2015年1月8日木曜日

複雑性悲嘆(NEJM Clinical Practice)



今週のNEJM Clinical Practiceは、複雑性悲嘆についてでした。
意訳多めでまとめてみます。

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Complicated Grief
M. Katherine Shear, M.D.
N Engl J Med 2015; 372:153-160

冒頭に提示されている症例です。

68歳女性。夫の死から4年間寝れない日が続いている。夫と一緒に寝ていたベッドで寝るのが耐えられないためリビングの長いすで寝ている。料理をすると夫を思い出すので毎食たべるのをやめた。冷凍庫には夫のために作った料理がまだ残っている。夫の死がいかに理不尽だったか考えることが多い。どうしてもっと早く病気に気が付かなかったか、夫の世話をしていた医療者と自分自身を責める。夫とかつて一緒にしていたことをいま一人で行うのはあまりに辛い。夫と一緒に死ねばよかったと考えてしまう。


ポイントは以下の通りです。

・死別直後は、相手の声が聞こえたり姿が見えたりなどといったseparation responseが現れることもある。
・普通なら死別の悲しみは波打ちながらも時と共に徐々に薄らいでいく。

・複雑性悲嘆は異常に重篤かつ長期間にわたる。生活機能が失われる。
・亡くなった相手を激しく思い焦がれ、心理的な痛みを抱く。思い出でいっぱいになり、死を受け入れられない。相手の居ない未来を意味のあるものと想像できない。

・世界の人口の約2-3%が影響を受ける。
60歳以上の女性に起こりやすい。
配偶者との死別で10-20%発症。子どもとの死別では発症率はもっと高い。
・突然の暴力的な死別(自殺、殺人、事故など)で生じやすい。

・PTSDと明確に区別すべきである。
希死念慮の割合が高い。十分に話を聴きだすこと。

・RCTで有効性が確立しているのは認知行動療法のみ。
・抗うつ薬の投与で、症状と治療完遂率が改善する。RCTのデータはない。


冒頭の症例について

この患者は複雑性悲嘆に陥っている。
質問紙を用いて悲嘆の特徴を聴取する。気分障害などの既往歴や酒・ドラッグの使用、自殺企図についても尋ねる。他の医学的問題についても留意する。
治療は認知行動療法である、RCTのデータは欠けるが薬物療法を併用しても良い。