2021年9月28日火曜日

アドボカシーってなに?


アドボカシーはSDHに関する教育・研究の文脈でよく登場します。

ですが、言葉だけで実質が伴っていないことが多いと感じています。

アドボカシーが大事って言っておけばいいだろう、みたいな。

アドボカシーが大事ということがアドボカシーになっている感があります。


最近、アドボカシーにまつわる研究を立て続けに読んだので、一部面白かったものを紹介します。


①Griffiths EP, Tong MS, Teherani A, Garg M. First year medical student perceptions of physician advocacy and advocacy as a core competency: A qualitative analysis. Med Teach. 2021 Jun 21:1-8. doi: 10.1080/0142159X.2021.1935829. Epub ahead of print. PMID: 34151706.


この研究では、医学部1年生がアドボカシーをどのように定義しているか、アドボカシーを行う動機や予想される課題、アドボカシーをコア・コンピテンシーとすべきだと考えているかどうかを調べています。書面での回答を質的に分析(content analysis)しています。


結果として、学生は、「医師は個々の患者のためにアドボカシーを行うべきである」というコンセンサスを共有していたものの、すべての医師が社会レベルのアドボカシーを行うべきかどうか、また、それを医学部のコア・コンピテンシーとすべきかどうかについては、一致していませんでした。


私が興味を持ったのは、医学生がアドボカシーを実施する際の課題を予想していたことです。

多忙さやスキル・トレーニング不足のほかに、

医師がアドボカシーを行うことで医療が政治的なものになるのではないか

自らの権力を不当に高めるためにアドボカシーを悪用する医師もいるのではないか

という懸念を表明していました。


②Endres K, Burm S, Weiman D, Karol D, Dudek N, Cowley L, LaDonna K. Navigating the uncertainty of health advocacy teaching and evaluation from the trainee's perspective. Med Teach. 2021 Sep 27:1-8. doi: 10.1080/0142159X.2021.1967905. Epub ahead of print. PMID: 34579618.


カナダのオンタリオ州の医学部のカリキュラム文書におけるアドボカシーの記載を検討し、さらに研修医と指導医にインタビューを行っています。


カリキュラム文書の目的があいまいで評価方法も不明確であること、そのために、アドボカシーの重要性が過小評価されているように見え、臨床学習から切り離されているように見えること、そのため研修医が学習の関心を他の場所に移していることが分かりました。


カリキュラム上で焦点が当たっていないために、アドボカシーは価値がないという認識が生まれ、興味がある研修医でさえアドボカシースキルの開発を躊躇していることが述べられています。


①②の研究は、医師(医療者)がおこなうアドボカシーとは何をすることなのか、ということが明確に示されていないことによる問題点を述べています。


では、具体的にどうしたらよいのでしょうか。


③Hollister BA, Yeh J, Ross L, Schlesinger J, Cherry D. Building an advocacy model to improve the dementia-capability of health plans in California. J Am Geriatr Soc. 2021 Sep 2. doi: 10.1111/jgs.17429. Epub ahead of print. PMID: 34476815.

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.17429?af=R


カリフォルニアで2013年から18年まで行われた、認知症Cal MediConnect(CMC)プロジェクトの内容と影響について述べられています。


以下のステップでアドボカシーを行っています。

(1)システム変革の指標となる認知症対応のベストプラクティスを特定する

(2)システム変革の指標となる公共政策を特定し、活用する

(3)チャンピオンを特定し、参加させる

(4)認知症ケアを改善するためのビジネスケースを作成し、提唱する

(5)認知症対応のプラクティスのギャップを特定する

(6)認知症対応のプラクティスのギャップを解決するための技術支援、ツール、スタッフトレーニングを提供する

(7)システム変革を追跡する。


これにより、認知症患者とその介護者のケアを向上させるシステムの変化がもたらされたことが述べられています。


③の研究ほどしっかりやるのはハードルが高いかもしれませんが、一つのbest practiceを示している点でとても重要な論文だと思います。


私にとってのアドボカシーは、症例報告を書いたり、商業誌や単行本の原稿を書いたり、レターを書いたり、ワークショップを開いたり、研究したり、路上生活者の夜回りをしたりです。

今回紹介した論文を読んで、もっと体系的に活動しなければいけないと感じました。