2020年5月18日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 5



引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


参加

 サポートの上で臨床現場に参加する経験は,学生が有能な医師になる一助となる。参加する際は、患者、臨床医、学生という三つ組みのメンバーとなる。参加には3つのタイプがある。

・観察:実際に手を動かすことはせず、臨床現場に参加し実践から学ぶ
・リハーサル:患者に対する治療は行わないが,臨床での業務に従事する
・寄与:臨床業務を(共同して)実践する責任を与えられている

 観察、リハーサル、寄与は、独立して臨床を行うようになるための梯子の段である。学生がこの梯子をのぼる姿は決して直線的ではないが,その理由の一端は,学生がどこまで参加できるかが,患者の臨床上のニーズに従い,大きく,そして時に非常に素早く変化するからである。表2で、臨床医が参加を促進する方法を説明する。


観察
 観察は学生に幅広い経験を与え、患者の治療に積極的に参加するようになるきっかけとなるため、観察という梯子の段を学生が踏むことは必須だが、しかしあまりにも長く観察の段で足踏みしてはならない。臨床医は表2に示すテクニックを使用して、学生を受動的な観察者ではなく能動的な参加者にするほうが,ずっと効果的である.

リハーサル
 表2で、学生が責任を取ったり患者の治療に携わったりすることなく、状況に応じて,医師としてのふるまいを経験することができる活動を挙げる.

寄与
 梯子の一番上の段は,どれほど小さなものであっても、患者の治療に実際に携わることである.もちろん、これは安全でなければならないため,学生の能力と患者のプロブレムの性質によって左右される.学生はこの最上段にいるときに最も多くのことを学ぶ.つまり自分の能力を最大限活かして患者と関わるようになる。

表2. 参加型学習の支援(割愛)


参加のダイナミクス
 臨床現場での学習は本質的にダイナミックであるため、臨床医は動的に対応し,参加の水準を調整して学生にとって最も教育的な量の課題になるよう維持する必要がある.つまり,学生の予想より少し難しいタスクを与え,そのタスクを実行する自由も予想より少し多く与えることが求められるが,同時に,学生は臨床に参加するのに正当な存在であり,学生の学びは大事なことであり,学生と患者の双方の安全が保たれることを明確にしなければいけない.このことが自然と身に付いている臨床医もいるだろう.後述する表2とImplicationの章で,実践的なヒントを述べる.


実際の患者での学習(PRL)
 RPLとは、学生が記憶に残る患者に以前に行った学習を結び付けて、学んだことを新しい能力に再構築、統合、強化、文脈化する,省察プロセスである。参加の経験を省察することは、やまいと疾病の範囲と複雑さを理解し、理論と実践を結び付けるのに役立つ。学生が有する経験とRPLは多いほど良い.というのも,医師の頭の中がどうなっているのか分かるようになるからである.RPLが盛んとなるには,学生の省察的学習を支援する臨床医(支援方法については表3参照)がいる必要がある.臨床医にとってとりわけ大事なのは,学生の声によく耳を傾け、学生に自分の経験をあらゆる角度から洩らさず語るよう慎重に促すことである.