2020年9月7日月曜日

質的研究の質評価の基準


Academic MedicineのLast Pageは,駆け出し医学教育研究者にとっては非常に勉強になります.
もちろん医学教育研究者でなくても,例えば家庭医療関連の論文を読む際にも参考になります.

今回は研究の質の基準について,量的研究と質的研究を対比する形で紹介します.


●エビデンスが真実であるかどうか
量的研究:内的妥当性
→観察された効果が,注目している独立変数の影響をどの程度受けているのか

ではどうすればいいのか?
・十分な検出力があるようにサンプルサイズを計算する
・介入内容を詳細に記述する
・脱落を減らす
・コントロール群を設定する など

質的研究:信頼性credibility
→研究知見が他者にとって価値があり,かつ信じるに足るものであるか

ではどうすればいいのか?
・複数の情報源,方法,研究者,理論を用いて,トライアンギュレーション(もとは三角測量という意味.いろんな視点で対象を見ることで,記述を厚くして信頼性を高める)を行う
・期間を長くしてデータを集める(prolonged engagement)
・データとその解釈を研究参加者に見せてフィードバックを得る(member checking)


●エビデンスが他の集団で適応できるのか?
量的研究:外的妥当性
→結果が研究参加者以外の一般の集団についてどの程度一般化できるか

ではどうすればいいのか?
・ランダム化したり層別サンプリングを行ったりする(集団の一般化可能性)
・他のコンテキストで研究を再度行う(生態学的一般化可能性)
・独立変数と従属変数との予測される関係を変えてみる(構造的バリデーション)

質的研究:Transferability
→知見が他のセッティングにおいてもどの程度成り立つのか

ではどうすればよいのか?
・知見とそのコンティストを詳細に記述することで,他者にとって意味のあるものにする(厚い記述)
・サンプリング戦略を説明する(典型例サンプリングなど)
・異なるセッティングにおける先行文献と得られた知見に通底するものを議論する


●エビデンスの一貫性
量的研究:信頼性reliability
→この研究を繰り返した時に一貫した結果が得られるか

ではどうすればよいのか?
・測定の繰り返しによる内的一貫性を推定する(古典的なテスト理論)
・測定に影響を与える変数の源を推定する(一般化可能性理論)
・項目,試験,人(受験者,評価者)のパラメーターを推定する(項目反応性理論)

質的研究:信頼性dependability
→知見が生み出されたコンテクストとの関係において,得られた知見が一貫しているのか

ではどうすればよいのか?
・新たなテーマが出なくなるまでデータを集める(飽和)
・継続的にデータを分析し,更なるデータ収集を行う(反復的データ収集)
・分析中に出てくる考えを用いて,データを継続的に再調査する(反復的データ分析)
・プロセスとトピックに対して柔軟でいる(flexible/emergent research design)


●エビデンスの中立性
量的研究:客観性
→個人のバイアスがどれだけ除去されて,価値判断のない情報が集められているか

ではどうすればいいのか
・盲検化を行う
・匿名化を行う
・オリジナルデータを保管しておく

質的研究:確証性confirmability
→研究者のバイアスではなく,研究参加者とセッティングに基づいて知見が作り出されているか

ではどうすればいいのか
・得られた知見に反するようなデータや文献を探す
・プロセスや結果を他者と議論する(peer debriefing)
・プロセスや研究者の役割や影響を振り返る(再帰 reflexivity)
・ステップや決定を記録する(audit trail)


むちゃくちゃ分かりやすいまとめです.
元論文をぜひご一読ください.