2026年9月30日水曜日

RCTで効果を検証した介入を実装するための質的研究

 Purcell N, Moore LC, Becker WC, Seal KH. Implementing Integrated Whole-Person Care for Chronic Pain: Lessons from VA’s Multisite wHOPE Study. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10825-5. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10825-5


背景

ガイドラインでは、慢性疼痛に対して、多面的かつ生物心理社会的なケアが推奨されている。しかし、このようなケアを大規模に実装することは容易ではない。近年、Whole Health Options and Pain Education(wHOPE)研究では、米国の6つの退役軍人省(VA)医療センターにおいて、Whole Health Team(WHT)介入が実施・評価された。WHTは、医療提供者、complementary and integrative health(CIH)提供者、health coachからなる多職種チームであり、包括的で非薬物的な疼痛ケアを提供する。慢性疼痛を有するVA患者764人を対象としたランダム化比較試験では、WHTは、group cognitive behavioral therapy(CBT)および通常診療と比較して、pain interferenceをより効果的に減少させ、その他の疼痛関連アウトカムも改善した。WHTの有効性が示されたことから、今後広くWHTを実装することが可能かどうかを検討することが重要である。


目的

質的研究を用いて、WHTの実装を促進・阻害する要因、WHTの持続可能性に影響する要因を検討した。


方法

Practical Robust Implementation and Sustainability Model(PRISM)を理論的枠組みとして用いた。wHOPE介入の実装に関わった43名のcliniciansおよびstaffを対象に半構造化インタビューを実施し、template-based rapid analysisを用いてインタビュー内容からテーマを抽出した。


主な結果

臨床医はWHT介入を高く評価しており、自身の診療を向上させ、患者ケアを改善したと感じていた。インタビューから、WHTの実装と持続可能性に影響するいくつかの重要な要因が明らかになった。

① チーム構成・協働

以下が必要とされた。

チームメンバーが継続して同じメンバーであること

臨床医に十分な時間・業務量を割り当てること

各臨床職種の役割を明確にすること

定期的なteam huddleを行うこと

② 組織インフラ・統合

以下が重要とされた。

既存の疼痛診療におけるギャップに対応すること

primary careと緊密に連携すること

complementary wellnessおよびtreatment modalitiesへの紹介経路を確立すること

③ Administrative coordination

実装およびその後の運営を支えるために、熟練したadministrative coordinationが必要であることも強調された。


結論

包括的で患者中心的な多職種疼痛ケアを実装することは複雑であり、特有の課題を伴う。しかし、この質的研究から、こうしたケアの実装と持続可能性を成功させるための有望な戦略が明らかになった。


感想

昨日紹介した論文はこの論文を読むための準備でした。RCTで効果があるのはわかった(本当に?と私は思っていますが…)から、じゃあどうやって実装する?という質的研究です。分析は、あらかじめマトリックスを作っておいて該当する内容を埋めるような方法で行われており、迅速に結果が得られるようです。

結論はありきたりですが、こうやってRCTに質的研究をくっつけて実装の課題を探すというのは、とても重要なことだと思います。

2026年9月29日火曜日

チームでの疼痛管理の効果

 Seal KH, Morasco BJ, Martin AM, Reddy KP, Van Iseghem TM, Bolton RE, et al; wHOPE Study Group. The Veterans Affairs' Whole Health Approach for Chronic Pain Management: The wHOPE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2026;335(20):1774-1786. doi:10.1001/jama.2026.5006. https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2848379


重要性

米国退役軍人省(US Department of Veterans Affairs: VA)のWhole Healthアプローチは、VA病院で診療を受ける慢性疼痛患者に対して、2016年に議会によって導入が義務付けられた。しかし、これまで、その有効性をランダム化臨床試験で検証した研究はなかった。


目的

VAで慢性疼痛を有する患者を対象として、Whole Health Teamによる介入の有効性を、認知行動療法(CBT)および通常診療と比較して評価すること。また、長期的な疼痛による生活への支障の軽減について、CBTと通常診療を比較すること。


研究デザイン、設定、対象者

米国の6つのVA医療システムで実施されたランダム化臨床試験である。参加者の登録は2020年9月18日から2024年1月19日まで行われ、最終追跡は2025年1月27日に実施された。解析は2025年4月1日から2026年2月3日まで行われた。対象は、VAのプライマリケアを受診している慢性疼痛患者であった。


介入

慢性疼痛患者を11:11:2の割合で無作為に、Whole Health Team介入群:343人、慢性疼痛に対するCBTのグループセッション:339人、通常診療:82人の3群に割り付け、12か月間介入した。

Whole Health Teamは、プライマリケア医またはナースプラクティショナー、非薬物療法またはintegrative pain careを提供するsecond clinician(注:非薬物療法またはintegrative pain careを実際に提供する臨床職。PT、鍼灸師、カイロプラクターなど)、コーチ(注:Whole Healthに基づく目標設定やセルフマネジメントを支援)から構成された。

このチームは、VA Whole Healthモデルに沿って、多職種による個別化されたケアを提供し、患者自身の価値観や人生の目標と一致した個人的な健康目標の達成を支援した。


主要評価項目

主要アウトカムは、12か月時点におけるBrief Pain Inventory interference(BPI-I)サブスケールのスコアであった。BPI-Iは0~10点で評価され、点数が高いほど疼痛による生活への支障が大きいことを示す。最小臨床的重要差(minimal clinically important difference: MCID)は1.0点と設定された。


結果

12か月時点で、Whole Health Team群では、疼痛による生活への支障がCBT群および通常診療群よりも大きく改善した。

BPI-Iの平均差は、Whole Health Team vs CBT:−0.58点、Whole Health Team vs usual care:−0.77点であった。

一方、CBT群と通常診療群の比較では、平均差は−0.19点(99% CI −0.89~0.50、P=.46)であり、有意差は認められなかった。

なお、Whole Health Teamによる改善は統計学的には有意であったものの、MCIDとして設定された1.0点には達していなかった。


結論と意義

これらの結果は、慢性疼痛を有するVA患者において、Whole Health Teamアプローチを使用することで、疼痛による生活への支障を統計学的に有意ではあるものの、小幅に改善できることを支持する。


感想

手間とコストをかけてもあまり変わらないような印象を受けました。疼痛管理はやはり難しいですね。

2026年9月28日月曜日

家庭医療レジデンシーのQIカリキュラム

 Harriett LE, Wright KM, Anderson L, Wheat S, Harrison L, Rowland K, et al. Quality Improvement in Residency: Training, Projects, and Outcomes. Ann Fam Med. 2026;24(5):431-436. doi:10.1370/afm.250717. https://www.annfammed.org/content/24/5/431


背景

Quality improvement(QI)は家庭医学レジデンシー教育の中心的な要素であり、医師がシステムレベルの変革を主導し、価値に基づく医療を提供するための能力を育成する。しかし、レジデンシーにおけるQIプロジェクトの成功を評価するための標準化されたカリキュラムや指標は存在せず、卒後医学教育におけるQI教育・評価のベストプラクティスについてもコンセンサスがない。本研究では、米国の家庭医学レジデンシーにおけるQIカリキュラムの現状を明らかにすることを目的とし、教育方法、プロジェクトの要件、指導教員の役割、成功の指標として認識されているもの、障壁などを調査した。


方法

本研究は、2025 Council of Academic Family Medicine Educational Research Alliance(CERA)による家庭医学レジデンシープログラム・ディレクターを対象とした横断的調査の一部として実施された。調査項目には、QI教育、プロジェクトの運営方法、プロジェクトの特徴およびアウトカムに関する質問が含まれた。記述統計およびχ²検定を用いてデータを分析した。


結果

回答率は44.2%(321/726)であった。

QIカリキュラムについては、38.8%のプログラムがレジデンシー独自に開発したカリキュラムを使用し、46.8%が独自開発と外部リソースを組み合わせたハイブリッド型カリキュラムを使用していた。

QIプロジェクトの監督は、54.2%のプログラムでコア・ファカルティが担当していた。

QIに必要なデータへのアクセスは、44.6%で「limited」、27.6%で「full」とされていた。

QIプロジェクトは45.2%でレジデントのチームによって実施されていた。

レジデンシー修了者のQI能力は、63.5%のプログラムで「intermediate」と評価されていた。

卒業時のQI能力が高いことは、ハイブリッド型カリキュラム、データアクセス上の障壁が少ないこと、プロジェクトの継続性、およびプロジェクトの成果をより広く普及・実装していることと有意に関連していた(いずれもP<.05)。


結論

レジデントのQI能力や臨床実践の変化と関連する教育・プロジェクトの特徴は、家庭医学レジデンシーにおいて、より標準化された長期的なQI教育アプローチが必要であることを示している。


感想

実際のclinical practice changeと関連していたプロジェクトの特徴は、

レジデントが個人ではなくチームで取り組む

次のresident classにプロジェクトが引き継がれる

結果を発表・出版する

であり、専攻医がやりっぱなしではなく継続して取り組まれるようにするのがいいのでしょうね。


専攻医のQIの能力をどのように評価しているのか気になったのですが、Program DirectorにBasic、Intermediate、Advanced/Expertの3段階で評価をきいているだけで、さすがにいまいちだなと思いました。

総じて、面白さを感じ取ることはできるけど、雑な研究だなと思ってしまいました。

2026年9月27日日曜日

VitB12の投与経路

 Debone D, Azeredo da Silva A, Cordenonssi J et al. Comparative efficacy of vitamin B12 supplementation routes in adults with replacement indication: a systematic review. eClinicalMedicine, 2026; 100 https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(26)00467-0/fulltext


背景

ビタミンB12欠乏症は一般的であり、重篤な合併症を予防するために長期的な補充療法が必要となることが多い。しかし、経口、舌下、筋肉内という異なる投与経路の有効性を比較した場合、その違いについては不明確な点が残されている。本システマティックレビューでは、補充療法が適応となる成人において、異なるビタミンB12補充経路の有効性を評価した。


方法

PubMed、Embase、Cochrane CENTRALを、言語や発表年による制限を設けず、各データベースの開始時点から2025年7月18日まで検索し、2026年7月13日に更新した。PRISMA 2020に従って報告した。

対象は、補充療法が適応となる成人を対象とし、経口、舌下、または筋肉内によるビタミンB12補充を比較したランダム化試験および観察コホート研究とした。小児を対象とした研究および比較を行っていない研究は除外した。

バイアスのリスクは、ランダム化試験についてRoB 2.0、コホート研究についてROBINS-Iを用いて評価した。主要アウトカムは、血清ビタミンB12値または臨床的反応とした。

本システマティックレビューはPROSPERO(CRD420251126832)に登録された。


結果

13研究が適格基準を満たした。その内訳は、ランダム化比較試験7件、観察コホート研究3件、学会抄録2件、research letter 1件であった。研究はアジア、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニアの10か国で実施され、単施設研究と多施設研究の両方が含まれていた。

最も多かった比較は経口投与と筋肉内投与で、8研究がこれを比較していた。複数の研究では、経口投与は筋肉内投与と同等、あるいはそれ以上の生化学的反応を示唆していた。

舌下投与については研究数が少なく、5研究のみであったが、短期的な生化学的有効性は他の投与経路と同等またはそれ以上であった。

3つの投与経路はいずれも血清ビタミンB12値を上昇させた。

7件のランダム化比較試験はすべて、バイアスのリスクについて「some concerns」と判断された。主な問題は、ランダム化手順の限界と、アウトカム報告の選択性であった。

3件の観察研究はすべて「serious risk of bias」と判断され、主な理由は交絡因子の調整が不十分であったことであった。残る3研究(学会抄録2件、research letter 1件)はバイアス評価の対象外とした。


解釈

投与経路の選択では、患者の希望、忍容性、アクセスのしやすさを考慮すべきである。

特に舌下投与についてはエビデンスが限られているが、現在得られている研究からは、選択された患者にとって非侵襲的な代替手段となる可能性が示唆される。

今後は、症状の改善、治療アドヒアランス、患者の選好など、患者中心のアウトカムを評価する、十分な検出力を持った比較研究が必要である。


感想

特に新たな知見というわけではなさそうでした。ただ評価はあくまでVitB12検査値であり、臨床的なアウトカムではないことに注意が必要です。

2026年9月26日土曜日

小規模チーム制のプライマリケアは費用が少しかかるが、全体の医療費は削減される

 Wong SKW, Tan KB, Pang J, Wong V, Ng DWL, Tan DHY, Lim Z, Sundram M, Ng KMY, Lew YJ, Chong PN. Assessing 5-year outcomes of a teamlet care model in Singapore polyclinics: a matched difference-in-difference analysis. Ann Fam Med. 2026 Sep;24(5):405-412. doi:10.1370/afm.250635.


