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2018年8月1日水曜日

糖尿病治療中断をどうとらえるか


糖尿病があり定期通院を中断していた患者さんに出会う機会が相次いだので,Clinical Jazzで振り返りました.

Clinical Jazzについて,詳細はこちらを.
(日本プライマリ・ケア連合学会誌 33:322-325)

そしてこの本は必携です.


ブログでは「文献検索」のところだけを抜き出します.

文献1. 2型糖尿病患者における通院中断に関連する心理社会的要因

対象:糖尿病専門クリニックを1年以上通院している患者686名
うち有効回答者は350名.
そのなかで25人が1年以上の通院中断者であった.
中断者は平均年齢が低く・糖尿病歴が短かったので,その2因子で マッチング(中断者1人-継続者3人) を行った結果,中断者は以下の要素を持っている割合が多かった.
 ・自覚症状がある
 ・結果期待が低い
 ・体に気を配らず, 体重や血糖値を意識していない
 ・職場での配慮や病気に対する理解や支援者がいない
 ・ 趣味など生活全般が悪くなっている

結論:糖尿病患者の意識に関する教育のみならず,社会的支援環境整備のための対策が必要である.



対象:かつて通院を中断し,現在は通院している2型糖尿病患者15名
エスノグラフィーで質的分析を行った

結論:通院再開は,通院中断を「後ろめたさ」,通院再開を「きっかけに依るひとつの出来事から始まるやり直し」と意味づける体験である


通院再開が「きっかけに依るひとつの出来事から始まるやり直し」と意味づけられる
というのが非常にしっくりきました.なるほどですよね.
こういう発見があるので質的研究は面白いです.


2018年7月12日木曜日

読書録:社会疫学と総合診療 (ジェネラリスト教育コンソーシアム)




遅ればせながら、出張の機内で読了。
社会疫学の知見を日常診療に実装するための理論と実際を知り深めるために重要な論文集です。

自らの日常診療を振り返り、到底足元にも及ばないなと言う忸怩たる思いと、
社会疫学についてもっと学習しなければという焦りを抱きました。

研究を進めていく上でのリファレンスとしても有用だとおもうので、さらに勉強していくとっかかりになります。


2017年3月14日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 8 final)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.


最終回です。推奨のつづき、地域の現場で何をするべきかがまとめられています。



地域診療の場で

 以下の推奨文は、貧困の中で生活する子どもが健康で元気でいるのに小児科医が個人としてどのように支援できるかを扱っている。貧困家庭が直面する複雑な課題を認識するメディカルホームにしていくには、個々の世帯を特徴づける危険因子と防御因子の両方を臨床家の立場で調査し収集することが必要である。

・貧困の中で生活する家族のニーズを認識しそれに気づくメディカルホームを構築するべきだ。どの家族も子どもに最良の資源とケアを提供したいと考えているが、経済的障壁がその妨げとなりうる。ケアチームと診療所のすべてのメンバーが、貧困家族が直面することが多い問題について知っておくべきである。外出における障壁、過酷な勤務スケジュール、経済的問題との戦いといった問題を認識することで、診療所は家族と効果的に意思疎通を行いそばに寄り添うことができる。母性抑うつの認識といった感情面での家族ケアは地域の小児科医が診療する範疇であり、有害なストレスが子どもに与える影響は小児早期での支持的で安定した関係性を保つことでの健康により軽減することができると理解することで、貧困家族に統合されたケアを提供する高度なメディカルホームが活気づく。

・患者が診療所内にいる間に健康の社会的決定要因内の危険因子をスクリーニングするべきだ。診療所では、食事、住居、防寒などの基本的ニーズについて簡単な記述式スクリーニングツールを使ったり直接家族に質問したりすることができる。基本的ニーズのスクリーニングにより、家族が経験した困難のうち明白なものにかぎらず気づかれにくいものも把握することができる。患者中心のメディカルホームがこれからも発展することで、ケアの調整者は貧困家族を必要な資源につなげることで地域の相談者としても役割を果たすことができるようになるだろう。

・インクレディブルイヤーズや前向き子育てプログラムといった精神保健介入とプライマリケアの統合に加えて、ヘルシーステップ、手を差し伸べる読書プログラム、ヘルスリーズ、VIPといった統合されたメディカルホームプログラムの実践を考慮するべきだ。これらのプログラムは、子どもにおけるレジリエンスを構築する能力と自信を両親につけてもらい、家族の逆境に対応する力を向上させる一助となる。輝かしい未来:米国小児科学会による子どもの健康管理のためのガイドラインでは、健康管理について最も広範な推奨を行っており、行動医学ヘルスケアを小児メディカルホームに導入し健康の社会的決定要因に取り組む戦略がこれを力強いものにしている。

・家族の力と防御因子を同定しそこに立脚すべきだ。貧困家族は多くの難題に直面するが、家族はそれぞれ力、能力、防御因子を有している。結合、ユーモア、支援ネットワーク、技能、宗教的・文化的信念といった家族内の防御因子を小児科医は同定しそこに立脚することができる。家族の力を基盤にした観点でアプローチすることで、小児科医は信頼を構築し、家族が子供の問題とケアに効果的に取り組む際に活用することができる財産を同定することができる。

・家族がまだ満たされていない基本的ニーズに対処し家族のストレス要因に手を差し伸べることができるように地域団体と協働するべきだ。小児科医は、まだ満たされていない基本的ニーズと貧困に関連したリスクを同定することで、家族を適切な地域サービスと公共プログラムにつなげることができる。鍵となるパートナーとしては、地方や国の保健衛生部門、法的サービス、ソーシャルワーク組織、食料提供所、信仰団体、地域開発組織も挙がるだろう。役に立つ革新的な経済リテラシープログラムを有している地域もあるだろう。診療所は、家族が子育て上の課題や他のストレス因子に対処する一助となる各地域の訪問事業プログラムや地域社会におけるメンタルヘルスサービス、親支援グループと手を携えることができるかもしれない。

・学習を促し学校でうまくやっていくための早期介入プログラムや学習機関にかかわるべきだ。教育の専門家は学業を通じて低収入世帯の子どもを支援する懸命な努力を行っていることが多く、食料配給プログラム、衣服支援、健診といった基本的ニーズを満たす動きに参画していることもある。小児科医は、早期介入プログラム、放課後プログラム、チュータープログラムや、学校区毎に提供される社会サービスだけでなく、このような動きに積極的に参加することができる。

・MIECHVプログラムを推進するべきだ。小児科医は各地域のMIECHVプログラムと、国レベル、地域レベルで親を訪問事業プログラムにつなげる方法に通暁しておくべきである。MIECHVは加盟している個々の報恩事業プログラムを絶えず評価し、うまく機能しているプログラムをレビューに載せることができることを小児科医とAAPは知っておくべきである。FCMHと訪問事業プログラムがより密に連携する機会は常に探求されるだろう。

・子どもの人生に父親が参画することを促す地域プログラムを支援するべきだ。小児科医は地域基盤型の父親参画促進にとって重要なサポート資源となりその重要性を訴えることができる。可能なら、同居していない父親も子どものケアのあらゆる場面でかかわるべきである。

・家族と子どものメンタルヘルスと発達に取り組む戦略を進めるべきだ。出産後1年間は毎回の診察時に母性抑うつのスクリーニングを常に実施し、抑うつが疑われる場合は適切な治療につなげることができるようになることを小児科医に強く推奨する。親の抑うつのスクリーニングやケア調整活動にそれぞれ金銭的対価をつけることもふくめて、貧しい地域社会におけるメンタルヘルスと行動医学上の問題に取り組む資源を増やすことを小児科医は代弁者として主張することができる。

・全ての子どもを支援し、貧困が子供の健康に与える影響を軽減する一助となる施策を訴えるべきだ。小児科医は、貧困の中にいる子どもと家族を援助する施策を訴える重要な役割を果たすことができる。小児科医は、生涯を通じての健康、社会、経済各面に影響を与える科学的根拠に基づいた健康への懸念として貧困をとらえなおすことで、貧困に関連した主張にユニークな訴えを追加することができる。


結論

 貧困やその他の健康に悪影響を与える社会的決定要因は子どもの健康に有害な影響を与え、米国における子どもの健康格差の根本的な原因となっている。この分野は急速に解明が進んでおり、特に貧困や関連する環境ストレスが慢性疾患のライフコースのみならず発達中の人間の脳に与える神経生物学的影響について顕著である。小児早期の貧困と大人になってからの健康状態との因果関係は周知されるべきであり、これを理解することは施策作成者、研究者、地域の小児科医の決定に影響を与える。幅広い能力を有するFCMH(家族中心メディカルホーム)が、子どもが貧困から受ける悪影響を小さくするために必要不可欠な資源であると見做すに足る科学的根拠がある。

 米国小児科学会は、米国における子どもの貧困は許容できないものであり、子どもが健康で元気でいるのに有害であると考えており、子どもの貧困をなくすために行動している。米国小児科学会は、政府、私的非営利組織、宗教団体、営利企業やその他の慈善団体にくわえてits state chaptersが、有効性が示されている現存のプログラムを支援したりさらに拡大したりすることで子どもの貧困をなくす取り組み、それ以外にも有効である可能性のある施策やプログラムを認識し、発展させ、推進していく取り組みを協力協同で成し遂げることを求める。米国議会は、1935年に社会保障法を可決し、1965年にはメディケア(訳注:貧困者を対象とした公的医療保険制度)を制定した。この2つの法律によって、高齢者の貧困は劇的に減少し、根絶間近である。今度は子どもの貧困を根絶する番である。同様の改革が望まれる。米国小児科学会は、この提言にあるポリシーを奉じ推奨を実行することで、政府、私的非営利組織、宗教団体、営利企業やその他の慈善団体とともに、米国での子どもの貧困を根絶するために協力協同の努力を惜しまない。



2017年3月7日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 7)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.


