2016年12月7日水曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 2)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589


医師のバイアス

 私たち医師の対応が精神疾患患者の健康に与える影響についてのデータは限られているが,その中でも比較的研究が進んでいる現象として,diagnostic overshadowingが挙げられる.精神疾患の診断名という影が患者の訴えを尽く影で覆ってしまい,様々な身体症状の原因を精神疾患に帰してしまうことを指す.例えば,急性の疼痛を訴える患者の既往にうつや身体症状がある医師が気付くと,重篤な病気をあまり疑わなくなり,追加検査をあまりしなくなることを示した研究がある.

 解釈バイアスと関連情報とは,はっきりと区別できるものだろう.例えば,胸痛患者が急性冠症候群かどうかを判断する時に,うつの既往があってもその可能性が低くなるとは考えないが,長期にわたる身体症状の既往があれば可能性を下げることができるだろう.良くも悪くも臨床判断はつまるところ審理である.

 バイアスについて研究する別のアプローチとしては,精神疾患のある患者とない患者でガイドライン推奨の治療を行っている割合が異なるかを調べるという方法がある.そしてそれはどうやら異なるようである.がんスクリーニングや待機手術,血圧管理など様々な治療において乖離があることを種々の研究が示唆している.患者の好みやフォローアップ中断がその一因ではあるだろうが,それだけがすべてではないだろう.

 それだけにとどまらない.急性心筋梗塞での冠動脈造影や血管再開通療法といった,緊急時の一回こっきりのイベントであっても,その割合には格差がある.ここまでいってもなお,バイアスが原因であるとは言い切れない.重度精神疾患,とくに妄想症の患者は,医療にかかろうとするのが遅くなり,結果として早期に再開通をしていたら良かったということが起こるかもしれない.さらに言えば,抗凝固薬併用療法を遵守できそうにない患者に積極的にステント留置をする医者はいないだろう.くわえて,D氏のように,治療をすすめても拒否されることもあるだろう.問われるべきことは,患者が必要な治療を拒否するのを医師が受け入れる,それだけでバイアスが説明できるかどうかということだ.