2021年9月23日木曜日

とある日の家庭医外来

 

※この記事に登場する患者は、すべて架空のものです。


とある小病院の家庭医外来の風景。


①70代女性。高血圧管理中。自宅血圧は変動が強いですが、拡張期血圧が60台になることもあり、これ以上治療強度は上げません。数年前に様々な要因が重なり精神的なトラブルがあったものの、現在は落ち着いています。毎日焼酎2合飲んで、肝障害あり。精神的トラブルのため独居になり、夜は寂しい様子。休肝日を作ってほしいと伝えつつ、本人がいま安定して生活していることを共通の理解としています。何がその患者を健康たらしめているのか、という視点はとても大事です。


②70歳男性。高血圧と喘息で呼吸器内科にかかっていたが、クリニック閉院により最近転院してきた。SSSでペースメーカーいれた循環器内科と、糖尿病内科にそれぞれかかっており、ポリファーマシーとなっています。こういう場合は、PCMH的な働きを意識しつつ、情報をまとめて、必要なスクリーニングを行いつつ、ケアの抜け漏れがないようにしています。また別の病院でHP除菌をしていたことが分かったりします(フォローの胃カメラが必要)。あとは、AAAスクリーニングのための腹部エコー(1回やればOK)、便潜血など。喘息はコントロール良好ですが、前医から継続して点鼻ステロイドが処方されており、本人も気に入っている様子。長期使用はかえって鼻炎症状を増悪させる可能性があるので、もう少し患者医師関係が強固になったら休薬について話してみようと思っています。


③60代女性。夏・冬に増悪する糖尿病。原因は果物で、冷蔵庫にあるとついつい食べてしまうらしい。気持ちはわかりますが小スイカ半玉を一気に食べる日々が続けば、まあ数値はあがりますよね。せめてもう少し摂取量減らしてみてはと伝えつつ、シーズンが終われば元に戻るので目くじらを立てるほどではないです。足病変は特になし(糖尿病患者では定期的に振動覚、白癬の有無、外反母趾などの変形、末梢動脈蝕知などの足診察をします)。加齢黄斑変性あり眼科を定期的に通院中。高血圧に関しては、2剤でコントロールOK。腎症2期なのでARBをまずは選択(ACEIは咳嗽あり断念)。片頭痛あるとのことであと1剤はCCBを選択したところ、発作がなくなってかなり喜ばれました。euthyroidの甲状腺腫があるためエコーを施行し、腺腫様甲状腺腫で悪性所見なかったので、2年後再検の予定。(甲状腺腫は私はこのレビューを参考にしていますhttps://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmcp1415786)右肩痛があり、触診では烏口突起周囲に圧痛がありますが、外転150°まで可能でpainful arc signないため、簡単な運動療法を指導し、症状は軽快しています。


④20代男性。COVID-19感染のため自宅待機していたが、微熱と倦怠感が続くため結局3週間家にいた。おとといから職場復帰したが息切れ、強い倦怠感があるため受診。支持的に接しつつ、解釈モデルを聞き出したところ、肺炎の恐怖が強かった様子。いわゆるlong COVIDの一般的な説明をしつつ、家に3週間いたのだから体力は落ちて当たり前、徐々に生活を取り戻していきましょうと伝えました。幸い家族も周囲も受け入れは良好な様子。短期間でフォローしていくことになりました。


⑤50代女性。TIAが起きてもうすぐ1年。発作を期にアスピリン+スタチンが始まり、いわゆる「慢性疾患患者の仲間入り」になったことで、いつまでも元気で健康な自分という認識が揺らいでいる様子。この薬はずっと飲まないといけないのですかと聞かれた際に、単にエビデンスを示して説得する、というのではなくて、患者のselfの揺らぎというか、ある意味で「病院に定期的に通っている人になる」というライフステージの移行をどのように受容しているかという視点が大事だと思っています。この方の場合、自分が自分の病気をコントロールできているという感覚をもつことが、うまく受容するポイントだったように思います。


…この調子で20名(大体一コマこのくらいのことが多い)書こうとしましたが、あまりに長くなるので断念。

NTMの治療開始時期を見定めたり、菊池病の診断をしたり、誤嚥性肺炎から復活した超高齢の方が禁煙したことで呼吸機能が回復しておせんべいをバリバリ食べていると聞いて驚いたり、アルコール依存症の方を半年かけて何とか専門外来につなげたり、鵞足炎のストレッチを指導したり… これが1回の外来単位で全部起きるので、楽しいです。