今回と次回で推奨をまとめます。まずは政策の大きな話しから。



推奨

 ヘルスケアシステムが質を改善しコストを抑える方向にますます注力しているなかで、低所得世帯の子どものケアを改善できるようにヘルスケア提供システムを再構築する新たな機会が生まれている。英国を含む諸国の施策決定者もまたこの方向に邁進するかもしれない。ケア調整とチーム基盤型ケアにインセンティブを与えることにより、患者中心・家族中心メディカルホーム(FCMHs)を通じて質の高いヘルスケアをより多くの子どもたちが受ける一助となることが期待される。メディカルホームは、地域の保健医療従事者などのヘルスケアチーム内のパートナーに依頼することで家族が必要だがまだ満たされていない社会的、経済的ニーズに対処する一助にもなりうる。先に述べたように、訪問事業はMIECHVが支援している。

 州単位での改革とヘルスケア提供システムの統合がなされている地域もあるが、それは集団に対する健康アプローチの推進になっており、健康な街づくりを推進する際の協働を主導している。ヘルスケア機関の協働相手としては、教育システム、社会サービス、信仰団体、地域開発組織も挙げられるだろう。ヘルスケア機関と地域資源の協働が進むことはすべての子どもたちにとって利益となることであるが、貧しく世帯収入の低い子どもたちにもたらされる利益は特に大きいものとなるだろう。


公共政策アドボカシーの場で

 貧困の影響を受けている子どもの健康を守り、家族が経済的に安定する支援をするために公共政策が果たすべき役割がある。この章以降で具体的に提言する推奨は、査読文献にくわえ、十分見込みがあり厳格な長期間の評価が進行中である予備研究において有効性が示されたものに基づいている。

・幼児に投資するべきだ。質の高い小児早期プログラムに資金を提供することは、投資として経済的に大きな見返りが期待できる。しかしより重要なことは、幼児の健康な発育を国家の優先事項として健康の社会的決定要因に取り組むことは、家族や地域社会が生涯にわたる健康を確立する一助となるのである。

・低収入で貧しい子どもを支援するのに不可欠な給付プログラムの資金を保護し拡大するべきだ。(早期)ヘッドスタートプログラム、メディケイド、CHIP、WIC、訪問事業、SNAP、学校給食プログラムをはじめとする健康な食事を提供できるプログラムや、育児と児童の発達のためのブロック補助金が資金提供しているプログラムといった、科学的根拠に基づいているプログラムに適切な資金を提供することで、子どもの健康と発達に投資すべきである。公共の給付プログラムの対象選定と交信のプロセスを効率化すべきである。

・子どもと親を同時に支援することに着目した2世代戦略を支援するべきだ。大人と子どもに着目したプログラム、施策、システムの調整と整理を進めるべきである。

・雇用を促進し親の収入が増えるような戦略を支援・拡大するべきだ。低収入の親の稼ぎを増やすプログラムは子どもに益となることが示されている。最低賃金の引上げ、教育プログラムや職業訓練プログラムにくわえ、EITC、児童税額控除、児童扶養家族税額控除といった、世帯収入増加の一助となる施策を支援すべきである。

・住居や公共空間を手に届くものとするような多地域インフラを改善する施策措置を支援するべきだ。健康で安全で手に届く住居に加え、安全な外の遊び場をすべての子どもたちに保証すべきである。

・健康格差を縮小するという目標をもって、質の高いヘルスケアをかかりやすいものにし、集団全体の健康を向上するインセンティブを創出するべきだ。質を改善しコストを削減する戦略には、健康に関連する医療分野以外の懸念(食事、住居、公共物など)に家族が取り組む一助となるようなケア調整ならびにチーム基盤型のケアが含まれるべきである。小児科医とヘルスケアシステムは、健康を改善し収入の違いによる格差を縮小する地域レベルでの戦略を推進するよう他の利害関係者とすすんで手を取り合うべきである。

・リスクのある家族に対する包括的なケアを支援するヘルスケアへの出資を促進するべきだ。全ての給付プランは、貧困世帯対象のメディカルホームにおける高度サービスをカバーしたものであるべきである。小児科医が提供するケア調整、チームによるケア、精神保健サービスへの取り組みはこのような高度サービスの例である。

・低収入あるいは家庭能力の乏しい世帯に住む子どもたちすべてを対象とする訪問プログラムに対し、国家は資金を全面的に提供するべきだ。国際医療協力局は19のプログラムを認定している。このプログラムには、看護師家族パートナーシップ、早期ヘッドスタート、健康な家族・アメリカ、先生としての親プログラムといった妊婦と5歳以下の子どもがいる家族を対象としたものが含まれるが、そうでなくてはいけないわけではない。

・ヘルシーステップ、手を差し伸べる読書プログラム、VIP、インクレディブルイヤーズ、メディカルリーガルパートナーシップ、前向き子育てプログラムといった有効な子育てと就学準備を推進する、メディカルホームでの統合されたケアモデルを支援するべきだ。メディケイドと教育資金提供期間の双方が、メディカルホームでの子育てと読み聞かせの推進を支援すべきである。

・国レベルでの貧困の定義と測定方法を改善するべきだ。FPLでは米国における貧困の広がりと深刻さを過小評価してしまう。SPMはFPLを改善した指標であるが、米国での貧困の広がりとそれが子どもと家族に与える影響を数字にして、有効策を発展させ推進していくにはさらなる研究が必要である。

・貧困が子どもに与える影響についてさらに深く理解し、子どもの健康を改善する介入を突き止めさらに洗練していくための包括的な研究アジェンダを支援するべきだ。貧困がどのように子どもに影響を与えるのか、貧困世帯を支援するのに有効なのは何か、得られた情報を用いて貧困層の問題を実際にどのように解決していくのかという問いに答えるより良い方法を探求する研究が必要である。


2017年2月28日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 6)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.





今回は家族丸ごと支援しよう、という内容です。



メディカルホームでの家族と親の支援

 小児メディカルホームとして設計されたプログラムにより、低所得世帯に対する低コストで集団を対象とした予防介入を行う機会を得ることができる。子どもと家族に備わっている防御因子に気付くことで、小児科医は健康増進のための対話において自分たちの強みに高リスクの家族における防御因子を評価する際によく使われる指標はFRIENDSナショナルリソースセンターが公表している。保護要因評価は、家族のレジリエンス、社会的つながり、愛着の質、子どもの発達の知識がいまどんな状態で、時を経てどう変わるかを評価する際に用いられる。

 貧困家庭のニーズに合うメディカルホームでは、逆境に立ち向かう能力を親に与え、ストレスの影響を緩和させることで、親は年少児のレジリエンスを促進する機会と資源を手に入れる。年少児のためのヘルシーステップは、マニュアルに基づくプライマリケア戦略であり、インクレディブルイヤーズとトリプルPは、行動保険学をプライマリケアに統合する取り組みである。これらのプログラムは、応答的な子育てを促進し、よくある行動面、発達面での懸念に対応することが示されている。手を差し伸べる読書プログラムに代表されるメディカルホーム内での早期リテラシー促進事業は、対照群と比べて読み方の学習準備を約6ヶ月早くする。くわえて、手を差し伸べる読書プログラムに参加している親は、そうでない親と比べて、子どもへの読み聞かせが4倍多く、また子どもと相互にやりとりしながら遊ぶことにより多くの時間を使っている。ビデオ交流プロジェクト(VIP)もまた、親子間の相互交流の道しるべとなることで家族の関係作りと子どもの社会発達を支援することに早期リテラシーを結びつけている。

 AAPは、メディカルリーガルパートナーシップのナショナルセンターモデルを推進している。このモデルでは、健康サービスに結びつく法的な援助を、特に貧困家庭に提供する。メディカルリーガルパートナーシップのパイロット研究では、法的なサービスを提供し、家族がセーフティネット機関と交渉する助けとなることで健康の社会的決定要因に立ち向かうことが、子どもの健康を改善し、不必要な緊急訪問を減らし、全体的に子どもを元気にすることが示された。

 ケア調整は、メディカルホームモデルの基本的なサービスであり、家族を地域資源に結びつけ、食料やエネルギーの確保といった生活の基本的な懸念に対応する省庁間の協働を支援することができる。ケアマネジメントをしっかり先導する一例が、強化型プライマリケア戦略であるヘルスリーズである。これは代弁者たる大学生のボランティアを動員し、先進的な資源マネジメント技術を利用する物である。健康に対する社会的障壁を減らすことを意図しており、実際にケアの調整を改善させ、低所得世帯が関連する社会サービスをより利用するようになる。