背景

シンガポールのポリクリニックでは、慢性疾患患者に対するケアの継続性と包括性を向上させるため、2014年に新しいteamlet(小規模チーム)型ケアモデルが導入された。患者は、家庭医2名、看護師1名、ケアコーディネーター1名からなる小規模チームに登録され、連携したチームベースのケアを受けた。本研究では、このモデル導入後5年間のアウトカムについて、臨床指標、ケアの遵守、医療サービス利用、経済的影響に焦点を当てて評価した。


方法

2014~2016年にteamletプログラムに登録された、糖尿病、高血圧、または高脂血症の患者を対象とした後ろ向きマッチドコホート研究を実施した。アウトカムを、通常診療を受けていたマッチングされた対照患者と比較した。シンガポール保健省のデータベースを用い、個人およびコホート・時点による固定効果を調整した差の差分析を行った。


結果

teamletモデルでは、臨床指標に小幅な改善が認められた。登録前にHbA1cが上昇していなかったサブグループでは、HbA1cが0.1%低下した。

収縮期血圧は0.65 mmHg低下した。LDLコレステロールは0.03 mmol/L低下した。一方、糖尿病スクリーニングの遵守率は改善し、対照群と比較して、足のスクリーニングが16%増加、眼のスクリーニングが6%増加した。医療サービスの利用はプライマリ・ケア側へシフトし、高コストの医療サービス利用が減少した。

入院:1人あたりSGD 2,432の費用削減

専門医外来:1人あたりSGD 130の費用削減

救急外来:1人あたりSGD 49の費用削減

一方、ポリクリニック利用費は1人あたりSGD 479増加した。

これらを合わせると、1人あたりの総費用はSGD 2,186削減された。


結論

ポリクリニックの人員配置を、より小規模で協働的なチームへ再編することで、ケアプロセスが改善し、高コストの医療サービス利用が減少した。これらの結果は、患者数の多いプライマリ・ケア環境においてチームベースのケアモデルを拡大することが、医療システム全体の効率性向上と費用削減につながる可能性を示している。


感想

チームベースのケアが費用対効果に優れていることを明確に示していると思います。プライマリ・ケアにかかるコストが少し増えても、全体として医療費は下がる、というのが素晴らしいですね。プライマリ・ケアに手厚く予算を配分したほうがいいですよと主張する根拠になります。こういうエビデンスがアジア圏からでるのは素晴らしいことだと思います。

2026年9月25日金曜日

継続性と効率性

 McDonald T, Lethebe BC, Green LA. Cost savings from primary care clinic continuity among patients with chronic disease in Alberta, Canada: a retrospective population-level cross-sectional study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0085. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0085


背景


プライマリ・ケア医(PCP)とのケアの継続性は、患者の健康状態を改善し、医療サービス利用(HSU)を減少させ、医療費を低下させることが知られている。一方、チーム医療や共同診療モデルに関連する「診療所レベルでの継続性」がどのような影響をもたらすかについては、十分に明らかになっていない。このようなモデルの費用への影響を明らかにすることは、医療提供体制や報酬制度の設計に重要である。


目的


慢性疾患患者を、継続性の低い・中程度のプライマリ・ケア診療所から、継続性の高い診療所へ移行した場合に、医療サービス利用にかかる費用をどの程度削減できるかを推定すること。


デザイン・セッティング


カナダ・アルバータ州において、慢性疾患患者約50万人のコホートからマッチングされた約7万人を対象とした、3年間の後ろ向き人口ベース横断研究。すべての出来高払い(fee-for-service)のプライマリ・ケア医を対象とした。


方法


診療所レベルの継続性を、Usual Provider of Care(UPC)Indexを改変して算出した。医療サービス利用にかかる費用は、Canadian Institute of Health Informationの費用算定方法を用いて推定した。


結果


継続性と急性期医療費との関連から、継続性が高い診療所(UPC 80–100%)をすべての患者に適用した場合、現在それ未満の継続性の診療所でケアを受けている約19万5000人について、3年間で8億9800万ポンドを超える費用削減が理論的に可能と推定された。


1人あたりの費用削減効果は、医学的に複雑な患者ほど大きかった。


結論


一般的な慢性疾患をもつ患者において、診療所レベルのケアの継続性は、患者の複雑性の程度にかかわらず、医療費の削減と関連していた。高い継続性を重視するプライマリ・ケア診療所に患者のケアを集約することで、大幅な費用削減が実現できる可能性がある。


感想

これはまたすごいエビデンスが出ました。継続性はどんどんエビデンスが出てきますね。

2026年9月24日木曜日

複雑系における多疾患併存

 Arakelyan S, Guthrie B, Anand A, Lone N, Mercer SW, Tooman T. Clinical empathy and relational continuity mitigate care fragmentation for patients with multiple long-term conditions: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 21. doi:10.3399/BJGP.2026.0171. https://bjgp.org/content/early/2026/09/21/BJGP.2026.0171


背景

多疾患併存(multiple long-term conditions: MLTC)をもつ患者への医療サービスは、断片化し、十分に連携されていないシステムの中で提供されている。しかし、サービスの変化やシステムの複雑化に応じて、患者のケアに対する経験、認識、行動がどのように形成され、変化していくのかは十分に理解されていない。


目的

複雑適応系(complex adaptive care system)の中で、MLTC患者とその介護者のケアに対する経験や認識がどのように形成・変化するのかを明らかにし、より良いケアにつながる機会を特定すること。


デザイン・セッティング

スコットランドの4つの統合型保健・社会福祉パートナーシップにおいて、MLTC患者および介護者28人を対象に、6つのフォーカスグループを実施した質的研究。


方法

2024年2月から5月にデータを収集した。複雑適応系の視点に基づくアブダクティブ分析を行った。


結果

MLTC患者へのケアは、患者、介護者、医療専門職、組織構造の間の動的かつ相互的な相互作用によって形成されていた。増加する医療需要に対応するために導入されたサービス変更は、患者の複雑なニーズと一致していないと認識されることが多く、その結果、患者や介護者はアクセス上の障壁を乗り越えるために自身の行動を変化させていた。

ケアの経験は予測困難であり、小さな個人的な相互作用が、信頼や医療への関与に不釣り合いに大きな影響を与える強化型フィードバックループによって形作られていた。また、システムの不足を埋めるためにインフォーマルケアが拡大し、家族がケアの調整や患者の権利擁護を担うようになっていた。

その一方で、臨床的共感(clinical empathy)とケアの関係性の継続性(relational continuity)は、断片化したケアシステムの中で重要な安定化要因として機能していた。


結論

ケアの効率化を目的としたサービス変更は、意図せずケアを不安定化させ、MLTC患者や介護者に負担を転嫁する可能性がある。その結果、患者が感じるケアの質や、医療者との関係性の継続性にも影響を及ぼしうる。医療者と患者の相互作用や関係性の質が、患者のケアに対する認識と、その後の医療への関与を形作る。


感想

多疾患併存に対する王道の質的研究だと思いました。

  • MLTC患者にとって、医療は「複数の疾患別サービスの寄せ集め」になりやすい


  • 患者・家族は、断片化したシステムに「適応」していた。システムの問題を患者・家族自身が補っていた。つまり、自分で予約を取る、医療機関を使い分ける、救急を利用する、家族が調整役になる、といった行動が生じていた。


  • 医療者との小さな相互作用が、信頼やその後の受療行動に大きな影響を与えた。良い経験は信頼・継続的な受療を促進する一方、些細に見える対応の悪さが不信や受療中断につながることがあった。


  • clinical empathyとrelational continuityが、断片化を「安定化」する。自分の病歴を理解してくれる医療者、共感的に話を聞いてくれる医療者、他のサービスとの調整をしてくれる医療者の存在が、患者・家族の負担や不確実性を軽減していた。


というのがこの研究の論旨だと思います。


システム改善が必ずしも患者にとって改善になるとは限らず、効率化のためのデジタル化・標準化が、MLTC患者にはむしろ新たな適応を要求していること、逆に、「ちょっとした共感」「顔の見える継続的な関係」といった小さな相互作用が、システム全体の経験を大きく変えるというのが、まさに複雑系という感じです。

2026年9月23日水曜日

Greener practiceの実装

 Twohig H, Geddes O, Dale J, Dahlmann F, Earle J, Eccles A, Gregg M, Nunes AR, Spencer R, Karaba F, Thomas N, Atherton H. Factors influencing implementation of decarbonisation actions in general practice: longitudinal multi-centre case-study. Br J Gen Pract. 2026 Sep 22. doi:10.3399/BJGP.2026.0143. https://bjgp.org/content/early/2026/09/22/BJGP.2026.0143

背景

 英国国民保健サービス(NHS)は2040年までにネットゼロを達成することを目指している。家庭医療診療所はその実現に重要な役割を担うと認識されているものの、脱炭素化の取り組みがどのように実装され、またその進展をどのように支援できるのかについては、十分に明らかになっていない。

目的


家庭医療診療所における脱炭素化の取り組みの実装に影響を与える、制度的、組織的、専門職上の要因を、時間経過とともに明らかにすること。


デザイン・セッティング

イングランドの12の家庭医療診療所を対象とした縦断的質的ケーススタディ。


方法

各診療所が、12か月間に実施する3~5個の測定可能な行動からなるGreen Action Plan(GAP)を作成した。ベースライン時のワークショップ、3か月ごとのフォローアップ「check-in」ディスカッション、最終フォーカスグループを通じて質的データを収集した。Normalisation Process TheoryおよびTheoretical Domains Frameworkに基づいてトピックガイドを段階的に作成し、Framework analysisを行った。


結果

 脱炭素化に影響を与える要因として、以下の5つのテーマが明らかになった。

制度的障壁(systemic barriers)

組織文化とコミュニケーション(culture and communication)

キャパシティと競合する業務(capacity and competing demands)

「実際に機能させること」(‘making it work’)

行動、態度、感情(behaviour, attitudes and feelings)

NHSのより広範な優先課題と整合する取り組みや、時間・費用の効率化につながる取り組みは、日常業務に組み込みやすかった。一方、個人の行動変容を必要とする取り組みや、外部システムに依存する取り組みは、実装がより困難であった。また、政策面での調整不足や、施設・インフラに対する診療所の管理権限の限界が、進展を妨げていた。


結論

診療所レベルでは、日常業務に組み込むことができ、効率化にもつながる取り組みが、最も実施しやすい。持続的な変化を支えるためには、国レベルでの指示的な政策と、システムレベルで調整された支援が必要である。すでに多くの業務上のプレッシャーが存在する中では、個人の行動変容は困難であるが、支援的な組織文化とチームでの協働が、その進展を促進しうる。


