2020年5月11日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 4



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


能力
経験が卒業生に与える能力には3種類ある:知的能力(知っている)、実践的能力(スキルがある)、そして情動的能力(感受性がある).そして,それぞれがサブタイプを有している。能力のタイプは境界が曖昧であり,それは各能力が複雑かつ個性的で、場面により様々に変化し、互いに重なり合い、臨床経験を通じて進化するためである.我々はラベルを、ある(サブ)タイプの能力を別の機能と正確に区別する定義としてではなく、各能力の原型を示すものとして利用している。

・知的能力
経験とRPLを省察することから生じる知識とは,医師となり,医師であり続けるための方法,医師が医学を実践する文脈,およびその実践の構成についての一元的な理解である。この能力のサブタイプには、応用的知識と推論スキルがある.

・実践的能力
これは観察可能な行動のセットを指す.つまり,:臨床スキル(患者に直接影響を与える行動)と自己管理スキル(学生や医師が自分の仕事と学習を整理するための行動)から成る.

・情動的能力
情動的能力には、価値観と感情が含まれる。自分が医者であることを自覚し,他者やその仕事に感情的に関わることが卒業生に求められるため、この能力は重要である。この能力は観察可能な行動とはいえないが、行動に確かに影響を与える。このサブタイプには,気分(例:満足感、報酬、不安、怒り)、自信と動機、アイデンティティ(例:自分が医者になりつつあるという自覚、臨床現場に属しているという自覚、患者を治療する権利を有しているという自覚)、態度と価値観(例:理想主義である、敬意を持っている、他者と協働できる、責任感がある)、他者への想い(例:共感、思いやり)がある.情動的能力は、伝統的にあまり強調されてこなかった.表1で詳説する.

表1.

サブタイプ
トピック
気分
肯定的な気分である
幸せである 光栄である 刺激を受けている 誇っている 安心である 報われている 安全を感じている 満足している
両価的あるいは否定的な気分を認識し適切に対応している
心配である 葛藤している 落ち込んでいる 怯えている 苛立っている 悲しんでいる ストレスである 弱っている
動機と自信
達成した 自信がある モチベーションがある 自己効力感がある
他者に対しての感情
共感している 同情している
恐怖や嫌悪など他者への否定的な感情を認識し対応している
態度と価値観
おもいやりがある 協働的である 批判的でない 境界を認識している 限界を認識している 敬意がある 責任感がある 自己を認識している 個人の価値観を示している 肯定的態度を示している