サービスが必要な家族を早期に同定する

 できるだけ早期に家族をサービスにつなげるために、小児科医は感度と特異度がどちらも高いスクリーニングツールを使うことができる。WE CARE surveyは簡潔な質問セットであり、小児科医が貧困に関連したストレスを経験している家族に気付く手がかりとなる。「すべての子どもたちに食事を確保しよう」というポリシーステートメントの中で、AAPは食事確保の不安定を検出する感度の高い2質問調査の使用を推奨している。また、「月末にお金をやりくりするのが大変ですか」という質問を1つすることで、地域資源につなげる必要のあるケースを98%の感度で小児科医が気付くことができるかもしれない。ここ1年で頻繁に引っ越している、または経済的理由で他の世帯と同居しているかどうかを尋ねることで、住居の不安定さがわかるだろう。

 支援が必要な家族を効果的に早期に同定することで、年少児に対する栄養補助、予防医療サービス、年齢に応じた学習の機会、親に対する社会経済的サポートといった予防サービスが促進される可能性がある。プログラムの評価は、様々な国、環境に置いてこのような多面的アプローチを行うことを支持している。ノーベル賞受賞の経済学者ジェームスヘックマンの分析によると、困難な境遇にいる子どもを対象とした早期予防活動は経済面で見返りが大きく、小児後期や成人になってからの予防効果と比べはるかに高いことが分かっている。例えば、ペリー就学前プログラムは、小児早期教育に1ドル出資することで平均8.74ドルの見返りがあると示されている。対象を絞った介入により、生みの親に限らず子どもにずっと関わる大人がおこなう応答的、養育的、認知面で刺激的、一貫的、かつ安定した子育てといった予防因子が充実する。関係性の健康を向上させる小児早期の体験は、安定型愛着、効果的な自律と睡眠、神経内分泌系の正常発達、健康なストレス応答系、発育中の脳の構造における良い変化をもたらす。ひょっとすると、最も重要な予防因子は、小児期の貧困が早期の脳や子どもの発達に与える有害ストレスの影響を和らげるものかもしれない。


思春期と、幼い子どもの親に対する介入

 最近になって、低収入世帯の貧困を減らし状況を改善させるための”2世代”戦略に注目がますます集まっている。2世代戦略では、質の高い介入を通じて低収入の子どもと親を同時に支援することを重視している。たとえば、2世代戦略では子どもが質の高い託児に入ると同時に親には職業訓練を提供するという具合である。この種のアプローチは子どもの発達を向上させるだけでなく家族の稼働能力を改善することが狙いである。低収入世帯に対するプログラムとサービスの調整を改善していくことが2世代戦略にとって不可欠である。

 最近の研究によると、忍耐力、共感能力、自己効力といった非認知的スキルは思春期になってからも磨かれるものであり、小児早期に涵養された認知スキルに立脚している。思春期におけるメンタリング、寄宿制訓練(ジョブコアなど)、職場を基盤とした実習プログラムなどの介入は、学業成績や就職率にくわえ、生涯にわたって非学術的な達成度合いも改善しうる。



2017年2月21日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 5)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.




いよいよ本丸。具体的なプログラムの説明です。
アウトカムをしっかり評価しているのが素晴らしいですよね。


包括的ヘルスケアへのアクセス

 メディケイド(訳注:貧困世帯対象の公的医療保険),児童医療保険プログラム(CHIP),そして患者保護並びに医療費負担適正化法(訳注:いわゆるオバマケアの中心となる法律)が提供・保護する多くの事項は,もしそのようなものがなければ医療にかかれなかったであろう貧困にいる子どもに大きな利益を与えてきた.貧困で無保険の子どもの割合は,1984年の約29%から70%減り,2013年には8%強になった.2014年の最初の3か月で,その割合はさらに6.6%に下がった.メディケイドかCHIPに登録している子どもは、無保険の子どもより予防医療を受ける割合が高いが、これは保険の範囲が広がったことでどれだけの益があったかを示している。加えて、CHIPは慢性疾患のある子どもの保険対象範囲を9.8%広げ、一般人口における無保険の子どもを6.4%減らしてきた。2009年では、CHIPプログラムは貧困に近医状況にいてプログラムの対象となる子ども全員に、内科的、外科的治療だけでなく歯科治療、メンタルヘルス、薬物乱用対策サービスを含む包括的ケアを受けられるようにした。


小児早期教育

 (早期)ヘッドスタートプログラムは連邦政府の資金で運営されており、年少の子どもがいる低所得世帯のための地域基盤型プログラムである。早期ヘッドスタートプログラムは妊婦と3歳までの乳幼児がいる世帯を対象としており、ヘッドスタートプログラムは3~5歳の就学前の子どもがいる世帯を対象としている。2011年度で、プログラムの対象となった子どもは90万人おり、70億の予算がついている。プログラムでは教育、栄養、健康、社会の各サービスが受けられる。(早期)ヘッドスタートプログラムでは、託児と就学前サービスに加え、妊婦教育、職業訓練と成人教育、住居と保険の獲得支援が受けられる。しかし、早期ヘッドスタートプログラムは現在のところ低所得世帯の約3%しか受けていない。2014年に制定された保育と児童発達の定額補助金法とそれによる予算計上では、託児所にいる子どもの健康と安全を確保するのに必要な新規の対応策に加え、低収入の勤労世帯に対する保育補助金と保育の質向上の資金も確保された。

 小児早期における介入は、人道的観点からも経済的観点からも見返りが大きいことが分かっている。ハイリスクな環境における早期介入が最も見返りが大きい。その理由が養育、刺激、影響を提供することで有毒なストレスの影響を和らげる事にあると考えられている。子どもにとっては、認知機能の向上、自律の向上、あらゆる領域における発達の促進といった利益がある。早くも2005年にはランド研究所が研究を行い、小児早期における介入に1ドル投資すると1.80~17ドルの見返りがあると分かった。就学前(生まれてから5歳まで)教育についてのより新しい研究では、補習のコストの低下、少年法の適用減少に加え、学業成績と就職成績の向上を基に推算して、投資の見返りは1年あたりなんと14%に及ぶとしている。


栄養面での支援

 女性,幼児,小児のための栄養支援プログラム(WIC)は,米国農務省のプログラムで連邦政府の支援を得ている.1974年に低所得の女性,幼児,小児の健康を改善する目的で設立されたことに端を発している.WICは,収入がFRLの185%以下である妊婦や産褥婦,幼児,5歳以下の小児に食料を提供するだけでなく,栄養教育,成長モニタリング,母乳栄養の促進と支援も行っている.

 WICは,妊娠と小児早期における発達のアウトカム向上に一役買っている.米国農務省による一連の報告によると,低所得の女性がWICに参加することで,未熟児の割合と幼児死亡率が減少し,妊婦ケアの参加率が増えた.母乳栄養の促進により,WIC参加者での完全母乳の割合と期間が大きく向上した.乳児期以降についての研究では,WICにより子どもの食事の質が向上し,微量元素の摂取量が増えたことで鉄欠乏性貧血が減少したことが示された.WICに参加している子どもは,同様の境遇だがWIC不参加の子どもと比較し,2歳時の精神発達評価のスコアが高かった.加えて,妊娠時に母親がWICに参加していた子どもは,母親が不参加の子どもと比較して読解能力の評価が高いことも示されている.SNAPは以前フードスタンプと言われていたものであり,低収入の個人,家族に栄養補助を行うために電子カードによる給付を行うものである.他の連邦プログラムと同様,利用可能かどうかは収入,年齢,世帯の大きさ,市民権で決まる.現在,4500万人以上の米国人が毎月SNAPの給付を受けていて,そのなかには約2000万人の子どもが含まれている.SPMでの評価では,SNAPによる恩恵により,再貧困世帯の子どもの貧困率が減少した(SNAPにより2000年とくらべ2009年で4.4%減少した)だけでなく,もっと重要なことに貧困の度合いも下がったのである.

 全国学校給食プログラムは連邦政府の資金によるプログラムであり、無料で朝食や昼食、そして限られた場合であるが夏の間の食事を学齢期の子どもに低コストで提供する。この連邦政府プログラムは、公立学校だけでなく非営利の私立学校にも食事と現金のインセンティブを与える。
提供される食事は米国人のための食生活指針に準じている。2012年では、毎日3160万人の子どもに低コストで無料の昼食が届き、コスト総額は116億ドルであった。FPLの130%以下の収入である世帯の学童は無料の食事を受けることができ、185%以下だと値引きした食事を受けることができる。最近の分析では、このようなガイドラインを用いることで、全国の公立学校の生徒の半数以上が無料あるいは値引きの食事を受けることが出来ると推定されている。

 WICやSNAPといった栄養面での支援は低栄養を対象としているが,肥満のような別の形態の栄養不良にも補助的プログラムが有効である.たとえば,就学前の子どもについての最近の研究では,ヘッドスタートプログラムに参加した子どもは連邦の助成金による食料の給付を受けていない子どもより入学時点でBMIが健康的であった.


