育児を経験して,授乳中の乳房トラブルはこんなに多くて大変なのかと,恥ずかしながらはじめて気づきました.
育児の経験があったからこそ,時々外来や救急でやってくる授乳婦の乳房トラブルについて一定の対応ができるようになったと思いますが,いつまでも経験則だけで対応するわけにはいかないので,しっかり学習しようと思います.
BMJ Practice の要点だけざっくりまとめます.
Identifying the cause of breast and nipple pain during lactation
●初産婦の70%以上が、産後1週間で乳頭や乳房の痛みを訴える.多くは哺乳の問題による乳頭痛.やっぱり頻度は多いのですね.
●乳頭痛の鑑別
・不適切な哺乳
・乳児の口腔解剖学的構造:非対称な顎や制限された前歯(舌小帯)、または吸啜時の口腔内の過剰な真空状態
(このあたりの問題は,当たり前ですが乳児を診察しないと判断できないですね.家庭医としては,舌小帯,鵞口瘡,ヘルペス性口内炎の有無は確認しておこうと思いました.)
・母乳を出す技術の問題:大きく加えすぎ,圧力が高すぎ,長すぎ
・乳頭の出血/白斑
表面的な炎症性のフィブリン病変で、乳頭先端に白斑として現れ、乳頭の開口部を塞ぎ、軽度から重度の乳頭の痛みを引き起こすことがある→閉塞につながることも
(これ,かなりコモンですよね.フィブリンだったのか.初めて知りました.)
→自然軽快することも多いが,長引くなら滅菌針で除去する.また,症例報告レベルだが,少量の強力ステロイド軟膏を毎日塗布し、吸収率を高めるために授乳の間にクリングフィルムラップで覆うとよいかもしれない.
・乳頭血管痙攣/レイノー病
痛みの主な原因となりうる。痛みや乳首の外傷(損傷した乳頭や鵞口瘡)に対する二次的な反応である場合も。通常、手足が冷たくなる血行不良の人に見られる。
(知らなかったです.「冷え症」かどうか聴取することが大事とのこと)
・乳頭皮膚炎
アトピー性皮膚炎、刺激性皮膚炎(乳首クリームや乳児の口腔内の食餌残渣による)、接触性皮膚炎(乳房パッドによる)、乾癬など
・細菌性乳頭感染症
24時間以上経過した乳頭の損傷には、一般的に黄色ブドウ球菌が繁殖している。
・陥没乳頭
稀なケース。乳頭の先端が折れ曲がっていると、折れ目の内側の皮膚が傷つきやすく、浸食されてしまうため、痛みが続くことがある。
・単純ヘルペス感染
感染源から乳頭/乳輪に感染が移った場合に発生。保育園で乳児がもらったヘルペス性口内炎から感染することも。
・カンジダ
外陰部カンジダはリスク因子.産後に抗菌薬が使われている場合もある.ただ,何でもかんでもカンジダとしてはいけない.
●乳房痛の鑑別
・乳汁鬱滞(engorgement)
産後2~10日目で母乳が急に作られたとき、授乳を急にやめたとき、乳房から母乳を取り出さずに何時間も経過したときなど。
(早期の育休復帰で必発するという印象があります)
・乳管閉塞
痛みは通常、授乳後に軽減する。乳房炎を引き起こす可能性がある
・乳腺炎
非感染性の場合もあるが(例:乳児が初めて夜通し寝たとき)、特に乳首に損傷があり、細菌が乳房組織に侵入した場合、感染症に移行することがある。カサカサした紅斑がでれば黄色ブドウ球菌の所見かも.
・乳房嚢胞(galactocele)
液体または母乳の詰まった乳房内嚢胞.圧痛のある腫れ/しこりとなる.
(痛みのあるしこりはすべてが乳腺炎ではないということですね)
・乳房への外的外傷
乳児に足で蹴られたなど
●ただしい授乳の姿勢
・乳児が乳首ではなく乳房にしがみつくように、大きく口を開けて乳房に向かい、母親に密着して抱っこされている.
・母親が胸部を回転させたり屈曲させたりするような不適切な姿勢をとっていないか確認する。母親はデッキチェアのように少し後ろに寄りかかり、足を床につけたり支えたりして、肩は左右対称でリラックスしている必要がある。
・母親が乳児を乳房に近づけているか(乳房を乳児に,ではなく)、乳児のあごが乳房に押し付けられていて、鼻が空いているかどうかを確認する。乳児の鼻が乳房に埋まっている場合は、乳児の尻を近づける.
・乳児の頬は丸く(吸い込まれていない状態)、顎は飲み込むときに開閉する
・最初の吸引は母乳が下がるまで素早く行い、その後はリズミカルに吸引する。
・乳児の口から出た直後の乳首が白く、変形している(平らになっている、しわになっている、尖っているなど)場合に,接着不良を疑う
●痛みが出るタイミング
・授乳開始時にのみ生じる痛み
通常、乳頭の解剖学的構造や乳児の解剖学的構造に関連した、最適ではない付着による乳頭の外傷
・授乳後の痛み
乳頭の血管攣縮、白斑による管の閉塞と局所的な管の攣縮、または乳房鵞口瘡
・授乳後に経験する痛み:乳管閉塞
●ピットフォール
・まずは哺乳方法の問題を考える
・痛みが灼熱感と表現されても、カンジダとすぐに診断してはいけない
・舌小帯異常の過剰診断に注意する.正常な口腔解剖が舌小帯短縮と診断され、不必要なリリースが行われていることがある
・複数の要因がある可能性を認識する
・管理方法が症状の一因となっている可能性を認識する(例:乳首外用剤の使用による二次的な刺激性皮膚炎、小さすぎる乳首シールドやポンプフランジによる外傷、強すぎる乳房マッサージ)
・母親の健康状態だけでなく、乳児の成長と健康状態を評価する。
・乳房の痛みや乳房の痛みの認識が母乳育児とは無関係である状態に注意する。(線維筋痛症、筋骨格系の緊張、母乳育児に対する嫌悪など)