感想

Greener practiceの実践よりの研究で面白いです。実装をどうするかというのはいかなる時も課題ですね。

2026年9月22日火曜日

プライマリケアでACSを除外する

 van den Bulk S, Petrus AH, Willemsen R, Numans ME, Boogers MJ, Hermans MPJ, Meeder JG, Rahel B, Janssen M, Dinant G, Cobbaert CC, Bonten TN. Ruling out acute coronary syndrome in primary care: a diagnostic trial (POB-HELP). Br J Gen Pract. 2026 Sep 10. doi:10.3399/BJGP.2026.0167. https://bjgp.org/content/early/2026/09/10/BJGP.2026.0167


背景

プライマリ・ケアにおいて胸痛患者を正確にリスク層別化することは、患者安全を改善すると同時に、不必要な病院紹介を減らす可能性がある。


目的

高感度トロポニンI(hs-cTnI)とMarburg Heart Score(MHS)を組み合わせたclinical decision rule(CDR)について、プライマリ・ケアの胸痛患者における急性冠症候群(ACS)、特に心筋梗塞(MI)を除外する診断性能を評価し、通常診療と比較して紹介率を検討すること。


デザイン・セッティング

オランダのプライマリ・ケア診療所で実施されたcluster-randomised diagnostic trial(介入:対照=2:1)。


方法

急性胸痛を呈した患者を、家庭医がCDRを用いて評価した。CDRはMHSと、point-of-careで測定するhs-cTnI検査を組み合わせた。対照群の家庭医は通常診療を行った。

診断性能について、感度、特異度、NPV)、PPVを評価した。また、副次的評価としてmodified HEART scoreと、単回hs-cTnIによるrule-out strategyも評価した。


結果

合計827人が参加し、740人が介入群、87人が対照群であった。

CDRではACSを1例見逃した。ACSに対する感度は98.3%(95% CI 90.8–100%)、NPVは99.7%(95% CI 98.0–100%)だった。特異度は49.1%、PPVは14.1%だった。MIについては、感度 100%、NPV 100%であった。特異度は48.6%、PPVは11.9%だった。

一方、病院への紹介率は介入群54.6%、対照群47.1%で、両群間に有意差は認められなかった(P=0.39)。


結論

MHSとpoint-of-care hs-cTnI検査を組み合わせたCDRは、プライマリ・ケアにおいてACSおよびMIを安全に除外することができた。しかし、通常診療と比較して、病院紹介率には有意な差はなかった。


感想

まずはCDRの詳細を。MHS(Marburg Heart Score)+指先採血hs-cTnIで判定しています。

MHS ≤2 + hs-cTnI ≤3.8 ng/L→ ACSをrule out → 経過観察

どちらか一方が陽性→ ACSをrule outできない → 循環器医に相談

MHS ≥3 + hs-cTnI ≥3.9 ng/L→ ACSリスク高い → EDへ直接紹介

(hs-cTnIは指先採血で約8分で測定。)


MHSについては以下の通り

年齢・性別    :男性 ≥55歳、女性 ≥65歳で1点

心血管疾患の既往 :あれば1点

患者自身が「心臓が原因」と考えていれば1点

運動で胸痛が増悪  :あれば1点

触診で胸痛が誘発されなければ1点

MHS ≤2点 = low risk MHS ≥3点 = high risk 


本研究の重要ポイントとして、家庭医はこの予測ルールの推奨を無視することができるという点です。

つまり実際医は、CDRが経過観察を指示していても、医師の判断で紹介できますし、循環器に相談することが示唆されても家庭医の判断で経過観察にできます。

実際に、医師の臨床判断を一切入れずCDRだけで機械的に運用すると、rule outできたのは20%のみで、理論上の救急紹介率は80%になっておいます。


つまり、

CDRは安全に除外できるが、機械的に運用すると大量の患者を紹介する羽目になる。

家庭医の臨床判断は優秀で、経過観察で紹介せずに済んだ群がかなりいる。

ということですね。


そう考えると、abstractの結論の記載はだいぶmisleadingで、予測スコア使わず、引き続き医師が臨床判断したほうがいい、と私なら解釈するなと思いました。

2026年9月21日月曜日

喘息の診断を家で行う

 Wang R, Lawton K, Khatoon B, Smith J, Fowler SJ, Simpson A, Murray CM. Expectations and attitudes in primary care towards home-based testing for diagnosing asthma: a mixed-methods study. BJGP Open. 2026 Sep 8. doi:10.3399/BJGPO.2025.0260. https://bjgpopen.org/content/early/2026/09/06/BJGPO.2025.0260


背景

喘息は、診療所で行われる検査では喘息症状の自然な変動性を捉えきれないことがあり、しばしば誤診される。


目的

本研究では、早期のステークホルダー・エンゲージメントの一環として、携帯型スパイロメーターおよび呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を用いた在宅診断検査について、プライマリ・ケア医療従事者がどのように考えているかを検討した。


デザイン・セッティング

2段階のmixed-methods studyを実施した。

Phase 1では、イングランド北西部のプライマリ・ケア医療従事者を対象に2回のフォーカスグループを実施した。

Phase 2では、英国全土のプライマリ・ケア医療従事者を対象に、電子的な全国調査を実施した。


方法

フォーカスグループではnominal group technique(NGT)を用いて、在宅で喘息診断を行うための戦略について重要な優先事項を特定した。これらの結果をもとに、Phase 2の全国調査票を作成した。


結果

Phase 1のフォーカスグループには、21人のプライマリ・ケア医療従事者が参加した。在宅で喘息診断を行うことについて、利点、課題、実装を促進する要因が明らかになった。

Phase 2では、104人のプライマリ・ケア医療従事者がすべての質問への回答を完了した。回答者は幅広い人口学的背景を有し、勤務する診療所も社会経済的困窮度のさまざまなレベルにわたっていた。

在宅診断戦略が実行可能ではないと考えた回答者はわずか3.8%だった。

最も頻繁に挙げられた障壁は「デバイスの高コスト」であり、一方、「患者の参加・関与」と「デバイスへのアクセス可能性」が最も重要な促進要因として挙げられた。

また、多くの回答者が「より正確な喘息診断」を在宅診断の主要な潜在的メリットとして挙げた。


結論

携帯型スパイロメトリーとFeNOを用いた在宅での喘息診断は、調査結果からはプライマリ・ケア医療従事者に概ね好意的に受け止められている。ただし、その実装には多面的な課題が存在する。成功のためには、在宅検査をどのように提供し、支援するかについて、システムレベルでの変化が必要となる。今後は、検査の実行可能性と精度を評価し、その後、臨床的有効性および費用対効果を評価する予定である。


感想

診断の場を在宅に移行しようという取り組みだと認識しました。デバイスのアクセスが過大なのですね。そりゃそうですが。

2026年9月20日日曜日

救急対応が稀な家庭医療診療所における救急チェックリスト

Higham H, Maloney A, Greig PR, Shawcross E, Harbord P, Warren R, Thomas J. Checklists for emergencies in general practice: participatory design of a quick reference handbook. BJGP Open. 2026. doi:10.3399/BJGPO.2025.0268. https://bjgpopen.org/content/early/2026/09/06/BJGPO.2025.0268


背景
家庭医療診療所における救急対応の機会は増加している一方、診療所のスタッフが救急事態に対応する機会は数か月に一度しかないこともある。チェックリストなどの認知支援ツールは、病院内の救急医療の質を向上させることが知られているが、既存のツールは家庭医療診療所での使用には十分適していない。


目的

家庭医療診療所で遭遇する頻度の高い救急事態を明らかにし、より安全な対応のために、診療所に特化したチェックリストを共同開発すること。


デザイン・セッティング

家庭医療診療所に特化した救急チェックリストを参加型デザインによって開発し、多職種からなる家庭医療チームが実際の臨床現場でその使いやすさを評価した。


方法

多職種の専門家グループが、混合研究法による参加型アプローチを用いて、優先的に対応すべき救急事態を選定し、GP Quick Reference Handbook(GP-QRH)のためのチェックリストを作成した。29の家庭医療診療所で実施した現場シミュレーションを通じて、チェックリストの内容、レイアウト、使いやすさを反復的に改善した。


結果

最終版のGP-QRHには、15種類の臨床的救急事態に対するチェックリスト、非臨床スタッフ向けのチェックリスト1種類、構造化された申し送りテンプレート、および救急対応後のデブリーフィングのためのガイダンスが含まれた。11の家庭医療診療所で最終版を試験したところ、評価は一貫して肯定的であり、シンプルなデザイン、明確な言葉遣い、エスカレーションを促す目立つプロンプト、そしてチェックリスト使用に関するチームトレーニングの重要性が強調された。


結論

本研究では、プライマリ・ケアに特化し、実際の利用者と共同で開発した、家庭医療診療所のための初のクイック・リファレンス・ハンドブック(QRH)を開発した。その効果を発揮するためには、一貫した使用、地域レベルでのリーダーシップ、GPネットワークによる普及への取り組みが必要である。今後は、さらなるユーザビリティ評価、臨床的効果の検証、チェックリストの追加開発が必要であるが、このGP-QRHは、英国および国際的な家庭医療診療所における救急医療と患者安全を向上させる可能性がある。

感想
実際のチェックリストはこちらからアクセスできます。
チェックリスト開発のために様々なステップを経ており、同様の研究をする際の参考になると思います。

2026年9月19日土曜日

漏斗胸レビュー

 Odeh NB, Khedr AE, Zeineddine RM, Senjab A, Farina JM, Jaroszewski DE. Diagnosis and Management of Pectus Excavatum in Primary Care. J Am Board Fam Med. 2026;39(1). doi:10.3122/jabfm.2025.250122R1. https://www.jabfm.org/content/39/1/157903


漏斗胸(pectus excavatum: PE)は、胸骨が内側に陥凹する先天性胸壁変形であり、最も頻度の高い胸壁変形です。重症例では心肺機能に影響し、日常生活や運動能力を低下させることがあります。にもかかわらず、漏斗胸は単なる美容上の問題であり治療を必要としないと考えられることがあります。

プライマリ・ケア医はPE患者を最初に診察することが多いため、漏斗胸の診断、評価、治療適応、専門医への紹介について理解しておくことが重要です。

漏斗胸患者の症状には大きな個人差があり、無症状の場合もあれば、軽度の労作時呼吸困難から失神まで認める場合があります。また、症状は加齢とともに進行することがあります。PEの手術後には、QOLだけでなく心肺機能も改善し得ることが報告されています。


感想

見た目の変形が強くなくても心臓圧迫から労作時呼吸困難、運動耐容能低下、胸痛、動悸、めまいなどを呈することがあるようです。心エコー正常でも全く除外できないとのこと。

大したことないと思わず、専門医に紹介すべき疾患であると認識しました。

2026年9月18日金曜日

ハイブリッド型バーチャル在宅医療

 Bravata DM, Perkins AJ, Schwartzkopf AL, Myers LJ, Zhang Y, Damush TM, et al. Evaluation of Hybrid-Virtual Home Visits for Comprehensive Geriatric Management: A Quality Improvement Project. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10580-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10580-7?utm_source=chatgpt.com


背景

高齢者に対する在宅訪問はアウトカムを改善することが知られている。しかし、高齢者に多い身体的・認知的・技術的な障壁や、人員不足などの施設側の制約によって、老年医学的な在宅医療プログラムの対象を拡大することには限界がある。


