをなんとか思い出し,患者の呼吸機能は問題ないだろうと安心する.

 無限と言ってよい問題空間の中で,医師が直截的かつ多くの場合クローズドな質問で探索を行うということは,総合医のセッティングではまず現実的でない.一度患者の話の腰を折ってしまうと,患者は多くの場合受動モードに切り替わり,医師が思いつく範囲内の問題に関する質問だけに答えるようになってしまう.明らかに,このような早期閉鎖が起こると重要かつ思いがけない問題点が失われてしまう.どんな顛末を迎えるかは,導入で述べた薬剤誘発性頭痛の事例をみれば瞭然である.あの若い医師が薬剤の有害事象という仮説に自分の力でたどり着くとはあまり思えない.何とかたどり着くとしたら,冗長な質問を重ねあれこれ悩んだ挙句だろう.患者に病像を話すのに十分な時間を最初に確保し,積極的傾聴により患者の話を促すことは,患者にやさしいというだけでなく,診断を豊かにし診察の有効性を高めることにもつながる.

 患者の助けを得て問題空間が確定された後に,医師はその限られた領域を直截的な質問によって探索する.しかしこの探索は特定の仮説に従うものではなく,誘発されるルーチン(a triggered routine)と呼ばれる(図2).例えば,嘔吐したという患者に腹痛と便通について尋ねる.冒頭の若い医師が患者に頭痛の性状を訊くのもこの一例である.帰納的渉猟と誘発されるルーチンに,明確な仮説は必要でない.仮説をあまりに早期に検証するのは,重要な情報が失われるかもしれず,ともすれば有害ですらある.私たちが以前行った研究(5)によると,上述の探索戦略により十分な情報が得られるため,特定の診断仮説の評価が必要な診療は全体の半数に満たなかった.この半数以下の事例においてのみ,プライマリケア医は,Elsteinらの独創性に富む研究(17)に端を発する仮説演繹モデルが提唱するような特定の診断仮説を念頭に置いた追加データの収集を行う必要があった.



2019年2月4日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 3)



Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


臨床上の問題空間の環境特性

 閾値アプローチは,臨床上の問題空間(clinical problem space)が境界明確かつ大部分が特定可能な疾患により満たされていると仮定している.しかし,この仮定はプライマリケアでは当てはまらない.そこでは問題空間はほぼ無限であり,そして大部分は未分化なままである.そして重篤かつ特異的な疾患の占める割合は低い.(9)たとえば,胸痛を訴える患者においてでさえも,急性冠症状群の割合はわずか1.5-3.5%である.(10)同様に,腹痛のうち新生物によるものは僅か1%だけである.(11)肺塞栓症や解離性大動脈瘤といった他の多くの致死的病態は,プライマリケアのレベルでは定量化すらできないほど稀である.(12)このような疾患の確からしさを診断閾値に設定すると不合理なまでに低くなってしまう.言い換えれば,閾値モデルをそのまま適応すると,診察の端からほとんどの重篤な疾患が除外されてしまう!

 エビデンスに基づく医療において有名な教義に,疾患を除外するには感度が高い検査が良い(省略してsn-outと覚えられている)というのがある.(13)しかし,有病割合が低い状況では,検査後にその疾患がある確からしさ,つまり疾患の陰性的中率は変わらず低いままである.感度が高い検査ですら,この低い割合を変化させるのに有用ではない.例えば,プライマリケアにおいて胸痛を訴えて来院する患者に急性冠症候群がある割合は約2.5%である,(11)もし患者が十分若く(女性で65歳未満,男性で55歳未満),胸部の圧迫感や絞扼感がなければ,確からしさは0.26%に低下する.しかし,既知の冠動脈疾患や緊急往診の依頼といった陽性所見があれば,確からしさは臨床的意義のある42%まで上昇し,診断敷地を上回る.(14)言い換えれば,有病割合が低ければ,感度が高い検査でもほとんど情報をもたらさないことが多い.(15)

 上記の状況は,閾値モデルが内在している仮定,つまり診断プロセスの開始時点で疾患の確からしさは診断閾値と治療閾値の間にあるという仮定にそぐわない.では,プライマリケア医はいかにして最初から確からしさが診断閾値を上回っている疾患にたどり着いているというのであろうか.

 医師は数多くの重篤になりうる病態を除外しなくてはいけないため,この難題は非常に厄介である.さらに,プライマリケアでは漠然とした症状が多く,異なる説明が複数可能である一方でそれぞれの蓋然性は非常に低い.最後に,臨床的に重要な健康問題の多くは従来通りの疾患カテゴリーでは捉えられない.



