2015年1月15日木曜日

解説篇:NEJM Case2-2015



問題篇がまだの方は、先にこちらを読んでくださいね。


Case 2-2015
A 25-Year-Old Man with Abdominal Pain, Syncope, and Hypotension


急激な腹痛と低血圧をみて、最初は
肝がん破裂、腹部大動脈解離、腹部大動脈瘤破裂
などを想起しましたが、その後の経過が合わないです。

腹腔内でなにかが「破れた」のは間違いないだろうとおもいます。
あとは、このような急激な症状を引き起こすような「なにか」が分かればいいのです。
破れたものの内容物がこの病態を引き起こしているのでしょうが…。

うーん、ヒスタミンなら血圧低下・脈拍数増加と皮膚所見を説明できるかな。
肝臓のカルチノイド腫瘍が破裂した?原発は虫垂?
でも、本当にそんなこと起こるのでしょうか…。
25歳という年齢も合わないです。

失神の鑑別は
心原性、痙攣、神経性(血管迷走神経反射など)、血液循環(貧血など)
があがりますが
なんらかの物質により急激に血管拡張・透過性亢進が起きた
として間違いないとは思います。
問題は「何らかの物質」が全く思いつかないこと。なんだろう…。

と、ここまで考えて続きを読みました。


…あー、なんで思いつかなかったんだろう。
エキノコックスはアナフィラキシーショックを起こすじゃないか!

なぜここまで考えておいてエキノコックスを想起できなかったのか。
自分の理解、記憶の仕方が中途半端だったのでしょう。
「エキノコックスの嚢胞の生検は播種とアナフィラキシーを起こすため禁忌」
としか理解しておらず
エキノコックスの嚢胞が破裂してアナフィラキシー
というエキノコックスの自然史を十分理解していませんでした。


Wikipediaの記載が最も分かりやすかったので引用します。

患者の98%が肝臓に病巣を形成される。感染初期の嚢胞が小さい内は無症状だが、やがて肝臓腫大を惹き起こして右上部の腹痛胆管を閉塞して黄疸を呈して皮膚の激しい痒み、腹水をもたらす事もある。次に侵され易いのは肺で、咳、血痰、胸痛、発熱などの結核類似症状を引き起こす。経過は成人で10年、小児で5年以上かかるといわれている。そのほかにも、脳、骨、心臓などに寄生して重篤な症状をもたらす事がある。また、嚢胞が体内で破れ、包虫が散布されて転移を来たす事もしばしばある。内容物が漏出するとアナフィラキシーショックとなる。本虫の引き起こす症状は大型の条虫よりも重篤である。


~Clinical pearl~
エキノコックス嚢胞の破裂はアナフィラキシーショックを引き起こす。