2019年2月11日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 4)



Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


空間を探索する

 実際の医師の営為,特に患者診察の初期段階での営為を描写するには,新しいやり方が必要である.そこで私は,医師はこの広大な問題空間をまず探索し,患者はそこで中心的役割を果たしているという考えを提唱する.


帰納的渉猟,そして誘発されるルーチン

 282のプライマリケア診療と163の診断エピソードの分析により,帰納的渉猟(inductive foraging)と呼ばれるプロセスが明らかとなり,これは特異的な仮説の生成に先行することが示されている.(5,16)このプロセスは,最初に患者に自分の問題を語るよう促すというものである.多くの場合,この語りは次いで主訴として記録されるものとは大きく異なる.患者が同時に語るものは,付随症状や機能的関連,そして多くの場合自分なりの説明や懸念である.もし患者が邪魔を受けず語り続けることができれば,患者は症状や問題を自分が知覚した通りに医師に伝え,問題空間の探索を誘導することになる.

 いくつか例を挙げる.倦怠感と抑鬱のある63歳男性が,最近シャツのボタンがかけにくいと語ることで,早期のパーキンソン病のヒントを提供する.67歳の退職した配管工がここ最近よくせき込むと話す.呼吸機能検査を行うべきか考えているときに,患者が現在地域のブラスバンドでチューバを演奏していると以前話していたことをなんとか思い出し,患者の呼吸機能は問題ないだろうと安心する.

 無限と言ってよい問題空間の中で,医師が直截的かつ多くの場合クローズドな質問で探索を行うということは,総合医のセッティングではまず現実的でない.一度患者の話の腰を折ってしまうと,患者は多くの場合受動モードに切り替わり,医師が思いつく範囲内の問題に関する質問だけに答えるようになってしまう.明らかに,このような早期閉鎖が起こると重要かつ思いがけない問題点が失われてしまう.どんな顛末を迎えるかは,導入で述べた薬剤誘発性頭痛の事例をみれば瞭然である.あの若い医師が薬剤の有害事象という仮説に自分の力でたどり着くとはあまり思えない.何とかたどり着くとしたら,冗長な質問を重ねあれこれ悩んだ挙句だろう.患者に病像を話すのに十分な時間を最初に確保し,積極的傾聴により患者の話を促すことは,患者にやさしいというだけでなく,診断を豊かにし診察の有効性を高めることにもつながる.

 患者の助けを得て問題空間が確定された後に,医師はその限られた領域を直截的な質問によって探索する.しかしこの探索は特定の仮説に従うものではなく,誘発されるルーチン(a triggered routine)と呼ばれる(図2).例えば,嘔吐したという患者に腹痛と便通について尋ねる.冒頭の若い医師が患者に頭痛の性状を訊くのもこの一例である.帰納的渉猟と誘発されるルーチンに,明確な仮説は必要でない.仮説をあまりに早期に検証するのは,重要な情報が失われるかもしれず,ともすれば有害ですらある.私たちが以前行った研究(5)によると,上述の探索戦略により十分な情報が得られるため,特定の診断仮説の評価が必要な診療は全体の半数に満たなかった.この半数以下の事例においてのみ,プライマリケア医は,Elsteinらの独創性に富む研究(17)に端を発する仮説演繹モデルが提唱するような特定の診断仮説を念頭に置いた追加データの収集を行う必要があった.