2017年2月7日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 3)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339


ここまでが総論。次回から米国での具体的な制度についての話になります。


問題は何か(承前)

 幼少期の疾患予防は小児科医の大事な仕事である.だからこそ,貧困に関連した障害を早期発見し解決に取り組むのは小児科医の診療において新興の重要領域である。貧困の根本的な原因と長期にわたる影響についての理解が進んだことで,子どもと家族が貧困から受ける悪影響を何とかするために診療の場で介入する手段を小児科医は手にいれることができた.貧困に関連した小児期早期の有害イベントを弱めるプログラムやポリシーを提言することも小児科医にはできる.困難に陥る危険因子をスクリーニングし,有害なストレスに対抗する家族の強固な結びつきを明確にし,経済的問題を抱える家族を支援し援助する地域機関に紹介する機会が小児科医にはある.このポリシーステートメントは,子どもの健康の公正,安定した住居確保,小児早期における困難環境について以前発表されたポリシーに立脚している.米国小児科学会(AAP)発行の技術的付随レポート「米国での子どもの貧困の媒介と悪影響」は,子どもの貧困と,子どもが健康で元気でいることに貧困が影響を及ぼす機序について現在分かっていることを示すことで,このステートメントを支持している.



子どもの貧困が及ぼす影響を弱めるために何が役に立つか

 貧しい家族,子どもを援助するプログラムにはたくさんの形があり,政府,私的非営利組織,宗教団体,営利企業やその他の慈善団体といった多くのコミュニティから選出された利害関係者が関与していることが多い.この後の節では,子どもが健康で元気でいるために特に重要な貧困対策,セーフティネットプログラムについて述べる.これらのプログラムは、現金を手に入れやすくし、「現金に近い」給付を提供し、子どもの発達に棟することで家族の助けとなる。


 個々のプログラムにおけるコスト―ベネフィットの経済的推定を含むアウトカムは可能な限り記載される。しかし、セーフティネットプログラムは全体として効果があることは立証されている。1967年から2012年にわたる補完的貧困値(SPM)を用いた絨毯的研究では、政府のプログラムは世帯の貧困に大きな影響を与えていることが明らかになった。このようなプログラムがもしなかったら、2012年の子どもの貧困率は、実際の子どもの貧困率(SPM)である18%より13ポイント高い31%まで上がっていただろう。ゆえに、このような政府のプログラムが提供する収入支援と直接給付により、世帯の貧困は推定31%から約16%までおおよそ半減したといえる。