訪問事業

 母子訪問事業(MIECHV)プログラムは医療費負担適正化法の一環として2010年に設立された.これにより,連邦政府,州,地方政府は高リスクの子どもに対する確立された訪問プログラムを実施する援助を受けることができる.MIECHVの目標は明確であり,母体と新生児の健康を改善することである.つまり,子どものけが,虐待,ネグレクト,栄養失調を予防し,救急受診を減らし,就学準備と学業成績を改善し,犯罪や家庭内暴力を減らし,世帯の経済的自立を促し,他のコミュニティの資源や支援の調整と紹介を活用することである.

 MIECHVは妊婦と5歳以下の子どもがいる世帯を対象とした介入のうちエビデンスに基づいた19のものを同定してきた.うまくいくエビデンスのあるMIECHVプログラムの1例として看護師―家族パートナーシップがある.まず低収入の母親が妊娠中に登録され,第2トリメスターの初期に妥当性の確認されたカリキュラムで訓練された看護した週一回その家を訪問する.高リスクの母親に対しての利害の比率は5.68:1と算出されている.



2017年2月14日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 4)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339

今回は税制のおはなし。取っつきづらいところです。


税制と直接的な経済援助

 給付付き勤労所得税額控除(EITC)は、低所得世帯の助けとなる払い戻し可能な連邦政府の税額控除である。EITCは低賃金労働者の雇用を促進し収入を補填することで貧困を取り除く一助となる。2012年時点で、25の州が連邦政府の控除を補填する州独自の控除を設定している。予算・政策優先度研究所の推定では、2011年において連邦政府のEITCにより310万人の子どもが貧困からすくい上げられた。EITCは母子家庭の就労を促進し、基本的な生活必需品に支出できる一助となっていることが示されている。さらなる研究により、EITCが乳児の健康を改善することが示唆されている。1990年代の控除拡大のもとで最も大きいEICTを受け取った世帯を分析すると、このような世帯では低出生体重の割合が低く、早産が少なく、出生前のケアが多いことが分かった。

 小児税額控除は、給与税は納めているが連邦政府の所得税の対象外である可能性のある低所得勤労世帯に租税還付を行う制度である。払い戻し可能なのは一部にとどまるが、このような直接的な現金給付は、2012年では160万人の子どもとその家族がFPL以上の収入を維持する一助となっている。まとめると、EITCと小児税額控除は子ども時代の貧困とその影響を抑える課税政策の代表的なものである。

 貧困家庭一時扶助(TANF)は、目標と時間制限を定めた就労支援、家族支援プログラムに州が出資するための糸筋を連邦政府が提供する一括交付金プログラムである。1996年に制定された個人責任及び就労機会調整法(福祉改革と呼ばれることが多い)は、子育て家庭への扶助(Aid to Families with Dependent Children)に代えてTANFを導入することで、州行政に対する一括交付金を創出し、認定のために労働を要求し、生涯のうち連邦政府からうける支援に上限を設けた。連邦政府の資金水準と、給付を受けることができる時間の上限は変わらなかったので、大恐慌で必要が増したにもかかわらずTANFを受ける世帯数は減少した。貧困、深刻な貧困にいる世帯の数はずっと増え続けているにもかかわらず、1996年以降、国のTANF取扱件数、特に現金給付を受けている数は50%減少し、州の取扱件数の減少割合も25%~80%と様々であった。州が資金の使い道を決める選択の幅には、国家のセーフティネットプログラムとしてのTANFの制限が付いている。

 ここ数十年の収入の停滞は,物価の高騰とあわせて,貧困世帯の経済的不安定性を招いている.最低賃金を上げることで,低収入世帯の何割かは収入がFPLの200%に届くようになり貧困から抜け出せるようになることが示されている.世帯収入を安定化させることで子どもが得られる利益には,全般的なものと個別的なものの両側面がある.経済的安定が意味するのは,住居や移動といった基本的必需品が利用しやすくなり,家族が受けるストレスが減る可能性があるということである.子どもの就学準備と学業成績は,世帯収入に左右される.Brookings Instituteが1999年に行った分析によると,世帯の年間収入がたった1000ドル増えるだけで,算数と読解の成績は統計学的に有意な向上を示す.Panel Study of Economic Dynamicsから得られた1968年から2005年までの人口データの後方視的レビューでは,生年月日と小児早期の世帯収入の2つが,成人後の教育的または経済的到達点と相関していた.この結果からすれば,小児早期の世帯年間収入がたった3000ドル増えるだけで,SATスコアが劇的に向上し,約20%の所得増加で測定される成人労働市場での成功を遂げることになりうる.上記の相関関係は,世帯収入が最も低い群で最も強く,裕福層では統計学的有意差が見られなくなる.

 とりわけ,自立支援の名目で要支援者リストの縮小を目論んだ90年代の福祉改革以降,住民は現金などの給付を得るために労働に従事する必要が増してきた.しかし,若い母親が労働に従事する必要に迫られた結果,幼児を非常に早期から託児所に預けることになるかもしれない.母親にとって解決策はパッチワークにならざるを得ないことが多く,一般の基準に達しない策もなかにはあるだろう.質の高い託児と小児早期の教育は,乳幼児の認知面,社会感情面の発達を促すのにとりわけ重要である.しかし,米国の殆どの地域では託児は住居と同じくらい費用が掛かり,2人の子どもがいる家庭では支出全体の25%を占める.そして幼稚園は大学と同じくらい費用が掛かることもある.多くの勤労世帯が託児費用に対する扶養控除の恩恵を享受している。これにより、認可施設やより高質の環境に子どもを預けることができる。しかし、十分な収入がなく非課税となっている勤労世帯は子どもに対するこのような支援を得ることができない。税額控除は課税前の段階では世帯に払い戻せないからである。ゆえに、最もリスクの高い集団に属し、質の高い小児早期教育をうけたら恩恵を得られるであろう子どもたちのなかに、経済的支援を得られない一群が存在する事になる。



2017年2月7日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 3)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339


ここまでが総論。次回から米国での具体的な制度についての話になります。


問題は何か(承前)

 幼少期の疾患予防は小児科医の大事な仕事である.だからこそ,貧困に関連した障害を早期発見し解決に取り組むのは小児科医の診療において新興の重要領域である。貧困の根本的な原因と長期にわたる影響についての理解が進んだことで,子どもと家族が貧困から受ける悪影響を何とかするために診療の場で介入する手段を小児科医は手にいれることができた.貧困に関連した小児期早期の有害イベントを弱めるプログラムやポリシーを提言することも小児科医にはできる.困難に陥る危険因子をスクリーニングし,有害なストレスに対抗する家族の強固な結びつきを明確にし,経済的問題を抱える家族を支援し援助する地域機関に紹介する機会が小児科医にはある.このポリシーステートメントは,子どもの健康の公正,安定した住居確保,小児早期における困難環境について以前発表されたポリシーに立脚している.米国小児科学会(AAP)発行の技術的付随レポート「米国での子どもの貧困の媒介と悪影響」は,子どもの貧困と,子どもが健康で元気でいることに貧困が影響を及ぼす機序について現在分かっていることを示すことで,このステートメントを支持している.



子どもの貧困が及ぼす影響を弱めるために何が役に立つか

 貧しい家族,子どもを援助するプログラムにはたくさんの形があり,政府,私的非営利組織,宗教団体,営利企業やその他の慈善団体といった多くのコミュニティから選出された利害関係者が関与していることが多い.この後の節では,子どもが健康で元気でいるために特に重要な貧困対策,セーフティネットプログラムについて述べる.これらのプログラムは、現金を手に入れやすくし、「現金に近い」給付を提供し、子どもの発達に棟することで家族の助けとなる。


 個々のプログラムにおけるコスト―ベネフィットの経済的推定を含むアウトカムは可能な限り記載される。しかし、セーフティネットプログラムは全体として効果があることは立証されている。1967年から2012年にわたる補完的貧困値(SPM)を用いた絨毯的研究では、政府のプログラムは世帯の貧困に大きな影響を与えていることが明らかになった。このようなプログラムがもしなかったら、2012年の子どもの貧困率は、実際の子どもの貧困率(SPM)である18%より13ポイント高い31%まで上がっていただろう。ゆえに、このような政府のプログラムが提供する収入支援と直接給付により、世帯の貧困は推定31%から約16%までおおよそ半減したといえる。



2017年1月31日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 2)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339




問題は何か(承前)


 2014年の国勢調査のデータによれば,米国で18歳以下の子どものうち推計上21.1%(1550万人)が「貧困」(例:2014年時点での収入が連邦貧困水準(FPL,4人世帯で24230ドル)の100%未満)に区分され,42.9%(3150万人以上)が「貧困,準貧困,または低収入」(収入がFPLの200%未満)に区分される.そして約9.3%(680万人)が重度貧困(収入がFPLの50%未満)に区分される.2014年で,補助的栄養支援プログラム(SNAP)を支給されている世帯に住む子どもは1600万人と推計されている.そして、2007年から2010年の間で、530万人の子どもが財産差し押さえの影響を受けていた。

 患者背景は,その家族や地域が貧困や低収入を経験する確率に深く影響する.たとえば,アフリカ系アメリカ人,ヒスパニック,アメリカ現住民族やアラスカ現住民族の子どもは白人やアジア系の子どもと比べ貧困の中で生活する可能性が3倍になる.乳幼児は年長の子どもとくらべ貧困の中で生活していることが多い.

