2017年3月14日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 8 final)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.


最終回です。推奨のつづき、地域の現場で何をするべきかがまとめられています。



地域診療の場で

 以下の推奨文は、貧困の中で生活する子どもが健康で元気でいるのに小児科医が個人としてどのように支援できるかを扱っている。貧困家庭が直面する複雑な課題を認識するメディカルホームにしていくには、個々の世帯を特徴づける危険因子と防御因子の両方を臨床家の立場で調査し収集することが必要である。

・貧困の中で生活する家族のニーズを認識しそれに気づくメディカルホームを構築するべきだ。どの家族も子どもに最良の資源とケアを提供したいと考えているが、経済的障壁がその妨げとなりうる。ケアチームと診療所のすべてのメンバーが、貧困家族が直面することが多い問題について知っておくべきである。外出における障壁、過酷な勤務スケジュール、経済的問題との戦いといった問題を認識することで、診療所は家族と効果的に意思疎通を行いそばに寄り添うことができる。母性抑うつの認識といった感情面での家族ケアは地域の小児科医が診療する範疇であり、有害なストレスが子どもに与える影響は小児早期での支持的で安定した関係性を保つことでの健康により軽減することができると理解することで、貧困家族に統合されたケアを提供する高度なメディカルホームが活気づく。

・患者が診療所内にいる間に健康の社会的決定要因内の危険因子をスクリーニングするべきだ。診療所では、食事、住居、防寒などの基本的ニーズについて簡単な記述式スクリーニングツールを使ったり直接家族に質問したりすることができる。基本的ニーズのスクリーニングにより、家族が経験した困難のうち明白なものにかぎらず気づかれにくいものも把握することができる。患者中心のメディカルホームがこれからも発展することで、ケアの調整者は貧困家族を必要な資源につなげることで地域の相談者としても役割を果たすことができるようになるだろう。

・インクレディブルイヤーズや前向き子育てプログラムといった精神保健介入とプライマリケアの統合に加えて、ヘルシーステップ、手を差し伸べる読書プログラム、ヘルスリーズ、VIPといった統合されたメディカルホームプログラムの実践を考慮するべきだ。これらのプログラムは、子どもにおけるレジリエンスを構築する能力と自信を両親につけてもらい、家族の逆境に対応する力を向上させる一助となる。輝かしい未来:米国小児科学会による子どもの健康管理のためのガイドラインでは、健康管理について最も広範な推奨を行っており、行動医学ヘルスケアを小児メディカルホームに導入し健康の社会的決定要因に取り組む戦略がこれを力強いものにしている。

・家族の力と防御因子を同定しそこに立脚すべきだ。貧困家族は多くの難題に直面するが、家族はそれぞれ力、能力、防御因子を有している。結合、ユーモア、支援ネットワーク、技能、宗教的・文化的信念といった家族内の防御因子を小児科医は同定しそこに立脚することができる。家族の力を基盤にした観点でアプローチすることで、小児科医は信頼を構築し、家族が子供の問題とケアに効果的に取り組む際に活用することができる財産を同定することができる。

・家族がまだ満たされていない基本的ニーズに対処し家族のストレス要因に手を差し伸べることができるように地域団体と協働するべきだ。小児科医は、まだ満たされていない基本的ニーズと貧困に関連したリスクを同定することで、家族を適切な地域サービスと公共プログラムにつなげることができる。鍵となるパートナーとしては、地方や国の保健衛生部門、法的サービス、ソーシャルワーク組織、食料提供所、信仰団体、地域開発組織も挙がるだろう。役に立つ革新的な経済リテラシープログラムを有している地域もあるだろう。診療所は、家族が子育て上の課題や他のストレス因子に対処する一助となる各地域の訪問事業プログラムや地域社会におけるメンタルヘルスサービス、親支援グループと手を携えることができるかもしれない。

