2016年10月28日金曜日

ホームレス状態にある人のケア part4



引き続き訳していきます,part4です.次回で最終回です.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



認知機能障害と外傷による脳損傷



 ホームレス状態の人々は外傷による脳損傷が一般人口と比べて5倍以上起こっていると推定されている.元々の脳損傷に対する治療は存在しないが,家庭医,神経精神専門医,コミュニティや政府にある適切なリソースといった他職種協働の介入により,必要な評価,治療,リハビリテーション,支援が提供される.Mini-Mental State Exaination,Traumatic Brain Injury Questionnaire,Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Statusがこのような患者を評価するのに有用である.認知リハビリテーションは認知機能を最大化し,機能損傷を減らすようにデザインされている.初期評価を行い診断を確定させることに加え,このような患者によく起こる特有の状況(不安,注意力障害,認知症,抑うつ,頭痛,不眠症,痙攣)を想定し治療することも家庭医の範疇である.


外傷と暴力

 ホームレス状態の人々は家庭内暴力,強姦,身体的暴行に日常的にさらされており,不安障害,PTSD,大うつ病を招いてしまう.死の恐怖を抱いている場合も多いが,それは実際の脅威があるからである.女性では,性感染症,望まない新進,外傷後ストレス反応が多い.子どもでは,ストレスにさらされたり外傷をうけたり暴力沙汰に巻き込まれたりすることで,身体,感情,認知,社会,行動の各面で発達が阻害される.ホームレス状態の高齢者は,虚弱や身体機能低下,認知機能低下のため,とくに暴力や外傷が重大な帰結を招いてしまう.虐待が疑われる場合,医師はあらゆる外傷を評価治療し,患者の安全を確保する計画を立て,自治体の担当局への連絡という義務を果たすべきである.対人間の暴力が疑われる場合は, Posttraumatic Diagnostic Scale Modified for Use with Extremely Low Income Womenを用いるべきである.心的外傷に着目したケアや心的外傷に特異的な介入は,心的外傷の重要性に言及し治癒を促進するようデザインされている.


健康問題の予防,感染症,性感染症

 ホームレス状態の人には,予防医療,定期検診,ワクチン接種がなされていないことが多い.一般人口と同じくガイドラインを適応することができる.破傷風予防(破傷風並びにジフテリアトキソイド,またはTDPワクチン)は,最後の接種から10年以上たっていれば再度接種すべきだ.インフルエンザワクチンは年一回接種すべきである.肺炎のリスクがあれば肺炎球菌ワクチンも受けるべきである.HIV,B型肝炎,C型肝炎といった針刺しで感染する病原体の検査も行うべきである.アルコール依存症,HIV共感染,シェルターでの長期間居住は,結核アウトブレイクのリスクを上昇させる.DOTにより結核治療の有効性は著明に向上した.イソニアジドとリファンピンの服用中は肝機能をチェックする.患者の多くはアルコール依存症,肝障害,薬物乱用による肝障害があることが多いためこのチェックは重要である.