引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.今回で最後です.
Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105
ピットフォールと解決策
すべての臨床医が学生の教育に対して積極的であるわけではないし、ExBLをうまく機能させる能力があるわけでもない。臨床現場はただでさえ多忙であり、臨床医が患者の治療と学生の教育の両方をバランスよく行うことが難しい場合がある。すべての患者が学生に治療に参加してほしいと感じるわけではなく,これは公的医療機関よりも民間の医療機関で問題が大きくなる可能性がある。学習環境に適応することに困難を覚える学生が出てくる場合があり,異なる環境をローテートするときに顕著に表れる.ExBLは、学生を煩わしい傍観者から医療チームの(潜在的な)貢献者に変革させることによって、学生の受動性に対処する。このガイドは、指導者育成が臨床医に事前の追加支援をどのように与えれば,学生が自分の学習の責任を取り臨床現場に積極的に参加するように仕向けるようになるかについて示唆している.また、患者の共同参加を支援する方法も示唆している。品質向上も重要な役割を果たす。ExBLを最適化したい教育者は、ExBLを評価して、その場の状況や資源に適応させることができる。
影響
臨床医への影響
「私の部局で、私が行う手技の間で、病棟で、診察室で、医学生に教えるにはどうすればよいか」という質問に対する我々の答えは以下の通りである.「学生が臨床の弁場に参加するよう支援してください.学生がコンフォートゾーンから一歩外に出ることを、そうすることで省察的に学ぶことを、そして能力をもっと身に付けることを支援してください.」あなたの最も重要な貢献は、公式なものではなく、一見すると小さなことかもしれない(例:学生に進んで関わる).良い臨床をモデル化し、学生を会話に参加させ、質問を投げかけ、あなたが何をしているのかを説明し、あなたの模範に従うように促しなさい。学生を歓迎し、臨床での学習環境について説明し、関連する臨床現場での学習の機会を手配することで、臨床現場への配属を学生に支持的なものにしなさい。リーダーシップを発揮し、カリキュラムに積極的に関心を持ちなさい。
ExBLの原則に従う臨床医は、学生と患者が臨床現場に基づく学習に積極的に参加するよう背中を押すことができる。従来の臨床教育とのもう一つの大きな違いは、学生の学習の主題が、難解な知識ではなく、常に臨床と密接に関連していることである。 ExBLでは,実臨床における「複雑さ」以上のものは扱わない.そして実臨床では,「正しい答え」はまず存在せず、どのようなアクションを取るのかは患者と治療者が共同して選択する。
図 3 では,このアドバイスを臨床医と学生と短い出会いの時系列に沿って示したものであり,表 2 と表 4 は、このアドバイスを実行に移す数多くの様々な方法を明記している。
患者と学生の関与
患者における主な貢献とは、臨床で診察を受けている時に学生と共同して参加することである。学生における主な貢献は、臨床医との関係を構築し、臨床現場に積極的に参加し、省察的に学び、その結果として能力を開発することである。患者および学生は、進行中のカリキュラムにおいて、カリキュラムの発展に寄与することができる(図4)。
配属先決定者への示唆
リーダーシップは、臨床配属先決定を成功させる鍵である。リーダーは組織的、教育学的、および感情面での支援を提供するが、個人間での支援ではなく対等な関係での支援を行うことができる。
配属先決定者が答えるべき主な質問は次の通りである。
・この配属はどのような機会を提供するか.
・学生は、これらの機会からどのような能力を開発できるのか.
・学生の参加と能力の育成をどのように支援できるのか.
表 4 に、これらの質問に対する回答を示す。
結論
ExBLは、医学生は医師として仕事を始める準備をしており、働くことができるには仕事の経験が必要であるということを公理として扱う。今までとは違う環境における参加型学習に関する様々なカリキュラムの設計とアフォーダンスに対応するために、ExBLは様々な文脈で柔軟に適用することができる,理論とエビデンスに則った原則を提供する。研修医やその他の医療従事者にとってもExBLはおそらく有用である。より良い「指導医」になりたい臨床医に対し私たちができるアドバイスは、SPaRCを活用することである.つまり,:学生の参加(Participation)、省察的なな実際の患者からの学び(Real patient learning)、および能力(Capacities)と医師であるというアイデンティティの涵養を支援(Support)することである。