2017年2月28日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 6)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.





今回は家族丸ごと支援しよう、という内容です。



メディカルホームでの家族と親の支援

 小児メディカルホームとして設計されたプログラムにより、低所得世帯に対する低コストで集団を対象とした予防介入を行う機会を得ることができる。子どもと家族に備わっている防御因子に気付くことで、小児科医は健康増進のための対話において自分たちの強みに高リスクの家族における防御因子を評価する際によく使われる指標はFRIENDSナショナルリソースセンターが公表している。保護要因評価は、家族のレジリエンス、社会的つながり、愛着の質、子どもの発達の知識がいまどんな状態で、時を経てどう変わるかを評価する際に用いられる。

 貧困家庭のニーズに合うメディカルホームでは、逆境に立ち向かう能力を親に与え、ストレスの影響を緩和させることで、親は年少児のレジリエンスを促進する機会と資源を手に入れる。年少児のためのヘルシーステップは、マニュアルに基づくプライマリケア戦略であり、インクレディブルイヤーズとトリプルPは、行動保険学をプライマリケアに統合する取り組みである。これらのプログラムは、応答的な子育てを促進し、よくある行動面、発達面での懸念に対応することが示されている。手を差し伸べる読書プログラムに代表されるメディカルホーム内での早期リテラシー促進事業は、対照群と比べて読み方の学習準備を約6ヶ月早くする。くわえて、手を差し伸べる読書プログラムに参加している親は、そうでない親と比べて、子どもへの読み聞かせが4倍多く、また子どもと相互にやりとりしながら遊ぶことにより多くの時間を使っている。ビデオ交流プロジェクト(VIP)もまた、親子間の相互交流の道しるべとなることで家族の関係作りと子どもの社会発達を支援することに早期リテラシーを結びつけている。

 AAPは、メディカルリーガルパートナーシップのナショナルセンターモデルを推進している。このモデルでは、健康サービスに結びつく法的な援助を、特に貧困家庭に提供する。メディカルリーガルパートナーシップのパイロット研究では、法的なサービスを提供し、家族がセーフティネット機関と交渉する助けとなることで健康の社会的決定要因に立ち向かうことが、子どもの健康を改善し、不必要な緊急訪問を減らし、全体的に子どもを元気にすることが示された。

 ケア調整は、メディカルホームモデルの基本的なサービスであり、家族を地域資源に結びつけ、食料やエネルギーの確保といった生活の基本的な懸念に対応する省庁間の協働を支援することができる。ケアマネジメントをしっかり先導する一例が、強化型プライマリケア戦略であるヘルスリーズである。これは代弁者たる大学生のボランティアを動員し、先進的な資源マネジメント技術を利用する物である。健康に対する社会的障壁を減らすことを意図しており、実際にケアの調整を改善させ、低所得世帯が関連する社会サービスをより利用するようになる。


サービスが必要な家族を早期に同定する

 できるだけ早期に家族をサービスにつなげるために、小児科医は感度と特異度がどちらも高いスクリーニングツールを使うことができる。WE CARE surveyは簡潔な質問セットであり、小児科医が貧困に関連したストレスを経験している家族に気付く手がかりとなる。「すべての子どもたちに食事を確保しよう」というポリシーステートメントの中で、AAPは食事確保の不安定を検出する感度の高い2質問調査の使用を推奨している。また、「月末にお金をやりくりするのが大変ですか」という質問を1つすることで、地域資源につなげる必要のあるケースを98%の感度で小児科医が気付くことができるかもしれない。ここ1年で頻繁に引っ越している、または経済的理由で他の世帯と同居しているかどうかを尋ねることで、住居の不安定さがわかるだろう。

 支援が必要な家族を効果的に早期に同定することで、年少児に対する栄養補助、予防医療サービス、年齢に応じた学習の機会、親に対する社会経済的サポートといった予防サービスが促進される可能性がある。プログラムの評価は、様々な国、環境に置いてこのような多面的アプローチを行うことを支持している。ノーベル賞受賞の経済学者ジェームスヘックマンの分析によると、困難な境遇にいる子どもを対象とした早期予防活動は経済面で見返りが大きく、小児後期や成人になってからの予防効果と比べはるかに高いことが分かっている。例えば、ペリー就学前プログラムは、小児早期教育に1ドル出資することで平均8.74ドルの見返りがあると示されている。対象を絞った介入により、生みの親に限らず子どもにずっと関わる大人がおこなう応答的、養育的、認知面で刺激的、一貫的、かつ安定した子育てといった予防因子が充実する。関係性の健康を向上させる小児早期の体験は、安定型愛着、効果的な自律と睡眠、神経内分泌系の正常発達、健康なストレス応答系、発育中の脳の構造における良い変化をもたらす。ひょっとすると、最も重要な予防因子は、小児期の貧困が早期の脳や子どもの発達に与える有害ストレスの影響を和らげるものかもしれない。


思春期と、幼い子どもの親に対する介入

 最近になって、低収入世帯の貧困を減らし状況を改善させるための”2世代”戦略に注目がますます集まっている。2世代戦略では、質の高い介入を通じて低収入の子どもと親を同時に支援することを重視している。たとえば、2世代戦略では子どもが質の高い託児に入ると同時に親には職業訓練を提供するという具合である。この種のアプローチは子どもの発達を向上させるだけでなく家族の稼働能力を改善することが狙いである。低収入世帯に対するプログラムとサービスの調整を改善していくことが2世代戦略にとって不可欠である。

 最近の研究によると、忍耐力、共感能力、自己効力といった非認知的スキルは思春期になってからも磨かれるものであり、小児早期に涵養された認知スキルに立脚している。思春期におけるメンタリング、寄宿制訓練(ジョブコアなど)、職場を基盤とした実習プログラムなどの介入は、学業成績や就職率にくわえ、生涯にわたって非学術的な達成度合いも改善しうる。