NEJMのMEDICINE AND SOCIETYに
3週連続でLisa Rosenbaumが精神疾患について寄稿しています.
そのうち,2週目のテーマが
「精神疾患患者はなぜ寿命が短いか」
であり,じっくり理解したい内容でしたので
いつものとおり何回かに分けて全文翻訳していきます.
Closing the Mortality Gap — Mental Illness and Medical Care
Lisa Rosenbaum, M.D.
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N Engl J Med 2016; 375:1585-1589
患者を理解する
分かった.強制が忌避すべきことだとしよう.次の質問は明白だ.患者が納得して必要な医療を受けてもらうより良い方法はあるのだろうか.ひょっとするとこの質問は正確に言うと問題を孕んでいるのかもしれない.MacArthurテストを考案したコロンビア大学の精神科医であるPaul Appelbaumは30年以上前の研究で,治療拒否の理由は大抵のばあい複雑であり,コミュニケーション不足,信頼の欠如,抑うつや妄想といった心理的要因の存在が関連していることを示している.ところで彼の観察によれば,「医師は,患者と話すことで拒否の根底にある要因を明らかにすることにほとんど労力を割いていない.」
この研究の今日的意義は,患者を理解しようとするちょっとした努力が救命につながりうると強調していることだ.たとえば,大きな肺がんのある患者が救命の唯一の手段である外科的手術を拒否しているとする.Appelbaumなら,がんは空気と触れると広がっていくと耳にしたのだと患者や妻から聞き出しただろう.多くの場合,手術チームが時間をとってこのような間違った信念を取り除いていけば,方向転換は容易である.
ところで,間違った信念と妄想の境界線はどこだろうか.心臓発作から数か月後,Levineは診察室でD氏を診ていた.D氏は内服を止めていた.自分の心臓は「美しい」と他の医者が言っていたというのが彼の言い分だった.Levineは心電図を再度見ながら,この前の心筋梗塞がどの程度だったかを伝えた.以降,D氏はLevineに顔を見せることはなくなった.診療の場をうまくコントロールできなかったことをLevineは悔いている.「患者の妄想を直接否定するなんて絶対すべきではなかった.」でも,患者にまず心臓に病気があると理解してもらわないと,心臓の薬を飲んでもらうなんてできないよという私の声掛けに,Levineはこう答えた.「私はこう言うべきだった.あなたの美しい心臓をずっと美しくしておきたいの」