2014年11月29日土曜日

NEJM Case37-2014



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

かいつまんでまとめてあります。全文を読みたい方はこちらへ。


いつもは、

前半の症例提示を読む→鑑別を考える→問題篇と解説篇前半作成
→後半の解説を読む→解説篇後半作成

としているのですが、今回は症例の特性上、問題篇、解説篇にわけずにやります。



Case 37-2014
An 35-Year-Old Woman with Suspected Mite Infestation


【患者】35歳女性

【主訴】搔痒を伴う紅斑、本人は寄生虫のせいと思っている

【現病歴(おおざっぱに)】
2週間前に不眠が出現。

10日前、白い“ブツブツ”がみえだした。それはダニかシラミであり、皮膚やシーツ、服から出てきて這いまわる。あわせて、搔痒を伴う紅斑が出現。精神科医に受診。精神症状と紅斑、HCV感染の既往から晩発性皮膚ポルフィリア(伏字にしておきます。何でしょうか?)を考えて皮膚科に紹介受診。

3日前、クロナゼパムがなくなり、不安症と不眠が増悪。15ヶ月の息子の頭蓋骨から“虫”が出てきて、皮膚を這ってオムツの中に消えるのが見えた。この虫をのけようと、自分の皮膚と子供の皮膚をひっかいた。

1日前、息子を連れて他院救急受診。ツメダニ症疑いで硫化セレン入りシャンプーを使うよう言われた。子供と一緒に帰宅。

当日朝、子どもをお風呂に入れているときに、子どもの頭皮が赤くなって泣きだしたために、当院救急受診。自分の皮膚に虫がいると訴え、その部位を指し示そうとする。自分には寄生虫が感染しており、“モルジェロンズ病”にかかったと主張している。助けてくれと訴えている。思考過程は固執性で時に脱線する。時々自分の体をかきむしっている。不眠以外のうつ症状を訴えない。

思春期の時から自分の皮膚をつねる癖があり、それをすると落ち着く。
4か月前、MRSAの顔面部膿瘍ができたが、ST合剤経口で改善。
息子もMRSA関連皮膚感染になったことがあり、抗菌薬治療後、Clostridium difficile大腸炎で入院した。

大うつ病に罹患しているが、現在は寛解状態である。鬱状態の時に幻覚や幻想などの精神病症状はなかった。
睡眠薬、オピオイドの依存あり。時に違法アンフェタミンを使う。ここ数日の間に60mgのアンフェタミンを使用した。


【既往歴】HCV感染(2年前)、ざ瘡、大うつ病、薬物依存、憩室炎、腎結石、十二指腸潰瘍穿孔(4年前、手術した)

【服用薬】ブプレノルフィンとナロキソンの配合薬(8mg舌下を1日2回、20mg/日が処方されている)、クロナゼパム(0.5mgを1日3回、3日前に切れた)、オメプラゾール

【アレルギー歴】なし

【生活歴】飲酒なし。昔オキシコドンを注射で使っていたが、子どもが生まれてからはオピオイドは使っていない。2年間無職で、フードスタンプなどの社会保障で生活している。

【家族歴】母方のおばが統合失調症。母親は、患者が子供のころに自殺未遂をしたことがある。

【身体所見】
General appearance:協力的、心配している、身なりはだらしない、皮膚の病変を指し示している。
血圧141/95mmHg、脈拍100bpm・整、体温と呼吸数は正常。見当識正常
顔、腕、足に擦過創あり、背中の中央にはなし。他の身体所見は正常。

【血液、尿所見】尿検査でアンフェタミン陽性。その他は特記事項なし。



このような病態を
delusional parasitosis というそうです。

primaryもありますが、secondaryの原因には

神経変性疾患
HIVその他感染症
ビタミン欠乏
内分泌疾患
薬物離脱
薬物中毒

などがあるそうです。


アルコール離脱で虫の幻覚があるのは有名ですが、
その仲間と考えていいのでしょうか。


この症例では、アンフェタミン精神病と診断されていました。


患者は、リスペリドン、クロナゼパムの内服と認知行動療法で退院。

その後、治療プログラムを通して長期に関わり、薬物依存から脱却、

息子のためというモチベーションが強く、頑張って回復しているそうです。



モルジェロンズ病(Morgellons disease)

初めて聞いたのですが、いわゆるトンデモ医学ですね。
興味のある方は検索してみてください。僕は頭が痛くなりました。

自分はモルジェロンズ病と思っている方の多くは
delusional parasitosisではないか、と解説にはありました。


トンデモ医学を垂れ流す輩は
善意悪意に関わらず厳しく糾弾されないといけないと思いますが、

「原因不明」「治らない」と言われて苦しんでいる患者さんが
この手の情報につかまってしまうことは多いですね。