ちょっと前に、とあるSNSでPNESという用語を目にしたので、調べてみました。
Psychogenic nonepileptic seizuresの略で、訳すなら「心因性非てんかん性痙攣」でしょうか。
てんかんの痙攣に似た発作が起こるが、器質的な異常はなく、精神的な影響により発作が起こるそうです。
そういえばそんな疾患聞いたことがあるなと思いましたが、詐病(malingering)の一種だろうと不十分かつ不適切かつ有害な理解をしていました。
調べてみて自分の不勉強をひどく恥じたので、UpToDateを参考に自分なりにまとめてみます。
PNESは、いわゆる「機能的疾患」に属します。
例えば、車が急に走らなくなって、その原因がタイヤのパンク、アクセルの回路の故障などであれば、これを器質的疾患といいます。
一方、エンスト、ギアがパーキングのまま、シートブレーキが入っているなどが原因で車が走らないとき、これを機能的疾患とよびます。
機能的疾患では、車の部品が壊れているわけではないですから、各種検査では異常が見つからないことが多いです。
ですが車は動きません。実際に動かないのです。ここが重要なポイントですね。
PNESは、以前はpseudoseizureといわれていたようですが、決して偽物ではありません。
患者さんが嘘をついているわけでも、演技をしているわけでもなく、本当に発作が起きている、ということをまず理解する必要があります。
そして、検査でどこにも異常がないという本来なら嬉しい情報で逆に悩んだり、本来不必要な抗痙攣薬を服用してさらに発作が出たりなどしてしまうわけです。
PNESをPNESだと診断することは大事ですが、それは患者さんが自分の状態に対して適切な理解を得て、不適切な治療をされることなく、生活を回復させていくために必要なのであって、医療者は決して「お前嘘ついてるだろ、俺には分かるんだ」という態度をとってはいけません。倫理云々の以前に、事実関係が間違っています。
PNESとてんかん発作の相違点をまとめます。
実際はこんなに明確に区分できるものではないことは留意してください。
PNESとてんかんが併発していたり、PNESなのに抗痙攣薬を服用させられていたりなどで、どっちにも分類しにくいことはままあります。
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てんかん
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PNES
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持続期間
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1-2分以内
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2分以上
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眼
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開眼が多い
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閉眼が多い
開眼に抵抗したらさらに疑わしい
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動き
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決まった動きの繰り返し
全身の動きが同期している
一定または進行していく
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色んな動きが混ざっている
骨盤を前に出す、左右に転がる、強直反張
波がある
(ただし、1/3の患者さんで典型的なてんかん発作がおきる)
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発語
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ないことが多い
横隔膜や声帯がけいれんして声が出ることはある
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時々ある
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遷延する発作時脱力
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非常に稀
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時々ある
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失禁
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けいれん発作ではよくある
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それほどない
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自律神経症状
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大発作ではチアノーゼ、頻脈がよくみられる
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あまりない
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発作後
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混乱、うとうと
半数で頭痛あり
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すぐ覚醒、見当識も元通り
頭痛は稀
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その他
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声掛けに反応
前兆がある
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発作が起きる状況も大事です。
PNESでは目撃者がいる場面で発作が起こることが多いです。
脳波検査のため電極をつけているときに起きたりするとますますPNESっぽくなります。
一方、寝ている間にはあまり起こらないです。
尤も、患者さん自身が夜に発作が起きたと主張することや、寝ているようにみえるけど脳波では覚醒状態ということもあるみたいです。
PNESの発作はストレス下で多くなり、月経周辺で少なくなるとのこと。
また、病院に来る患者さんの殆どで、1日1回以上発作が起こるそうです。
発作が1週間に1回以下ならPNESの可能性は低くなります。
診断は、発作時の脳波検査で異常がないことを確認します。
大抵はモニターを初めて数日以内に発作が起こります。
PNESの診断がつくまで、実に9-16年もかかるそうです。
できるだけ早期に診断したいですね。
30代の女性で発症が多いみたいなので、年齢と性別も重要なポイントです。
前頭葉てんかんは、臨床症状が非典型で発作時脳波も正常なので、PNESと間違えやすいそうです。鑑別時につねに考慮しましょう。
治療は行動認知療法などの精神療法が中心です。
患者さんの疑問に答えていくためにも神経学的フォローアップを行うのが良いとのことです。
薬物治療は併存する精神疾患によります。個別性の高いケアが必要だとありました。
~Clinical Pearls~
PNESは意外と多い。間違っても偽物扱いしないこと。
PNESの発作の特徴を理解する。2分以上、閉眼、横に転がったり骨盤を突き出したりする、発作後すぐ覚醒、声掛けに反応など。