2020年10月5日月曜日

Journal Club:医学教育におけるRCT.ロールモデル教育の効果測定


この記事は研究室内で私が発表したJournal Clubの内容を基にしています.


Mohammadi E, et al. Enhancement of role modelling in clinical educators: A randomized controlled trial. Med Teach. 2020 Apr;42(4):436-443. (PMID 31769342)

・論文のPICOは以下の通り.

P:テヘラン医科大学の主要な関連病院2つに所属する臨床経験5年未満の臨床医で,レジデント,インターン,クラークシップ学生のいずれかを監督する任に当たっている者
I: ロールモデルについての教育の目的で開発された3か月の縦断型プログラムを受ける
C: プログラムを受けない
O: 学習アウトカム(反応,学習された内容,行動の変化)

・学習プログラムの内容について
Positive Doctor Role Modellingフレームワークに基づいて内容を決定
 -このフレームワークには2つのphase(exposure phaseとevolution phase)があるが,このうちexposure phaseに絞った内容である.

さらに,先行文献に基づいてプログラムをデザイン
 ーBanduraの社会的学習理論に基づくロールモデル教育の7つの戦略
 ーロールモデルのイニシアチブをデザインする15の原則

・介入についての注意
対照群のコンタミを最小限にするため,プログラムの内容は他言禁止とした.

・Outcomeの測定
Kirkpatrick’s modelに基づいて評価項目を定めた
 -アウトカムのレベル:参加者の反応,学習,行動,プログラムの結果

①参加者の反応:12項目の質問紙で評価(1-5点のリッカート尺度)

②参加者の学習:7項目の質問紙で評価(1点-5点のリッカート尺度)
 ー既知の質問紙を使用した.


 -妥当性が評価されていなかったので今回評価した.
   Cronbachのα係数 0.73 
   項目全体相関:サブセット1と2のPearson相関係数は0.87と0.85
          サブセット間の相関は0.49

 -Cronbachのα係数は,尺度の均一性を評価するものであり,尺度を構成する各質問項目が,同じ特性の異なる側面についての質問となっているかを測る.

 -項目全体相関は,ある項目のスコアと,その項目以外の質問項目のスコアの合計との関連を示すものである.その項目が仲間外れでないことを確認する・

③参加者の行動:参加者(指導者)の下にいる学習者が,盲検化された状態で,行動をRole Model Apperception Toolで評価.
 -Toolの特性 α係数:0.7(開発者),0.96(パイロット研究)
        Test-retestの級間相関係数:0.82

・結果
①反応
介入群のプログラム全体に対する満足度の平均:4.7/5(SD 0.5)
質問紙の最後のフィードバック記載欄でも,満足度の高さが分かった.

②学習
介入群 3.3(SD 0.38)→4.3(SD 0.39)
対照群 3.5(SD 0.47)→3.6(SD 0.50)
介入群の介入前後で有意差あり 介入後の介入群-対照群で有意差あり

③行動
介入群 4.1(SD 0.34)→4.2(SD 0.70)
対照群 4.3(SD 0.32)→4.3(SD 0.30)
全体で有意差なし.かつ,どの評価項目においても有意差なし.

・Limitation
長期間のフォローアップができていない.
 -永続的な効果を評価していない
 -行動の変化を見るには長期間のフォローが必要

1つの大学のみでの実施
 -得られた結果の一般化可能性に制限があるかもしれない

・批判的吟味
Result②学習について,プログラム受講により3.3→4.3に変化したとある.
しかし,評価ツールの元論文では,点数の平均値はサブセット1で介入前3.9→介入直後4.6→1か月後4.3,サブセット2で介入前3.0→介入直後4.4→1か月後4.0と変化している.
今回測定された点数の変化は,このプログラムに特異的なものなのか?

Result③行動について,変化に有意差が出なかった.
統計解析の対象者が,当初のサンプルサイズに至っていないため,検出力不足の可能性がある,
また,尺度のα係数が,パイロット試験で0.96と高すぎる.
ここから,今回の研究の対象集団において,対象者の特性の違いを区別することが十分にできない可能性がある.

・感想
教育効果の測定には,プログラム開発にあたっての理論的基盤の記載や,何をどう測定するかについてなどの細部に気を配る必要がある.
自分もプログラム開発+評価をしてみたいので,とても参考になった.
正直,介入効果としてはイマイチだし,プログラムも小さくて対象者数も少ないけど,しっかりデザインすればLeading Journalに載るのですね.