2015年11月27日金曜日

高齢者虐待part 2


NEJMに高齢者虐待のレビューが載っていました。
社会的トピックはあまり勉強する機会がないのでしっかり読まなければ。
というわけで全訳してみます。part 2をどうぞ!


Elder Abuse
Mark S. Lachs, M.D., M.P.H., and Karl A. Pillemer, Ph.D.
N Engl J Med 2015; 373:1947-1956


臨床的評価
・同定とスクリーニング
 医師は、高齢者虐待の評価と治療に慣れておらず、不快にさえ感じるかもしれない。そこには難題が待ち構えているからだ。第1には、被害者は状況を隠したり、認知機能障害により状況をはっきりと伝えることができなかったりする。第2には、高齢者の慢性疾患は多くの症状を起こすため、評価の際に偽陰性所見(骨粗鬆症のためと間違われた骨折)と偽陽性所見(身体的虐待のためだと間違われた特発的な皮下出血)のどちらも起こってしまう。これ以外にも種々の理由により、高齢者虐待とネグレクトのスクリーニングはUSPSTFでは推奨されていない。第3には、文化的言語的障壁により虐待の事実が隠されてしまうことがある。第4には、虐待が起きていると確定できるまでに数週間ないし数カ月かかることがあり、医師は虐待と確定する前に介入することが時に求められる。このような戦略が医学的なマネジメントではあまり典型的ではない。これらの複雑な要因により、Table 1に挙げた所見のうちどれか一つでもあれば、患者を含む多職種による徹底した評価を行うべきである。

・評価戦略
 高齢者虐待の被害者ないしは加害者であると疑われる者には、1人ずつ面接を行うべきである。理由は2つあり、家族や介護者が加害者である可能性があるというのと、他者がいると被害者が気恥ずかしさや罪の意識を感じて不適切な扱いを明らかにしようとしなくなりうるということである。加えて、別々に面接をすることで、身体所見に対する患者の説明と家族・介護者の説明(受傷機転など)が食い違うことがあきらかになり、虐待の疑いを強めることができる。被害者であると疑われる場合は、あまり怯えさせないように、最初のうちは直接的でない質問(家ではほっとしますか、家計を管理しているのはあなた以外の人ですか、など)を用いる。もし必要なら直接的な質問を行うが、その時は家庭内暴力の調査に準じて行い、以下のような質問をする。「家にいる誰かがあなたを傷つけますか。」「助けを必要とするときに助けを得られないことがありますか。」認知症は高齢者虐待のリスクを上昇させるのに加え、うつは高齢者では非常によくあることなので、虐待の評価の際は認知機能と気分についてしっかりと評価を行うことが不可欠である。これはプライマリケア医が行うこともあるし、精神科医、神経専門医、高齢医学の臨床家が行うこともある。
 加害者であると疑われる者の面接はこの分野に精通しているものが行うのが最良である。強く言い立てたり対立したりすると、虐待がエスカレートしたり被害者の可能性がある者が孤立したりしかねない。関連する事実が全て明らかになるまでは、医師は共感を示し価値判断を避けるアプローチをとるのがよい。患者のカルテを詳細に見返すことで、その時は見過ごされていたが後から振り返ればわかる高齢者虐待のサインを見つけることができるかもしれない。虐待が疑われる場合は、家庭訪問をするのが理想的である。医師が全例家庭訪問をするのは難しいかもしれないので、多職種が協力して被害者と介入方法の両方を評価するのが不可欠である。成人保護サービス(APS)に問い合わせると、多くは家庭訪問に繋がり、医師に事例についてさらに詳細な報告を届けることができる。
 評価戦略は、疑われる虐待の種類により異なりうる。虐待の5つのタイプの典型像と、それを疑ったときに有用な評価方法については、Table 1に示している。身体的虐待の場合は、高齢者虐待により生じたと明らかに診断できる外傷というのはなく、これは小児虐待でも同様である。法医学的研究では身体的虐待でおこるパターンがいくつか記述されており(例:高齢の虐待被害者は、虐待と関係ない高齢外傷患者と比べ、あざが顔、右腕の側面、背部・胸部・腰・臀部を含む体幹後面にできやすい)、これらの所見は臨床家が虐待の可能性をまず疑うのに有用だが、他の関連する臨床的所見や病歴をとらずにこれらの所見だけで虐待だと診断することは、医学的目的、法的目的のいずれにおいても、厳に慎むべきである。
 精神的・言語的虐待は、他の虐待の存在を意味することがあり、臨床家やスタッフが発見しうる唯一の状態となりうる。精神的・言語的虐待は、臨床像がうつや不安症をはじめとする精神的苦痛であるため、通常は投薬や精神療法の対象となるが、虐待の背景に気づきそこをどうにかしないことにはどうにもならない。
 高齢者に対するネグレクトと経済的搾取には多くの共通点があり、臨床家がその虐待を発見し評価する際のポイントとなる。身体的虐待の徴候と症状は直接観察できることが多いが、経済的搾取とネグレクトの所見は比較的わかりづらい(例:予約や処方を守れない、体重が減った、良好にコントロールされているはずの疾患で救急受診を頻回に行う)。介護者の経済状況が良い方向、悪い方向のどちらにせよ突然変わった場合(例:突然の失職、奢侈品の購入)、経済的搾取の危険があるか、既に搾取が始まっていると疑う必要があるのかもしれない。ネグレクトの場合は、ADLなどの基準に沿った機能評価を行う際に、介護者など責任のある者が患者に必要なケアを怠っていないか質問するべきである。最近の研究によると、経済的搾取は虐待の中で最も多く、気づいた時には資産がかなり減っていることが多いため、迅速な発見と介入が不可欠である。