2015年1月22日木曜日

NEJM Case3-2015



今週のNEJM Case Records of the Massachusetts General Hospitalです。

記事が長いといわれたので、簡潔さを心掛けます。
時系列など大幅に端折ったので、全文を読みたい方はこちらへ。


Case 2-2015
A 60-Year-Old Woman with Abdominal Pain, Dyspnea, and Diplopia

【患者】真冬に救急受診した60歳女性

【主訴】腹痛、呼吸困難、複視

【現病歴】
1日前に、声が嗄れて太くなり、唾液が増えた。
その日の晩に以下の症状が出現。
 嘔気、嘔吐、腹痛(鋭い、持続する、びまん性)、喘息発作(既往あり)に似た息切れ、喉が締め付けられる感じ、嚥下困難

ここで他院に救急受診。体温36.8℃、血圧138/79、脈拍117、呼吸数18、SpO2 96%r/a。
CTで小腸閉塞あり、経鼻胃管挿入。
ここで、水平性の複視が2時間前から続いているとの訴えあり。
その後すぐ、しゃべることが難しくなっていった。
他院到着してから9時間後に当院到着。
そのころには患者は筆談でコミュニケーションをとるようになった。

【身体診察】
意識清明。体温36.8℃、血圧125/77、脈拍122、呼吸数18、SpO2 96%r/a
複視が進行。両側完全眼瞼下垂、眼球運動麻痺、瞳孔不同にまで至った。
語音不明瞭。舌突出不能。顔面神経麻痺も出現してきた。
喉頭鏡で両側声帯麻痺あり、浮腫なし →挿管に。
四肢近位筋力低下あり。腱反射低下。バビンスキー反射は陰性。
感覚障害はなし。



以下、解説篇です。



Problem listはこんな感じかな。

# 脳神経障害
両側動眼神経、顔面神経、迷走神経、舌下神経麻痺は少なくともある

# 自律神経障害(副交感神経障害)
頻脈、低血圧?、消化管運動低下→嘔気嘔吐腹痛

# 運動神経障害
近位筋力低下、もしかしたら呼吸筋麻痺あるかも、腱反射消失

# 感覚神経は障害されていない
# 上位運動ニューロンは障害されていない
# 失調なし

# 発熱なし、筋痛なし、先行する感染症状なし


障害部位に共通するのは、神経伝達物質がAChである、ということ。
重症筋無力症は、急速な進行と、自律神経障害があることから否定的。

筋電図検査やPCRなどで確定診断がつきました。
【診断】原因物質不明のボツリヌス中毒


ボツリヌス中毒の典型症状は、眼のかすみ、眼瞼下垂、複視です。
運動神経障害は下行性におこり、両側で近位→遠位へと思いります。
自律神経障害も良くみられる症状で、神経学的症状の前に消化器症状が出ることもあります。
感覚は正常、発熱もなく、画像検査では異常は見つかりません。

私は最初、喉頭浮腫+中枢神経症状で橋本病かなと考えました。
しかし、頻脈の説明ができず、アレ?という感じに。
両側声帯麻痺あたりから、何か違うぞと思いはじめました。
脳神経motor neuronの障害、それに加え麻痺性イレウス→自律神経障害?
というところまではたどり着けたのですが
ピッタリくる疾患が思い浮かばず、マニアックな自己免疫疾患かなとうたぐるハメに。
ボツリヌスという鑑別が完全に抜け落ちていました。


~Clinical Pearl~
ボツリヌス中毒=眼と球麻痺を中心とする脳運動神経麻痺+自律神経障害+感覚神経intact(+近位からの末梢運動神経障害)