2019年1月28日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 2)


Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


臨床上の意思決定に対する閾値アプロ―チ

 1980年,PaukerとKassirer(1)は診断の閾値モデルを提唱した.このモデルでは,医師がある疾患を想定しているときに取る行動は2つの閾値に依拠していると仮定する.つまり治療(あるいは検査,治療)閾値と診断(あるいは検査)閾値である(図1).疾患の確からしさが治療閾値を超えれば,医師は診断プロセスを終了し行動に移る.この行動は治療のこともあれば,状況に応じて他の手段(紹介など)になることもある.

 一方,疾患の確からしさが治療閾値を下回れば,医師はその疾患はないものと考え,疾患の確定や除外に関連するデータの収集を終了する.疾患の確からしさが診断閾値と治療閾値の間にある限り,更なる診断的検査が正当化され,治療閾値を上回る(疾患があるとみなされる)か診断閾値を下回る(疾患がないとみなされる)かして問題が解決されるまで続く.

 診断閾値と治療閾値の水準の設定に影響する因子として,疾患の重症度と検査や治療の利害が挙げられる.閾値を算出するformalなモデルは他にも提唱されている(2-4).閾値は数字で表されるだけでなく記述的にも表される.後者の閾値モデルは,医師が自身の診断プロセスを自身の価値観,あるいは患者の価値観(こちらのほうが望ましいが難易度は高い)に沿うものにする際に,助けとなってくれる.

 閾値モデルは直感に訴えるものがあるが,プライマリケアから発信された最近の研究によると,特定の仮説に狙いをつけた検査(演繹的検査)がみられた診断エピソードは40%に満たない.(5)特定の疾患仮説に的を絞らない戦略の方が一般的であり,仮説に基づく検査より多くの診断上の手がかりを得ることができる.(5)臨床で出会うすべての患者が,疾患の確からしさが2つある閾値の1つを超え,診断が決定して終わるわけではない.医師は,急性の重症疾患を除外したうえで,待機戦略をとる(つまり経過観察とする)ようにしている.(6)最後に,閾値モデルは医師に焦点を合わせている.つまりこの考え方では,患者は完全に受動的な立場にいる.これは,患者が臨床上の(診断に関する)意思決定に能動的に参加していることを示した実証研究と矛盾している.(7,8)

2019年1月21日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 1)


Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


診断上の難題を解き明かす:患者中心のアプローチ

要約

臨床上の問題を妥当にかつ異論のないように説明することは,医師のみならず患者にとっても重要なことである.医師が診断にたどり着く道筋については現在,閾値アプローチや仮設演繹モデルなどの理論があるが,それらは総合診療における診断プロセスの正確な描写には至っていない.総合診療で扱う問題空間の広さと各疾患の事前確率の低さを考えると,医師の鑑別診断リストにある特定の疾患を調べることに診断プロセスを矮小化するのは非現実的である.そこで,患者と医師が協働して診断に達する方法,とりわけ帰納的渉猟と呼ばれる,診断的ルーチンを誘発する情報を引き出すプロセスによる方法について新たなエビデンスが議論されている.診断上の難題の解決と患者中心の診療は切り離して考えるべきではなく,これらは相乗的なものである.


キーワード

臨床上の意思決定(clinical decision making)
診断(diagnosis)
仮説演繹法(hypothetico-deductive reasoning)
帰納的渉猟(inductive foraging)
医師(physicians)
プライマリケア(primary care)
プライマリヘルスケア(primary health care)
閾値モデル(threshold model)


はじめに

 フランス映画「かけがいのないものIrreplaceable」(原題はMédecin de Campagne:田舎の医師.監督Thomas Lilti)で,健康上の理由で診療を止めざるを得なくなった田舎の高齢医師が,代わりを務める若い同僚に自分の患者を紹介している.ある中年の患者が最近発症した頭痛の治療を求めて来院した.その若い医師は直截的な質問をたちまち浴びせて,部位や強さ,付随症状を突き止めようとしたが,このような的を狭く絞った質問からは全体像ははっきり浮かびあがらなかった.高齢の医師は,患者が診察の最初に何が言いたげにしていたが,若い医師がそれを遮ってしまったことに気付いていた.促されてようやく,患者は糖尿病の新しい薬を飲み始めてから頭痛が起こったことを語りだした.

 医師がどのように診断にたどり着くのかついて,議論は多くなされてきたが,それにくらべ実証研究はずっと少ない.Cognitive challengeは膨大であり,特にプライマリケアなど総合診療医のセッティングでは顕著である.しかし,従来の理論では医師がどう対処しているのかを十分に説明できない.以上を踏まえ,プライマリケアでの意思決定に関する最近のエビデンスに基づく新しいアプローチをここに提唱する.

