2021年10月5日火曜日

上級生からの「引継ぎ」は大したことない?


Huang K, Mak D, Hafferty FW, Eva KW. The Advice Given During Near-Peer Interactions Before and After Curriculum Change. Teach Learn Med. 2021 Sep 15:1-9. doi: 10.1080/10401334.2021.1957685. Epub ahead of print. PMID: 34524067.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10401334.2021.1957685?af=R&journalCode=htlm20


学部では、先輩、後輩の間で、「この授業はこういう内容でこの点が大事だよ」「この実習はこうすればうまくいくよ」という情報が流れます。私も経験ありますし、おそらくどの医学部でも起こっていることではないでしょうか。

このような、近い学年の学生同士の交流(Near-peer interaction:NPI
NPI)についての研究です。

(以降、私独自の解釈が混じっています。研究内容を正確に知りたい場合は原文を読んでください)


「NPIは、先輩と同じカリキュラムじゃないと、なされないのではないか」つまり「カリキュラムが変わった直後の学年は、不利な状況にいるのではないか」ということを明らかにしようとした質的研究です。

2019年に新たに刷新されたカリキュラムについて、はじめてそのカリキュラムを受ける学年と、その次の年にカリキュラムを受ける学年(1つ上からそのカリキュラムについての情報を得ることができる)の学生にそれぞれインタビューしています。


結果としては、初めて新たなカリキュラムを受ける学年は、先輩にアドバイスをほとんど求めていないことが分かりました。カリキュラム変わったから意味ないじゃん、ということですね。

この研究が面白いのはここからで、じゃあカリキュラム刷新により上級生からのアドバイスを得られなかったのは懸念すべきことなのかというと、どうもそうじゃないということが分かりました。

どういうことかというと、そもそもNPIは学術的な内容じゃなくて、「どうしたらさぼれるか」(超意訳)みたいな、非学術的なものが多いということが分かりました。また、学術的な内容であっても、それはカリキュラムに依存するものではありませんでした。

さらに、情報を受け取る下級生は、アドバイスを歓迎する一方で、頼り切っていない、つまりある程度「眉唾物」(これも超意訳)だと思っていました。


つまり、上級生からのカリキュラムに関する「引継ぎ」は、カリキュラムが変わると失われるが(多分ここまでは研究者の想定の範囲内)、そもそもその引継ぎはあまり教育的なものではないし、受け取る学生も歓迎しつつもどうせ大した内容じゃないとおもっている、ということに気づいちゃった、ということです。


自分の学生生活を振り返って考えるに、自分も自分の周りもそうだったよな、という内容でした。質的研究で、深く洞察すると、思いもがけない結果が得られて面白い、という意味で示唆に富む研究だなと思います。