 生まれながら貧困の中にいる子どももいるし,幼少期にずっと貧しい家庭環境にいる子どももいる.最も多いのは,貧困から抜け出たり再度陥ったりを何回も繰り返す子どもたちだ.幼少期のうちのある期間に貧困を経験する子どもの割合は約37%である.生まれながらに貧困で,ずっと貧しい状況に暮らすことの方が子どもにとって悪影響をきたす危険性が高い.しかし,どんな短期間でも貧困を経験するということは,食事が確保できない,住居が確保できずホームレス状態になる,医療にかかれない,学校にいけないといった困難に子どもが直面することになりうる.

 機会の均等はアメリカンドリームの肝要であり,社会移動つまり次の世代には経済状態がよくなっている可能性があることが機会の均等を反映している.しかし,社会移動は測定が難しい.30歳時点での収入とその親の収入を比べるのが通常の測定方法であることがその理由である.測定が困難であるにもかかわらず,大半の研究者は,米国ではここ10年間で貧富による資産と機会の格差が広がってきたために,社会移動が困難なものになってきたという見解に同意している.欧州諸国や他の先進諸国と比較して,米国の社会移動の順位は最下位に近い.2015年のピュー慈善信託の報告は,親の収入のアドバンテージの影響はどの階層においても持続的であるが,とりわけ裕福な家庭に生まれた子供で影響が強いと述べている.親の経済的アドバンテージが持続的であるということは,男児の収入が父親の収入に強く影響を受けることを意味しており,社会移動が小さいことを示している.結果として,貧困層の経済状態が改善する可能性は劇的に低くなる.貧しい子どもは貧しいままであり,機会が乏しいまま生活することとなる.裕福な子どもは大人になっても裕福であり続け,学歴も就職上もアドバンテージを享受する.

 収入の不平等と機会の不平等につながる社会移動の傾向は、有色人種で更に顕著である。大恐慌からの回復の過程で、米国における収入の不平等は加速し、上位1%の世帯収入が全体の91%を占めるようになった。回復から取り残されたのはアフリカ系アメリカ人世帯で、不景気の間に平均して貯蓄の35%を失った。アフリカ系アメリカ人の雇用率は悪化し、持ち家のある割合は減少し、子どもの貧困は、6歳以下で平均46%となるまでに深刻なものとなった。社会移動は収入下位25%層で最も低いため、幼少期に貧しかったアフリカ系アメリカ人の子どもの半分は大人になっても貧しいままであり、その貧困率は同様に小児期に貧困を経験した白人の約2倍である。
 人種分離の負の遺産と環境的人種差別は、大半が都市化した地区における深刻な貧困地域として現存しているが、貧困の分布はここ10年間で変わりつつある。その一因は住宅機器と大恐慌である。2008年以降、郊外は都市部、農村部以上に貧困の増加が著しく、そして早かった。経済的ストレスに晒される子どもと家族の分布構造がこのように大きく変化したことで、新興のニーズにもはや対応できない可能性のある現在の契約やサービスの提供システムが再評価される必要がある。


2017年1月24日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 1)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339


米国と日本では社会情勢も医療システムも異なりますが
科学的根拠に基づきながら
子どものため家族のため社会のために
子どもの貧困に真正面から取り組む
米国小児科学会の姿から学ぶものは多いはずです.


小児科研修中に指導医から訳すよう依頼されたことがきっかけです.
趣味と実益を兼ねているのでありがたいです.


Poverty and Child Health in the United States


【要約】

米国の小児の約半数が貧困かそれに近い状態で生活している.米国小児科学会は,米国における子どもの貧困を減らし最終的には根絶する取り組みを行っている.貧困ならびに関連する健康の社会的決定要因は,身体的健康,社会経済学的発展,教育上の達成に悪影響を与えることで,小児期だけでなく生涯にわたって健康に有害な結果を引き起こしうる.米国小児科学会は,貧困の中で生活する子どもと家族の生活の質と健康状態を改善することが示されているプログラムや施策を提言している.貧困が子どもに与える影響に気付き理解することで,小児科医や家族中心メディカルホームの小児に携わる専門家は家族の経済的安定,社会資源の利用,地域社会の構成員と協働したケアについて評価することができる.研究,提言,継続した教育がさらに進むことで,小児科医は貧困の中で生活する子どもをケアする際に健康の社会的決定要因に目をつけ活用することがますますできるようになる.このポリシーステートメントに付随する形で,子どもの貧困と,子どもが健康で元気でいることに貧困が影響を及ぼす機序について現在分かっていることを記した技術的レポートも掲載した.


【略語一覧】 (訳注:MIECHV,VIPは定訳がないため訳語は訳者による)

AAP:米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)
CHIP:児童医療保険プログラム(Children's Health Insurance Program)
EITC:給付付き勤労所得税額控除(earned income tax credit)
FCMH:家族中心メディカルホーム(family-centered medical home)
FPL:連邦貧困水準(federal poverty level)
MIECHV:母子訪問事業(Maternal, Infant, and Early Child Home Visiting)
SNAP:補助的栄養支援プログラム(Supplemental Nutrition Assistance Program)
SPM:補完的貧困値(Supplemental Poverty Measure)
TANF:貧困家庭一時扶助(Temporary Assistance for Needy Families)
VIP :ビデオ交流プロジェクト(Video Interaction Project)
WIC:女性,幼児,小児のための栄養支援プログラム
(Supplemental Nutrition Program for Women, Infants, and Children)



問題は何か

 貧困は健康の社会的決定要因として重要であり,子どもの健康格差の原因となる.貧困を経験した子どもはその後の生涯を通じて健康や発達が大いに損なわれる危険性があり,特に幼少期に貧困であったり長期間貧困であったりする場合に顕著である.貧困は,体重,乳児死亡率,言語発達,慢性疾患,環境暴露,栄養,外傷といった事柄一つひとつに重大な影響を与える.子どもの貧困は,有毒なストレス暴露により遺伝子機能や脳の発達にも影響を与える.この状態は「安定した応対関係が形成されていないために衝撃緩和機能が働かない状況下で生理的なストレス反応システムが過度に長期間活性化してしまう」という特徴がある.貧困の中で生きる子どもたちは,注意欠陥,衝動性,犯行,乏しい友達付き合いのように,自律や実行機能に関する障害の危険性が高くなる.貧困は子育てを難しくする.食事,エネルギー,交通,住居が不十分であるという懸念があれば特にそうである.

 子どもの貧困は,生涯を通じた困難を生み出す.発達面,心理社会面での問題は,当事者である子どもや家族にとってだけでなく,社会全体にとって重大な経済的重荷である.たとえば,高校を中退した子どもは10代で子を持つ割合,無職である割合,収監される割合が高くなるが,これらはすべて明白かつ重大な社会的,経済的コストである.子どもの貧困は神経内分泌の異常調節に関連しており,脳の機能を変え慢性的な心血管,免疫,精神疾患の発症の一因となっている可能性があることを示す研究がますます増えてきている.子どもの貧困があることで社会に課せられる経済的コストは,将来失われる生産性と公的支出の増加の予測から推定される.2008年以前に編纂された研究では,生産性の低下と犯罪対策やヘルスケアにかかる費用の増加によるコスト総額は年間約5000億ドルと算出された.機会のある青少年,つまり就職もせず教育も受けていない16歳から24歳の若者に関する他の研究でも同様の結果がでており,生涯にわたるコストは集団全体を総計すると数兆ドルになる.

 米国の子どもの貧困は,同様の資源がある国々のなかでトップクラスである.2012年の国際連合児童基金レポートでは,2007年から09年の大恐慌の只中または直後の期間で米国の子どもの貧困率はOECD加盟35カ国中34位であった.OECDの2014年のレポートでは,米国は40カ国中35位で,下にいるのはチリ,メキシコ,ルーマニア,トルコ,イスラエルだけであった.このポリシーステートメントは米国での子供の貧困を特に扱うが,世界中のあらゆる形態の貧困をなくすための2015年国連持続可能目標も反映している.



2017年1月17日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 7 final)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

なんとか最後にこぎつけました.時間かかりました.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



私たちのシステムと私たち自身


 集中的な調整が必要であることは、身体的治療と精神科的治療とを結合するために設計された統合ケアモデルの魅力の説明になる。Levineの診療は、Massachusetts Mental Health Centerでの包括的な精神保健サービスにプライマリケアを埋め込むものであるが、このようなアプローチの試行版となっている。このようなモデルにより健康格差が縮まるかどうかは分からないが、私たちのシステムを通じて今後の見通しが簡単になるだけでも価値のある事だろう。しかし、変革的なケアモデルはケアの質を大きく改善することはできないもので、その原因の一端は、責任が微妙に変化することで振る舞いが変わることにあるという話もきこえてくる。「壊れたシステムを治す」ことに着目したからといって、私たち自身の中から生まれる解決策を探すのをやめるのだろうか。

 統合のような抽象的な概念は、助けを必要としている具体的な患者にとって何を意味するのだろうか。つまり、コントロール不良の糖尿病があり、薬物依存の治療中であり、グループホームで階段から突き落とされて片目を失明し、40分を費やして薬物療法を整理して緊急の眼科受診を予約したあとに自分は妊娠しているからそのことを今回の診察で相談したいというような精神疾患患者にとっての意味である。

 Levineがそのような患者に優しく思いやりを持って行く先を示しているのを見て、私は自分の血圧が上がっているのを感じながら、私たち全員が彼女のようにがむしゃらに頑張るべきだと結論するのは楽天的すぎると実感した。重度精神疾患患者は私たちにとって最もタフな患者であることが多い。私たちの現在のシステムの中で患者のニーズになんとか対処しようとすると圧倒されてしまうのは当然であり、だからこそシステムの変化は喫緊の課題なのである。しかし「システム」は私達のような人々が何百万も集まって構成されている。精神疾患患者のケアを有意義に改善するためには、マサチューセッツ総合病院の精神科医Oliver Freudenreichの言うとおり、「ケアの統合とは態度の問題である」ということを認識しなくてはいけない。

 ケアを損なう態度のうち容易に改善できるものがある事は疑いない。より効果的に治療拒否と交渉すること,より巧みに意思決定能力を評価すること,ケア全体を統合しようとする努力が不十分である時を認識することは実現可能であるだろう.一方,重度精神疾患患者が真に必要としているものは私たちが提供できるものではないという集団的信念に打ち克つのは困難を極める.