 まず,従来の診断プロセス理論を概観し,プライマリケア現場での適合性について議論する.それから,最近登場したエビデンスを援用し,総合診療医の診断プロセスに対する今までと異なる概念化を提示する.


2019年1月14日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part last)


Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.今日で最終回です.


家庭医療の研修を受けることでヘルスケアのリーダーになる準備がどのようにして整うのか?

 家庭医療はシステムに基づく診療に重きを置いており,また研修も幅広いため,家庭医はヘルスケアシステムを率いるリーダーとして引っ張りだこになるものである.患者,地域,そしてヘルスケアシステムは,予防医療,急性期医療,慢性期医療の各サービスを提供する際の複雑性を心の底から理解しているような臨床で研鑽を積んだリーダーを求めている.家庭医は他の専門科医師,ヘルスケアに関わる専門職種,ヘルスケアの支援者と専門領域を超えて協働し,ヘルスケアを届けることの全体像を提示することができる.自分の住む地域や州のAAFPの支部に参加しリーダーシップを発揮する機会はたくさんある.


家庭医療の未来はなぜこれほどまでに明るいのか?

 包括的なプライマリケアこそが,地域社会の健康を守り,国家が健康を増進し,健康格差を減らし,ヘルスケアの質を向上させ,ケアにかかるコストを下げるための解決策であるという認識が徐々に社会に広がっている.世界を見わたしても,プライマリケアを基盤としたヘルスシステムはコストが低く,質が高く,ケアへのアクセスも良好である.卒前医学教育の協議会であるジョサイヤメイシージュニア基金をはじめとする高名な機関や政策立案者も,より多くのプライマリケア医を育成する必要性があると言明している.

 患者保護並びに医療費負担適正化法 には,プライマリケアを強化するカギとなる上行がいくつかある.その中には,プライマリケア医への支出を増やし,先進的なプライマリケアモデルの創出を促すものもある.2015年4月の画期的な法案の成立をうけて,サービスの量ではなく結果と質に褒賞を与える新しい支払制度が導入されつつある.

 米国のヘルスケアシステムの急激な変化により家庭医の必要性が高まっている.推算では2025年までにさらに52000名のプライマリケア医が必要になる.ゆえに,家庭医がどの専門科よりも求人率が高いことは驚くことではない.

 2014年より始まった「アメリカの健康のために家庭医療を」プロジェクトにより,診療モデル,支払い,技術,労働力,教育,研究を向上させるロードマップが作成された.これは,患者,雇用者,支払者,政策立案者,プライマリケアに関わる他の専門職と協働して,プライマリケアの価値と利点,そして米国全土で健康とヘルスケアの需要を合致させるために家庭医がどれだけ貢献できるかを示すことを目的としている.

 家庭医は,医学のアートとサイエンスをどちらも用いて,長く続く関係性を活かし健康とウェルビーイングに影響を与える.これが,家庭医が自分の仕事を愛する理由であり,家庭医療のキャリアを選ぶ人の将来が輝かしいものとなる理由である.


2019年1月7日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 7)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)


家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.


回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医はどのようにして専門の幅を超えて医学の進歩に遅れないようにしているのか

 専門に関わらず,全ての医師は患者に可能な限り最善の医療を提供する義務がある.家庭医療は専門領域の幅が広すぎて知る必要があることを全て学ぶことなどできないのではと心配になるかもしれないが,それは全くの間違いである.家庭医療のレジデンシーでは大多数の患者の心配事を上手に管理し,自分の限界を認識し,資源を活用し,生涯学習のスキルをコアとなるスキルを学ぶことができる.

 医学は進歩するため,最新かつ最良の医学的エビデンスを知っておくことは重要である.家庭医は情報源を数多く持っており,あなたが好きな学習スタイルに合うものもあるだろう.これらの情報源には,生の事例や机上の事例,モノグラフ,オーディオポッドキャスト(米国家庭医療学会のポッドキャストなど),雑誌(American Family Physicianなど)などがある.医療アプリの活用はここ数年で急増しており,ベッドサイドツールとしてのみならず継続的な医学教育の機会にもなる.


医学教育と家庭医キャリアの経済面での現実はどうか?

 医学教育を受けるのは金銭的負担であり,医学生はほぼ全員,研修期間に多額の借金を背負うことになる.米国医科大学協会は2014年10月に,借金の中央値は18万ドルであると報告した.家庭医の給料は,しっかり計画して,様々な返済オプションを使えば,借金の返済がゆったりと可能である生活を保障する.

 返済免除または返済支援プログラムに加入することを計画している医学生は3人に1人を越える.このようなプログラムは通常,返済免除の代わりに医療資源の乏しい地域で診療を行うことをレジデントの卒業生に求めるが,その場合でも他の臨床医と同様の給与と利益は確保される.

