2020年5月4日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 3


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


本目標と具体的目標

 本稿の本目標は、臨床医に次の質問に対する実践的な回答を提供することである.「学生が私のユニットに配置された時、私が処置をしている時,病棟にいる時,または私の診察室にいる時,私はどのように医学生に教えるべきか」.この本目標を達成するために、以下の項目をどのように達成できるのかについて実践的なガイダンスを提供するのが,本稿の具体的目標である。

・医学生が臨床現場に参加することができる.

・臨床現場のスタッフメンバーと患者が学生の参加を支援できる.

・臨床医が、学生が実際の患者の経験から内省的に学ぶ手助けをすることができる.

・安全で優秀で思いやりのある医師の能力とアイデンティティを涵養することができる.

 上記の質問に対する回答を待ち望んでいる読者は、図3と表2にすぐ目を向けるとよい.一方,実践法だけでなく原則についても理解したい読者は、次のセクションで推奨する事項についての説明を読むのがよい.


経験に基づく学習(ExBL)

 経験に基づく学習(ExBL)という教育学は、20年にわたる研究の業績であり、その中には職場学習理論の調査、約300の出版論文からのエビデンスの抽出、研究プログラムの実施、一連の論文の出版が含まれている。

 図1はExBLの模式図であり,学生はこの図のようにして,新人医師としてふるまうために医師としてのアイデンティティの基礎を確立する必要がある.これらの基礎を築くために、学生は能力を身に付ける必要がある。実際の患者からの学び(RPL:Real Patient Learning)は,臨床医、患者,学生という三つ組みの中に参加した経験の省察から生じるものであり、学生に能力を身に付けさせるものである。臨床医が支持的に振舞うかどうかで、学生の参加、RPL、および能力の獲得に適した状況となるかどうかが決まる。臨床医は,(1)良い診療をモデル化し、学生と共にそれを提供する.(2) 学生に現在の自分の能力を拡張させるよう促す.(3)患者が学生の学習に共に参加できるようにする.臨床医は、学生を職場での会話に巻き組み、治療を受けている患者との交流を促し、経験に対する省察を支援する.SPaRCはExBLの要素をまとめたものであり,支援(Support),参加(Participation),実際の患者からの学び(RPL),能力(Capability)の頭文字を取ったものである.図 1 で最も外側にあり全てを包含する矢印は、支援が ExBL の中核的な条件であることを強調している.


ExBLの射程範囲
範囲内:患者への直接的な治療と学生教育の双方ともを目標とする活動
範囲外:high-stakesな評価(訳注:合否や進級を決めるような評価)とシミュレーション


図1