2016年11月3日木曜日

ホームレス状態にいる人のケア part5 (final)



時間がかかってしまいましたが,ようやくpart5です.最終回です.
図表は訳していないので,ぜひ原文をみていただければと思います.


AFPの2014年の総説ですが,
ホームレス状態の人のケアについてかかれてあります.

学会誌の総説に掲載するその姿勢がカッコいいです。
日本の状況もほぼ同じだよなと実感する内容でしたのでぼちぼち全訳していきます。

Care of the homeless: an overview
AFP 89:634-40.


【訳注】
形容詞のhomelessを「ホームレス状態」と訳すことにします.
Homelessness, the homeless, homeless personsなどの用語も,上記に準じ文脈に応じて訳しわけます.
日本で使われる,人あるいは集団をさす言葉としての「ホームレス」は,あたかも固定化された集団であるかのような印象を与える(と個人的に思っている)ためです.



皮膚,足の問題

 厳しい住環境のせいでホームレス状態の人々ではしらみ,疥癬と続発する細菌感染が蔓延している.しらみの寄生によりBartonella quintana感染が起こることがあり,ホームレス状態の人々に塹壕熱(回帰熱を伴うインフルエンザ用の症状を呈する)や血液培養陰性心内膜炎の原因となる.足部の不衛生,不潔な住環境,長期間の立位と歩行,足に合っていない靴による外傷の繰り返し,濡れた靴下や靴による皮膚のふやけは,擦過傷,膿瘍,うおのめ,たこ,爪真菌症,足白癬,浸足症(0℃以上の湿潤寒冷環境に長期間暴露することで起こる外傷)を招く.長期間の立位は,浮腫と静脈鬱滞を起こし,時に潰瘍や蜂窩織炎を招き入院での抗菌薬静注が必要になる.その場合,大量の水による洗浄,デブリドマン,筋内の抗菌薬,1週間まで使える薬剤浸漬弾性包帯(Unna boot)が有用である.適切なフットケアについての教育,問題の早期発見,足に合う靴,乾いた靴下,生活な住環境,適切なフォローアップが予防に重要である.


環境による健康障害

 ホームレス状態では寒冷や熱による外傷の頻度も高い.凍傷,浸足症,低体温のどれかを経験したことがあると,その他の原因による死亡のリスクが8倍になる.寒冷暴露による外傷の程度とその結果起こる細胞障害を決定する2つの絶対的な因子は,温度と暴露期間である.凍傷を重症化させる因子には,アルコール・ニコチン・ドラッグの使用,低栄養,脱水.副腎不全,糖尿病,甲状腺機能低下症,末梢血管障害,末梢神経障害がある.Frostnipは寒冷による外傷のうち軽症かつ可逆性のものを指し,罹患部位は異常感覚を呈するが復温で回復する.凍傷はより重症であり,局在性の組織損傷をきたす.損傷組織を壊死させないようにし,機能を失わないようにし,合併症を予防することが治療の主な目的である.浸足症(塹壕足)は乾いた靴下をはくことで予防できる.熱痙攣,熱疲労,熱射病は極端に暑い環境に長期間いることで起こる.このような状態に陥っている人は寒冷な場所に移して水分を補給させなければいけない.重症例では入院が必要である.熱射病は致死性である.


ケア提供のモデル

 ケアの最善なモデルは,ホームレス状態の人々に向き合う際に特徴的な困難についてよく知っているヘルスケア専門職のチームによる統合された他職種協働のアプローチであり,患者中心のメディカルホームモデルを様々な場所でのアウトリーチサービスに関連して適用することで,2次・3次医療,回復期・ホスピスケア,住居・雇用・法律支援に関する地域資源や地方局につなげられるようなものである.医療面と精神社会面の両方のニーズを1か所で対応できることと,「ハウジングファースト」政策がカギとなる要素である.標準的な臨床現場にこのようなモデルを持ち込むことで,ヘルスケア専門職は患者とつながり治療,教育を行い,この集団内でのヘルスケアのアウトカム向上を推進する際に統合された役割を果たすことができるようになる.また,このモデルは, 医療機関にかかれなかったりホームレス状態にあったりする人々に医師がかかわっていくようにAmerican Academy of Family Physicians(AAFP)のポリシーで提言する際の実際的な基盤を提供する.ホームレス状態の人々の健康とウェルビーイングを向上させることは,雇用につながる一歩であり,うまくいけば自分の家を再び手に入れる一歩となる.家庭医は,熱意をもって包括的,継続的なケアをこの患者層に提供し,他職種協働チームを統括するのに理想的な立場にいる.