目的

ハイブリッド型のバーチャル在宅訪問モデル(TeleGRACE)の有効性を評価すること。


デザイン

傾向スコアによる重み付けを用いた観察コホート型の質改善(quality improvement)プロジェクト。


対象

米国退役軍人省(VA)の1施設において、入院または救急外来(ED)受診後の老年症候群を有する地域在住高齢者。


介入

患者宅にはtelehealth technicianが訪問し、看護師とソーシャルワーカーからなる老年医学チームが遠隔から参加するハイブリッド型の在宅訪問を実施した。


主な評価項目

TeleGRACEへの登録後90日および1年以内の、全死亡、ナーシングホームへの入所、再入院、救急外来受診。


主な結果

TeleGRACE群76人、通常ケア群319人を比較した。TeleGRACE群では、通常ケア群と比較して、90日以内にさまざまな臨床サービスを受ける割合が高かった。例えば、補助具の提供は78.7%対18.9%であった(p<0.001)。傾向スコアによる逆確率重み付け(IPW)解析では、1年間のナーシングホーム入所リスクはTeleGRACE群で低かった(HR 0.20、95% CI 0.07–0.53)。一方、ED受診リスクは90日(HR 1.32、95% CI 1.02–1.72)および1年(HR 1.28、95% CI 1.04–1.76)でTeleGRACE群の方が高かった。入院および死亡については、両群間に差は認められなかった。


結論

ハイリスクの地域在住高齢者に対して、ハイブリッド型の在宅訪問モデルは、ケアやアウトカムを改善する可能性がある。特にナーシングホームへの入所を減らす効果については、今後の研究による検証が必要である。


感想

この結果を受けての結論が「ケアやアウトカムを改善する可能性がある」は少し言い過ぎではないかという気がします。ただ、ED受診の回数が増えるのは、決してネガティブな結果ではないというのは、確かになぁと思うところではあります。こうやってちゃんと活動をpaperにするのは素晴らしいことだと思います。

2026年9月17日木曜日

知的/発達障害者の予防医療の不公正

 Santra R, Pulukuri S, Sharma N. Inequities in preventive care for adults with intellectual and/or developmental disability in the USA: a narrative review. J Gen Intern Med. 2026. doi:10.1007/s11606-026-10807-7. https://doi.org/10.1007/s11606-026-10807-7


40代の女性姉妹を2人とも診療しているプライマリ・ケア医を想像してみたい。1人はDown症候群があり、もう1人にはない。Down症候群のない姉妹は、国内のガイドラインに従って子宮頸がん検診(Pap smear)を定期的に受けていた。一方、Down症候群のある姉妹については、「検査に容易には耐えられないだろう」という思い込みから、検診が繰り返し延期されていた。子宮頸がんのリスクを心配した姉妹は、障害のある人への診療を専門とする婦人科クリニックに妹を連れて行った。そこでは、写真を用いた説明や、慎重に配慮した抗不安薬の使用といった簡単な工夫が行われた。その結果、妹は推奨されていた時期から20年遅れて、初めてPap smearを受けることができた。幸いにも、HPVおよび子宮頸部異形成は陰性であった。この患者レベルでの実例は、集団レベルでも広く存在する問題、すなわち知的障害および/または発達障害(intellectual and/or developmental disabilities: IDD)を持つ人々における予防医療の不平等を示している。これまでの研究から、IDDのある人々では、ワクチン接種や、乳がん・子宮頸がん・大腸がんの検診といった一次予防・二次予防の実施率が、一般人口より低いことが示されている。しかし、こうした人々が予防医療を必要とする程度は一般人口と同等、あるいはそれ以上である。実際、これらのがんでは、より進行した段階で診断され、死亡率も高いことが報告されている。本ナラティブレビューでは、米国のIDD成人における予防医療の利用格差について検討し、患者、臨床医、医療システムという3つのレベルにおける障壁について記述する。さらに、代替的なスクリーニング方法や、医療提供モデルなど、アクセスを拡大するための可能な戦略について検討する。修正可能な障壁を認識し、それらに対処することは、この集団における予防可能な罹患および死亡を減らすために不可欠である。


感想

本文の要点は以下の通り。

IDDのある成人では、ワクチン接種や乳がん・子宮頸がん・大腸がん検診などの予防医療を受ける割合が、一般人口より明らかに低い。

その結果、IDDのある人では予防可能な疾患による死亡や、より進行した段階でのがん診断が多い。乳がん・大腸がんでは、診断時に転移している割合やがん死亡率も高い。

障壁は患者側だけではない。感覚過敏、コミュニケーション困難、移動・費用・介護者の負担に加え、医療者の知識不足や「この患者には検査は難しいだろう」という思い込みが、予防医療へのアクセスを妨げている。

対策として、写真や絵を使った説明、長めの診療時間、静かな環境、鎮静など、患者に合わせた合理的配慮が重要。標準的な検査が困難な場合には、FIT、乳房超音波、スペキュラムを使わないPap smearなどの代替手段も検討できる。ただし、代替検査は感度・特異度を犠牲にする場合があり、標準検査が本当に困難な場合に限定して考えるべきとされている。

医療者側では、IDDに関する教育を医学教育・研修医教育に組み込み、障害者差別や診断の思い込みを減らす必要がある。同時に、IDD診療に必要な追加時間・労力に見合う診療報酬など、制度的支援も必要。

個々の医師の努力だけでは限界があり、IDDを対象とした定期的な包括的健康チェックを制度化することが有効な可能性がある。カナダや英国では、標準化されたannual health checkによって、がん検診や慢性疾患スクリーニングの実施率が改善している。

さらに、在宅プライマリ・ケア、地域での予防医療、個別化された予防接種環境など、患者が医療システムに合わせるのではなく、医療システムを患者に合わせるモデルが紹介されている。


制度面を改革する必要があります。最近成人のDown syndromの方のフォローが増えたのですが、採血一つとってもなかなか大変だと痛感しております。

2026年9月16日水曜日

コミュニティハブのケアの効果

 Bailey JE, Ogunsanmi DO, Mahmud S, Kabir UY, Boykins AM, Butterworth SW, et al. The Neighborhood Health Hub Model: Extending Primary Care into Medically Underserved Neighborhoods to Improve Health Equity. J Gen Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.1007/s11606-026-10764-1. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10764-1


背景

医療サービスが十分に行き届いていない地域(medically underserved neighborhoods)にプライマリ・ケアを拡張するために、health coachを配置することの実現可能性については、十分な研究がなされていない。


目的

重要な予防医療サービスを住民が便利に利用できるようにする、革新的で、患者中心で、場所を基盤とした(place-based)、近隣地域レベル(neighborhood-level)で提供するアプローチである「Neighborhood Health Hub Model」を実施した初期経験を評価すること。


セッティング

米国テネシー州メンフィス/シェルビー郡。


参加者

2022年1月から2024年6月までにNeighborhood Health Hubの施設を利用した成人。


プログラムの概要

Health Hubには、地域から採用されたlay health coachが配置され、動機づけ面接の訓練を受け、遠隔医療で接続された医療専門職の監督を受けた。

提供されたサービスには以下が含まれた。

肥満、高血圧、糖尿病、社会的決定要因のスクリーニング

慢性疾患管理のための個別およびグループでのhealth coaching

医療、行動・心理面、社会的ニーズに対する紹介


プログラム評価

合計1,252人の利用者がサービスを受け、そのうち1,151人がhealth coachingを受けた。383人(31%)は2回以上のcoaching sessionに参加し、合計3,367回のcoaching sessionと2,951回のgroup visitが実施された。

肥満のある利用者では、平均体重変化は−3.32ポンド(95% CI −5.72~−0.92)であった。

高血圧のある利用者では、収縮期血圧の平均変化は−15.17 mmHg(95% CI −19.64~−10.69)であった。

また、health coachingのセッション数が多いほど、体重減少が大きいことと有意に関連していた。


考察

Neighborhood Health Hub Modelを広く普及させることで、全米のhealth equityの改善につながる可能性がある。


感想

改善したというだけでは、平均への回帰(使い方あってるかなぁ。数字が悪い人がHubに行くから何もしなくても再度計測すれば少し良くなって見える)ではという気もしますが、セッション数に依存して体重が減少することも示しているので、確かに効果あるのだなとわかります。費用対効果を知りたいところですね。普通に家庭医かNPが一人いればOK、ではないことを知りたいと思いました。

2026年9月15日火曜日

電子カルテをデザインするだけでは不十分

 Owens-Jasey C, Gunn R, Cook N, Fein HL, Pisciotta M, Fee C, et al. Community Health Center Adoption of Enabling Technologies to Address Contextual Drivers of Health for Care-Managed Patients: Formative Evaluation. J Gen Intern Med. 2026 Sep 10. doi:10.1007/s11606-026-10735-6. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10735-6


背景

ケアマネジメント・プログラムでは、食料、住居、交通など、健康に影響を与えるcontextual driversに対応するための新たな戦略が検討されている。電子カルテ(EHR)を基盤としたケアマネジメントツールは、こうした要因のスクリーニングや、特定されたニーズへの対応のための紹介を支援することができる。しかし、地域医療センター(community health centers: CHCs)のケアマネジャーが、このような支援技術をどのように導入し、活用することができるのかについては、十分に明らかになっていない。


目的

CHCのケアマネジメント担当者が、患者のcontextual driversに対応するために、統合型モジュールを含むEHRツールを現在どのように利用しているかを明らかにすること。得られた結果を、こうしたツールの導入を促進するための実装戦略の開発に活用することを目的とした。開発された戦略は、今後、試行・改良された後、無作為化試験で評価される予定である。


研究デザイン

人間中心設計の原則に基づく形成的評価


参加者

複数州にまたがるヘルスセンター・ネットワークから、ケアマネジメント担当者11名および専門家5名。


アプローチ

半構造化インタビューを実施し、その後、rapid qualitative analysisを用いて、EHRツールを利用してcontextual driversに関連するケアを調整する際の、文脈的要因、障壁、実装戦略について検討した。


主な結果

一部のEHR機能(例えば、スクリーニング用フローシートやアラート)は、スクリーニング結果の記録に利用されていた。

一方、contextual driversに関連するケアの調整にケアマネジメント・モジュールを利用する際には、いくつかの課題があった。例えば、紹介内容を記録するための構造化された入力欄がEHRにないなど、EHRツール自体の限界があった。また、患者を適切なサービスへ紹介し、その後のフォローアップを行うための十分なトレーニングも不足していた。

参加者は、こうしたツールを効果的に活用するためには、組織のリーダーシップによる支援、実践的なトレーニング、そしてヘルスセンターが提供するサービスやケアマネジメントに対する報酬要件に合わせたケアプランのカスタマイズが必要であると強調した。


結論

EHRを用いたケアマネジメントツールには、contextual driversに関連するケアの調整を支援する可能性がある。しかし現在は、こうしたツールを効果的に利用することを妨げる障壁が存在している。対象を絞った実装支援によって、これらの障壁を取り除き、ツールの導入・活用を促進できる可能性がある。


感想

カルテのシステムを作るだけではダメとのことですね。最終的にはそれができる人を育成する必要があります。

2026年9月14日月曜日

関節リウマチ(JAMA review)

 Smolen JS, Kerschbaumer A, Aletaha D, Robinson WH. Rheumatoid Arthritis in Adults: A Review. JAMA. 2026 Sep 10. doi: 10.1001/jama.2026.15455. 