 この難題を実感することが数週間前にあった.夜遅く家路についたときのことだ.服の乱れた女性が苦悶の表情で「どうしたら家に帰れるの?」と泣き叫んでいた.どこかで見た顔であり,以前も路上で見かけたことがあるのだろうと考えていた.しかし,逆方向に歩を速めながら,数か月前までその女性は私の患者であったことに思い至った.彼女は心不全であり,そのとき私は彼女を治療する方法を確かに知っていたのだ.いま彼女は精神病状態であり,おそらくホームレス状態でもあった.私は何もできなかったのだ.私は歩みを止めなかった.私たちは医師と患者ではなく,夜遅く路上にいるただの二人である,どちらも家に帰りたがっている二人に過ぎないのだと自分に言い聞かせながら.
 

2017年1月10日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 6)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

次回でラストです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



村全員が総出で行う

 内科医であり the Boston Healthcare for the Homeless Programの共同設立者であるJim O’Connellが,頭皮に小さい基底細胞がんができた統合失調症の男性を診ていたときの話だ.16年間にわたって,O’Connellはがんの治療をうけるよう言い続けたが,患者は指導に従わずがんを自分でむしり取っては再発してを繰り返し,ついにはがんが後頭部に浸潤し脊椎に転移してしまった.患者は手術のため入院し,そこで医学的,精神的治療を受けて精神状態は安定化した.しかし治療は遅きに失していた.精神がしっかりしたことで,かえって後悔の念に苛まれることになった.患者が存命中に,O'Connellはこんな言葉を何回も聞いた.「どうして先生の言う通りにしなかったのか今となってはわからないよ.」

 「何かできるかもしれないのに,病気がいつ致死的になるのかわからないこの状況で完全に行き詰ってしまうんだ」とO'Connellは言う.慢性疾患を持ちながら長年生きる多くの重度精神疾患患者と同様に,この男性も差し迫った危険を感じていなかった.だが最後はその危険に命を奪われた.

 死期が近い患者が高リスクの治療を拒否するのを承諾する傾向にあることが死亡率の格差に一因となっているかもしれないが.寿命を伸ばす機会の殆どはもっとずっと早期の段階に訪れるので,慢性疾患のマネージメントに対する介入に対しての態度の方が健康格差により影響を与えていることが考えられる.課題は,悪性のバイアスが招く受動性を適切に選択を尊重することから区別することである.意思決定能力は,それを有しているかいないかの二つに一つであるように思われるが,実際にはそこまで重要でない決定では能力の閾値は下がる傾向にある.例えば,スタチンの服用やマンモグラフィー検査を強制するのは一般に不適切なことであるし,これはゆっくり成長する基底細胞がんの切除にも当てはまることでもある.

 しかし,強制が正当化されることはめったにないにもかかわらず,「あなたができることはそこまでだ」という合理化は怠惰を敬意とあえて誤解釈する.強制をせずとも私たちにできることはたくさんあるのが普通だが,治療をしっかり提供するより,治療を「患者が拒否した」とカルテにかくことの方がずっと簡単である.

 重度精神疾患患者に下部消化管の定期検査を行う際に必要な労力について考えてみよう.
検査を行う意義を理解してもらうには何回か受診してもらう必要があることが多い.そして.それができる医師は大抵何年もかけて信用を構築してきている.患者が同意したら,前準備をどのように進めていこうか.国患者がホームレス状態であったらどうするだろうか.前日から入院させる,あるいはグループホームのスタッフと密に連携をとるという方法がある.しかし,ほんのちょっとしたこと,例えば早い時間の予約に間に合うよう起きるのが難しい,間違って朝食を食べてしまったなどで,すべて水泡に帰す可能性がある.内視鏡検査をもう一度試みることになった1人の男性患者が,最初は検査の前に家に送り届けられたことについて話してくれた.「僕はパジャマまで着ていたんだ」.患者の言うパジャマとは病院のガウンのことである.彼は家まで帰る交通手段がなかったので,看護師が送ることになった.Levineは私たちのシステムの中で重度精神障害患者を引き受けることの難しさを強調するストーリーをたくさん話してくれた.「"村全員が総出で行う"という慣用句ではとてもじゃないけど表現できない」とLevineは言った.




2017年1月4日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 5)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589




患者を理解する

 分かった.強制が忌避すべきことだとしよう.次の質問は明白だ.患者が納得して必要な医療を受けてもらうより良い方法はあるのだろうか.ひょっとするとこの質問は正確に言うと問題を孕んでいるのかもしれない.MacArthurテストを考案したコロンビア大学の精神科医であるPaul Appelbaumは30年以上前の研究で,治療拒否の理由は大抵のばあい複雑であり,コミュニケーション不足,信頼の欠如,抑うつや妄想といった心理的要因の存在が関連していることを示している.ところで彼の観察によれば,「医師は,患者と話すことで拒否の根底にある要因を明らかにすることにほとんど労力を割いていない.」

 この研究の今日的意義は,患者を理解しようとするちょっとした努力が救命につながりうると強調していることだ.たとえば,大きな肺がんのある患者が救命の唯一の手段である外科的手術を拒否しているとする.Appelbaumなら,がんは空気と触れると広がっていくと耳にしたのだと患者や妻から聞き出しただろう.多くの場合,手術チームが時間をとってこのような間違った信念を取り除いていけば,方向転換は容易である.

 ところで,間違った信念と妄想の境界線はどこだろうか.心臓発作から数か月後,Levineは診察室でD氏を診ていた.D氏は内服を止めていた.自分の心臓は「美しい」と他の医者が言っていたというのが彼の言い分だった.Levineは心電図を再度見ながら,この前の心筋梗塞がどの程度だったかを伝えた.以降,D氏はLevineに顔を見せることはなくなった.診療の場をうまくコントロールできなかったことをLevineは悔いている.「患者の妄想を直接否定するなんて絶対すべきではなかった.」でも,患者にまず心臓に病気があると理解してもらわないと,心臓の薬を飲んでもらうなんてできないよという私の声掛けに,Levineはこう答えた.「私はこう言うべきだった.あなたの美しい心臓をずっと美しくしておきたいの」



2016年12月28日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 4)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

前回記事「能力を評価する」の続きです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



 患者に何かを強制せざるを得ない事態は私たちの宿命であるが,これは法的なジレンマを想起させる.治療拒否の意思決定能力を有していない患者に必要な治療を提供しなかった過失責任で訴えられることもあるだろうし,同様に意思決定能力が欠如していると誤判断し患者の意向を無視したばかりに訴えられることだってありうる.Bagleyは,裁判所が後知恵で批判する後医としてふるまうことは「非常に考えにくい」と強調しているが,それでも「法的リスクが完全に排除できないことで医師は躊躇してしまうだろう」と述べている.

 さらに悪いことに,患者が意思決定能力を有しているかはっきりしないのはよくあることである.私はよく,患者に復唱させて万事足れりとしてしまう.例えばこんな感じだ.「カリウムがこんなに高い状態で帰宅したら死んでしまうかもしれないですよ,わかってますか.」もし患者が「死んでも構わない」と言ったら,その会話をカルテに書いて,こう自分を納得させる.「ほかに何ができるって?」だが実際は,できることはたくさんある.

 MacArthurテストは4つの基準を評価するものであり,意思決定能力を測定するツールとして最も広く使われている.以下の4つを達成すれば意思決定能力があると評価される.①選択肢を伝えることができる,②関連情報を理解できる,③自分の状況とその結果を実感していると示すことができる,④治療選択を論理的に考えることができる.「理解」が関連する医学的事実をつなぎ合わせる能力を反映するのとは違い,「実感」はそれらの事実が自分に関係しているという感覚を必要とする.自分の腎機能が衰えていなくても,腎不全が致死的な高カリウム血症を招きうると「理解」することは可能である.

