2019年1月21日月曜日

プライマリケアにおける診断(part 1)


Donner-Banzhoff N. Solving the Diagnostic Challenge: A Patient-Centered Approach.
Ann Fam Med. 2018 Jul;16(4):353-358.

かなり手ごわい論文ですが,病院から診療所勤務になって,診断があわないと悩んでいるときなどには,非常に有用な内容が含まれています.


診断上の難題を解き明かす:患者中心のアプローチ

要約

臨床上の問題を妥当にかつ異論のないように説明することは,医師のみならず患者にとっても重要なことである.医師が診断にたどり着く道筋については現在,閾値アプローチや仮設演繹モデルなどの理論があるが,それらは総合診療における診断プロセスの正確な描写には至っていない.総合診療で扱う問題空間の広さと各疾患の事前確率の低さを考えると,医師の鑑別診断リストにある特定の疾患を調べることに診断プロセスを矮小化するのは非現実的である.そこで,患者と医師が協働して診断に達する方法,とりわけ帰納的渉猟と呼ばれる,診断的ルーチンを誘発する情報を引き出すプロセスによる方法について新たなエビデンスが議論されている.診断上の難題の解決と患者中心の診療は切り離して考えるべきではなく,これらは相乗的なものである.


キーワード

臨床上の意思決定(clinical decision making)
診断(diagnosis)
仮説演繹法(hypothetico-deductive reasoning)
帰納的渉猟(inductive foraging)
医師(physicians)
プライマリケア(primary care)
プライマリヘルスケア(primary health care)
閾値モデル(threshold model)


はじめに

 フランス映画「かけがいのないものIrreplaceable」(原題はMédecin de Campagne:田舎の医師.監督Thomas Lilti)で,健康上の理由で診療を止めざるを得なくなった田舎の高齢医師が,代わりを務める若い同僚に自分の患者を紹介している.ある中年の患者が最近発症した頭痛の治療を求めて来院した.その若い医師は直截的な質問をたちまち浴びせて,部位や強さ,付随症状を突き止めようとしたが,このような的を狭く絞った質問からは全体像ははっきり浮かびあがらなかった.高齢の医師は,患者が診察の最初に何が言いたげにしていたが,若い医師がそれを遮ってしまったことに気付いていた.促されてようやく,患者は糖尿病の新しい薬を飲み始めてから頭痛が起こったことを語りだした.

 医師がどのように診断にたどり着くのかついて,議論は多くなされてきたが,それにくらべ実証研究はずっと少ない.Cognitive challengeは膨大であり,特にプライマリケアなど総合診療医のセッティングでは顕著である.しかし,従来の理論では医師がどう対処しているのかを十分に説明できない.以上を踏まえ,プライマリケアでの意思決定に関する最近のエビデンスに基づく新しいアプローチをここに提唱する.

 まず,従来の診断プロセス理論を概観し,プライマリケア現場での適合性について議論する.それから,最近登場したエビデンスを援用し,総合診療医の診断プロセスに対する今までと異なる概念化を提示する.