問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。
Case 38-2014
An 87-Year-Old Man with Sore Throat, Hoarseness, Fatigue, and Dyspnea
まずは主訴でもある嗄声について考えました。
病態は、声帯か、球麻痺か、迷走神経障害。
球麻痺だと呂律が回らない、嚥下障害などが出るはずです。
顔面腫脹を伴っているので、嗄声は声帯浮腫によるものでしょう。
顔面腫脹、眼窩周囲の浮腫に関しては
最初は上大静脈症候群かなと思ったのですが
画像検査で縦隔腫瘤影なく
また体重増加を伴っているので
全身の浮腫によるものだろうと考えました。
UpToDate‐Clinical manifestations and diagnosis of edema in adults
にはこのように書いてあります。
Periorbital and scrotal edema are localized forms of edema that can be seen in systemic edematous states but should not be the sole manifestation of edema in these disorders.
また、「内科診断学改訂第17版」(南江堂)には
上大静脈症候群は「顔面浮腫、チアノーゼ、頸静脈怒張をきたす」とあります。
やはりこのケースには当てはまりません。
この本によると、急性糸球体腎炎の浮腫は眼瞼にとどまることが多く、
ネフローゼ(特に微小変化型)では浮腫が高度、目を開くことができないほどになり、顔面は蒼白、
心不全では顔面腫脹に合わせてチアノーゼ、頸静脈怒張をみることが多いそうです。
また、腫瘍などによる両側頸静脈閉塞では顔面全体に強い浮腫(開眼、開口障害を伴うこともある)が生じてくるそうです。
声帯浮腫を伴う全身浮腫、CK著名高値という点でピンときました。
コントロールされていた甲状腺機能低下症が、何らかの要因で悪化したのではと考えます。
87歳男性で、数年前に妻と死別して独居、そしてpolypharmacy。
なんとなく生活が目に浮かびます。
このケースを読んで、藤沼康樹先生のブログのこの記事を思い出しました。
事例:75才男性 72才の妻と二人暮らし
問題リスト
1. 糖尿病・高血圧 A内科医院(糖尿病専門医)にて経口血糖降下剤処方
2. 心房細動 B病院循環器内科にて抗凝固薬処方
3. 変形性膝関節症 C整形外科医院にてNSAIDS処方及び物理療法
4. 皮脂欠乏性湿疹 D皮膚科医院にて軟膏処方
5. 白内障 E眼科医院にて保存的治療
そして、ものわすれがひどいことが気になり、F病院神経内科受診する予定。
(リンク先記事より引用)
私も実習で経験した例として、
腹痛で入院した患者さんが、便秘と下痢の薬を両方飲んでいた、ということがありました。
「Dr.宮城の白熱カンファランス」(羊土社)のp.70に
poly-pharmacyについてのコラムがありました。
5種類以上の内服と定義することが最近は多いのだとか。
prescribing-cascadesという言葉も初めて知りました。
「医療機関受診者のうちpoly-pharmacyに起因するものはプライマリケア領域では27%に上るとされており、またそのうち42%が予防可能であった」
「高齢者の薬剤の有害事象による入院のうち、88%は予防可能であった」
(全て上記コラムより引用)
と、ここまで考えたうえでケースの続きを読みました。
…やはり診断は甲状腺機能低下症でしたね。
なぜ甲状腺機能低下症が悪化したのか、
Discussionされていた可能性は以下の通りです。
1. levothyroxineを服用していなかった。
2. 服薬が複雑でちゃんとできなかった。
3. コーヒー、食物繊維、カルシウムなどと一緒に服用して吸収阻害が起きた。
添付文書には、併用すると血中濃度が下がる薬剤が並んでいます。
鉄剤と一緒だと吸収低下は、ハリソン問題集に載っていました。
実際は、服薬指導が複雑になってしまったために
患者さんがlevothyroxineを服用しなくてよいと勘違いしていたようです。
甲状腺機能低下症があると、スタチンによる横紋筋融解症が起きやすいみたいです。
CK異常高値に寄与しているのかもしれませんね。
解説では、polypharmacyやpolydoctorの害について詳しく書かれていました。
この患者さんが飲んでいた薬の外観が写真に載っており、非常に興味深かったです。
こりゃ間違えるわ。
このケース、ぜひご一読をおススメします。