 より良質な意思決定能力評価のトレーニングが必要なのは明らかだが,どんなにトレーニングをしても,法律と倫理の分断に橋をかけるのは不可能だとも思う.意思決定を担い患者の考えを大事にするよう倫理的に託されているのだという考えが優勢になるにつれ,法的基準に則り患者の望みを無視することを正当化することはまずます下火になっていく.法律的には,消化管出血の治療を受けたばかりのしっかりした女性が娘の結婚式に出るために下部消化管内視鏡を拒否することは,妄想症の女性が前処置に蛇が含まれていると信じ込んでいることとは区別されるだろう.しかし,私たち医師は,パターナリズムを発揮しようとすればするほど,尊重されるべき意思と無視すべき不合理な決断を区別できなくなっていくのではないだろうか.


2016年12月21日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 3)


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



能力を評価する

 D氏は胸痛発症後ERに運びこまれ,Levineはその知らせを朝早くにすぐ受け取った.Levineは循環器科医として診察をしたうえで冠動脈造影をすすめたがD氏は拒否した.そこでLevineは治療チームに,患者には処置の同意を行うことができる国選弁護人の後見人がいるし,もし後見人に連絡がつかない場合は倫理委員会のコンサルトが必要になると伝えた.「患者は拒否するだけの意思決定能力がない」とLevineは私に言った.

 Levineは治療チームに一日中何回も電話をかけては進捗を聞いたが,後見人には午後2時に連絡がついたもののすぐに途切れ,ついぞ晩まで折り返しもなかった.治療の遅れは,処置に見合う利益が担保できなくなるということであり,D氏の意向を無視することを正当化できなくなるということである.しかし,利益が明らかで,見返りが大きく,患者の決定能力が欠如していて,ルールがすっきりしている典型例の場合は,暗黙の了解のもとに医師は患者の意向を無視すべきである.ということは,目の前の患者に意思決定能力があるかどうかを決断する際に,バイアスになりうるものが入り込む余地があるということだ.

 ミシガン大学の保健衛生法教授であるNicholas Bagleyが説明するように,意思決定能力の有無は,規則(赤信号では止まりなさい)ではなく基準(安全じゃないと思ったら止まりなさい)により評価される.だから私たちはこの評価を上手にすることができないのである.ある研究によると,入院患者302人のうち,治療について同意する能力が欠如している割合は40%であるのに,治療チームは25%程度であると過少に認識していた.「自分の基準を明確にせずに,患者の意思決定能力の欠如を云々するなんてとんでもない」とBagleyは語っている.

 私たち医師が患者の意思決定能力を誤って評価してしまう理由の一つは時間だ.適切な評価を行うのに20分もかけていられないことはざらにあるし,患者の意向を無視する長々とした手続きを踏むより,患者には治療拒否の意思決定能力があるとみなす方がずっと時間を短縮できる.しかし,患者の意向を無視して処置を行うことは,時間以上のものを消費してしまう.私たち自身をすり減らすのである.血色の良い精神病患者を鎮静抑制し望まない治療を無理やり行うのは,いくら医学的必要があるからとはいえ残忍さが残ることは避けられない.


2016年12月7日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 2)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


医師のバイアス

 私たち医師の対応が精神疾患患者の健康に与える影響についてのデータは限られているが,その中でも比較的研究が進んでいる現象として,diagnostic overshadowingが挙げられる.精神疾患の診断名という影が患者の訴えを尽く影で覆ってしまい,様々な身体症状の原因を精神疾患に帰してしまうことを指す.例えば,急性の疼痛を訴える患者の既往にうつや身体症状がある医師が気付くと,重篤な病気をあまり疑わなくなり,追加検査をあまりしなくなることを示した研究がある.

 解釈バイアスと関連情報とは,はっきりと区別できるものだろう.例えば,胸痛患者が急性冠症候群かどうかを判断する時に,うつの既往があってもその可能性が低くなるとは考えないが,長期にわたる身体症状の既往があれば可能性を下げることができるだろう.良くも悪くも臨床判断はつまるところ審理である.

 バイアスについて研究する別のアプローチとしては,精神疾患のある患者とない患者でガイドライン推奨の治療を行っている割合が異なるかを調べるという方法がある.そしてそれはどうやら異なるようである.がんスクリーニングや待機手術,血圧管理など様々な治療において乖離があることを種々の研究が示唆している.患者の好みやフォローアップ中断がその一因ではあるだろうが,それだけがすべてではないだろう.

 それだけにとどまらない.急性心筋梗塞での冠動脈造影や血管再開通療法といった,緊急時の一回こっきりのイベントであっても,その割合には格差がある.ここまでいってもなお,バイアスが原因であるとは言い切れない.重度精神疾患,とくに妄想症の患者は,医療にかかろうとするのが遅くなり,結果として早期に再開通をしていたら良かったということが起こるかもしれない.さらに言えば,抗凝固薬併用療法を遵守できそうにない患者に積極的にステント留置をする医者はいないだろう.くわえて,D氏のように,治療をすすめても拒否されることもあるだろう.問われるべきことは,患者が必要な治療を拒否するのを医師が受け入れる,それだけでバイアスが説明できるかどうかということだ.


2016年11月23日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 1)



最近のブログはもっぱらUnderserved populationについて
海外のarticleを翻訳して発信する,という内容になっています.


NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
.
N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


 Gail LevineはBoston's Brigham and Women's Hospitalの内科医であり,重度精神疾患の患者を熱心に診る医者である.初めて彼女と話した時に言われたことは,今でも心にぐさりと来る.当時,彼女は50歳代中頃の妄想型統合失調症の男性患者を受け持っており,私もその患者の治療にあたっていた.D氏は広範囲の心筋梗塞を発症し,少し前に入院となったのだが,血管再開通療法を拒否していた.全身状態はしばらく落ち着いていたのだが,ある日,呼吸困難を呈した.初期のタンポナーゼによる血行動態の破綻が見られた.D氏はからだに針を立てててほしくないとこれまで繰り返し主張していたので,心嚢穿刺を拒否するのではと心配していたが,Levineから電話がかかってきたのでほっと胸をなでおろした.

 私がこれまで重度精神疾患患者と交渉してきたその実績はあまり芳しいものではない.ついこの前,有症状の重度僧房弁閉鎖不全症がある比較的若年の統合失調症患者を担当していた時の話だ.手術適応例として申し分なかったが,私はその患者に血液検査すらさせてもらえなかった.手術なんてとんでもない.患者はいつもベッドに腰かけ,少し体を揺らしながら髪をとかしていた.質問しても答えることはなく,本当に気が向いた時しか検査に応じなかった.私はすぐに説得をあきらめてしまった.彼女ならではの理由があるはずだが,それを理解しようともしなかった.その代わり,患者に意思決定能力が欠落していることは明白だったため,裁判所任命の後見人を数か月かけてたてる手続きを始めることにした.これまで十分に苦しみぬいてきた患者の精神をさらにずたずたにしてもなお,我々は患者の心臓を救うべきなのか.私に課された決断は非常に困難なものだった.

D氏に関しては,そのような難しい決定を誰かに押し付ける時間的余裕はなかった.もしタンポナーゼに陥ったら,それが最期となってしまう.私はそんな結末を迎えたくないと思ったが,Levineは少し判然としない様であった.「知ってるでしょ.重度精神疾患の平均寿命は53歳だってこと.」これが判断を困らせる大きな理由の一つだ.医師は,精神疾患がある患者のQOLは完全に損なわれていると考える.患者の拒否を簡単に承諾するわけにはいかない


死亡率の格差

 ニューヨークの疫学者Benjamin Malzbergは1932年に,精神疾患がある人はない人と比べ,他の因子を調整した群どうしで比べても.寿命が平均して14-18年短いという研究結果を発表した.この死亡率の格差はいまも残存しており,下手すればもっと悪いことになっている.2006年のアメリカの研究では,その差は13-30年と推測される.さらにいえば,この格差は全世界に広がっている.事故や自殺といった「非自然的な」原因よりも,がんや心血管疾患といった医学的原因がこの格差に寄与している.最近になるまでこの不平等は無視され続けてきた.しかし,このような事態がまだ続いているのは単に注目されていないだけの問題ではない.明白なリスク因子の中には,すぐに解決できないものがある.重度精神疾患の患者は,喫煙,薬物乱用,運動不足といった特定の行動をとる割合が多いが,このことは慢性疾患のリスクを高める.このような病気を治療するには,しっかり薬を飲み行動を変える必要があるが,重度精神疾患患者にとっては時に困難である.精神疾患の中には,患者が自分の状況を理解できなくなるものもあり,その場合はヘルスリテラシーが低い場合や貧困にある場合と同じように,治療にしっかり乗ることができない可能性がある.このことは精神疾患患者にとりわけ強く影響を与える.最後に,精神症状の安定のために不可欠でありよく処方される薬剤の多くは肥満や糖尿病を引き起こすため,心血管疾患のリスクを高めることになってしまう

 上記の現実を目にすると,近い将来に死亡率の格差をなくすことなんて思いもよらないことである.しかし,Levineをはじめとした重度精神疾患患者の治療にあたっている医師の姿を見て,ふと疑問に思った.精神疾患患者は余命が短いと医師が思っていることも,本当に患者の余命を短くしているのではないか.つまり,精神疾患患者を医師がどう見ているかがこの死亡率の格差の一因となっているのではないか.もしそうだとしたら,医師は変わることができるのか.



