2017年1月10日火曜日

精神疾患患者の健康格差をなくすには(part 6)



NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.

そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.

次回でラストです.


Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589



村全員が総出で行う

 内科医であり the Boston Healthcare for the Homeless Programの共同設立者であるJim O’Connellが,頭皮に小さい基底細胞がんができた統合失調症の男性を診ていたときの話だ.16年間にわたって,O’Connellはがんの治療をうけるよう言い続けたが,患者は指導に従わずがんを自分でむしり取っては再発してを繰り返し,ついにはがんが後頭部に浸潤し脊椎に転移してしまった.患者は手術のため入院し,そこで医学的,精神的治療を受けて精神状態は安定化した.しかし治療は遅きに失していた.精神がしっかりしたことで,かえって後悔の念に苛まれることになった.患者が存命中に,O'Connellはこんな言葉を何回も聞いた.「どうして先生の言う通りにしなかったのか今となってはわからないよ.」

 「何かできるかもしれないのに,病気がいつ致死的になるのかわからないこの状況で完全に行き詰ってしまうんだ」とO'Connellは言う.慢性疾患を持ちながら長年生きる多くの重度精神疾患患者と同様に,この男性も差し迫った危険を感じていなかった.だが最後はその危険に命を奪われた.

 死期が近い患者が高リスクの治療を拒否するのを承諾する傾向にあることが死亡率の格差に一因となっているかもしれないが.寿命を伸ばす機会の殆どはもっとずっと早期の段階に訪れるので,慢性疾患のマネージメントに対する介入に対しての態度の方が健康格差により影響を与えていることが考えられる.課題は,悪性のバイアスが招く受動性を適切に選択を尊重することから区別することである.意思決定能力は,それを有しているかいないかの二つに一つであるように思われるが,実際にはそこまで重要でない決定では能力の閾値は下がる傾向にある.例えば,スタチンの服用やマンモグラフィー検査を強制するのは一般に不適切なことであるし,これはゆっくり成長する基底細胞がんの切除にも当てはまることでもある.

 しかし,強制が正当化されることはめったにないにもかかわらず,「あなたができることはそこまでだ」という合理化は怠惰を敬意とあえて誤解釈する.強制をせずとも私たちにできることはたくさんあるのが普通だが,治療をしっかり提供するより,治療を「患者が拒否した」とカルテにかくことの方がずっと簡単である.

 重度精神疾患患者に下部消化管の定期検査を行う際に必要な労力について考えてみよう.
検査を行う意義を理解してもらうには何回か受診してもらう必要があることが多い.そして.それができる医師は大抵何年もかけて信用を構築してきている.患者が同意したら,前準備をどのように進めていこうか.国患者がホームレス状態であったらどうするだろうか.前日から入院させる,あるいはグループホームのスタッフと密に連携をとるという方法がある.しかし,ほんのちょっとしたこと,例えば早い時間の予約に間に合うよう起きるのが難しい,間違って朝食を食べてしまったなどで,すべて水泡に帰す可能性がある.内視鏡検査をもう一度試みることになった1人の男性患者が,最初は検査の前に家に送り届けられたことについて話してくれた.「僕はパジャマまで着ていたんだ」.患者の言うパジャマとは病院のガウンのことである.彼は家まで帰る交通手段がなかったので,看護師が送ることになった.Levineは私たちのシステムの中で重度精神障害患者を引き受けることの難しさを強調するストーリーをたくさん話してくれた.「"村全員が総出で行う"という慣用句ではとてもじゃないけど表現できない」とLevineは言った.