重要性

関節リウマチ(RA)は、軟骨および隣接する骨に炎症と破壊を引き起こす慢性自己免疫疾患であり、不可逆的な身体障害につながる可能性がある。関節リウマチは世界の成人の0.53%、米国成人の0.74%にみられる。


観察

関節リウマチは男性より女性に多く、男女比は約2:1であり、発症のピークは55~75歳である。RAはすべての滑膜関節に生じる可能性があり、関節外病変としてリウマチ結節、血管炎、リウマチ肺疾患などを認めることがある。

診断時には、約40~60%の患者で自己抗体(リウマトイド因子および/または抗シトルリン化ペプチド抗体)が認められる。RAには正式な診断基準は存在せず、臨床経過、近位指節間関節・中手指節関節・手関節などの特徴的な関節腫脹、自己抗体の存在、C反応性蛋白(CRP)上昇などをもとに診断する。

早期診断、理想的には症状発現から6週間以内に診断することで、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)による治療を速やかに開始でき、炎症を抑制して関節破壊のリスクを低下させることができる。

治療目標は、3か月までに疾患活動性を少なくとも50%改善させ、6か月までに寛解または低疾患活動性を達成することであり、Clinical Disease Activity Index(CDAI)などの妥当性が確認された指標を用いて評価する。

European Alliance of Associations for Rheumatology(EULAR)は、メトトレキサートを開始し、7.5~10 mg/週から4~8週間かけて20~25 mg/週まで増量することを推奨している。また、短期間の糖質コルチコイド(例:プレドニゾン5~7.5 mg/日)を追加し、3か月以内に漸減・中止すること、あるいはデポ型メチルプレドニゾロン80~160 mgの筋肉内投与を検討することを推奨している。

メトトレキサートが禁忌の場合には、スルファサラジン(2~4 g/日)またはレフルノミド(20 mg/日)が推奨される。

治療により、新たに診断されたRA患者の約40%が6か月以内にCDAI寛解を達成する。初回DMARD治療で寛解に至らない患者には、生物学的DMARD(腫瘍壊死因子α阻害薬、共刺激阻害薬、インターロイキン6受容体阻害薬、B細胞を標的とする抗CD20薬など)、または血栓塞栓症、心血管疾患、悪性腫瘍のリスクが高くない患者ではJAK阻害薬を追加する。これにより、寛解または低疾患活動性を達成する患者の割合は全体で約80%まで上昇する。


結論と関連性

関節リウマチは関節破壊を引き起こす慢性自己免疫疾患である。初期治療の第一選択薬はメトトレキサートであり、糖質コルチコイドの追加を検討する。初期治療で寛解に至らない患者では、生物学的DMARDまたはJAK阻害薬を追加することで、寛解または低疾患活動性を達成する割合は約80%に上昇する。


感想

つい最近、抗体陰性だけどどう考えてもRAという方を専門家に紹介しました。やはりRAとして治療が開始されていました。

RAでは自己抗体が存在する患者は約40~60%で、CRP陰性でも否定できないとのことで、このレビューでは、特定の検査に依存せず臨床的に炎症性関節炎を捉えなさいと主張しています。

専門家はエコーをよく使っていますよね。初期病変の描出に優れており、多疾患との鑑別にも有用だと理解していますが、本レビューでもEULARでも、エコーでの異常所見は必須ではなく、あくまで臨床判断だということになっています。とはいえ、エコーは診断だけでなくマネジメントにも有用であるとのことです。http://www.elsevier.es/en/linksolver/pdf/pii/S1699-258X(16)30106-1


MTXがキードラッグなのは言うまでもなく、

MTXが使えない(禁忌・早期忍容性不良)ならスルファサラジンorレフルノミド

MTXは使えるが治療目標未達ならbiologic DMARDまたはJAK inhibitorを追加

という整理がなされています。

日本リウマチ学会の診療ガイドラインhttps://academic.oup.com/mr/article/29/1/31/6299805?utm_source=chatgpt.com&login=false によると、妊娠、MTX過敏症、重症感染症、重度の血液・肝・腎・呼吸器障害などが禁忌で、さらに日本人の多くは16mg/wに耐えられないとのことです。


私の診療圏だと、近くにリウマチセンターがあるので、疑えば紹介、少なくとも治療の導入はお願いする、というのが多いです。

一方、特にADLの低下した高齢者や在宅患者で、移動の制限等で紹介できず自分で治療を開始せざるを得ない場合があり、必然的に複雑事例のマネジメントを行わなくてはならないということがあります。close follow-upで少量ずつ薬を試すしかないですし、一般的なケースとは治療による達成目標が変わる点を注意しています。

2026年9月13日日曜日

正常結果を患者が受け止める際の医師の有能さと温かさ

 Kube T, Seewald A. Influence of Physician Behaviors on How Patients Interpret Normal Test Results. Ann Fam Med. 2026 Sep;250671. doi:10.1370/afm.250671. https://www.annfammed.org/content/early/2026/08/21/afm.250671


目的

「重大な問題はありません」と患者を安心させることは、家庭医療において最も一般的な介入の一つである。しかし、医学的な安心づけがうまく機能しないこともあり、その際に医師の行動がどのような役割を果たすのかは、まだ明らかではない。本研究では、医師の「温かさ(warmth)」と「能力(competence)」が、診断検査で正常な結果が示された際の患者の反応に、それぞれ独立して有意な影響を与えるという、事前登録された仮説を検証した。


方法

中程度の身体症状負担を報告したオンラインの便宜的サンプル(N=349、平均年齢29.9歳、女性79%)を対象に、実験的アナログ研究を実施した。参加者はまず症状に関するビネットを提示され、その後、医師が診断検査の結果を説明する場面を撮影した動画を視聴した。医師は「異常は確認されなかった」と説明した。診断情報そのものはすべて同一とした一方で、医師の行動については、温かさ(高 vs 低)と能力(高 vs 低)が異なるように操作した。


結果

医師が高い温かさと高い能力を示した場合、参加者は「重大な疾患である可能性」を有意に低く評価した。さらに、高い温かさと能力は、「別の医師の意見を聞きたい」「追加の検査を受けたい」という希望が低下するなど、その他のアウトカムの改善にもつながった。媒介分析では、温かさと能力の効果は、参加者が診断情報をどの程度、認知的に価値づける(あるいは価値を下げる)かによって調整されることが示された。


結論

患者にとって、診断情報はそれ自体だけで意味を持つわけではない。医師の行動が、患者がその情報をどのように受け止め、統合するかを決定するうえで重要な役割を果たしている。高い温かさと能力を示すことは、患者が医師を信頼し、それに応じて自身の病気に対する認識を適切に更新することを助ける可能性がある。


感想

面白いテーマで、研究デザインは発想としては自然ですね。

primary outcomeである、「重大な疾患である可能性」をみても、医師の能力でCohen's d=0.439、温かさでCohen's d=0.281であり、相乗効果は見られておりません。「優しい医師」であることより、「有能で信頼できそうな医師」であることの方が、正常検査結果を受け入れることに強く影響したということですね。その他のアウトカムを診ると、温かさは貫して患者の反応に影響しており、有能さは特に「診断情報を信頼する」「追加検査を求めない」に強く影響しています。

媒介変数としてCognitive immunization(自分の病気に関する元々の信念と矛盾する診断情報を、価値の低い情報として退ける傾向)を仮定、つまり、正常検査結果→でもこの検査は信用できないのでは?→正常結果を受け入れない、というパスを仮定し、Cognitive Immunization against Medical Reassurance scaleというスケールで測定しています。媒介分析で、有能さと温かさのどちらにおいても媒介が有意に検出されています。

その他、実際に患者の知覚した有能さ、温かさでの分析(温かく見える医師は有能にも見えてしまうというspilloverが観測されています。これは結果の解釈において重要な点)をしたり、ベイズ解析を行ったりしており、統計解析をかなりrobustに行っています。AFMに採用されるpaperはここまでするのだなととても参考になりました。

2026年9月12日土曜日

持続血糖モニタリングの医療格差

 Milosavljevic J, Schechter C, Fazzari M, Mathias P, Mathew J, Agarwal S. Inequity in continuous glucose monitor (CGM) prescribing behaviors in primary care. J Gen Intern Med. 2026 Jan 13. doi:10.1007/s11606-025-09923-7. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-025-09923-7


背景

持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring:CGM)は糖尿病管理の標準的な治療手段となっているが、糖尿病患者の大部分を診療するプライマリ・ケアにおいて、その導入は依然として限定的である。プライマリ・ケアにおけるCGM処方に関連する要因を検討することで、糖尿病診療全体の健康アウトカムを改善するための新たな介入標的を特定できる可能性がある。


目的

11,000人以上のインスリン治療中2型糖尿病患者を診療するセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、プライマリ・ケア医(PCP)によるCGM処方に関連する要因を明らかにすること。


方法

後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、ニューヨーク州ブロンクスのセーフティネット型プライマリ・ケア診療ネットワークにおいて、2020年7月31日から2023年7月31日の間に少なくとも1回プライマリ・ケアを受診した、インスリン治療中の2型糖尿病成人患者とした。主要アウトカムは、PCPによる初回CGM処方とした。多変量解析には原因別Cox回帰を用い、死亡および内分泌科によるCGM処方を打ち切りイベントとして扱った。


結果

インスリン治療中の患者11,037人(平均年齢61±14歳、女性56%、ヒスパニック系44%、非ヒスパニック系黒人39%)のうち、17%がプライマリ・ケアで初回CGM処方を受けた。月あたりの新規CGM処方率の中央値は3.1%(2.8–3.3%)であった。高齢患者、スペイン語話者、公的医療保険加入者では、CGMが処方される可能性が低かった。一方、HbA1c値が高い患者、より強化されたインスリン治療を受けている患者、および診療経験年数の長い医療者から診療を受けている患者では、人種・民族にかかわらずCGMが処方される可能性が高かった。


結論

プライマリ・ケアにおけるCGM処方率は依然として低く、若年、英語話者、民間医療保険加入者、および経験年数の長い医療者による診療を受ける患者に有利な不公平が認められた。CGM処方を増加させるためには、診療ワークフローの効率化、言語や年齢に応じたトレーニング支援、研修医教育における課題に取り組む必要がある。CGM処方における不公平に対処することは、プライマリ・ケアにおける糖尿病診療の質を高め、十分な医療を受けにくい糖尿病患者におけるアウトカムの格差が連鎖することを防ぐための重要な第一歩である。


感想

CGMは格差を助長するのではないかと疑問に思っており、自分で小規模な研究をしようかなと思っていたのですが、大規模な研究が出ましたね。どうやったら必要な患者に必要なケアが届くかという命題は常に考えなければなりません。

2026年9月11日金曜日

素敵なケースレポート

 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.70177


とても素晴らしいケア実践のケースレポート。こういうことができる家庭医になりたい。
おそらく、この患者さんがやってきた→外来担当医が勉強してケアを実践、という時系列だと思うんですよね。目の前にいる患者が自分の専門である、という家庭医の本懐を体現しています。素敵。

再発性尿路感染が患者生活に与える影響

 Glogowska M, Moore M, Hay AD, Butler CC, Hayward G. The impact of recurrent urinary tract infections in women: a qualitative study. Br J Gen Pract. 2026 May 14:BJGP.2025.0699. doi:10.3399/BJGP.2025.0699. https://bjgp.org/content/early/2026/09/06/BJGP.2025.0699


背景

多くの女性が再発性尿路感染症(recurrent urinary tract infection: rUTI)を経験しているが、罹患した女性にとってrUTIがどのような意味を持つのかについては、十分に記述・理解されていない。


