2017年7月19日水曜日

施設入居者の骨粗鬆症(part 2)


施設入居者の骨粗鬆症について,エビデンスをどのように臨床に適応するかに着目した記事がCanadian Family Physicianに掲載されています.

Osteoporosis management in residential care
How internal and family medicine resident physicians translate evidence into practice

Weiwei Beckerleg and Rachel A. Oommen
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 411-412;


治療のエビデンス

ついこの前リウマチ科をローテートしていたとき,椎体骨折の既往がある地域に住む患者には経口ビスフォスフォネートよりゾレドロン酸やデノスマブがよいと指導医に勧められ,刺激的な議論を繰り広げた.ところで,長期施設入所者に対する骨粗鬆症の薬物的治療のエビデンスはどのようなものだろうか.

最近公表されたJournal of Internal Medicineのレビューには,カルシウムとビタミンDの補充は,地域に住む成人の股関節部の骨折を予防しないとある.しかし,カルシウムとビタミンDの組み合わせは,ビタミンDが欠乏している施設長期入所中の高齢女性の股関節部骨折の予防には有用であることが示されている.高齢者,特に高齢男性に対し,当然のようにビタミンDとカルシウムの補充を行ってよいのか疑問が出てくる.骨折を予防するというエビデンスが現状不十分にしかないからだ.しかし,施設入所者のビタミンD欠乏がおそらく非常に多いことを考えると,低用量のビタミンD補充(400-800IU/日)は,重大な副作用もなく,おそらく許容されるだろう.一方,過量のカルシウム摂取は,消化器の副作用,腎結石,心筋梗塞などの心血管イベントにつながる.実際に,ビタミンD欠乏のない患者で,カルシム摂取量が300mg/dayと少量であっても,臨床的に有意な骨量減少につながらないというエビデンスがある.このような理由により,カルシウム補充の敷居は高く,とくに他疾患が併存している長期施設入所高齢者ではとりわけ難しいと感じるだろう.

骨粗鬆症治療薬の一つである骨吸収抑制薬の選択については,Nature Reviewsの論文に,頻用される薬剤を比較した包括的な要約がある.経口または非経口のビスフォスフォネートならびにデノスマブは臨床で最もよく出会う薬剤である.第一に,これらの薬剤の効果とリスクを直接比較したガチンコ勝負は行われていない.デノスマブはRANKLを標的としたモノクローナル抗体であり,6か月おきに60mgを皮下注射することで椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ68%, 40%, 20%減らす.デノスマブに関連する重要な有害事象として,皮膚感染,尿路感染,皮膚炎や失神といった皮膚反応がある.36か月間のデノスマブ治療はプラセボと比較して,有害事象全体の発生率に有意な差はなかった.

以上のデータはFREEDOM (Fracture Reduction Evaluation of Denosumab in Osteoporosis Every 6 Months)試験で得られたものである.ゾレドロン酸(年1回5mg投与)の有効性も同様であり,椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ70%, 41%, 25%減らす.7つのRCTをまとめたシステマティックレビューによると,経口リセドロネートは椎体骨折,股関節骨折,非椎体骨折をそれぞれ39%, 26%, 20%減らす.ビスフォスフォネートの有害事象はよくわかっており,顎骨壊死,非定型大腿骨骨折,消化管障害などがある.これらの有害事象のリスクは低く(治療10,000-1,000,000人年に1例),経口でも非経口でもおおよそ同じである.注意すべきこととして,非経口ビスフォスフォネートでは注射後に頭痛,発熱,筋痛といったインフルエンザ様症状が出現することがある.初回で最も可能性が高く(31.6%),回数を経るにつれリスクは大きく減少していく.