2017年3月7日火曜日

米国での貧困と子どもの健康(part 7)



何回かに分けて,Poverty and Child Health in the United Statesを翻訳します.

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)が
2016年3月に公表したポリシーステートメントです.


今回と次回で推奨をまとめます。まずは政策の大きな話しから。



推奨

 ヘルスケアシステムが質を改善しコストを抑える方向にますます注力しているなかで、低所得世帯の子どものケアを改善できるようにヘルスケア提供システムを再構築する新たな機会が生まれている。英国を含む諸国の施策決定者もまたこの方向に邁進するかもしれない。ケア調整とチーム基盤型ケアにインセンティブを与えることにより、患者中心・家族中心メディカルホーム(FCMHs)を通じて質の高いヘルスケアをより多くの子どもたちが受ける一助となることが期待される。メディカルホームは、地域の保健医療従事者などのヘルスケアチーム内のパートナーに依頼することで家族が必要だがまだ満たされていない社会的、経済的ニーズに対処する一助にもなりうる。先に述べたように、訪問事業はMIECHVが支援している。

 州単位での改革とヘルスケア提供システムの統合がなされている地域もあるが、それは集団に対する健康アプローチの推進になっており、健康な街づくりを推進する際の協働を主導している。ヘルスケア機関の協働相手としては、教育システム、社会サービス、信仰団体、地域開発組織も挙げられるだろう。ヘルスケア機関と地域資源の協働が進むことはすべての子どもたちにとって利益となることであるが、貧しく世帯収入の低い子どもたちにもたらされる利益は特に大きいものとなるだろう。


公共政策アドボカシーの場で

 貧困の影響を受けている子どもの健康を守り、家族が経済的に安定する支援をするために公共政策が果たすべき役割がある。この章以降で具体的に提言する推奨は、査読文献にくわえ、十分見込みがあり厳格な長期間の評価が進行中である予備研究において有効性が示されたものに基づいている。

・幼児に投資するべきだ。質の高い小児早期プログラムに資金を提供することは、投資として経済的に大きな見返りが期待できる。しかしより重要なことは、幼児の健康な発育を国家の優先事項として健康の社会的決定要因に取り組むことは、家族や地域社会が生涯にわたる健康を確立する一助となるのである。

・低収入で貧しい子どもを支援するのに不可欠な給付プログラムの資金を保護し拡大するべきだ。(早期)ヘッドスタートプログラム、メディケイド、CHIP、WIC、訪問事業、SNAP、学校給食プログラムをはじめとする健康な食事を提供できるプログラムや、育児と児童の発達のためのブロック補助金が資金提供しているプログラムといった、科学的根拠に基づいているプログラムに適切な資金を提供することで、子どもの健康と発達に投資すべきである。公共の給付プログラムの対象選定と交信のプロセスを効率化すべきである。

・子どもと親を同時に支援することに着目した2世代戦略を支援するべきだ。大人と子どもに着目したプログラム、施策、システムの調整と整理を進めるべきである。

・雇用を促進し親の収入が増えるような戦略を支援・拡大するべきだ。低収入の親の稼ぎを増やすプログラムは子どもに益となることが示されている。最低賃金の引上げ、教育プログラムや職業訓練プログラムにくわえ、EITC、児童税額控除、児童扶養家族税額控除といった、世帯収入増加の一助となる施策を支援すべきである。

・住居や公共空間を手に届くものとするような多地域インフラを改善する施策措置を支援するべきだ。健康で安全で手に届く住居に加え、安全な外の遊び場をすべての子どもたちに保証すべきである。

・健康格差を縮小するという目標をもって、質の高いヘルスケアをかかりやすいものにし、集団全体の健康を向上するインセンティブを創出するべきだ。質を改善しコストを削減する戦略には、健康に関連する医療分野以外の懸念(食事、住居、公共物など)に家族が取り組む一助となるようなケア調整ならびにチーム基盤型のケアが含まれるべきである。小児科医とヘルスケアシステムは、健康を改善し収入の違いによる格差を縮小する地域レベルでの戦略を推進するよう他の利害関係者とすすんで手を取り合うべきである。

・リスクのある家族に対する包括的なケアを支援するヘルスケアへの出資を促進するべきだ。全ての給付プランは、貧困世帯対象のメディカルホームにおける高度サービスをカバーしたものであるべきである。小児科医が提供するケア調整、チームによるケア、精神保健サービスへの取り組みはこのような高度サービスの例である。

・低収入あるいは家庭能力の乏しい世帯に住む子どもたちすべてを対象とする訪問プログラムに対し、国家は資金を全面的に提供するべきだ。国際医療協力局は19のプログラムを認定している。このプログラムには、看護師家族パートナーシップ、早期ヘッドスタート、健康な家族・アメリカ、先生としての親プログラムといった妊婦と5歳以下の子どもがいる家族を対象としたものが含まれるが、そうでなくてはいけないわけではない。

・ヘルシーステップ、手を差し伸べる読書プログラム、VIP、インクレディブルイヤーズ、メディカルリーガルパートナーシップ、前向き子育てプログラムといった有効な子育てと就学準備を推進する、メディカルホームでの統合されたケアモデルを支援するべきだ。メディケイドと教育資金提供期間の双方が、メディカルホームでの子育てと読み聞かせの推進を支援すべきである。

・国レベルでの貧困の定義と測定方法を改善するべきだ。FPLでは米国における貧困の広がりと深刻さを過小評価してしまう。SPMはFPLを改善した指標であるが、米国での貧困の広がりとそれが子どもと家族に与える影響を数字にして、有効策を発展させ推進していくにはさらなる研究が必要である。

・貧困が子どもに与える影響についてさらに深く理解し、子どもの健康を改善する介入を突き止めさらに洗練していくための包括的な研究アジェンダを支援するべきだ。貧困がどのように子どもに影響を与えるのか、貧困世帯を支援するのに有効なのは何か、得られた情報を用いて貧困層の問題を実際にどのように解決していくのかという問いに答えるより良い方法を探求する研究が必要である。