目的

女性が経験するrUTIと、それが女性の生活に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。


研究デザイン・設定

臨床的にrUTIと定義された女性を対象とした、D-マンノースに関する英国のRCTに組み込まれた質的研究。


方法

RCTに参加した32人の女性を対象に、半構造化電話インタビューを実施した。インタビューは録音し、逐語的に文字起こしした。データはテーマ分析によって分析した。


結果

女性たちは、rUTIの経験が身体的に苦痛で消耗させる症状をもたらすだけでなく、生活全般にも広範な支障を及ぼす負担の大きい経験であると語った。rUTIは人生のさまざまな段階に影響を及ぼしており、その影響には2つの側面が認められた。

内在化された影響(internalised impact)には、rUTIに対する感情的な反応、再発への恐怖、そして再発に対処できるよう常に備えておくことが含まれていた。

外在化された影響(externalised impact)には、再発を極めて警戒すること、再発が疑われるとすぐに医療機関に助けを求めること、そしてその過程で直面するさまざまな困難が含まれていた。

また、女性たちは、医療者(HCP)に相談した際の医療者側の対応が、その後の受診行動や自己評価に影響し、ときには無力感につながることを説明した。


結論

rUTIを経験することで、女性たちは自身の状態に対して警戒し、積極的に対処するようになっていた。しかし、そのような女性自身の理解や対応力が、医療者からの理解や承認によって必ずしも支えられているわけではなかった。rUTIを経験している女性が医療機関を受診した際には、臨床医はrUTIそのものだけでなく、女性が経験しているより広範な影響、すなわち内在化された影響と外在化された影響の双方を考慮することが有用である。


感想

8/17に紹介したBJGPOの再発性尿路感染症の研究と類似していますが、こちらは尿路感染が引き起こす生活全般の影響について探索しています。RCT研究と同時に行われた質的研究ですね。家庭医にとって重要なテーマだと思います。

2026年9月10日木曜日

アルコール使用障害入院患者を外来につなげる

 Bernstein EY, Hills-Dunlap K, Challapalli A, Bero L, Calcaterra SL, et al. Interventions to improve outpatient follow-up for hospitalized patients with alcohol use disorder: a systematic review. Ann Intern Med. 2026 Sep 8. doi:10.7326/ANNALS-26-01312. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/ANNALS-26-01312


背景

アルコール使用障害(alcohol use disorder: AUD)による入院は多く、重大な健康上の問題と関連している。退院後の外来フォローアップは重要であるが、入院中にどのような介入を行えば、退院後に外来治療へつなげられるのかについては明らかになっていない。


目的

AUDで入院した患者に対して、退院後の外来フォローアップを改善することを目的として、病院で実施される介入の有効性を評価すること。


情報源

複数の電子データベースを検索し、AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための介入を評価した研究を検索した。


研究選択

AUDによる入院後の外来フォローアップを改善することを目的とした、病院ベースの介入を評価した研究を対象とした。


データ抽出・統合

研究の特徴、介入内容、比較対象、フォローアップのアウトカムおよび研究の限界についてデータを抽出した。介入内容とアウトカムには大きな異質性が認められたため、結果を定量的に統合することには限界があった。


結果

17研究、合計12,000人以上の患者を対象とし、21種類の介入を評価した。17研究のうち、12研究はランダム化比較試験、3研究は非ランダム化試験、2研究はコホート研究であった。

介入の多くは、複数の要素を組み合わせたものであり、例えば、

行動カウンセリング

ケア・コーディネーション

AUDに対する薬物療法

社会的支援

電話による退院後のフォローアップ

予約のリマインダー

外来医療へのナビゲーション

などが含まれていた。

21種類の介入のうち、8種類では退院後の外来治療へのフォローアップを改善する効果が認められた。一方で、研究間で介入内容や評価方法が大きく異なっており、効果の大きさも一貫していなかった。

また、ランダム化比較試験の12研究のうち10研究は、バイアスのリスクが高いと評価された。全体として、エビデンスの確実性は非常に低かった。


限界

研究間で、対象患者、介入内容、アウトカムの定義、研究方法が大きく異なっていた。また、多くの研究でバイアスのリスクが高く、どの介入が最も有効なのかを明確に判断することは困難であった。


結論

AUDで入院した患者の退院後の外来フォローアップを改善するための病院ベースの介入については、現在のエビデンスは限定的である。いくつかの介入では外来治療へのつながりを改善する可能性が示されたものの、研究間の異質性が大きく、エビデンスの確実性も非常に低かった。今後は、どのような介入の構成要素が退院後の外来治療への移行を効果的に促進するのかを明らかにするため、より大規模で質の高い臨床試験が必要である。


感想

効果の合った介入をまとめると、退院時に単に『外来へ紹介する』だけでは不十分で、患者の動機づけ・家族/peer支援・薬物療法と、退院後の具体的なケアコーディネーションを組み合わせることで、外来治療への接続が改善する可能性がある、と結論できそうです。単独では効果が立証されていないものが多く、組み合わせないといけないようですね。手間暇がかかります。

2026年9月9日水曜日

肺がん検診を促すシステム

 Wernli KJ, Anderson ML, Palazzo L, Luce C, Bezman N, Rogers K, et al. Health communication and stepped reminders interventions for lung cancer screening: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2026 Aug 10. doi:10.1001/jamainternmed.2026.3666. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2852476


Key Points

問い:複数のレベルに存在する障壁に対処する介入によって、毎年の肺がん検診の受診率は改善するのか?


知見:1,837人を対象としたランダム化臨床試験において、shared decision-makingに加えて健康情報を提供する介入を行っても、肺がん検診の継続受診率は改善しなかった。

一方、プライマリ・ケア医と患者の双方を対象としたシステムレベルのリマインダーによって、肺がん検診の受診率は向上した。特に、現在喫煙している患者でその効果が大きかった。


意味:プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムでは、適切なタイミングで、

プライマリ・ケア医には「低線量CTをオーダーするよう」リマインドする

患者には「低線量CTを予約するよう」リマインドする

という多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効だった。


重要性

米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force: USPSTF)は10年以上にわたり、毎年の肺がん検診を推奨している。しかし、毎年の検診を継続して受ける割合は依然として低い。


目的

ガイドラインに沿った毎年の肺がん検診の継続受診率を高めるため、患者中心の多層的な介入を2種類実施し、その効果を検証すること。


研究デザイン、実施場所、対象者

Kaiser Permanente Washingtonにおいて、プラグマティックな2×2要因ランダム化臨床試験を実施した。

2022年11月21日から2024年4月5日までに、肺がん検診を受け、画像上正常所見であった患者を対象とした。最終フォローアップ日は2025年7月4日であった。データ解析は2025年7月から12月に行われた。


介入

4群を設定した。

通常診療群

Health Communication群

Stepped Reminders群

両方の介入を行う群


Health Communication介入では、印刷物および動画による情報提供を行い、患者が肺がん検診について十分な知識を持っていないことによる障壁に対応した。

Stepped Reminders介入では、プライマリ・ケア医が肺がん検診の画像検査をオーダーできるようにするとともに、患者に検査の予約を促すアウトリーチを行った。

両方の介入は、電子健康記録のレジストリを利用するシステムレベルの肺がん検診コーディネーターによって実施された。


主要評価項目

主要評価項目は、基準となる低線量CT検査の9~15か月後に、肺がん検診として低線量CT検査または胸部CTを完了したかどうかであった。

毎年の検診対象となったすべての参加者をmodified intention-to-treat解析に含めた。肺がんと診断された場合、死亡した場合、予定より早くLDCTまたは胸部CTを受けた場合、または健康保険から脱退した場合には、その時点で追跡を打ち切った。


結果

1,837人が試験に参加した。平均年齢は66.3歳(SD 6.5)で、897人(48.8%)が女性、940人(51.2%)が男性であった。現在喫煙していた人は875人(47.6%)であった。

参加者は、

通常診療群:459人

Health Communication群:460人

Stepped Reminders群:460人

両介入群:458人

に無作為に割り付けられた。


年間肺がん検診の受診率は、Health Communication介入を受けた群では59.2%(804人中476人)であり、介入を受けなかった群の63.3%(815人中516人)より4.7ポイント低かった。相対リスクは0.93(95% CI, 0.86–1.00、P=0.04)であり、Health Communication介入による受診率の改善は認められなかった。

一方、Stepped Reminders介入を受けた群の年間検診受診率は75.5%(800人中604人)で、介入を受けなかった群の47.4%(819人中388人)より27.7ポイント高かった。相対リスクは1.59(95% CI, 1.47–1.72、P<0.001)であった。


さらに、Stepped Remindersの効果は現在喫煙している患者で特に大きかった。

現在喫煙者:介入あり73.0% vs 介入なし41.2% リスク差:32.3ポイント(95% CI, 25.9–38.8)

過去喫煙者:介入あり77.8% vs 介入なし52.9% リスク差:24.1ポイント(95% CI, 18.1–30.0)

この効果の違いは統計学的にも有意であった(P for interaction=0.03)。


結論・意義

このランダム化臨床試験では、適切なタイミングで、PCPにはLDCTをオーダーするよう、患者には検査を予約するよう促す多層的なリマインダーを提供することが、毎年の肺がん検診の受診継続率を改善するうえで有効であった。

特に、プライマリ・ケア医が主体となって肺がん検診を実施するプログラムにおいて、このような介入は有効である可能性が示された。


感想

患者要因だけではなく医療者要因にも介入することの有用性を示した研究だと思います。

2026年9月8日火曜日

Teach-backの有効性

 Vick JB, Pace R, Klimek-Johnson P, Rushton S, Roberts M, Lewinski A, et al. Teach-back in clinical communication: a systematic review and meta-analysis. J Gen Intern Med. 2026 Sep 3. doi:10.1007/s11606-026-10678-y. https://link.springer.com/article/10.1007/s11606-026-10678-y


背景

Teach-backは、医療者が患者に伝えた情報を患者自身に説明し返してもらうことで理解度を確認する、臨床コミュニケーションの方法である。本研究では、臨床コミュニケーションにおけるteach-backの有効性に関する既存研究を統合し、特に患者の知識、自己効力感、健康行動へのアドヒアランスに及ぼす影響を検討した。

方法

teach-backの有効性を検討したランダム化比較試験を対象として、系統的レビューおよびメタ解析を実施した。18件のランダム化比較試験を含め、teach-backが患者の知識獲得、自己効力感、健康行動へのアドヒアランスなどに及ぼす影響を評価した。

結果

teach-backによって患者の知識獲得が明確に改善するというエビデンスは得られなかった。一方、teach-backは自己効力感および健康行動へのアドヒアランスを有意に改善することが示された。ただし、これらのエビデンスの確実性は低かった。

結論

Teach-backは、患者の知識獲得を改善する効果については明確ではないものの、自己効力感や推奨される健康行動へのアドヒアランスを改善する可能性がある。今後は、teach-backを日常診療に効果的かつ持続的に導入するための方法や、どのような臨床場面・患者において最も有用なのかを明らかにする研究が必要である。


感想

teach-backを臨床でしたことはないです。どうやって良好なコミュニケーションをとりながらteach-backできるかのイメージがわかないです。知識を伝授するという診療スタイルではないからかもしれません。ですが、口頭で受けた専門的な説明を患者さんがいつも理解できているとは当然思っておらず、認識の齟齬をどのように確認したらいいのかについては考えなくてはならないなと思っています。

2026年9月7日月曜日

一人暮らし高齢者の食事

 Noh HY, Seo KI, Kim KH. Differences and determinants of dietary intake according to living arrangements in older adults: a cross-sectional study using the 2019, 2021, and 2023 Korea National Health and Nutrition Examination Surveys. Korean J Fam Med. 2026 Jun 26. doi:10.4082/kjfm.25.0331. https://kjfm.or.kr/journal/view.php?number=4893


