2018年9月7日金曜日

患者を知ってノーと言えるように(part last)


長かったですが,ようやくラストです.


想定される患者の反応

 FAVERの技術は,初めは簡単ではないと感じるかもしれないが,実際は臨床をもっと容易にしてくれるものであり,患者受けの良さに驚くことになるかもしれない.大半の患者は,たとえがっかりしたとしても,あなたのノーを受け入れてくれるだろう.患者は自分の欲しいものや必要だと思っているものを得ずに終わり,自然と少し曇った気持ちになるだろう.怒りを表出することも,担当医を変えようとしたりクレームをつけたりすることもあるかもしれない.これは疾患による症状であることが多く,あなたやあなたの治療によりもたらされたものではない.
 数は少ないがより憂慮すべき事態として,患者が威嚇と取れる行動をする(罵声を浴びせる,ドアを強くたたく,悪口を言う,紙を投げつける),あるいは患者が明確にあなたやスタッフにたいし脅迫を行うことが挙げられる.もしあなたの診療が脅迫行動に向き合うだけのポリシーに欠けているなら,しっかりポリシーを持ったほうが良い.そうすることは,患者に退去を命じる,警察に来てもらうといった結末に関わってくるだろうし,医師が自分の身の安全を確保するために適切な警告を行う手助けとなってくれるだろう.
 やり取りの困難さを経てやがて医師患者関係が強化されることも多いが,それでも医師
の気持ちは落ち着かないままであるだろう.医師が最善を尽くしても,すっきりしない結末を迎えることもある.FAVERの戦略やアプローチは効果的でないと結論づけたり,将来のために捨て去りたいと願ったりすることもままあるだろう.実際,後味の悪さは避けられないことかもしれない.例えば,あなたには手が付けられない,そのときには手が付けられない患者だっているだろう.それが人間というものであり,医療というものである.そんな患者でも,いつか良くなるかもしれないし,別の医療従事者が何とかしてくれるかもしれない.信頼できる同僚とデブリーフィングをすることが,このような困難な診察場面において自分の役割を認識しながらも,患者の感情面,行動面での反応に責任があると思いこまずに済む一助となる.
 FAVERアプローチという,比較的よく遭遇する不愉快な臨床場面にアプローチする簡潔かつ標準化された方法を使うことで,医師が元気づけられ励まされることを願っている.関係性を保ちながらノーということはたやすいことではないが,実践可能なことであり努力する価値のあることである.