2020年11月16日月曜日

Journal Club: IPEを受け入れる地域病院で何がおきたのか(リアリストアプローチ)


この記事は研究室内で私が発表したJournal Clubの内容を基にしています.


Haruta J, Yamamoto Y. Realist approach to evaluating an interprofessional education program for medical students in clinical practice at a community hospital. Med Teach 2020;42(1):101-110. (PMID: 31595791)


【背景】

・IPEは学年を通じて継続的に行うことが望ましい.

・多職種協働の準備を行うためには,臨床現場で様々な場面に出会う(clinical encounter approach)ことが望ましい.

・大学病院での実施は困難で,プライマリケア領域の方が適している.

・臨床現場での複雑なIPEプログラムを評価する方法の確立は,IPEの普及に寄与すると考えられる.

・複雑な介入に対して,”What works, for whom and in what circumstances”を評価するRealist approachが推奨される.


【Realist approachとは】
・詳しくはリンク先の論文を読んでください.(日本プライマリ・ケア連合学会誌.「リアリストアプローチ:科学的方法論に基づいた複雑な介入や教育プログラムの評価」)

・どのようなコンテキストで,なにをすれば,どのようなメカニズムが機能するし,どのようなアウトカムが生じるかを探索・検証する方法で,この一連の組をCMO(Context-Mechanism-Outcome)と呼ぶ.

・データ収集→CMOを明示→一貫性と統合性を洗練→条件を限定して成り立つ中範囲理論を生成する,という流れです.意図するアウトカムのために環境を設定し,そのなかで学習者が何を学びどのような活動を行ったのかを評価することになります.

・以下の手順が提起されているようです.
 1.作業仮説・理論の生成
 2.CMOの構成要素についての仮説
 3.観察と検証(特定の方法に限定せず行う)
 4.理論の明示

【手法】
・著者らが開発したIPEプログラムで研究が行われた.
・学習目標は以下の3つ
 「他の職種の役割を理解する」
 「他の職種が期待する医師の役割を学ぶ」
 「チームの一員としての医師の役割を学ぶ」
・学習戦略:observation through shadowing
・評価:(形成的) 病院スタッフとファカルティメンバーによる観察
     (総括的)360°評価と最終日の振り返り
・対象者:5年生または6年生の58名.コース選択はランダムである.

〇作業仮説・理論の生成
・著者自身が多職種のシャドーイングを行い,さらにインタビューを施行した
→実習の準備過程において,多職種は以下の2つを獲得していたことがわかった.
 ①Confident professional role
 ②Readiness to teaching medical students

・これより以下の仮説を得た.
「医学生が地域の病院で多職種をシャドーイングすることで,自らの医師中心的な考え方を見直し,多職種協働の価値を認識するようになる.」

【結果】
・医学生のレポート,360°評価,フィールドノート→テーマ分析でCMOを抽出した
Context
(1) 医学生の大学病院での経験 
(2) 医学生の学習の特徴
(3) 多職種からの臨床上の支援
(4) 地域病院間の密接な専門家間の関係
(5) 多職種のユニークで包括的な役割/貢献
(6) 医学生が地域のニーズを学ぶのに役立つ地域の病院の学習環境
(7) 多職種が医学生に持つステレオタイプに関する自由な議論

教育介入
(1) 多職種のシャドーイング
(2) 多職種の役割に関するレポートの作成
(3) 振り返り
(4) 診療現場への参加
(5) 当直を含む臨床現場
(6) 地域の病院の外でのフィールドトレーニング
(7) 多職種が医学生に将来の医師とし抱く期待と,医師の役割に関する助言

想定されたメカニズム
(1) コンテキストの学習
(2) 自己管理型学習
(3) 正統的周辺参加
(4) 経験型学習
(5) 接触仮説
(6) 観察学習
(7) 社会構造の気づき
(8) 認知的共感のための学習プロセス

・これより以下の4つのCMOを得た.
1. 大学病院と地域病院との比較と、比較に基づく自己管理型学習
2. 医学生の学習特性と地域病院のコンテクストに基づく
    正統的周辺参加、経験的学習および接触仮説
3. 多職種間での観察学習と
    観察学習のコンテクストの理解を深める社会構造の認識
4. 医学生の認知的共感を高めるような、多職種との自由な議論の学習効果

・これらのCMOが機能したとき,医学生は多職種に親近感を持ち、多職種と協力する医師の役割に対する理解を深めた。また,医師中心の考えを見直し、専門家間協力の重要性を認識した。