背景

高齢者の栄養状態は、居住形態と密接に関連しており、社会的支援や食料へのアクセスを反映している。本研究では、独居高齢者と他者と同居している高齢者の食事摂取量を比較するとともに、栄養素摂取量に影響を及ぼす主要な社会経済的、行動的、心理社会的要因を明らかにすることを目的とした。


方法

2019年、2021年、2023年の韓国国民健康栄養調査(Korea National Health and Nutrition Examination Survey: KNHANES)のデータを用いた。65歳以上の高齢者を、居住形態に基づいて「独居」と「他者との同居」に分類した。食事摂取量は24時間食事思い出し法(24-hour dietary recall)によって評価した。1日のエネルギーおよび栄養素摂取量について、年齢で調整した共分散分析(analysis of covariance)を用いて群間比較を行った。また、居住形態別に、エネルギーおよび栄養素摂取量と関連する要因を検討した。


結果

独居高齢者では、他者と同居している高齢者と比較して、1日のエネルギー、炭水化物、タンパク質、脂質、カルシウムの摂取量が有意に低かった(すべてP<0.05)。

非独居群では、喫煙状況、QOL、食料の豊富さ(food abundance)がエネルギーおよび栄養素摂取量の主要な決定因子であった。一方、独居高齢者では、経済活動、喫煙状況、食料の豊富さが最も影響の大きい要因であった。


結論

居住形態は、韓国の高齢者の食事摂取量に影響を及ぼす重要な文脈的要因である。 食料へのアクセス・食料安全保障を改善し、社会参加を促進する栄養支援プログラムによって、こうした格差を軽減し、健康的な加齢を支援できる可能性がある。


感想

重要な疫学的調査だと思います。

2026年9月6日日曜日

英国の終末期ケアのフレームワークをブルネイに適用する

 Chong JX, Teo SP, Husaini A, Venkatasalu MR. Gold Standards Framework to identify palliative care needs in primary care: a qualitative study of implementation in Brunei Darussalam. Korean J Fam Med. 2026 Aug 25. doi:10.4082/kjfm.26.0170. https://kjfm.or.kr/journal/view.php?number=4905


背景

プライマリ・ケアにおいて、緩和的アプローチから恩恵を受ける可能性のある患者を早期に特定することは、依然として困難である。Gold Standards Framework(GSF)は、人生の最終段階に近づいている可能性のある患者を特定するための体系的なアプローチを提供する。しかし、英国以外のプライマリ・ケアの現場においてGSFがどのように実装されているかについては、十分に明らかになっていない。

本研究では、ブルネイ・ダルサラームのプライマリ・ケアにおいて、GPがGSFの予後指標ガイダンスを用いて緩和ケアニーズのある患者を特定した経験を明らかにすることを目的とした。


方法

本研究は、プライマリ・ケアにおけるGSFの使用を評価した、より大規模な混合研究法プロジェクトの一部として実施された質的研究である。

構造化された研修ワークショップを受講した後、日常診療でGSFを適用したGPを対象として、フォーカスグループディスカッションおよび少人数グループでのインタビューを実施した。データは録音し、逐語録を作成したうえで、帰納的アプローチによるテーマ分析を行った。


結果

10名のGPが研究に参加した。以下の4つの包括的テーマが明らかになった。

GSFをプライマリ・ケアの診療に適応させること

プライマリ・ケアにおける構造的制約

予後の不確実性と役割に対する戸惑い

緩和的アプローチを統合するためのシステム上の促進要因

GSFは有用な枠組みとして認識されていた一方で、その実際の適用には地域・診療環境に応じた調整(contextual adaptation)が必要であり、医療者レベルとシステムレベルの双方の要因から影響を受けていた。


結論

GSFは、プライマリ・ケアにおいて緩和ケアのニーズを有する患者を特定することを支援できる。しかし、効果的に実装するためには、地域の診療ワークフローとの整合、診療の継続性の改善、そしてシステムレベルでの支援が必要である。特に、明確な紹介経路(referral pathways)と統合されたケア・プランニング(integrated care planning)が重要である。


感想

GSFは、Surprise Question → general indicators → disease-specific indicatorsの3段階で、「この患者は今後、緩和的アプローチを考えるべき状態にあるか」を臨床的に判断するためのフレームワークです。

英国で開発されたGSFをブルネイで使用する際にどのような調整が必要かを議論しています。

まず、取り扱われている疾病と指標がブルネイでは合わないという点があるようで、特にCOPD、喘息、フレイル、多疾患併存、複雑な糖尿病などがブルネイではより重視されるべきだとのことです、

また、ブルネイでは患者が毎回同じGPを受診するとは限らず、GPが患者の長期的な病状の経過を把握しにくいため、英国のような「長期的に患者を知っているGPが、少しずつ悪化している患者を認識する」は必ずしも成り立たず、そのため電子カルテの活用や情報共有の必要性が高いとのことです。

あわせて、進行患者の管理が病院、スペシャリスト中心となっているため、ブルネイのGPは「自分が予後を判断して緩和ケアを開始してよいのか?」と感じており、referral pathwayやshared-care systemを整える必要があるとのことです。


英国のGSFをブルネイに導入するにあたり、コンテキスト上の様々な差異はどこにあるのか、それをどのように調整したらいいのかを明らかにしており、とても実践的で家庭医らしい研究だなと思いました。日本の現状もどちらかというと英国よりブルネイに近いように思います。日本でも、横のものを縦にして満足するだけでなく、コンテキストに合わせた調整をどうするかを考える必要があると感じました。

2026年9月5日土曜日

献血における黒人差別

 Cénat JM, Dalexis RD, Darius WP, Pakhalé S. “Our blood is not pure enough”: a qualitative study to understand systemic racial barriers to blood donation for Black people in Canada. CMAJ. 2026:198(29):E1143-E1152; DOI: https://doi.org/10.1503/cmaj.250123


背景

献血は重要な医療を支えるために不可欠である。しかし、カナダでは黒人が献血を行う際に複数の障壁に直面している。本研究では、これらの障壁を明らかにし、献血者の多様性と公平な医療へのアクセスを向上させる方法について理解を深めることを目的とした。


方法

カナダに居住する黒人成人を対象に、半構造化された詳細なインタビューによる質的研究を実施した。参加者はソーシャルメディアおよび地域のコミュニティ組織を通じて募集した。インタビューを逐語録に起こし、NVivoソフトウェアを用いてコード化・テーマ分析を行った。データの分析には、文化的感受性を確保しながら、BraunとClarkeによる6段階のテーマ分析を用いた。


結果

42人(女性57.1%)にインタビューを行った。カナダにおける黒人の献血を妨げる障壁として、14の主要テーマを特定し、それらを5つのクラスターに分類した。

最も頻繁に言及されたのは、制度・政策上の障壁であり、Canadian Blood ServicesおよびHéma-Québecが採用している制限的な献血政策、制度的人種差別、そして歴史的な反黒人人種差別などが含まれた。

知識・認識に関する障壁としては、情報不足、黒人献血者から提供された血液が十分に活用されていないという認識、黒人コミュニティを十分に対象としないアウトリーチ活動などが挙げられた。

アクセス・実務上の障壁には、献血センターへのアクセスのしにくさや経済的制約が含まれた。

社会的・文化的障壁として、スティグマ、スタッフにおける黒人の代表性の不足、歓迎されていないと感じる環境が挙げられた。

さらに、心理的障壁として、注射針への恐怖や、医療・献血システムに対する不信感が認められた。この不信感は参加者の間に広くみられた。


解釈

本研究の結果は、カナダにおいて黒人の献血を困難にする制限的な政策が現在も存在していることを明らかにした。また、過去および現在の人種差別によって、医療システムおよび献血システムに対する深い不信感が形成されていることを示した。信頼を改善するためには、政策改革、包摂的なコミュニケーション、そして医療機関と黒人コミュニティとの協働が必要である。


感想

献血を切り口に人種差別の構造をあぶりだした研究であり、これぞ質的研究という感じの素晴らしい論文です。CMAJはよい質的研究を出版しますね。

2026年9月4日金曜日

心不全診断後にフェリチンを測定しているか

 Maharajan V, Jones NR, Bankhead C, Erone I, Haynes S, Katumba AM, et al. Iron deficiency testing among people with incident heart failure in primary care. BJGP Open. 2026 Jul 31. doi:10.3399/BJGPO.2026.0086.https://bjgpopen.org/content/early/2026/07/31/BJGPO.2026.0086


背景

心不全患者のおよそ50%には何らかの鉄欠乏が認められるため、各種ガイドラインでは鉄欠乏のスクリーニングが推奨されている。しかし、プライマリ・ケアにおいて実際にどの程度検査が行われているのか、また検査が公平に実施されているのかは明らかではない。


目的

新たに心不全と診断された患者のうち、診断後12か月以内にフェリチン検査を受けた患者の割合を明らかにすること。


研究デザイン・セッティング

2016~2021年のClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumのデータを用いた、プライマリ・ケアにおける後ろ向きコホート研究。


方法

新たに心不全と診断された成人患者について、診断後12か月以内にフェリチン検査を受けた割合を算出した。さらに、多変量ロジスティック回帰分析を用いて、主要な人口統計学的因子および併存疾患による検査実施オッズの違いを検討した。


結果

新たに心不全と診断された105,749人(平均年齢71.6歳、SD 14.3)のうち、診断後1年以内にフェリチン検査を受けたのは35,688人(33.7%)にとどまった。

検査を受けるオッズは、年齢が高いほど高く、10歳年齢が上がるごとにOR 1.25(95% CI 1.24–1.27)であった。また、女性でも検査を受ける可能性が高く、男性のORは0.86(95% CI 0.84–0.89)であった。さらに、アジア系の患者では検査を受けるオッズが高かった(OR 1.70、95% CI 1.59–1.80)。

併存疾患では、セリアック病(OR 1.86、95% CI 1.58–2.21)、1型糖尿病(OR 1.82、95% CI 1.51–2.19)、肝硬変(OR 1.64、95% CI 1.43–1.87)が、フェリチン検査を受けることと関連していた。

また、患者背景を調整した後も、地域によって検査実施率に差が認められた。


結論

大規模なプライマリ・ケアデータベースを用いた本研究では、新たに心不全と診断された患者の約3分の2が、診断後1年以内に鉄欠乏を評価するためのフェリチン検査を受けていなかった。これは現在の診療における明らかなギャップを示しており、鉄欠乏の検査をプライマリ・ケアでより適切に実施するための診療体制改善の機会があることを示唆している。


感想

まずい、心不全管理でフェリチンを測定するという意識はありませんでした。今後気を付けようと思います。

2026年9月3日木曜日

expert generalistによる退院後の診療:HATCHモデル

 Boddy N, Reeve J, Spencer RA, Clarkson PJ, Avery AJ. HATCHing plans: a qualitative study of how discharge communication can support expert generalist management. BJGP Open. 2026 Aug 21. doi:10.3399/BJGPO.2026.0012. 


