NEJMの高齢者虐待のレビューです。
今回はpart3です。これで終わりです。
なお、Figureの訳は載せていません。
介入
高齢者介入についての特異的かつ明確な介入について大規模かつ質の高いランダム化比較研究はなく、この分野における決定的な知識ギャップを引き起こしている。しかし、この分野での数十年にわたる臨床経験と記述された最良の診療が、被害者と救う際の臨床家の手助けとなる。成功例であっても、一回の介入で虐待の被害者を窮地から迅速かつ確実に救い出せることはまずない。そうではなく、高齢者虐待に対する介入の成功例は、多職種が関わり、継続して、地域ベースで、資源を集約しているのが典型的である。医者はこのような介入の医学的要素に重要な役割を果たしているが、たいていの場合は、高齢者虐待自体に対し介入を始め、維持し、成功するのは、医師だけでは困難である。それ故、医師にとって最も重要な仕事は、高齢者虐待を認識、同定し、地域社会で利用可能な介入資源をよく理解し、これらの資源に患者を紹介したりともに協同してケアを行っていくことである。
Table 2に、高齢者虐待の事例に介入する際によく関係するサービスや機関とその役割を載せている。Figure 1は、虐待被害者が同定されたとき、あるいは疑わしいときに行う、包括的かつ多職種による介入アプローチの概要を示している。APSは、虐待が疑わしいときに必須の報告を受け取る連邦政府プログラムであり、事例調査の中心的存在である。49の州(ニューヨークを除く)は、虐待のケースを、たとえ疑い例でもAPS、警察、調整機関に報告する義務を、指定報告者(医師を含む)に法律で課している。報告を受けるとAPS職員は通常、懸念を確証したり打ち消したりするために、家庭を訪問し調査を行う。もし虐待だとわかったら介入措置が取られるが、それは被害者の状況に合致したものであり、地域資源や家族の資源や動きに高度に依拠したものである。医師は、APS職員が調査を進めるときに非常に有用な資源となりうる。
虐待の状況により必要な介入は様々である。精神科疾患のある加害者には強制的に精神科的治療が必要となるかもしれない。介護負担が重いために高齢者虐待となっている場合はレスパイトサービスや被介護者に対する在宅サービスが必要かもしれない。物質乱用に関連した高齢者虐待では、全く異なる介入が有効である。このような状況全てにおいて医師は重要な役割を有しており、虐待の存在がはっきりと証明されていなくても、身体的治療や在宅サービスを導入し、慢性疾患治療を最適化し、ケアを調整し、生活機能を高く保持するために注意を払うなどの高齢医学的サービスを始めることで、虐待の起きた状況を改善することができる。
認知症による認知機能低下(高齢者での機能障害の最も多い原因)は有病率が高いため、高齢者虐待では全例、被害者が意思決定能力を有しているか、避難的介入を受け入れることができるかを考慮することが肝要である。このような意思決定能力の評価には、決定権のある州の法的機関だけでなく当人の障害の程度にもよるが、精神科医や高齢医学の臨床家が大抵は必要となる。それは、APSチームと一員としてのこともあるし、私的な依頼を受けてのこともある。患者が介入を拒否したり意思決定能力を欠いたりしている場合は、後見人などの法的介入が必要になることが多い。そのような場合、医師は身体診察と病歴から意思決定能力の有無を示す証拠を提出することが役割であり、時には、加害の被疑者が後見人にならないように手続きに参加することもある。
高齢者虐待は様相が複雑なため、最も幸先のある対応策は多職種協同チームの発展である。多職種連携チームとも呼ばれる多職種協同チームは、医師、ソーシャルワーカー、警察、代理人、他の地域社会の参加者が協同して動くものであり、被害者を救うための最も実践的なアプローチであるとのエビデンスがある。多職種協同チームは、地域社会での複雑なケースについて議論し、効果的な反応を呼び起こすために、コーディネーター(大抵はソーシャルワーカーや看護師が担う)が旗振り役となって定期的に会合を開く。行動プランが立ち、個々のメンバーが特定の仕事に割り振られ、フォローアップの時間枠が明確に定められる。(分野を超えたチームの会合の模擬映像はhttp://nyceac.com/clinical-services/mdtsで観ることができる。) データによると、分野を超えたチームはメンバー間で効率、協同、専門的サポートを高め合う。
多くの医師にとって、地域社会での高齢者虐待に対応する公的な多職種協同チームを抱えるのは無理がある。しかし、いくつかの必要な機関(APSを含む)と専門家がいることで、そのようなチームを作り上げることができる。医師はこれらの関係性を熟成させて、高齢者虐待の被害者を救い、地域社会での多職種協同チームを発展させることができる。まさしく、地域社会で多職種協同チームを構築するための触媒となることこそが、高齢者虐待に関して医師ができる最大の貢献である。多職種協同チームの構築に関する詳細なガイダンスは、高齢者虐待ナショナルセンターのサイトからダウンロードできる(http://ncea.aoa.gov/stop_Abuse/Teams/index.aspx#traditional)。
長期ケア施設における高齢者虐待
施設で高齢者虐待が起こっているという懸念が最初に世間に広まったのは1970年代であった。そのころは、施設はあまり管理されておらず、見逃しもあった。1987年の連邦予算削減一括法で、施設入居者の評価とケアを標準化する枠組みを連邦政府が策定したことで、施設での高齢者虐待の発見と報告が多くなった。このような状況で虐待が多くなるという科学的研究はないが、利用可能な観察研究、臨床研究のエビデンスによると、スタッフが利用者を不適切に扱うことは、医師が関心を抱くくらいには多い。利用者間での暴力は、身体的、言語的、性的のいずれでも非常に多いことが研究で指摘されている。利用者間の暴力によって生じる臨床的に重要な創傷を発見するために、利用者を診察、治療する際に、このような可能性に留意するべきである。
虐待の原因が何であろうと、医師は虐待を受けた利用者に出会うことがある。プライマリケア医として施設で出会うこともあるし、患者が救急受診した際に相談されることもあるだろう。施設での虐待の疑いを報告し調査するための報告機関が各州にはあり、それに従って医師は自らの懸念を報告しなければいけない。高齢者虐待のナショナルセンターでは、このような目的のために報告用の電話番号や各州のオンブズマン機関の住所をウエブサイトに掲載している(http://ncea.acl.gov/Stop_Abuse/Get_Help/State/index.aspx)
結論
高齢者虐待の被害者は孤立する傾向にあるので、途切れ途切れであったり回数が少なかったりしても医師が虐待被害者と関わることは、高齢者虐待を認識し、介入したり被害者を適切なケア提供者へ紹介したりする決定的に重要な機会となりうる。また、高齢者虐待の多様な表出と多職種協同チームのアプローチの重要性について理解を深めるにつれ、このような公衆衛生上の主要な問題を扱う際に医師が果たす重要な役割が何かが浮かび上がってくる。研究と臨床経験の両方が、医師一人だけでは高齢者虐待の治療を成功させることは、もしできたとしてもめったにないことを示唆している。なので、医療の専門家としては、理想的には多職種協同チームによるアプローチの文脈において、ソーシャルワーカー、警察、保護サービスなどの多分野の専門家と共同して対応をしなくてはならない。