 2006年以降,家庭医は最も求人の多い専門科であり,初任給の平均は19万8千ドルである.家庭医の需要が高まるにつれ,給与も高くなっている.カリフォルニア南部のある大規模な統合医療システムでは,最近になり家庭医の初任給を25万ドルに増額した.平均的な家庭医の給与は米国全体での世帯収入の上位6%に入っている.


2018年12月31日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 6)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療が自分に合っているか、どうしたらわかるのか

 家庭医が自分に合っているか知るには、実際に家庭医についてみるのが一番である。家庭医の診療をローテーションで回るのが良いだろう。様々な人に家庭医は合っているし、その理由も様々だ。家庭医に聞いてみれば、自分の仕事をどんなところが好きか、多種多様な内容を話してくれるだろう。患者や地域社会と、深く有意義な継続的関係を築くのが楽しいのだという人もいれば、状態や疾患にとらわれず生まれてから亡くなるまで幅広い診療をできるのが好きだという意図もいる。包括的な研修を受けることで、診療の選択肢が広がり、地域社会に貢献できるのが楽しいという人もいる。家庭医療に興味を惹かれた理由として、国境に関係なくほとんどすべての問題に立ち向かうことができることを挙げる人もいれば、分娩や新生児ケアを含めた家族全体をケアできることを挙げる人もいる。
 家庭医の診療射程は幅広い。もし卒前実習でローテーションした科がどれも楽しくて、一つに絞り切れないと思ったら、家庭医療に進むことをお勧めする。医者になりたいと思ったきっかけを思い出して、自分の理想としている診療は何でそれをどこでしているかを想像してみなさい。その理想が現実のものとなるように専門研修を考えてみるのが最も大事なことです。

家庭医療プログラムを選択する際に考慮した方がよいことは何か

 完璧なものかそうでないかはともかくとして、その人にあうプログラムはおそらくたくさんある。プログラムの立地は、学生が判断する際に最も重要な因子の1つとしてよく言われている.家庭との近さ,配偶者のニーズ,地域社会と関連したライフスタイル,レジデンシーが医療を提供する患者集団は,プログラムを差別化する要素となりうる.半数以上の家庭医療レジデントはレジデンシートレーニングを受けた場所から100マイル (161キロメートル)以内の地域で最終的に診療することになる.

レジデンシーの医療機関の状況(大学病院か地域の医療機関か)や他専攻のレジデントやフェローがいるかどうかも,検討する上での重要な要因となるかもしれない.他の専攻レジデンシーが典型的には大きな大学病院を基盤としているのと対照的に,家庭医療のレジデンシーはより小規模な地域の病院や医療機関にあることが多い.学生の時には大学や大きな附属病院のなかで,大人数で専攻も様々なレジデントやフェローがいるような環境で実習を受けてきたはずだ.レジデンシー研修では,同時に研修いる他の専攻のレジデントやフェローが様々いて,多彩なレアケースがあり資源が豊富な大学病院の環境の方を好むこともあるだろう.規模が小さい地域の医療機関では患者や手技の競合がすくなく,よくある病態より集中的に診ることができるので,その方があっていることもあるだろう.以上の記述はかなり単純化しており,上記のカテゴリー内でも非常に多様な研修環境がある.なので,あなた自身にとって最良の学習環境を選ぶ必要がある.


2018年12月24日月曜日

家庭医療に関する疑問と回答(part 5)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医が行う手技にはどのようなものがあるか

 家庭医は様々な手技を行うことがある(Table 2)。心負荷試験の7.5%、分娩の9.9%、筋骨格系手技の64%、皮膚系手技の79%は家庭医が行っている。家庭医は、診療の幅が多岐にわたっているほど、ヘルスケアの4つの目標をより達成できるようになる。

Table 2. 家庭医が行う手技

○麻酔
意識下の鎮静
指、局所、末梢神経ブロック

○消化管
肛門鏡
大腸内視鏡
経管栄養チューブ留置
血栓性痔核の切開
S状結腸鏡
肛門周囲膿瘍の石灰排膿
経鼻胃管留置

○泌尿器
新生児割礼
恥骨上膀胱穿刺
尿鏡検
精管切除

○救命
ACLS
産科ALS
ATLS(外傷)
新生児蘇生プログラム
PALS(小児)

