2020年5月25日月曜日

経験に基づく学習(ExBL)について part 6


引き続き,Medical Teacher誌に掲載された,経験に基づく学習(ExBL)の解説論文を訳します.

Tim Dornan, Richard Conn, Helen Monaghan, Grainne Kearney, Hannah Gillespie & Deirdre Bennett (2019) Experience Based Learning (ExBL): Clinical teaching for the twenty-first century, Medical Teacher, 41:10, 1098-1105


支援

 学生が自分の快適な領域から一歩外に出て、患者や臨床医と協働することを助ける,3つの条件がある.この条件は、経験の種類(見学、クラークシップ、臨床研修、臨床現場訪問、選択実習、インターンシップのいずれであっても、そして経験の期間(瞬間、数ヶ月、数年など)によって変わることはない。その条件とは,次の 3 種類の支援である。

・組織的支援:施設、リソース、および学生実習を統括する団体
・教育学的支援:臨床医による,学生の学習の公式,非公式両面からの支援
・感情面での支援::学生の学習環境における肯定的な態度と価値観の表示

 支援とは,学生を甘やかすことでもなければ,追加のオプションでもない.学生が臨床での課題に立ち向かうことを可能にするものである。図 2 はその例示である.表 3 の完全版ガイドで詳細を述べる.



組織的支援
 組織的支援により,学生、患者、臨床医が協働して,臨床と教育の双方を推し進めて3つの当事者すべてに最大の利益がもたらされるようになる。臨床医がリーダーシップを発揮することで、患者,学生との三者間の相互作用が促進されるが、これは組織的支援の最も重要な要素である。

教育学的支援
 ExBLでは、「教育teaching」よりも「公式な教育学的支援formal pedagogic support」という言葉を好んで使用する.それは,教師ではなく学生に関するプロセスに再び焦点を当て、教条的ではなく支持的なものであることを強調するためである.つまり,良い実践をモデル化し、臨床活動に学生を巻き込み、自分の経験を構造化しそこから学ぶ方法を学生に伝えることを意図している。臨床医は、自分の考えを声に出し、学生が一緒に考えることを援助し、学生に説明し、質問し、耳を傾け、臨床での実践について話をすることによって、非公式の支援を提供する。また臨床医は、学生がただ参加するだけでなく,省察を経て実際の患者での学習と能力の獲得を目指すようになる手助けをする.

感情面での支援
 臨床医は、教育的および臨床的実践に対して積極的な態度を持ち、集団レベルでも個人レベルでも学生に肯定的にかかわることで,本質的な支援を提供することができる.感情面での支援は,定義するのは難しいが、認識するのは簡単である。それが最も容易に観察されるのは学生と臨床医との個人間での相互作用においてであるが、どのカリキュラムのレベルにおいても感情面での支援は存在する.配置やカリキュラムを決めるリーダーは学生の情動面をサポートすることで,最も効果的な人材になるからである。


ExBLの評価

 適切に設計された学習環境は、学生が学ぶためのエネルギーを自分の中に見つける助けとなる。配属により学習環境の設計がどれだけうまく行われるかを評価する方法は様々あるが、そのどれもが学生に数値スケールで項目を評価するよう求めるものである.マンチェスター臨床配属指数(MCPI)は、ExBLを評価するために特別に開発されたものである(Dornan et al. 2012 Dornan T, Muijtjens A, Graham J, Scherpbier A, Boshuizen H. 2012. Manchester Clinical Placement Index (MCPI). Conditions for medical students’ learning in hospital and community placements. Adv Health Sci Educ. 17:703–716.).これは短く(わずか8項目である)、学生にコメントを求めて,配属を改善する方法を提案してもらうことができる。学生が簡単に回答を埋めることができるだけでなく、MCPIは広く使用されている他のスケール(Kelly et al. 2015 Kelly M, Bennett D, O’Flynn S, Dornan T. 2015. Can less be more? Comparison of the Dundee Ready Educational Environment Measure (DREEM) and a novel 8-item placement quality measure. Adv Health Sci Educ. 20:1027–1032.)と少なくとも同等の信頼性を有している.MCPIの8項目のうち5項目の平均は学習環境の質を測定し、他の3つの項目は学生のリハーサルと寄与に与えられた支援を測定する。MCPI は、ExBLの評価を行う際に,論理的に最初に選択すべきものである。