2021年10月8日金曜日

がん治療中の生活空間


Wong ML, Shi Y, Smith AK, Miaskowski C, Boscardin WJ, Cohen HJ, Lam V, Mazor M, Metzger L, Presley CJ, Williams GR, Loh KP, Ursem CJ, Friedlander TW, Blakely CM, Gubens MA, Allen G, Shumay D, Walter LC. Changes in older adults' life space during lung cancer treatment: A mixed methods cohort study. J Am Geriatr Soc. 2021 Oct 5. doi: 10.1111/jgs.17474. Epub ahead of print. PMID: 34611887.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17474?af=R


家庭医として、私自身ががん治療をすることはあまりありません(前立腺がんのリュープロレリンくらい)ですが、がん治療中の患者の家庭医として診察することはとてもよくあります。たいてい外来1単位で平均1人くらいはいるかもしれません。

がん治療を受けている人は、外出しなくなったり、家で寝ていることが多くなったりするというのは、臨床的に感じていました。「がん治療中の患者の生活空間」について、ちゃんとRQにまで昇華して、混合研究で多角的に分析している、とても素晴らしい研究です。


65歳以上の進行性非小細胞肺がん(NSCLC)の患者で、緩和化学療法、免疫療法、標的療法を開始する患者を対象にコホート研究を行いました。

治療前、治療開始後1、2、4、6カ月目に、Lite-Space Assessment(LSA)を含む老年医学的評価を行いました。混合効果モデルを用いて、治療前のLSA、0~1ヵ月後の変化、1~6ヵ月後の変化を調べています。さらに、治療前、2カ月目、6カ月目に半構造化インタビューを行い、量と質の統合を行うために縦断的なLSAスコアと例示的な引用文を並べた共同ディスプレイを作成しています。共同ディスプレイとは質的データと量的データの関係を視覚的にわかりやすくしたもののことで、ぜひ本文を読んでいただければと思います。


重要だと思った結果を簡単に示します。

①高齢のがん患者は、治療前から生活空間が狭い。

②治療前の不安が、治療後の生活空間の縮小と関連する

②化学療法と同程度に、免疫療法や標的療法でも生活空間が縮小する

④生活空間が狭くなるのは、様々な要因による(免疫力低下しているので感染が不安など)

⑤適切な介入は移動低下を防止する可能性がある(車いすの利用など)


いままでがん治療中の患者を「この人の生活空間は狭くなっているのだろうか」という視点で見たことがなかったのですが、とても臨床的に重要な問いですよね。

臨床医として論文を読むことの意義は、このように見落としていた視点を知り、診療を深いものにすることだと思います。