○妊婦ケア
自発的経膣分娩(胎児モニタリング、分部誘発・促進、裂傷縫合を含む)
吸引分娩

○筋骨格系
単純骨折の初期対応
関節・滑液包注射、トリガーポイント注射、ガングリオン吸引
肩関節脱臼の修復
四肢の固定法

○呼吸器
スパイロメトリー

○皮膚
生検
凍結手術
電気メスでの手術
切開排膿
裂傷縫合

○超音波
基本的胎児エコー
筋骨格系エコー
中心静脈穿刺、腹腔穿刺、胸腔穿刺のエコーガイド

○外来、病棟
鼻出血に対する後方鼻腔パッキング
フルオレセイン眼染色
異物除去
腰椎穿刺
静脈ルート確保

○女性医療
子宮頸部凍結療法
コルポスコピー
子宮内膜生検
子宮内デバイス挿入・除去
パパニコロウ染色
子宮内膜掻爬
外陰部生検

2018年12月17日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 4)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療の研修について何を知っておく必要があるか

 家庭医療レジデンシー研修の目標は、卒業するころには包括的かつ継続的なケアをあらゆる年齢層の患者に提供できるようになることである。このような教育での肝腎なポイントは、診療のその場その場で最良のエビデンスに当たり、情報を上手に患者に適応し、資源を効率的に活用する方法を教えることである。

 多くの場合、家庭医療レジデンシープログラムの研修期間は3年間であり、内科や小児科の研修と同じである。家庭医療プログラムの卒業生は、臨床現場に非常によく適応できる。少数ではあるが、研修の最適な期間を調べる長期間の国家的パイロットプログラムに参加しているレジデンシープログラムもある。このばあい、期間は4年間であり、特別なコースや上位の資格を得ることができる。


専門的関心を追求したい家庭医療レジデントは、どのような複合型レジデンシーやさらなるフェローシップ研修を受けることができるか

 家庭医療教育の目標は、プライマリケアを患者、家族、地域社会に提供できるように最適な研修をすることである。家庭医はそれぞれ特有の興味を持っていて、ジェネラリストの研修の一環として、あるいは追加する形で、その分野をさらに学ぶこともできる。複合型レジデンシーにおいて深く体験できたり、レジデンシー終了後にフェローシップを選択したりすることを望む場合もあるだろう。(Table 1)

 複合型レジデンシーのトレーニングプログラムは、異なった二つの専門医プログラムの要素をつなぎ合わせたハイブリッドである。しかし、全く別の専門が二つあるわけではなく、どちらの専門もより広く認定できるように制度設計されている。現在、家庭医とのダブルボードが可能な専門分野は4つある:家庭医療/精神科、家庭医療/救急科、家庭医療/内科、家庭医療/予防医療。これらの複合型レジデンシーの期間はたいてい4-5年である。

 内科/小児科プログラムは、家庭医療とは異なる。このプログラムは、内科と小児科を4年間のレジデンシーにまとめたものである。最近のレビューによれば、内科/小児科プログラムの大半は、分娩、婦人科、外科、皮膚科、整形領域の訓練を必要としていない。内科/小児科プログラム卒業生のおよそ1/3はサブスペシャリティ志向であり、これはプライマリケアとは異なるところである。

 アメリカ家庭医療学会(AAFP)が家庭医療のレジデントが卒業する際におこなった2013年の調査によると、約14%のレジデントがフェローシップやさらに上の学位を含めた追加研修を計画している。

(以下,米国のレジデンシーの詳細が書かれているが,訳では省略する)


Table 1
家庭医療レジデンシーの卒業生が選ぶことのできるフェローシップ

思春期医療 行動医学 医療情報学 地域医療 救急医療 大学教育の質改善活動
高齢医学 健康政策 ホスピス・緩和医療 病院総合診療 HIV/AIDS
統合医療 国際医療 妊婦ケア・産科 疼痛緩和 予防医学 研究
僻地医療 睡眠医学 スポーツ医学 薬物乱用 初診外来 女性医療



2018年12月10日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 3)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


診療の射程はどうか、どんなキャリアを得る機会があるか

 家庭医を目指すと、家庭医として特徴的な研修を受けることになる。急性疾患も慢性疾患も扱い包括的なケアを提供する、健康増進と疾患予防を行う、他の専門家と協同して治療を取りまとめるといった内容が含まれる。幅広い射程をもった研修を行い、家族や地域社会という文脈で患者中心の医療を実践し、ヘルスケアシステムの機能について理解を深めることで、どんな場所でも、どのようなセッティングでも対応できるようになる。家庭医が「多分化幹細胞」と評される所以である。