2016年11月3日木曜日

ホームレス状態にいる人のケア part5 (final)



時間がかかってしまいましたが,ようやくpart5です.最終回です.
図表は訳していないので,ぜひ原文をみていただければと思います.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



皮膚,足の問題

 厳しい住環境のせいでホームレス状態の人々ではしらみ,疥癬と続発する細菌感染が蔓延している.しらみの寄生によりBartonella quintana感染が起こることがあり,ホームレス状態の人々に塹壕熱(回帰熱を伴うインフルエンザ用の症状を呈する)や血液培養陰性心内膜炎の原因となる.足部の不衛生,不潔な住環境,長期間の立位と歩行,足に合っていない靴による外傷の繰り返し,濡れた靴下や靴による皮膚のふやけは,擦過傷,膿瘍,うおのめ,たこ,爪真菌症,足白癬,浸足症(0℃以上の湿潤寒冷環境に長期間暴露することで起こる外傷)を招く.長期間の立位は,浮腫と静脈鬱滞を起こし,時に潰瘍や蜂窩織炎を招き入院での抗菌薬静注が必要になる.その場合,大量の水による洗浄,デブリドマン,筋内の抗菌薬,1週間まで使える薬剤浸漬弾性包帯(Unna boot)が有用である.適切なフットケアについての教育,問題の早期発見,足に合う靴,乾いた靴下,生活な住環境,適切なフォローアップが予防に重要である.


環境による健康障害

 ホームレス状態では寒冷や熱による外傷の頻度も高い.凍傷,浸足症,低体温のどれかを経験したことがあると,その他の原因による死亡のリスクが8倍になる.寒冷暴露による外傷の程度とその結果起こる細胞障害を決定する2つの絶対的な因子は,温度と暴露期間である.凍傷を重症化させる因子には,アルコール・ニコチン・ドラッグの使用,低栄養,脱水.副腎不全,糖尿病,甲状腺機能低下症,末梢血管障害,末梢神経障害がある.Frostnipは寒冷による外傷のうち軽症かつ可逆性のものを指し,罹患部位は異常感覚を呈するが復温で回復する.凍傷はより重症であり,局在性の組織損傷をきたす.損傷組織を壊死させないようにし,機能を失わないようにし,合併症を予防することが治療の主な目的である.浸足症(塹壕足)は乾いた靴下をはくことで予防できる.熱痙攣,熱疲労,熱射病は極端に暑い環境に長期間いることで起こる.このような状態に陥っている人は寒冷な場所に移して水分を補給させなければいけない.重症例では入院が必要である.熱射病は致死性である.


ケア提供のモデル

 ケアの最善なモデルは,ホームレス状態の人々に向き合う際に特徴的な困難についてよく知っているヘルスケア専門職のチームによる統合された他職種協働のアプローチであり,患者中心のメディカルホームモデルを様々な場所でのアウトリーチサービスに関連して適用することで,2次・3次医療,回復期・ホスピスケア,住居・雇用・法律支援に関する地域資源や地方局につなげられるようなものである.医療面と精神社会面の両方のニーズを1か所で対応できることと,「ハウジングファースト」政策がカギとなる要素である.標準的な臨床現場にこのようなモデルを持ち込むことで,ヘルスケア専門職は患者とつながり治療,教育を行い,この集団内でのヘルスケアのアウトカム向上を推進する際に統合された役割を果たすことができるようになる.また,このモデルは, 医療機関にかかれなかったりホームレス状態にあったりする人々に医師がかかわっていくようにAmerican Academy of Family Physicians(AAFP)のポリシーで提言する際の実際的な基盤を提供する.ホームレス状態の人々の健康とウェルビーイングを向上させることは,雇用につながる一歩であり,うまくいけば自分の家を再び手に入れる一歩となる.家庭医は,熱意をもって包括的,継続的なケアをこの患者層に提供し,他職種協働チームを統括するのに理想的な立場にいる.



2016年10月28日金曜日

ホームレス状態にある人のケア part4



引き続き訳していきます,part4です.次回で最終回です.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



認知機能障害と外傷による脳損傷



 ホームレス状態の人々は外傷による脳損傷が一般人口と比べて5倍以上起こっていると推定されている.元々の脳損傷に対する治療は存在しないが,家庭医,神経精神専門医,コミュニティや政府にある適切なリソースといった他職種協働の介入により,必要な評価,治療,リハビリテーション,支援が提供される.Mini-Mental State Exaination,Traumatic Brain Injury Questionnaire,Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Statusがこのような患者を評価するのに有用である.認知リハビリテーションは認知機能を最大化し,機能損傷を減らすようにデザインされている.初期評価を行い診断を確定させることに加え,このような患者によく起こる特有の状況(不安,注意力障害,認知症,抑うつ,頭痛,不眠症,痙攣)を想定し治療することも家庭医の範疇である.


外傷と暴力

 ホームレス状態の人々は家庭内暴力,強姦,身体的暴行に日常的にさらされており,不安障害,PTSD,大うつ病を招いてしまう.死の恐怖を抱いている場合も多いが,それは実際の脅威があるからである.女性では,性感染症,望まない新進,外傷後ストレス反応が多い.子どもでは,ストレスにさらされたり外傷をうけたり暴力沙汰に巻き込まれたりすることで,身体,感情,認知,社会,行動の各面で発達が阻害される.ホームレス状態の高齢者は,虚弱や身体機能低下,認知機能低下のため,とくに暴力や外傷が重大な帰結を招いてしまう.虐待が疑われる場合,医師はあらゆる外傷を評価治療し,患者の安全を確保する計画を立て,自治体の担当局への連絡という義務を果たすべきである.対人間の暴力が疑われる場合は, Posttraumatic Diagnostic Scale Modified for Use with Extremely Low Income Womenを用いるべきである.心的外傷に着目したケアや心的外傷に特異的な介入は,心的外傷の重要性に言及し治癒を促進するようデザインされている.


健康問題の予防,感染症,性感染症

 ホームレス状態の人には,予防医療,定期検診,ワクチン接種がなされていないことが多い.一般人口と同じくガイドラインを適応することができる.破傷風予防(破傷風並びにジフテリアトキソイド,またはTDPワクチン)は,最後の接種から10年以上たっていれば再度接種すべきだ.インフルエンザワクチンは年一回接種すべきである.肺炎のリスクがあれば肺炎球菌ワクチンも受けるべきである.HIV,B型肝炎,C型肝炎といった針刺しで感染する病原体の検査も行うべきである.アルコール依存症,HIV共感染,シェルターでの長期間居住は,結核アウトブレイクのリスクを上昇させる.DOTにより結核治療の有効性は著明に向上した.イソニアジドとリファンピンの服用中は肝機能をチェックする.患者の多くはアルコール依存症,肝障害,薬物乱用による肝障害があることが多いためこのチェックは重要である.


2016年10月22日土曜日

ホームレス状態にある人のケア part3


這う這うの体で,part3です.
ホームレス状態にいる人だけでなく,あらゆる社会的剥奪に成り立つ内容だなと思います.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.


臨床状態,医学的状態

 ホームレス状態の人々も,一般人口と同じ医学的状態になる.異なる点は,長期間の病原暴露,狭い場所への稠密,不衛生,栄養状態不良,不良な睡眠環境.暴力,身体的心理的外傷,性的虐待,激しい天候に見舞われているというところである.このような逆境に対し適切に対応し,医学的問題に対処する能力は,教育機会の制限,精神疾患,物質乱用,信頼感の欠如の影響を受ける.以上により,ホームレス状態の人々は病気が進行した状態で見つかることが多く,治療介入は個々人の状況により様々となる.


心血管障害

 コントロールされていない高血圧,冠動脈疾患,鬱血性心不全,末梢血管障害がホームレス状態でよくみられる.食事が貧相なことは,栄養関連障害の発症やコントロールされていない糖尿病,脂質異常症,高血圧の高い罹患率に寄与する.怒り,過度な心理的ストレス,精神疾患,対処機構の乏しさ,アルコールや薬物の乱用は,リスクファクターとよくいわれるものの影響を助長させ,非常に早期に心血管疾患の罹患率と死亡率を著明に増加させる.
ホームレス状態の人々の平均寿命は42-52歳である.血圧,コレステロール,糖尿病の標準目標を達成するために,薬物治療を早期に開始するべきである.そして医師はケアマネージャーやリエゾン精神科医と緊密に連携し,健康的な食事を担保し,ストレスを減らし,治療計画を患者が順守してくれるようにすべきである.ライフスタイルを変化させようとしても大抵はうまくいかない.


重複診断:精神疾患と薬物乱用

 ホームレス状態の人々の約20-30%に精神疾患があり,30-50%に薬物乱用単独または薬物乱用と精神疾患の併存(重複診断とよばれる)がある.精神疾患では,大うつ病,双極性障害,統合失調症が多い.自殺のリスク因子は30歳以下,ヒスパニック,低い教育レベル,ホームレス状態の長期化がある.Health Care for the Homeless Clinicians' Networkはうつ状態のスクリーニングとして2項目あるいは9項目の Patient Health Questionnaireを推奨している.また,薬物乱用のスクリーニングとしては Simple Screening Instrument for Alcohol and Other Drug Abuseを推奨している.治療の根幹は,安定した住居を見つけたうえで,医学的治療に結び付け,支援サービスを提供し,最終的には雇用を獲得することに注力することである.