2021年11月17日水曜日

最近の診療を振り返る家庭医的クリニカルパール


最近の自分の診療を振り返る一環として、クリニカルパールを作成しました。

家庭医セッティングでの診断推論は、独自の面白さと課題があると思っています。



 ・手関節周囲に局所的な圧痛点のない手関節橈側の疼痛は、上腕骨外側上顆炎を疑う

いわゆるテニス肘ですが、肘の痛みではなく、手関節周囲の痛みの訴えが前面に出ることがあります。

外側上顆をさわると明確に疼痛が惹起されますが、自発痛でないためか患者本人が気づかないことが多いと思われます。


テニスをしていない中年~高齢患者でも発症することがあります。

最近出会った患者は、右下肢に障害がある方で、ベッドから起き上がる時に左手でベッド柵をもって体重をかける動作をしていたことが原因でした。

以前には、脱サラして蕎麦屋を始めた方で、こねる動作(まだまだ不慣れで余計な力が入っていたのでしょう)で発症していた方がいました。



・ADLの低下した高齢者の、繰り返す「ちょっと動いた後ふらついて転倒、その後しばらく動けない」は、COPDかもしれない


ADLが低下している患者では、呼吸困難を呈するほどの労作をしないため、心不全やCOPDの診断遅延が起こることがあります。

安静時の酸素飽和度が正常だと、定期診察のルーチンでは見落とされることがあります。

なので、例えばトイレまで自分で歩いていこうとしたときに、労作による低酸素血症を来し、ふらついて転倒、その後、低酸素血症が自然と改善するまでその場から動けない、という形で、COPDの症状が発現することがあります。

今は喫煙していなくても、実は昔はヘビースモーカーだった、ということもあります。


繰り返す転倒の原因として真っ先に思いつくのは、薬剤性、低血圧、神経変性疾患、筋力低下、筋骨格疾患などですが、「普段そこまで動かない高齢者がちょっと動いた後に転倒ししばらくその場から立ち上がれない」で労作性の低酸素血症を疑うという思考は持っておくべきだと思いました。



・高齢者のステロイド吸入に十分に反応しない「(咳)喘息」は、咽頭結核/気管支結核を考慮する。画像検査が正常であっても結核は除外できない。


慢性咳嗽患者全員に喀痰抗酸菌培養はしないよなと思いつつ、リスクが高いケース、吸入ステロイドに反応しないケースでは、漫然とステロイドを継続する前に結核やアスペルギルスなどの感染症疾患を除外する必要があるなと最近痛感しました。

気管支結核や咽頭結核は、X線検査で異常が出ないので、どこかのタイミングで「結核を調べなきゃ」と思わないと診断できず、その間、患者は結核菌を放出しつづけます。

日本は結核蔓延国ですし、高齢者の慢性咳嗽という時点でひっかけてもいいのかもしれません。