2018年8月19日日曜日

患者を知ってノーと言えるように(part 3)


つづきです.FAVERアプロ―チのVとEです.

V:最も適切な光を当てて患者を見つめる(View)
 過去の体験、時間のプレッシャー、疲労、バーンアウト、人格などの複数の要因が、自分の要求が「間違っている」と患者は分かっているとの考えに医師を導いてしまう。このような考えにいたると、陰性感情が増幅され、医師患者関係がこじれてしまいかねない。
 最も適切な光を当てて患者を見つめることは、困難な患者関係がさらに悪化することを防ぐ解毒薬である。その目標は、患者は自分の要求が不適切であることが分かっていないことをしっかりとらえることである。以上のより自然な枠組みを使うことで、医師は患者により肯定的かつ効果的に対応することができ、頼れる後ろ盾を得たと感じることができる。
 医学的な問題についての誤解は良くあることで、多くは個人の責に帰すものではないということを覚えておくと助けになるかもしれない。特定の疾患あるいは状況では特定の行為が観察される可能性があるということも覚えておくべきである。たとえば、糖尿病の患者では血糖値が高いだろうと考えるように、物質依存の患者も望む物を更に手に入れるためにうそをついたり巧言を弄したりするかもしれないと考えておく。患者を否定的に見つめても会話の助けにならないことが多い。患者が自分を利用したり操ろうとしたりしていると考えることが、不適切な要求に屈しないように備える助けとなると主張する者もいるかもしれない。確かに上記の主張が当てはまる患者もいるだろうが、医師患者関係と医師の健全感に与える悪影響を考えると、殆どの場合で効果も魅力もない主張である。

E:その要求がなぜ不適切なのかを明確に(Explicitly)述べる
 次のステップは、患者の要求がケアとして意義が乏しい、法律違反である、人道にもとる、信義に反するということを明確に述べることである。明確に述べる際には簡単な説明を付け加えてもよいが、以下の事項は避ける必要がある。
 冗長な説明を行う。心配だとたくさん話しがちになる。このような状況では、医師がたくさん話すほど、内容が本来のメッセージ(例:「それはケアとして意義が乏しいです」)から離れてしまう傾向があり、議論の余地を与えてしまうことになる。この種の愚論は気力と時間を浪費するだけでなく、医師が要求に屈してしまったり、患者の不満が高まり誤解を招いたりすることが多い。医師側が本来のメッセージに立脚しつづければ、患者側は意義の乏しいケアを要求する、あるいは法律違反である、人道にもとる、信義に反することを医師にするよう要求するという危うい立場に置かれることになり、議論が発生しづらくなる。
 自分の心証について話す。「この薬の処方量を増やすのはあまり気乗りしないなぁ」などの発言は,医師の気持ちなどには全く興味がない患者にはいら立ちを非常に大きく募らせるだけであり,患者を怒らせることになりかねない.その代わりに,要求に対する不快感を克服すべきものとみなして,患者のおかれている状況を再度説明したりより詳しく説明したりする医師もいる.
 立場を述べた上で,その立場を変える.これをすると,信頼や医師の意思決定に対する患者の信用に関わってしまう.加えて,議論の余地を提供することになりかねない.
 研修医や若手の医師は,立場を確立したり制限を明確に設けるほどの経験や医学知識,権威がないため,苦労することが多い.しかし,年季の入った医師でも同様の状況に陥ることがある.診察中に刻々と進んでいく秒針の音を聴いて,明確な制限を決めて設定するための時間を割くことができると感じられなくなるのかもしれない.長い目で見れば,部屋から出て,制限を決めてから,それを患者に効果的に伝える方法を定める方が良い手であり,効率的でもある.
 意義の乏しいケアを提供したり,人道に反することを行う:「ちょっとだけ」.もしオピオイド処方が患者の疼痛のタイプでは適応がないのに,患者に少しだけ,今回だけと処方してしまったら,それはちょっとだけ不適切な治療を行ったのと同じことである.搔痒に「病欠証明書は過去の日付で出してはいけないことになっているんだけど.今回だけは出してあげますね」といつ発言は,回避行動の1つの型,つまり問題の一時的な先延ばしであり,逆効果である.これが特に当てはまるのが,あなたが同僚の代わりにしたことを,あとでその同僚が元に戻したり,患者受けの悪い他の方策を取らなくてはいけないときである.