 大半の家庭医は臨床の最前線におり、救急対応や病棟でも医療を行っている。このようなセッティングでは、教育家リサーチの様々なキャリアを得る機会に恵まれている。教育は家庭医にとって重要なことであり、多くの家庭医が日常的に臨床の中で学生や研修医を教育している。また、レジデンシープログラムや大規模な学術機関といったアカデミックな場でのキャリアを選ぶ家庭医もいる。研究科学者になる人もいれば、臨床基盤型研究に参加して重要なリサーチクエスチョンにこたえるためのデータを提供する人もいる。家庭医療のキャリアの選択肢は幅広く、老年医学、思春期医学、緩和ケア、疼痛ケア、睡眠医学、救急医療、病院総合医、スポーツ医学、公衆衛生、国際医療、野外・災害救急など多岐にわたる。家庭医として得られる様々な機会についてまとめた短いビデオは、このサイトでみられる。http://vimeo.com/25152825


家庭医療の研修はグローバルヘルスを実践する足掛かりとなるか

 最高の健康を享受する権利は国境を超えた基本的人権である。その実現には、プライマリケアへのアクセスを確保するのが最善策である。エボラのような疾病のアウトブレイクは非常に目につくニュースであるが、いま大きな問題となっている疾患群は、発展途上国においても先進国においても、感染症から慢性疾患に移り変わってきている。しっかり研修を受けた家庭医は、小児、思春期、成人、産婦とあらゆる層に対応し、幅広い手技をみにつけているため、地球上のあらゆる場所で診療を行うのに最適である。これとまったく同じ能力が合衆国の中でも求められており、移民や難民を診療する際に必要となる。



2018年12月3日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 2)



Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


なぜ家庭医療はこれほど重要なのか

 あらゆる専門科のなかで、家庭医療がプライマリケアの定義に最も当てはまる。患者を最初に診て、継続的、包括的に、多くの人と協同してケアを提供する。その対象も性別、疾患別、臓器別になっておらず、あらゆる人を診る。プライマリケアに基づいたヘルスケアシステムは、患者のQOLを上げ、集団としての健康を促進し、公平性を担保し、かつコストもかからない。米国は伝統的にプライマリケアの担い手をあまり重視しておらず、他の西欧諸国と比べてヘルスケアがあまり上手く機能していなかった。西欧諸国では、重要なポイントに沿ってヘルスケアのシステムがどのように機能しているかをしっかり評価していた。米国のヘルスケアシステムが医療サービスの量ではなく質を大事にするようになってきて、家庭医も国民の健康に良い影響を大きく与えることのできる体制になってきている。


家庭医療のケアモデルと患者中心メディカルホームとは何か

 家庭医は患者全体を治療しようと専心する。いつでもかかりやすい診療を提供し、継続的に患者を診ていくなかで包括的なサービスをおこなう。たとえ家庭医療の範疇を超えた治療が必要な場合でも、家庭医は患者に対する責任を持ち続け、他の専門医が行う治療についても協同してかかわる。このようなケアモデルを、患者中心メディカルホーム(PCMH)という。ヘルスケアシステムがどんどん複雑になり細切れになっていく中で、PCMHは伝統的なケアのモデルから派生して創られた。これはまさに、医師中心のモデルの対極にある、患者中心のモデルである。

 PCMHのモデルは単一ではない。またその定義は、一つの診療、一つの建物の中だけで完結するものではない。PCMHのフォーマットを決定する一番の因子は、地域社会が何を必要としているかである。チーム医療を行う、受診しやすいようにコミュニケーションを改善したり診療時間を広げたりする、電子カルテのような高度情報システムを備える、質と安全を重視する、家族や地域社会という文脈の中で患者にケアを提供する。このような取り組みを行うことで、以下の4つの目標に近づくことができる:より良い健康、よりよいヘルスケア、1人当たりコストの節約、医者人生の向上。

 ヘルスケアシステムを継続可能なものにするには、プライマリケア、行動・精神医学、公衆衛生を統合する必要があるという認識が最近ますます広がっている。PCMHのなかには、伝統的なモデルをさらに広げて、メンタルヘルスやポピュレーションヘルスツールも導入しているところもある。PCMHのモデルが進化していくということは、家庭医が適切なケアを適切な時に適切な場所で患者のニーズに適したやり方で行うよう努力し続けるということである。


2018年11月26日月曜日

家庭医療に対する疑問と回答(part 1)


Kozakowski SM et al. Responses to Medical Students' Frequently Asked Questions About Family Medicine. Am Fam Physician. 2016 Feb 1;93(3):Online. (PMID: 26926619)

家庭医療について医学生が抱きがちな疑問にたいして,Q & Aでまとめています.
日本でも米国でもこの辺りの事情はあまり変わらないですね.

回答は当然米国の状況を反映しているものですが,読んでいて非常に面白いです,
何回かに分けて訳します.


