何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.
米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.
Pediatrics. 2016;137(4):e20160339
問題は何か(承前)
2014年の国勢調査のデータによれば,米国で18歳以下の子どものうち推計上21.1%(1550万人)が「貧困」(例:2014年時点での収入が連邦貧困水準(FPL,4人世帯で24230ドル)の100%未満)に区分され,42.9%(3150万人以上)が「貧困,準貧困,または低収入」(収入がFPLの200%未満)に区分される.そして約9.3%(680万人)が重度貧困(収入がFPLの50%未満)に区分される.2014年で,補助的栄養支援プログラム(SNAP)を支給されている世帯に住む子どもは1600万人と推計されている.そして、2007年から2010年の間で、530万人の子どもが財産差し押さえの影響を受けていた。
患者背景は,その家族や地域が貧困や低収入を経験する確率に深く影響する.たとえば,アフリカ系アメリカ人,ヒスパニック,アメリカ現住民族やアラスカ現住民族の子どもは白人やアジア系の子どもと比べ貧困の中で生活する可能性が3倍になる.乳幼児は年長の子どもとくらべ貧困の中で生活していることが多い.
生まれながら貧困の中にいる子どももいるし,幼少期にずっと貧しい家庭環境にいる子どももいる.最も多いのは,貧困から抜け出たり再度陥ったりを何回も繰り返す子どもたちだ.幼少期のうちのある期間に貧困を経験する子どもの割合は約37%である.生まれながらに貧困で,ずっと貧しい状況に暮らすことの方が子どもにとって悪影響をきたす危険性が高い.しかし,どんな短期間でも貧困を経験するということは,食事が確保できない,住居が確保できずホームレス状態になる,医療にかかれない,学校にいけないといった困難に子どもが直面することになりうる.
機会の均等はアメリカンドリームの肝要であり,社会移動つまり次の世代には経済状態がよくなっている可能性があることが機会の均等を反映している.しかし,社会移動は測定が難しい.30歳時点での収入とその親の収入を比べるのが通常の測定方法であることがその理由である.測定が困難であるにもかかわらず,大半の研究者は,米国ではここ10年間で貧富による資産と機会の格差が広がってきたために,社会移動が困難なものになってきたという見解に同意している.欧州諸国や他の先進諸国と比較して,米国の社会移動の順位は最下位に近い.2015年のピュー慈善信託の報告は,親の収入のアドバンテージの影響はどの階層においても持続的であるが,とりわけ裕福な家庭に生まれた子供で影響が強いと述べている.親の経済的アドバンテージが持続的であるということは,男児の収入が父親の収入に強く影響を受けることを意味しており,社会移動が小さいことを示している.結果として,貧困層の経済状態が改善する可能性は劇的に低くなる.貧しい子どもは貧しいままであり,機会が乏しいまま生活することとなる.裕福な子どもは大人になっても裕福であり続け,学歴も就職上もアドバンテージを享受する.
収入の不平等と機会の不平等につながる社会移動の傾向は、有色人種で更に顕著である。大恐慌からの回復の過程で、米国における収入の不平等は加速し、上位1%の世帯収入が全体の91%を占めるようになった。回復から取り残されたのはアフリカ系アメリカ人世帯で、不景気の間に平均して貯蓄の35%を失った。アフリカ系アメリカ人の雇用率は悪化し、持ち家のある割合は減少し、子どもの貧困は、6歳以下で平均46%となるまでに深刻なものとなった。社会移動は収入下位25%層で最も低いため、幼少期に貧しかったアフリカ系アメリカ人の子どもの半分は大人になっても貧しいままであり、その貧困率は同様に小児期に貧困を経験した白人の約2倍である。
人種分離の負の遺産と環境的人種差別は、大半が都市化した地区における深刻な貧困地域として現存しているが、貧困の分布はここ10年間で変わりつつある。その一因は住宅機器と大恐慌である。2008年以降、郊外は都市部、農村部以上に貧困の増加が著しく、そして早かった。経済的ストレスに晒される子どもと家族の分布構造がこのように大きく変化したことで、新興のニーズにもはや対応できない可能性のある現在の契約やサービスの提供システムが再評価される必要がある。