2021年6月22日火曜日

男性の病気と思われている冠動脈疾患におけるpatient journeyとその男女差

Kreatsoulas, C., Taheri, C., Pattathil, N. et al. Patient Risk Interpretation of Symptoms Model (PRISM): How Patients Assess Cardiac Risk. J GEN INTERN MED (2021). https://doi.org/10.1007/s11606-021-06770-0


背景

冠動脈疾患は "男性の病気 "であるという認識がある一方で、心臓のリスク評価に影響を与える要因や、性別による違いについてはほとんど知られていない。


目的

1) 心疾患のリスク評価の複雑さを、患者中心の視点から質的に捉える。2) リスク評価が性別によってどのように異なるかを探る。3) 新たなサンプルを用いて、質的な知見の妥当性を量的に検証する。


デザイン

本研究は2部構成で行われた。1)半構造化in-depth面接を音声録音し、逐語的に書き起こし、修正グラウンデッド・セオリーを用いて分析した。(2)調査結果を定量的に検証するために、別のサンプルで出現したテーマを調査した。差異は、両側 t 検定と kappa を用いて推定した。


対象者

CADの疑いで初めての冠動脈造影検査を受けるために紹介され、過去に1回以上異常な検査所見が出た参加者を第三次医療機関から募集した。


主な施策

パート1では、患者を中心としたテーマが導き出された。パート2では、患者は複数の時点で自分の症状が心臓に関連している確率を推定した。


結果

パート1では、男性14名、女性17名(平均年齢=63.3±11.8歳)が参加した。第2部では237名の患者が参加し、そのうち109名(46%)が女性であった(平均年齢=66.0±11.3歳)。パート1では、患者のリスク評価が3つの段階に分かれることが明らかになり、それらをIshikawaのフレームワーク「Patient Risk Interpretation of Symptoms Model(PRISM)」を用いて把握した。パート2では、PRISMの結果が検証された。患者は時間の経過とともに自分の症状をCADに起因するものと考える傾向が強まったが(フェーズ1とフェーズ3:21%と73%、p<0.001)、女性は男性よりもフェーズ3までに症状を心臓に起因するものと認識する割合がわずかに低かった(女性67% vs 男性78%、p=0.054)。


結論

患者のCADリスク評価は発展するものであり、女性は男性よりもリスクを過小評価する傾向がある。PRISMは,患者中心のケアを最適化するための臨床的な補助手段として使用できる可能性がある。今後の研究では,異なる臨床環境におけるPRISMの検証が必要である。


感想

時々,圧倒される論文に出会いますが,これがまさにそうです.

RQは大きく2つ「冠動脈疾患の診断がつくまでのpatient journeyは何か」「冠動脈疾患は男性の病気であると思われていることを考えると,女性の患者には女性特有のpatient journeyの複雑さがあるのではないか」だと考えました.

まず,冠動脈疾患患者が病院を受診し検査を受け診断が確定するまでのpatient journeyを記述し,3つのフェーズ(受診したほうがいいよなと思うまで,実際に受診するまで,冠動脈造影を受けるまで)でどのようなことが起こったのかをfishbone diagramにまとめています.そのうえで,男女を比較し相違点を探っています.ここまでが質的分析で,さらに量的な妥当性の検証を行っています.各フェーズで「自分の症状が冠動脈疾患に由来するものであると思っていたか」を尋ね,女性で自分の症状を冠動脈疾患のせいだと思わなかった割合が(統計学的有意差はありませんが)低い傾向にあることを示しています.

この研究結果がどのように臨床に応用されるかについても,論文中に書かれています.以下,引用です.


フェーズ1:医師は、患者の冠動脈疾患のリスクに対する認識と、実際の臨床リスクとの間に不一致があるかどうかを調査すべきである。医師は、医師の診察までの時間や病院到着までの時間を短縮するために、冠動脈疾患のリスクを高めるものや冠動脈疾患に関する症状について患者を教育する必要がある。


フェーズ2:医師は、適時性、共感性、ベッドサイドマナーの向上に努め、患者の満足度を高めるために、医療システムにおける患者のナビゲーションを改善することを支援すべきである。


フェーズ3:医師は、患者の心理社会的ウェルビーイングをサポートし、ライフスタイルの変化や前向きな考え方を促進し、患者のサポートシステム(家族や地域のリソース)との連携を深めることで、治療継続に良い影響を与えることができる。動機付け面接などのエビデンスに基づく手法は、このプロセスを促進する可能性がある。


男性の病気と思われている冠動脈疾患のpatient journeyにおける性差に目をつけるのも素晴らしいと思いますし,説明的順次デザインで多角的にjourneyの内容を検討し,さらに臨床医への提言まで踏み込んでいるところが,素晴らしいと思いました.

こんな研究してみたいです.


受診,検査,診断確定までの経過に着目したpatient journeyの研究を,もし自分がするなら,どうしようかなと考えます.

診断がつきづらい疼痛をきたす良性疾患(slipping rib syndrome,やACNESなど)の患者にインタビューして,care-seekingの複雑さや診断がついたことのインパクトについて探索すると面白そうだなと思いましたが,そのような患者さんに出会うのが大変そうですね.