背景

退院サマリーの標準化によって改善がみられているものの、受け取る側のGPにとっては、患者を全人的に継続診療するための詳細な情報が不足しているなど、依然として問題が残っている。病院側の作成者は、退院後の地域医療におけるエキスパート・ジェネラリスト(expert generalist)の実践について十分に理解していないことが多く、そのため一般的な情報標準や単純化されたサマリーの項目に過度に依存している可能性がある。


目的

エキスパート・ジェネラリストであるGPが、退院後の難しい症例を管理する際に退院情報をどのように実際に活用しているのか、またどのような課題に直面しているのかを明らかにし、退院時の情報共有がどのようなものであるべきかについて新たな理解を得ること。


研究デザイン・セッティング

退院後の管理が困難な状況について、GPの視点から質的に探索した研究。


方法

GPおよびGP研修医を対象に、模擬症例とthink-aloud法を用いた半構造化インタビューを15件実施した。テーマ分析は、「エキスパート・ジェネラリズムの4Es」を理論的枠組みとして行った。


結果

退院後の移行期におけるエキスパート・ジェネラリストGPの意思決定を支える基盤として、「Holistic Adjustment To Context after Hospital discharge(HATCH:退院後の状況に対する全人的な文脈調整)」という解釈的プロセスが明らかになった。

その下位プロセスであるrationalisation(合理化)とintegration(統合)は、エキスパート・ジェネラリストに特徴的な解釈的パラダイムの活用を示していた。

一方、病院で行われた重要な意思決定について、その理由や背景(explanation and context)に関する情報が十分に伝達されていない場合、GPによるHATCHプロセスが妨げられ、退院後の診療の質と安全性が損なわれるリスクが生じていた。GPはこうした情報不足を自ら補うことができたものの、それには見えにくいリスクやコストが伴っていた。


結論

HATCHプロセスを理解し、文脈や説明に関する情報がこのプロセスをどのように支えるのかを明らかにすることは、退院サマリーをさらに改善するための重要なステップであることが示された。この問題に対応するためには、情報共有の標準や退院サマリーのテンプレートを改良することが重要な機会となる。また、これらの考え方をAIソフトウェアに組み込むことや、関係するすべての医療者に対する研修を更新することも有用である。


感想

エキスパート・ジェネラリズム(expert generalism)の4Esは、Joanne Reeve先生が提唱している枠組みですね。高度なジェネラリスト診療がどのような知識活動によって成り立っているかを説明しています。

  • Epistemology 認識論・知識のあり方 「患者を理解するために、どのような知識を使うのか」
  • Exploration 探索 「患者の病気・症状を、その人の生活や文脈も含めてどう探索するか」
  • Explanation 説明・解釈 「得られた情報を統合して、この患者に何が起きているのかをどう説明するか」
  • Evaluation 評価・判断 「その患者にとって、何をすることが最も適切なのかをどう判断するか」


この論文で提案されている HATCH(Holistic Adjustment To Context after Hospital discharge)は、退院後の患者を担当するGPが、病院から得た情報を患者の現在の生活・病歴・価値観などの文脈に合わせて再解釈し、診療方針を組み立て直すプロセスとして提示されます。

病院からの退院情報をもとに、「病院はなぜこの判断をしたのか」を理解し、患者が退院後に置かれている文脈と照らし合わせて情報を合理化(rationalisation)します、そして、複数の情報を統合(integration)し、「この患者に今、何が必要か」を判断し、退院後の個別化された診療を行います。

病院から提供された情報をそのまま引き継ぐのではなく、患者の文脈に適合するように意味づけ直すのがHATCHであり、rationalisationとintegrationという下位プロセスが、expert generalist特有の解釈的パラダイムの利用を示していたとされています。

例えば退院情報に「薬剤Aを中止し、薬剤Bを開始した」とだけ書いてあったとして、「なぜ薬剤Aを中止したのか?」「なぜ薬剤Bを選んだのか?」「病院ではどのような情報をもとに判断したのか?」という病院での意思決定について説明と文脈の情報が不足しているときに、GPは不足した情報を自分で補うことで診療を成り立たせます。

病院 → GPへの情報伝達は、事実の伝達だけでは不十分であり、GPが患者の文脈の中でその情報を解釈できるように、意思決定の理由と文脈も伝える必要があると筆者たちは主張しています。


たしかに、患者コンテクストに基づき情報を自分で補完するというのはいつもやってることだなと思いました。

2026年9月2日水曜日

自殺者の特徴

 Oliver P, Reed E, Hulin J, Delaney B, Marshall J, Mitchell C. Understanding suicide through coroners’ narratives: implications for primary care from a mixed-methods study of 157 coroners’ reports. Br J Gen Pract. 2026 Sep 1. doi:10.3399/BJGP.2026.0207. https://bjgp.org/content/early/2026/08/31/BJGP.2026.0207


背景

自殺は重大な公衆衛生上の問題であり、家庭医療は、死亡前の比較的最近の医療接点となっていることが多い。精神疾患が重要な要因であることは広く認識されている一方、自殺リスクに影響を及ぼす、より広範な社会的・文脈的要因については、プライマリ・ケアや疫学研究において十分に報告されていない。


目的

自殺で死亡した人々の人口統計学的、臨床的、心理社会的特徴を明らかにするとともに、検視官による量的データと質的なナラティブ記録を統合し、プライマリ・ケア/二次医療および公衆衛生への示唆を明らかにすること。


研究デザイン・セッティング

イングランドの5つの地方自治体において、検視官の記録に記載された、2018~2019年の連続157件の自殺死亡例を対象とした説明的逐次型混合研究法(explanatory sequential mixed-methods study)。


方法

検視官の記録から人口統計学的、臨床的、社会的データを抽出し、記述統計によって要約した。さらに、ナラティブ形式の症例要約をコード化し、死亡前の文脈的要因、対人関係上の要因、医療サービスに関連する要因を明らかにするため、テーマ分析を行った。


結果

157人のうち、79%が男性で、65%がIMD(Index of Multiple Deprivation)の最も貧困度の高い五分位地域に居住していた。85%に診断された精神疾患があり、62%に長期的な身体疾患があり、41%に過去の自殺企図があった。

約半数が死亡前3か月以内にGPを受診しており、そのうち約半数の診療で精神健康が扱われていた。

主なストレス要因として、人間関係の破綻(37.2%)、住居の不安定さ(22.1%)、仕事上のプレッシャー(18.2%)がみられた。


ナラティブ分析から、相互に関連する7つのテーマが明らかになった。

精神健康(Mental health)

アルコール/物質使用(Alcohol/Substance use)

身体健康(Physical health)

社会的つながり(Social connectedness)

ライフコース上のトラウマ(Life course trauma)

社会経済的・構造的脆弱性(Socioeconomic and Structural Vulnerability)

医療へのアクセス(Healthcare access)


また、医療サービス間の移行が重要な脆弱性のポイントとなっていた。


結論

検視官の記録は、自殺に至るまでの複雑な状況について重要な洞察を提供する。これらの記録は、GPが複数の要因が交差する複雑な状況(intersectional complexity)を認識することの重要性を示しており、複数の領域・機関が連携した統合的な自殺予防アプローチを支援する機会を明らかにしている。


感想

これはまたすごい研究を… 私にはまったくなかった着眼点です。これが家庭医療の研究としてみとめられるのもまたすごいです。

2026年9月1日火曜日

COPD急性増悪に潜むアスペルギルス

 Denning DW, Bertuzzi M, Chotirmall SH, Wilkinson TM, Mathioudakis AG, Gago S, Takazono T, Rogers TR, Bowyer P, Kosmidis C, Guinea J, Lagrou K, Janssens W, Ray A, James DA, Vogelmeier CF, Su X, Bafadhel M, Sun Y, Roche N, Vestbo J. COPD and Aspergillus—a complex interaction of global health importance. Lancet Infect Dis. 2026 Aug 18. doi:10.1016/S1473-3099(26)00360-9. https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(26)00360-9/fulltext


背景・概要

Aspergillus属は空気中に広く存在する真菌であり、ヒトの肺に感染症を引き起こす最も一般的な真菌病原体である。慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では、感染に対する通常の防御機構がさまざまな程度に障害されているため、特に気管支拡張症を伴う場合には気道への持続的な感染が生じやすい。また、アレルギー(または感作)や気道抵抗の増加、慢性肺アスペルギルス症、侵襲性アスペルギルス症などを発症する可能性がある。

気道からAspergillusが検出される患者では、COPD増悪がより頻繁に起こるため、入院や死亡を減らすための治療介入が可能である可能性がある。さらに、住宅内の湿気やカビ、高い大気汚染、重要な免疫防御機構を損なう呼吸器ウイルス感染などの環境因子も、この悪循環を悪化させる。全身性および吸入性のコルチコステロイド治療も、気道および肺の防御機構をさらに低下させる。局所および全身の免疫応答はいずれも影響を受ける。

COPD患者におけるアスペルギルス感染は、過小認識されている。その主な理由として、喀痰からのAspergillus培養検査の感度が低いこと、慢性的な呼吸機能障害のある患者では気管支鏡検査が有害となり得ること、誘発喀痰検査が主に研究目的でしか用いられていないこと、そして血清Aspergillus IgGや抗原検査の意義が十分に認識されていないことが挙げられる。

入院患者や高リスク患者に対して、喀痰の高容量真菌培養およびAspergillus PCRを実施することで、より多くの症例を診断できる可能性がある。

COPD増悪による入院患者は世界で年間約6000万人に上り、COPDを合併した侵襲性および慢性肺アスペルギルス症では死亡率も高い。そのため、予防、早期診断、治療介入には、まだ検証されていない多くの可能性が残されている。特に、COPD患者におけるコルチコステロイド曝露を減らすことによって、アスペルギルス感染の影響を大幅に軽減できる可能性がある。


キーポイント

  • COPDは世界中で4億人以上が罹患しており、年間約6000万人が入院し、340万人以上が死亡している。これらの死亡例の3分の1は、侵襲性肺アスペルギルス症に直接起因する可能性がある。
  • COPD患者における複数の疾患は、侵襲性および慢性肺アスペルギルス症、侵襲性アスペルギルス気管支炎およびアスペルギルス気管支炎(おそらく主に気管支拡張症患者)、アスペルギルス感作、および新たに報告されたアレルギー性気管支肺アスペルギルス症およびアスペルギルス結節(肺癌に類似)など、アスペルギルス属菌に直接的または間接的に起因する。
  • COPD患者では、アスペルギルス属菌による気道感染または定着がよく見られ、疾患の重症度と吸入ステロイド薬の使用によって増加し、COPDの増悪と関連している。
  • アスペルギルスへの環境曝露はCOPDの悪化を引き起こすが、予防戦略はまだ初期段階にある。
  • 経口および高用量吸入コルチコステロイドは、侵襲性および慢性肺アスペルギルス症の両方の発生率を大幅に増加させる(200~500%増加)。


感想

今までCOPD増悪患者をたくさん診てきましたが、アスペルギルスについて考えたことはなかったので、いたく反省した次第です。

AJRCCMによると(https://academic.oup.com/ajrccm/article/212/9/1913/8723239)以下のリスク因子が2つ以上あればアスペルギルスを積極的に評価せよ、とのことです。

  • 全身性ステロイド使用、とくに最近の使用・累積曝露
  • 高用量ICS
  • 気管支拡張症
  • 糖尿病
  • 心血管疾患
  • 重症COPD(GOLD III–IV)
  • 抗菌薬の長期使用
  • 過去のAspergillus感染・定着


喀痰培養は感度低いですが、やるなら大量に喀痰を集めたほうがいいようです。

私のセッティングだと、血清ガラクトマンナン抗原、血清アスペルギルス抗体が関の山かと。

BALFできたらもっと迫れるのでしょうが、そもそもCOPD急性増悪患者にBALFしようと思っている状態でアスペルギルスのことを考えているはずであり、臨床判断を先にしないといけないです。


普段からステロイドはできるだけ使わず管理し、リスク因子のあるCOPD急性増悪で治療効果乏しければアスペルギルスの関与を疑うということなのだと思います。頻度そこそこあるようなので意識しておきます。