2017年1月17日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 7 final)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

なんとか最後にこぎつけました.時間かかりました.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



私たちのシステムと私たち自身


 集中的な調整が必要であることは、身体的治療と精神科的治療とを結合するために設計された統合ケアモデルの魅力の説明になる。Levineの診療は、Massachusetts Mental Health Centerでの包括的な精神保健サービスにプライマリケアを埋め込むものであるが、このようなアプローチの試行版となっている。このようなモデルにより健康格差が縮まるかどうかは分からないが、私たちのシステムを通じて今後の見通しが簡単になるだけでも価値のある事だろう。しかし、変革的なケアモデルはケアの質を大きく改善することはできないもので、その原因の一端は、責任が微妙に変化することで振る舞いが変わることにあるという話もきこえてくる。「壊れたシステムを治す」ことに着目したからといって、私たち自身の中から生まれる解決策を探すのをやめるのだろうか。

 統合のような抽象的な概念は、助けを必要としている具体的な患者にとって何を意味するのだろうか。つまり、コントロール不良の糖尿病があり、薬物依存の治療中であり、グループホームで階段から突き落とされて片目を失明し、40分を費やして薬物療法を整理して緊急の眼科受診を予約したあとに自分は妊娠しているからそのことを今回の診察で相談したいというような精神疾患患者にとっての意味である。

 Levineがそのような患者に優しく思いやりを持って行く先を示しているのを見て、私は自分の血圧が上がっているのを感じながら、私たち全員が彼女のようにがむしゃらに頑張るべきだと結論するのは楽天的すぎると実感した。重度精神疾患患者は私たちにとって最もタフな患者であることが多い。私たちの現在のシステムの中で患者のニーズになんとか対処しようとすると圧倒されてしまうのは当然であり、だからこそシステムの変化は喫緊の課題なのである。しかし「システム」は私達のような人々が何百万も集まって構成されている。精神疾患患者のケアを有意義に改善するためには、マサチューセッツ総合病院の精神科医Oliver Freudenreichの言うとおり、「ケアの統合とは態度の問題である」ということを認識しなくてはいけない。

 ケアを損なう態度のうち容易に改善できるものがある事は疑いない。より効果的に治療拒否と交渉すること,より巧みに意思決定能力を評価すること,ケア全体を統合しようとする努力が不十分である時を認識することは実現可能であるだろう.一方,重度精神疾患患者が真に必要としているものは私たちが提供できるものではないという集団的信念に打ち克つのは困難を極める.

 この難題を実感することが数週間前にあった.夜遅く家路についたときのことだ.服の乱れた女性が苦悶の表情で「どうしたら家に帰れるの?」と泣き叫んでいた.どこかで見た顔であり,以前も路上で見かけたことがあるのだろうと考えていた.しかし,逆方向に歩を速めながら,数か月前までその女性は私の患者であったことに思い至った.彼女は心不全であり,そのとき私は彼女を治療する方法を確かに知っていたのだ.いま彼女は精神病状態であり,おそらくホームレス状態でもあった.私は何もできなかったのだ.私は歩みを止めなかった.私たちは医師と患者ではなく,夜遅く路上にいるただの二人である,どちらも家に帰りたがっている二人に過ぎないのだと自分に言い聞かせながら.