2016年9月4日日曜日

Goal-oriented Careについて



The World Book of Family Medicine

WONCA Europeが2015年にpublishした家庭医療の資料集のようなもので
家庭医療のトピックスが100個まとめられています

全部で300ページのpdfなので,目を通すだけで一苦労ですが,
3割がた読み進めて,日常研修でやっていたことが
「なるほど,そうだったのか」と思い至ることも多く
これはずべてに目を通さなくてはという気になります.


たとえば,
J.D.Maeseneer “Family Medicine Facing New Challenges on a Global Scale”
には,このような内容が書かれています.

現在,人類の健康は2つの重大な難問に直面している.
①多疾患併存(multi-morbidity)
②健康の社会的格差

どちらも,日常診療でとても注意していたことであったので
まさに我が意を得たりという感じでした.

②健康の社会的格差に関しては,
以前ブログに書いた通り,Sir Michael MarmotのThe Health Gapをはじめとした
種々の文献で多く議論されており.
また,特に救急患者でよく出会う問題であるという認識です.

①multi-morbidityにつては,高齢者では切っても切れない問題であり
高齢者外来診療の大半はこれとの戦いです.


先ほどの記事では,こう続きます.

個々人が可能な限り最高の健康を得るためには
目標志向型ケア(goal-oriented care)が必要である.

goal-oriented careという用語に聞きなじみがなかったので,調べてみました.

N Engl J Med 2012; 366:777-779
が簡潔にまとめっていて非常にわかりやすかったです.

具体的に言うなら
高血圧診療に対して.
疾患志向型(disease-oriented)だと
降圧目標(140/90とか)が目標となることが多いです.
つまり,死亡率,検査所見,疾患特異的な症状をどうマネージメントするかを重視しており
単一疾患に罹患している場合に有用な手段となります.

一方, 目標志向型(goal-oriented)では
例えば,「起立時のふらつきによる転倒の恐怖を感じない」といった
「患者にとって重要なことはなにか」「それをどのように実現可能なものにするか」
が大事となります.

当然,個人の目標はそれぞれであり
家族と本人の目標が食い違う場合
目標が非現実的である場合
などでは,患者中心の医療でいうところの共通基盤の形成が不可欠になってきます.


外来で自然としていたことでも,
名前を与えられてその枠組みをしっかり学ぶことは
次の学びにつながります.