家庭医療について医学生がよく抱く疑問とその回答

この記事では、家庭医療という専攻について医学生がよく抱く数多くの疑問に回答していく。そのなかで、家庭医の大事な役割について以下の事項を触れる。ヘルスケアの環境をどう充実していくか、診療の射程はどうか、いかに多様なキャリアを得る機会があるか、家庭医を教育し訓練するとは何か、家庭医療のキャリアは実際のところ経済的にどうなのか、なぜ家庭医療の未来はこんなに輝かしいのか、なぜ家庭医は自分の仕事に熱意を持っているのか。


 家庭医は、あらゆる年齢の、あらゆる健康状態にある患者のかかりつけ医である。家庭医は、これまでにも増して、米国のヘルスケアシステムを変革していくのに不可欠な役割を持つようになっている。医学生は、家庭医という専攻について多くの疑問を抱いている。この記事を読めば、答えがわかるはずだ。

 家庭医の数は、ほかのどの専門の内科医よりも多い。(内科医全体をあわせると家庭医より数が多くなるが、内科医には様々なサブスペシャリティがあり、一つひとつの専攻医の数は家庭医より少なくなる。) 家庭医療のレジデンシープログラムは内科より多く全体で一位だが、レジデントの数をみると2番目になる。米国での家庭医の数は内科系勤務医の13%を占めるが、救急治療の25%は家庭医が行っており、外来診療もどの専攻医よりも数多く行っている。加えて、家庭医は2次医療、3次医療にも深くかかわっており、HIV感染患者など特別な集団に対する治療から集中治療まで診療の幅も広い。


2018年11月19日月曜日

グループホームの褥瘡患者にどう対応するか


訪問診療の一コマ

グループホーム入所中のMultimorbodityかつBed-riddenの患者に褥瘡が発生.
職員の方も頑張っていただいているが進行し真皮を超えている.
さて,どうするか.

適切な処置とアドバイスは勿論ですが,
やはりここは各種サービスを上手に使うべきです.

グループホームに訪問看護は原則入れない(介護サービスの重複になる)が,
特別訪問看護指示があれば,訪問看護は医療保険の扱いとなり,入ることができる.
しかも,週4回以上入れる(逆に言えば,週3回以下はダメ)

特別訪問看護指示の期間は交付日(=診療日)から14日まで.
通常は月1回のみだが,気管カニューレがある時と真皮を超える褥瘡があるときは月2回指示を出すことができる.

つまり,冒頭の場面では訪問診療を最低2週間毎行い,診察後に特別訪問看護指示を出せば,褥瘡が改善するまではグループホームでも訪問看護を使うことができる,ということですね.

帰りの往診車のなかで上記を思いつくことができたので,スムーズにサービス調整ができました.

ケアマネ任せ,看護師任せにせずに(連携を取るのはもちろん大事ですが)
使えそうな知識はしっかり押さえておかなくてはいけないと痛感しました.





2018年9月7日金曜日

患者を知ってノーと言えるように(part last)


長かったですが,ようやくラストです.


想定される患者の反応

 FAVERの技術は,初めは簡単ではないと感じるかもしれないが,実際は臨床をもっと容易にしてくれるものであり,患者受けの良さに驚くことになるかもしれない.大半の患者は,たとえがっかりしたとしても,あなたのノーを受け入れてくれるだろう.患者は自分の欲しいものや必要だと思っているものを得ずに終わり,自然と少し曇った気持ちになるだろう.怒りを表出することも,担当医を変えようとしたりクレームをつけたりすることもあるかもしれない.これは疾患による症状であることが多く,あなたやあなたの治療によりもたらされたものではない.
 数は少ないがより憂慮すべき事態として,患者が威嚇と取れる行動をする(罵声を浴びせる,ドアを強くたたく,悪口を言う,紙を投げつける),あるいは患者が明確にあなたやスタッフにたいし脅迫を行うことが挙げられる.もしあなたの診療が脅迫行動に向き合うだけのポリシーに欠けているなら,しっかりポリシーを持ったほうが良い.そうすることは,患者に退去を命じる,警察に来てもらうといった結末に関わってくるだろうし,医師が自分の身の安全を確保するために適切な警告を行う手助けとなってくれるだろう.
 やり取りの困難さを経てやがて医師患者関係が強化されることも多いが,それでも医師
の気持ちは落ち着かないままであるだろう.医師が最善を尽くしても,すっきりしない結末を迎えることもある.FAVERの戦略やアプローチは効果的でないと結論づけたり,将来のために捨て去りたいと願ったりすることもままあるだろう.実際,後味の悪さは避けられないことかもしれない.例えば,あなたには手が付けられない,そのときには手が付けられない患者だっているだろう.それが人間というものであり,医療というものである.そんな患者でも,いつか良くなるかもしれないし,別の医療従事者が何とかしてくれるかもしれない.信頼できる同僚とデブリーフィングをすることが,このような困難な診察場面において自分の役割を認識しながらも,患者の感情面,行動面での反応に責任があると思いこまずに済む一助となる.
 FAVERアプローチという,比較的よく遭遇する不愉快な臨床場面にアプローチする簡潔かつ標準化された方法を使うことで,医師が元気づけられ励まされることを願っている.関係性を保ちながらノーということはたやすいことではないが,実践可能なことであり努力する価値のあることである.


