2018年8月13日月曜日

相手を知ってノーと言えるように(Part 2)


続きです.いよいよFAVERアプローチの具体的な項目が説明されます.

F:不愉快な気持ち(Feeling)を認識する
 FAVERは患者からの要求によって生じるあらゆる不愉快な気持ちを認識することから始まる。人間は否定的な感情をしらずしらずのうちに避けてしまうことが多く、医師も例外ではない。それどころか、誰かに仕えている際の自分の体験を否定するのに長けてしまうという更なる合併症を来たすことさえある。患者からの不適切な要求による居心地の悪さを認識し、そこから逃げないことは不可欠な要素である。それは今の状況をもっとよく観察する必要があるという手がかりとなる。
 上記を実践するには、以下の患者からの要求を読んでどのように感情が動くか気づくのがよい。
・オキシコドンが全然効かなくなっているの。もっと量を増やしてちょうだい。
・頭痛が何回も起きるからMRIを撮ってほしいのですが。
・陪審員として召集がかかっているんだ。行かなくてすむように一筆書いてくれないか。
・電気車椅子を手に入れることができるために、この用紙に記入してください。
・私の犬がコンフォートアニマル(※6)として認められるように一筆書いてくださいませんか。
 このような要求を何も不愉快に感じないならば、その要求が適切でありFAVERの枠組みの残りの部分を適用する必要がない状況をおそらく想像しているのである。たとえば、慢性腰痛や重度の不安障害により陪審席に座ることができない身体状況にある患者に診断書を渡すことは良質な患者のケアといえるだろう。また、重度の不安障害のある患者について併診している精神科医に相談し、飼い犬の存在により患者の屋外での機能が著しく高くなると判断したならば、コンフォートアニマルを承認することは完全に適切なことである。
 しかし、状況が適切でなければ、不愉快な気持ちとともに、以下のような特徴的な思考が芽生えることになる。
・自分はうまく利用されている。
・この患者は自分をだしにしている。
・患者に申し訳ない。
・断るのはいやだなぁ。
・患者の頭に血が上っていっているぞ。
・患者のいうとおりにしなかったら、クレームをつけられることになる。

A:なぜ不愉快な気持ちなのかを分析(Analyze)する
 FAVERアプローチの2番目のステップは、どのような考えが不愉快さをもたらしているのか分析することである。不適切な要求に対して抱く考えは、以下のどちらかあるいは両方に通常は分類できる。
・この要求を呑んだら医療ケアの質が低下してしまう。
・この要求を呑んだら、法律に違反する、人道にもとる、あるいは信義に反する。
 患者の要求を不適切だと感じ不愉快な気持ちになる理由は大抵すぐに分かるようになる。


※6 コンフォートアニマル(comfort animal)は不安障害やうつ病患者の心のよりどころとなる動物のことで、米国では法律上の規定がある。盲導犬などのservice animalとは異なり、特定の技能を持っているわけではない。