2020年10月19日月曜日

尿酸降下はtreat to targetが良いのか



いままで,高尿酸血症に対する治療は
Lancetの2016年のseminarの記載に基づいて行っていました.
西伊豆病院のカンファレンスに,日本語での解説があります.)
つまり,尿酸降下薬の適応があれば,アロプリノールを順次増量して尿酸値を6以下にする,というものです.

6以下にする,という記述の根拠は,2012年のAmerican College of Rheumatologyの診療ガイドラインです.
そこで引用されているのが,2012年のRCTです.

ただし,このRCTは,フェブキソスタット40mg,フェブキソスタット80mg,アロプリノール300mg(腎障害あれば200mg)の3群を比べて,尿酸値を6以下にできた割合がフェブキソスタット80mgで最も多く,有害事象に差はなかった,というものなので,これですなわち「尿酸値は6以下にせよ」が導き出せるわけではなさそうです.

ところで,2020年9月のCanadian Family Physicianに,Targeting uric acid levels in treating goutという記事が載っていて,
そこでは尿酸値6以下を達成するまでアロプリノールを増量するTreat to targetは利益がないというRCTが紹介されていました.

2017年に行われたRCTなので,Lancetのセミナーの後ですね.把握していませんでした.

たしかに,このRCTを読むと,確かにアロプリノールの用量を増やした群(尿酸値6以下を達成した割合が多い)でも通常用量群とくらべ痛風発作の回数も有害事象の割合もおおよそ同じです.

各種診療ガイドラインでは,やはり6以下にしなさいと主張するもの(ACR 2020年版)もあれば,treat to targetをしないことを推奨しているもの(ACP2017年版)もあります.

余談ですが,これでACRの痛風の診療ガイドラインが2020になっているところに気づきました.読み直すと,推奨がいろいろ変わっていたので,それはそれで勉強になりました.

2012年だと,尿酸降下薬の適応は①痛風結節がある②年2回以上の発作③CKD stage 2以上④腎結石の既往となっています.

これが2020年だと,
①痛風結節②痛風によるX線上の変化③年2回以上の発作で開始を強く推奨,
④年1回以上の発作⑤発作歴が1回でもあり,かつ(CKD stage3以上 or 尿酸値9以上 or 腎結石既往)で場合によって推奨としたうえで,
発作が1回あっただけor無症候性の高尿酸血症は薬剤治療を推奨しないと明記されています.

じゃあ,どうするんだ,という話ですが,
CFPの記事には,そもそも尿酸降下療法はアドヒアランスが1年後で50-87%と慢性疾患の中では最悪の部類なので,health care supportをしっかりしましょうねと書いてあります.
たしかに,その通りだと思います.

というわけで,アロプリノールを通常量使ってもなお痛風発作が出る場合には,まず生活指導や服薬アドヒアランスの向上を図ったうえで,それでも発作が出るようなら相談の上増量や他の薬剤の併用に進む,という流れでよさそうです.

結局,この議論を通じて私の診療が大きく変化することはありませんでしたが
4年前の知識はすでに古くなっているという現実を見る機会になりました.