2018年8月6日月曜日

相手を知ってノーといえるように(part 1)


Family Practice Managementのレビュー記事

Getting to No: How to Respond to Inappropriate Patient Requests

の全文訳です.面白い内容ですよ.


相手を知ってノーといえるように(※1):患者に困ったお願いをされたら
5ステップのFAVERアプローチで,患者との関係を保ちつつも不愉快なお願いを拒否できるようになる.

 「やあ先生,お願いがあるんだけど」
 こんなありきたりの質問が、一日の仕事のなかで最大の難題にたやすく変わることがある。医師が不適切だと感じるお願いを患者がするのは珍しいことではない。オピオイドやベンゾジアゼピンの処方、職場や学校への病欠証明書、高価な検査や手技、家族介護休暇や医療休暇の証明書(※3)、耐久性医療用具(※2)を患者が要求することは、しかるべき状況であれば全く適切なことである。しかし、その要求がふさわしくない状況である場合、あなたならどうするだろうか。気持ちが逆立ち、要求を断るというのがよくある反応である。了解してしまい後悔することもあるかもしれない。要求を断るも場当たり的な対応に終始したため、医師への信頼を損ない、患者の足が遠のき、双方とも不満なままで終わることもあるかもしれない。
 効果的でありかつプロフェッショナルとして恥じないやり方で、患者へのケアの質を向上させてかつ関係性を損なわないようにしながら、医師自身の満足度も保たれるような断り方を学ぶ技能が必要とされている。経験上、この技能を自然と身につけている医師は殆どいない。患者からの不適切な要求にこたえる枠組みがなければ、ノーというのは骨の折れる業となるかもしれない。
 患者からの不適切な要求に対処する、シンプルで標準化され応用しやすいアプローチを私たちは開発してきた。FAVERアプローチ(各ステップの頭文字になるようfavor(※4)の綴りをもじった)は5つのステップからなり、患者医師間の齟齬を最小化し、ケアの質とラポールを最大化するものである。(このモデルを1ページに要約したものを”FAVERアプローチ:患者に困ったお願いをされたら”の29ページに掲載している(※5)。)

KEY POINTS
・オピオイド、病欠証明書、高価な検査といった、患者からの不適切な要求に対応することは、すべての医師が獲得する必要のある技能である。
・FAVERアプローチは、自分が不愉快な気持ちでいることを認識することからはじまる。なぜなら、このような気持ちが得てして患者からの要求が不適切であることを示すからである。
・患者は自分の要求が「間違っている」と分かっていると決め付けても、意思疎通が複雑になるだけなので、患者に悪意はないとみなすのがよい。
・要求を断らないといけないときは、その要求が不適切である理由を明確に伝えるべきである(例:その要求はケアとして意義が乏しい、法律違反である、人道にもとる、信義に反する)が、長々とした説明は避ける。


※1 表題のGetting to noは、”get to KNOW (知り合いになる、相手のことを深く理解する)”というイディオムとかけていると解釈して、このように訳した。

※2 家族介護休暇(family leave)は高齢の家族の介護のための休暇、医療休暇(medical leave)は病気療養のため自宅安静が必要な場合のための休暇で、どちらも有給休暇となる。取得には医師の診断書が必要。

※3 耐久性医療用具(durable medical equipment):車椅子や介護ベッドなどの福祉機器の総称。メディケア加入者を対象に販売される。

※4 favorは人にお願いをする決まり文句の中にある語句。この記事の冒頭でも使われている。「やあ先生、お願いがあるんだけど」(Hey, doc, can you do me a favor?)

※5 この訳文には掲載していない.