・学習を促し学校でうまくやっていくための早期介入プログラムや学習機関にかかわるべきだ。教育の専門家は学業を通じて低収入世帯の子どもを支援する懸命な努力を行っていることが多く、食料配給プログラム、衣服支援、健診といった基本的ニーズを満たす動きに参画していることもある。小児科医は、早期介入プログラム、放課後プログラム、チュータープログラムや、学校区毎に提供される社会サービスだけでなく、このような動きに積極的に参加することができる。

・MIECHVプログラムを推進するべきだ。小児科医は各地域のMIECHVプログラムと、国レベル、地域レベルで親を訪問事業プログラムにつなげる方法に通暁しておくべきである。MIECHVは加盟している個々の報恩事業プログラムを絶えず評価し、うまく機能しているプログラムをレビューに載せることができることを小児科医とAAPは知っておくべきである。FCMHと訪問事業プログラムがより密に連携する機会は常に探求されるだろう。

・子どもの人生に父親が参画することを促す地域プログラムを支援するべきだ。小児科医は地域基盤型の父親参画促進にとって重要なサポート資源となりその重要性を訴えることができる。可能なら、同居していない父親も子どものケアのあらゆる場面でかかわるべきである。

・家族と子どものメンタルヘルスと発達に取り組む戦略を進めるべきだ。出産後1年間は毎回の診察時に母性抑うつのスクリーニングを常に実施し、抑うつが疑われる場合は適切な治療につなげることができるようになることを小児科医に強く推奨する。親の抑うつのスクリーニングやケア調整活動にそれぞれ金銭的対価をつけることもふくめて、貧しい地域社会におけるメンタルヘルスと行動医学上の問題に取り組む資源を増やすことを小児科医は代弁者として主張することができる。

・全ての子どもを支援し、貧困が子供の健康に与える影響を軽減する一助となる施策を訴えるべきだ。小児科医は、貧困の中にいる子どもと家族を援助する施策を訴える重要な役割を果たすことができる。小児科医は、生涯を通じての健康、社会、経済各面に影響を与える科学的根拠に基づいた健康への懸念として貧困をとらえなおすことで、貧困に関連した主張にユニークな訴えを追加することができる。


結論

 貧困やその他の健康に悪影響を与える社会的決定要因は子どもの健康に有害な影響を与え、米国における子どもの健康格差の根本的な原因となっている。この分野は急速に解明が進んでおり、特に貧困や関連する環境ストレスが慢性疾患のライフコースのみならず発達中の人間の脳に与える神経生物学的影響について顕著である。小児早期の貧困と大人になってからの健康状態との因果関係は周知されるべきであり、これを理解することは施策作成者、研究者、地域の小児科医の決定に影響を与える。幅広い能力を有するFCMH(家族中心メディカルホーム)が、子どもが貧困から受ける悪影響を小さくするために必要不可欠な資源であると見做すに足る科学的根拠がある。

 米国小児科学会は、米国における子どもの貧困は許容できないものであり、子どもが健康で元気でいるのに有害であると考えており、子どもの貧困をなくすために行動している。米国小児科学会は、政府、私的非営利組織、宗教団体、営利企業やその他の慈善団体にくわえてits state chaptersが、有効性が示されている現存のプログラムを支援したりさらに拡大したりすることで子どもの貧困をなくす取り組み、それ以外にも有効である可能性のある施策やプログラムを認識し、発展させ、推進していく取り組みを協力協同で成し遂げることを求める。米国議会は、1935年に社会保障法を可決し、1965年にはメディケア(訳注:貧困者を対象とした公的医療保険制度)を制定した。この2つの法律によって、高齢者の貧困は劇的に減少し、根絶間近である。今度は子どもの貧困を根絶する番である。同様の改革が望まれる。米国小児科学会は、この提言にあるポリシーを奉じ推奨を実行することで、政府、私的非営利組織、宗教団体、営利企業やその他の慈善団体とともに、米国での子どもの貧困を根絶するために協力協同の努力を惜しまない。