米国では、高齢者の20人に1人が家に閉じこもっているとのことです。
日本でも閉じこもりの高齢者は多いという肌感覚があります。
コロナ禍で、この傾向はさらに悪化すると思われます。個人的には、育児も高齢者も身内にいる者としては、コロナ禍は、様々な機会の喪失に直結していると感じています。
障害や疾患のある高齢者にとって、閉じこもりはQOL低下と関連しています。
どのような人がどの程度閉じこもりになるのか、あるいは、閉じこもりからの脱却はどの程度起こるのか、それが認知症患者ではどうか、をしらべたのがこの論文です。
米国における高齢者の全国的な縦断研究であるNational Health and Aging Trends Study(NHATS)の、2011~2018年のデータを用いて同定した、地域に住むメディケア受給者(≒高齢者)6375人が研究参加者です。
対象者の自己申告をもとに、対象者の状態を非閉じこもり、準閉じこもり(自宅を離れるが困難または助けが必要)、閉じこもり(ほとんどまたは全く自宅を離れない)、老人ホーム居住、死亡と分類しています。
そして、各状態間の移行の確率を,マルチステートマルコフモデルを用いて評価しています。
マルコフモデルについて私が理解しているのは、「次にどのような状態になるかは現在の状態のみに依存し、過去の状態には依存しない」ということのみです。詳しくは本文並びに成書をご参照ください。
この結果、閉じこもり状態にいる高齢者が1年後も閉じこもりである確率は半分以下であることが分かりました。その理由として、4人に1人が死亡していることが多いと思われます。老人ホームに移る確率は3%と低かったです。
患者に認知症があることは、非閉じこもりから閉じこもり状態へ移行するリスクの上昇と関連していました(HR:1.01-3.34)。認知症があると、閉じこもりから死亡への移行のリスクが2倍増加するなど、死亡の増加と一貫して関連していました。そして、認知症の閉じこもり患者は、5年以内に死亡する確率が25.8-48.1%であるのに対し、認知症でない患者では13.7%-24.3%でした。
以上より、認知症のある高齢者は閉じこもりに移行するリスクが高く、さらに閉じこもりに移行すると死亡するリスクが高くなることが示されました。そもそも、閉じこもりの高齢者は1年で1/4が死亡するというのが驚きでした。
(認知症+)閉じこもりはハイリスクであるという観点をもつと、普段の診療での患者評価が変わっていくと思います。良く出会う事象ですし母数も多いので、非常にインパクトの高い研究だと思いました。