2018年8月1日水曜日

糖尿病治療中断をどうとらえるか


糖尿病があり定期通院を中断していた患者さんに出会う機会が相次いだので,Clinical Jazzで振り返りました.

Clinical Jazzについて,詳細はこちらを.
(日本プライマリ・ケア連合学会誌 33:322-325)

そしてこの本は必携です.


ブログでは「文献検索」のところだけを抜き出します.

文献1. 2型糖尿病患者における通院中断に関連する心理社会的要因

対象:糖尿病専門クリニックを1年以上通院している患者686名
うち有効回答者は350名.
そのなかで25人が1年以上の通院中断者であった.
中断者は平均年齢が低く・糖尿病歴が短かったので,その2因子で マッチング(中断者1人-継続者3人) を行った結果,中断者は以下の要素を持っている割合が多かった.
 ・自覚症状がある
 ・結果期待が低い
 ・体に気を配らず, 体重や血糖値を意識していない
 ・職場での配慮や病気に対する理解や支援者がいない
 ・ 趣味など生活全般が悪くなっている

結論:糖尿病患者の意識に関する教育のみならず,社会的支援環境整備のための対策が必要である.



対象:かつて通院を中断し,現在は通院している2型糖尿病患者15名
エスノグラフィーで質的分析を行った

結論:通院再開は,通院中断を「後ろめたさ」,通院再開を「きっかけに依るひとつの出来事から始まるやり直し」と意味づける体験である


通院再開が「きっかけに依るひとつの出来事から始まるやり直し」と意味づけられる
というのが非常にしっくりきました.なるほどですよね.
こういう発見があるので質的研究は面白いです.


2018年7月25日水曜日

ACP Journal Club(19 June 2018)


ACP Journal Club 19 June 2018
箇条書きでまとめます.

・オピオイド使用障害の治療はstepped treatment approachで.
コメント:アメリカだと社会問題になってますね.

・急性脳梗塞の早期マネジメントに対するAHA/ASAの推奨
コメント:発症6-16時間以内の前方循環大血管閉塞なら血管内治療で血栓除去が適応になる可能性があります.DAWN studyとDEFUSE 3 studyの成果ですね.あとは血圧<220/120だと発症48-72時間以内は降圧しないとか,早期にアスピリンとか,至って当たり前のことが書かれています.

・重篤な慢性腰痛/膝痛/変形性股関節症に対して,非オピオイドとオピオイドでベネフットは同様で,非オピオイドの方が副作用が少ない.
コメント:アメリカのオピオイド使い過ぎ問題に対する1つの警鐘ですね.

・喘息発作時にICSの容量を4倍にすれば急性増悪を防ぐことができる。
コメント:患者が自宅でできる喘息増悪予防の指導ですね。こういうお金のかからない介入法はありがたいです。HR 0.71-0.92。

・冠動脈多枝病変+糖尿病では、CABGのほうがPCIより治療予後が良い。ただし糖尿病被合併だと変わらない。左枝主幹部病変でも変わらない。
コメント:直接かかわることはない分野ですが、CABGの積極的適用の範囲が広がっているのですかね。

・大うつ病の成人患者では、抗うつ薬はプラセボより短期間での治療反応率が高くなる。
コメント:「大うつ病の成人患者」という点に注意でしょうか。今主に勤務している環境は精神科医にすぐ相談できるので助かります。

・ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンは敗血症性ショック患者の90日死亡率を減少させる。ヒドロコルチゾンだけでは死亡率は減少しない。
コメント:いろんなところで話題になった研究ですね。本文のコメントにもありましたが、これをもって全例コルチゾンとはならないようです。

・COPD患者で高容量ICSの長期使用は骨折リスクを高くする。
コメント:4年以上のフルチカゾン換算1000ug/day以上の使用でリスクが上昇する。ただしRR 1.02-1.18。そもそもCOPDでICSの出番は稀なはずですね。choosing wiselyです。

・太極拳は有酸素運動と比べて線維筋痛症患者の症状を緩和させる。
コメント:なぜかいろんな研究が大好き太極拳。オリエンタルな感じがよいのでしょうか。いまいる地域に太極拳サークルあるのかなぁ。